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第一章 理不尽の始まり

02:謎肉

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「ユウ、だ」

 何も思い出せないくせに、名前だけはするりと出てきた。
 それともYOUのユーだろうか。
 分からんが、ユウは意外に馴染みがいい。本当に俺の名前なのかもしれない。

「ユウ。もう少し眠るといいわ。私たちが火の番をするから、安心して」

 ニアがにっこりと微笑んだ。横ではルードが苦い顔をしている。

 分からないことだらけで不安だったが、体は冷えて疲れ切っている。
 返事をするのもままならず、俺は再び眠りに落ちた。






 再び目覚めると、体はずいぶんマシになっていた。
 焚き火のそばには、相変わらずニアとルード。二人は小声で何事か話している。
 俺が目を開けたのに気づいて、ルードが言った。

「顔色は良くなったな。起き上がれるか?」

「ああ、大丈夫だ」

 体のあちこちが痛んだけれど、俺は立ち上がった。
 ぐっと手足を伸ばす。洞窟の天井は案外高くて、俺が手を伸ばしてもぶつかったりしなかった。
 深呼吸をすると、腹がぐうと鳴った。いいことだ。空腹を感じるのは、正常なことだからな。

「飯だ。食え」

 ルードが投げて寄越したのは……生肉である。
 いや生肉って。病み上がりの怪我人に与えるか普通?

 困ってニアを見ると、彼女も戸惑っている。

「ねえルード、それって……」

「さっき『狩ってきた』」

 かってきた? 買ってきた、か? 俺が寝ている間に町まで行ったのだろうか。

 生肉を手に取って俺は困った。困ったが、腹はぐうぐう鳴っている。
 仕方なく肉を焚き火であぶってみる。
 串もなくあぶったものだから手が熱い。

「うおっアチッ」

 肉の端に火がついて、ついでに俺の手もやけどしそうになった。こりゃだめだ。
 仕方ない、生のままだがかじってみよう。
 俺は口を開けて。

 ……猛烈に嫌な予感がした。

 なんてーか、肉に対する嫌な予感だ。嫌悪感ともいう。
 とにかくこの肉を食ったらヤバい、そんな感じがヒシヒシとする。
 だが腹は減っている。
 ルードを見るとニヤニヤ笑ってる。他の食べ物をくれる様子はない。

 俺は覚悟を決めて肉にかぶりつき――

「ウォエェェッ!!」

 口に入れた瞬間、嫌悪感が爆発した。これは絶対に良くないものだ!
 俺は口の中の肉を吐き出し、ついでに胃液まで逆流して吐いた。

「おや。飲み込む前に気づいたか。さすがは森の民、勘はいいようだ」

「な、なんなんだよこの肉!!」

 ルードのせせら笑うような言葉に、俺は食って掛かる。
 ニアを見たら目を逸らされた。

「ユウよ、お前、今やこの世で最も数が多い動物は何だと思う?」

 ルードは意地悪く笑っている。

「ヒントをやろう。そいつらは比較的知能が高く、体も何十キロかはある。けれども根本的に愚かで不愉快な生き物だ。今朝もこの洞窟の近くでうろついているのを一匹見つけて、肉にしてやった」

「……まさか、それって」

 人間。
 そんな答えは、口に出すのすら嫌だった。
 俺が口に入れた肉がソレだなんて。

 というか、こいつ何なんだ。
 今の肉が本当に人肉なら、ルードは散歩でもするような気楽さで殺人したということになる。
 ニアはドン引きしている表情だが、怒ったり逃げたりする雰囲気ではない。

「あまり気にしないほうがいいわ」

 ニアが首を振りながらマグカップをくれた。中身は白湯だ。
 俺はかじりかけの肉を岩壁の方に蹴飛ばして、湯を飲む。胃液を吐いたせいで口の中が酸っぱかったので、助かった。

「さて、それじゃあ最後の親切といくか」

 ルードが言ってまた何かを投げて寄越した。
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