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第一章 理不尽の始まり

04:別れとオール1

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 床にへたり込んだ俺の目の前に、小瓶に入った液体が差し出された。
 少し目を上げると、ニアがいる。

「お疲れ様。最初としては頑張ったと思うわ。このポーションを飲めば体力が回復するから」

 彼女はルードよりはよほど信頼できる。
 瓶を受け取って赤い液体を一気にあおった。
 味は正直、薬臭くてうまいとは言えない。
 それでも渇ききった喉を滑り落ちる感触が心地よい。

 すっかり飲み干すと、確かに体が楽になった。
 俺は立ち上がって空き瓶をニアに返した。

「それから、これも」

 ニアは今度は古びた巻物を渡してきた。

「これは?」

「解呪のスクロール。いつまでも呪われた装備だと、困るでしょう。後で読んでみて」

「ありがとう!」

 まあその呪われた装備をそうと言わずに寄越したのは、そこにいるルードなんだが。
 ちなみにヤツは全く反省のない顔で、肩をすくめている。

「親切にしてやるのも、もう十分だな。ニア、そろそろ行くぞ」

「うん」

 ニアとルードは連れ立って洞窟を出ていく。
 洞窟の出口でニアが振り返った。

「ここから西の海岸を南に行けば、町があるから。一度行ってみるといいわ。それから焚き火の横の袋は、あなたへのささやかなプレゼント」

「俺からも最後の忠告だ。森の民の尖った耳は、差別と迫害の対象になる。町に行くなら隠しておけ」

「お互い生き延びていれば、またいつか会えるわ。さようなら」

 二人は口々にそんなことを言って、今度こそ本当に洞窟から出て行った。
 大して広くもない洞窟の中で、俺は一人になった。






「さて、ニアの言う『プレゼント』は、っと……」

 俺はまず、袋の中身を確認してみることにした。
 背負うのにちょうど良さそうな大きさの袋の中には、カチカチに固いパンと干した果物、さっきもらった赤いポーションがいくつか、それから色違いのポーションと巻物が何枚か入っていた。
 ルードの呪われた装備よりよっぽどまともである。ありがとう、ニア。

「まずは装備の解呪をしないと」

 赤黒く光る剣と盾は手から離れてくれず、しかもやたらと重くて不便で仕方ない。
 俺はもらった解呪のスクロールを開いて読んでみた。

 口に出して巻物の文字を読み上げると、装備が白い光に包まれた。
 おっ、これが解呪か?
 そう思ったのもつかの間、剣と盾の赤黒い光が抵抗するように強まって、白い光を吹き飛ばしてしまった。
 当然のように剣も盾も手から離れない。

「嘘だろ、解呪失敗かよ」

 思わず愚痴ると、剣を握った手に痛みが走った。
 見れば剣の柄から小さい針のようなものが飛び出して、手のひらに食い込んでいる。そこから少し血が流れた。呪いの効果(?)のようだ。

「くっそ」

 小さい傷とはいえ、こんなのがずっと続くのはごめんである。
 なんで解呪に失敗したのだろうか。
 もう一度解呪を試したくて、袋の中を漁ってみる。
 すると巻物ではなく小さい冊子が入っていた。開いて読んでみると――

『巻物(スクロール)の上手な使い方。
 巻物は魔道具の一種です。きちんと魔力を込めて、できれば魔道具のスキルを利用しながら読み上げましょう』

 魔力とかスキルってなんじゃそりゃ! ゲームじゃあるまいし!
 ……うん? ゲームか。
 俺はふと思いついて、頭に浮かんだ言葉を言ってみた。

「ステータスオープン!」

 名前:ユウ
 種族:森の民
 性別:男性
 年齢:15歳
 カルマ:0

 レベル:1
 腕力:1
 耐久:2
 敏捷:1
 器用:1
 知恵:1
 魔力:1
 魅力:1

 スキル
 剣術:0.1
 盾術:0.1
 瞑想:1


 なんつーか、底辺高校のヤンキーもびっくりなほぼオール1である。
 あとスキルの0.1ってなんだよ。1未満なんかあるのかよ。

 魔道具とやらのスキルはないわ、魔力は1だわで解呪に失敗した理由が分かってしまった。
 スキルをゲットするなり、ステータス(?)を上げるなりしないとどうにもならないのだろう。
 しかしどうすればいいのか?

 俺はオール1の中で唯一2である耐久に注目してみた。
 これまでの俺は難破船から放り出されて命の境目をさまよい、やっと起き上がれるようになったと思ったらしずくの魔物にボコられてまた死にかけた。

 ということは、死にかけて何とか生き延びたから耐久力が上がったのか? そんな超野菜人みたいな話があるのか?
 まあ、筋トレに励めば腕力が上がるという話なら理解できる。
 敏捷や器用も鍛えりゃ上がるんだろう。

 問題は、肝心の魔力の上げ方が見当もつかないことだ。
 あとは知恵と魅力も分からん。ていうか知恵と魅力を鍛えるって何だよ。
 知恵は今さら勉強に励めってか。
 魅力はさらに理解不能。セクシーポーズの練習でもすりゃあいいのか?

 途方に暮れた俺は、ため息をついて焚き火の横に腰を下ろした。

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