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第二章 生き残りの日々
16:激闘!港町
しおりを挟むついさっきまで平和だった港町の表通りは、今や阿鼻叫喚に包まれている。
六本腕の魔物は容赦なく刃を振るって町人を斬殺した。
俺は情けなく震えながら、建物のかげから眺めていることしかできなかった。
「駄目だ、こいつ強い! 衛兵を呼べ!」
「もう呼んだ! すぐ来る、持ちこたえろ!」
冒険者たちが叫んでいる。
……ところでどうでもいい話だが、普通の町の人が案外強い。俺より全然強い。
冒険者たちが果敢に戦う中、投石やらマジックアローの魔法やらで援護している。
その威力はなかなか強力で、六本腕の魔物に傷をつけている。
やがて衛兵隊が到着した。
衛兵隊は国の兵士で、町の治安を守っている。
鎧兜に身を包んだ彼らはとても強くて、六本腕の魔物を包囲して追い詰めた。
「囲め囲め!」
「逃がすな!」
そして衛兵隊は六本腕の魔物にトドメを刺した。
「ギャアアァ!」
魔物はまるで人間のような断末魔の声を上げて、息絶えた。
血しぶきと肉片で汚れた表通りを、みなが「やれやれ」という顔で歩いていく。
「あー、道路が汚れやがった。清掃依頼を冒険者ギルドに出さなきゃ」
「ったく、誰だよ。こんな魔物を町に連れてきたやつ」
……俺です。
俺は周囲を見回した。人死にも出たというのに衛兵も町の人もそんなに気にした雰囲気ではなく、粛々と片付けをしている。
なんだこれは……。
俺は罪悪感と同時に大きな違和感を感じた。
俺に悪意がなかったのは確かだが、こんな騒ぎになったのに誰も追求しようとしない。おかしいだろ!
すると、片付け途中の表通りに楽師がやって来た。
「おやおやこれは大変ですね。皆さんの心をなぐさめるべく、この私が一曲披露しましょう」
そう言ってバイオリンを取り出して弾き始めた。
ぶぉぉ~ん♪ ぎぎぎぎぃ~♪
その音色は決して上手ではなく、はっきり言えばド下手である。
俺はイラッとした。人が落ち込んでいるときに余計なことするんじゃねえよ。
「うるさい!」
「引っ込め!」
町人たちも同じ気持ちだったようで、一斉に石が投げられた。
「へぶしっ」
全身に投石を受けた楽師は、血を吹いて倒れた。
いやいやいやいや!
そりゃあイラッと来たけど、そこまでやるもんじゃない!
あれ、下手したら死んだろ!
「あーあ、死んだわ。死体を片付けなきゃいけない。めんどくさ」
冒険者の一人がぶつぶつ言いながら楽師を引きずっていく。
ええええぇぇ……。
そんなノリなの?
この世界の理不尽さはどうかしてやがる。あまりにも命が軽すぎだろ。
なんか、考えるだけ無駄って気がしてきた。
冒険者ギルドのおっさんは「生き延びるのを第一に考えろ」と言っていたが、そりゃあこんなノリなら生きてるだけで偉いよ……。
俺はたいそうショックを受けながら、マジックアローの魔法書を握りしめた。
魔法は覚えたいが、これ以上惨事を引き起こしては大変だ。
どうすればいいか調べなければ。
命の大切さについて考えるのを諦めた俺は、魔法書に意識を切り替えた。
巻物は何の練習もなく読めたのに、魔法書ばかりこんなに難しいとは。
「読むのに何かスキルがいるのか……? あっ」
俺は思い当たった。
配達で訪れた南東の町で、『読書』スキルが習えたことを。
読書スキルはてっきり速読とかそういうのかと思っていたが、まさか魔法書を読むためのスキルだったとは。
この世界は罠が多すぎる。
あいにく、ここの港町のギルドでは読書スキルは習えない。
一度南東の町へ行って習得してこよう。
できれば南東の町への配達依頼を受けて、無駄がないようにしたい。
冒険者ギルドで依頼をチェックすると、運良く配達依頼があった。
配達用のアイテムを受け取って、俺は港町を出発した。
南東の町は田園風景が広がるのどかな農村だ。
俺はさっさと配達を終わらせて、冒険者ギルドへ向かった。
「読書スキルを習いたいです」
「ほい。ユウさんの状態ですと、メダル三枚です」
レベルが上ってスキルの数も増えたため、要求されるメダルも増えた。
ここの冒険者ギルドは、受付とスキル習得係をおっとりしたお姉さんがやっている。
やっぱ受付はお姉さんだよな。癒やされるわ。
スキルの概要を教えてもらい、魔力を注入してもらって習得完了。
さっそく魔法書を読みたいところだが、また恐ろしい魔物を呼び出して人死にが出てはいけない。
いくら誰も気にしないとはいえ、嫌な気分になるからな。あと普通に怖い。
なので俺はテレポートの巻物を用意した上で、村から離れた場所で魔法書を開いた。
万が一、魔物を呼び出してしまったら瞬間移動して逃げる手はずだ。
逃走手段の確保はダンジョン攻略でも大事である。忘れちゃいけない。
「お、割と読めるようになってる」
読書スキル習得前はちんぷんかんぷんだったのに、今ではそれなりに意味が理解できる。
「ええと……体内の魔力を指先に凝縮、放出……」
きりの良いところまで読み終わると、体に魔力が満ちるのを感じた。
すでにマジックアローの魔法を使える状態だと、感覚で分かる。
「いいぞ。試し撃ちしてみよう」
周囲を探索すると、巨大ネズミがうろうろしていた。
ちょうどいい、あいつで試してやろう。
巨大ネズミはそんなに強くないがすばしっこくて、攻撃がなかなか当たらない。面倒な動物だ。
魔法ならどうだろうか。
「マジックアロー!」
魔力を込めて言葉を発すると、俺の指先から小さな矢が飛び出した。
まっすぐに飛んでいき、巨大ネズミにぶち当たる。
「キュィー!」
巨大ネズミは血を吹き出して死んだ。
おお、魔法、いいじゃないか。しっかり命中したし一撃である。
クマ吾郎も嬉しそうに「グルルゥ」と鳴いている。ありがとよ。
ただ、たったの一回で魔法書から得た魔力がなくなってしまった。
もうマジックアローの魔法は使えないと感じる。
俺自身の魔力……MP? もそれなりに消費した感じがする。
「もう一度魔法書を読むとするか」
安全確認をしてから読み始める。
今回もそれなりに分かる……はずだったのが、一部つまづいた。
「なんだここ、どういう意味だ?」
頭が混乱してきた。
これ、ちょっとヤバいかも。
そう思った瞬間、体中から力が抜けた。魔力をありったけ吸い取られた!
「う、あ……」
俺は地面に転がって、意識を失った。
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