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最終話 またのお越しを心よりお待ちしております
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たった一週間の休暇期間だけど、旅館の従業員達にとっては良い気分転換になったんじゃないかなと思う。
知らない世界や知らない文化――そういった新しい知識を得て楽しみたいと思える彼女達だからこそ、きっと。
そしてそんな経験を得て、彼女達はまた新しい気持ちで仕事に挑むのだろうね。
それだけ心が豊かでゆとりのある人達だし。
だから最後の最後までもてなして、存分に楽しんでいってほしいと心から願う。
それで遂に地球滞在最終日が訪れた訳だけど。
「夢君、新しい生地を溶いてきてください」
「ついでに新しいタコも切ってくるね」
「お願いします。想像を越えて消費が激しくてお姉ちゃんとてもびっくりです」
「おかしいですね、私はちゃんと控えているのですが……」
最終日の夕食は一部の希望もあって、なぜか自家製たこ焼きに。
今はリビングに一二人がみっちりと詰まった状態で焼けるのを待っている。
それというのもエルプリヤさん達がたこ焼き機に興味を示したから。
観光とショッピングを繰り返していた時、ふと目に映ってきになったらしい。
それで皆が商品前でこぞって「これは一体何に使う物なのか」と首を傾げていて。
なので答えをちょっと教えたら「実践してみたい」という意見が噴出する事に。
さらにエルプリヤさんが乗り気のまま機器を買ってしまうという暴挙にまで発展。
それでちょっと試しに作ってみようという事になったのだ。
ただ僕も姉さんも実際にたこ焼きを作った事はない。
小さい頃に母さんが作っていたのを見た事がある程度だ。
なのでスマートフォンで調べつつ、記憶を頼りに作り始めて今に至る。
「外はカリカリ」「中はトロトロ」
「「意外性のオンパレードやー」」
「これおいしぃ~」「シンプルだけど味しっかりしてるよね」
その結果は意外にも好評。
決して出来栄えが良いという訳ではないけど、楽しむネタとして丁度良かった。
おかげで誰しもが別の意味でも興味を示してくれている。
「次はピーニャがくるくるやりたいのだ!」
「これなかなか大変よぉ~大丈夫~?」
やはり子どもがやりたくなる要素も強い「クシでクルクル」が人気。
おかげで今では彼女達が率先して焼いてくれているので、僕や姉さんはそこまで苦労はしていない。
強いて言うなら消費量が半端なく速いので、生地を溶く方が大変といった感じだ。
「うじゅじゅ!」
「ロドンゲさん容赦なくタコ食べている訳ですけど、放っといていいんですかねアレ」
「虹色に輝いているのできっと問題ないのではないでしょうか」
「最近虹色になる事多過ぎてエルプリヤさんもう完全に慣れちゃってますよね」
幾つか懸念もあるけど、本人が動じないので気にしない事にした。
最初はロドンゲさんに配慮してエビをタコと偽ろうとしたのだけど、実物を前にしても狼狽えなかったし。
容赦なく本物を出した姉さんには後で別の意味で叱っておこうと思います。
「しかしこれは良いですね。お客様に提供するには改良が必要ですが、身内で楽しむ分にはとても楽しい料理だと思います」
「うん、ぜひとも空いた時間に皆でアレンジして楽しんで欲しいな」
「えぇもちろんですっ! 従業員の皆さんが楽しんでくれるならそれだけで買った甲斐があるというものですし! あとでこの機器を旅館向けに改造しておかないといけませんね」
「具体的にはどう?」
「そうですね、ズボルネやジョンニニ、ウポルチやポレッペルコッパなどが入れられるようにしたいです」
「それ未だ何なのかわからないんだけど?」
機器自体も皆に好評だし、旅館での新しい楽しみにしてもらえたら僕も嬉しい。
まぁそれでも異世界なので小麦粉とかタコとか紅ショウガなどは別物になりそうだけど。
異世界風にアレンジしたたこ焼きが生まれるなら、僕の方が試食してみたいと思えてならないよ。
ズボルネとかジョンニニみたいな鳴く謎食材だけは遠慮するとして。
……こうして彼女達の最後の日の夜はたこ焼きで、締めにはカステラとかも作って皆で盛り上がったものだ。
おかげで宴は深夜まで続き、皆満足いくまで堪能する事ができたみたい。
まぁ最後の方はエルプリヤ無双だった訳だけど。
そしてお風呂も難なく済ませ、やっと就寝へ。
我ながら今日まで一切の「事故」を防ぎきったのはよくやったと誇りに思う。
みんな羞恥心という概念がないから色々とやりたい放題なのはもう色々と眼福――大変だったものだ。
「今日で終わりか……まぁ仕事先で会えるから寂しくはないけど、なんだか物足りなくなりそうだなぁ」
とはいえ皆しっかり者だから思うほどハプニングも無かったし、この一週間は本当に楽しかった。
なのでさっきのタコパみたいな騒がしさももう味わえないと思うととても寂しい。
またあんな楽しい時間を過ごせる時が来たらいいのだけど。
そう思いながら寝返りを打つ。
今日までの思い出を思い返しつつニヤけながら。
するとそんな時、突然扉の方からノックの音が聞こえてきた。
「夢路さん、今よろしいでしょうか?」
「えっ、エルプリヤさん!? あ、はいっ!」
どうやらエルプリヤさんは何か用があるらしい。
こう返すと彼女がさっそく扉を開けて部屋へと入ってきた。
丸めて縛った布団を背負いながら。
「……なんですかね、その背中の布団」
「決まっているじゃないですかっ! 一緒に寝るためですっ!」
「かつて今までに布団ごと夜這いに来る女性がいただろうか」
やる事が相変わらずエルプリヤさんらしい。
金髪美人さんなのにスウェットを着て三角帽子をかぶって布団を背負ってくるとか、もうキャラ崩壊限界突破しているんじゃないかと思う。
まぁそんな事を素でできる彼女だからこそギャップ含めて可愛いのだけど。
「いえいえ夜這いではありません。せっかく最後の夜ですし、同じ場所で寝たいなと思いまして。望むのであればご奉仕もいたしますが」
「いやいやいや! さすがにエルプリヤさんにそんな事なんて望めませんよ!?」
「えっ」
「えっ?」
けど、なんだか妙な雰囲気になってきた。
僕は冗談で言ったつもりだったんだけど。
でもなんかエルプリヤさんは布団を背負ったままモジモジしてるし。
もしかしてこれ、本当は本気だったのでは……?
そんな考えがよぎって返す言葉が見つからない。
どう返したらいいか、どうして欲しいのかわからなくて。
いっそこのまま狸寝入りしようかとも思ったけど、それはそれで男としてどうなのか。
これ、とても気まずいぞ……!?
「あ、あのですね夢路さん」
「は、はい」
「私はその、なんていうか……殿方の気持ちがよくわからなくて」
「ま、まぁ女性だし仕方ないかと」
「あ、そ、そういう事ではなくてですね……」
エルプリヤさんも何かを伝えようとしてくれているけど言葉がしどろもどろだ。
いっそハッキリ答えてくれればフォローしようもあるのに!
どうしたらいい、この状況を僕はどう打開したらいいんだ……!?
「実は私は――」
「ゆめじーっ! 一緒に寝るのだーっ! あ、エルプリヤもいたのか!」
「ピ、ピーニャさん!?」
「ボクもいるゾ! 皆もいル!」
「お邪魔しますぅ~」
「いいっ!?」
だがそう困っていた途端、ピーニャさん達がいきなり問答無用で雪崩れ込んできたんだけど!?
どさくさに紛れて姉さんまでいるし、一体どういう事!?
「私達は明日」「旅館へ帰る身」
「ならミンナ、最後くらいは一緒に寝るのがイイ! アタシそう思う!」
「ふふっ、皆夢君の事が好きなんですよ。なので今日だけはこの部屋は解放する事にしました」
「それ姉さんが決める事じゃないと思うんだけど!?」
確かに宿泊先提案した時は僕の部屋も寝床候補に挙げた。
けど倫理的な問題で最終的には外されたんだ。間違いが起きないようにって。
それなのにどうして……。
「……そうですね。私も含め、皆夢路さんをとても信頼しています。ですから今日この時くらいは共に夜を明かしたい、そう思っているのです」
「エルプリヤさん、なんか上手くまとめたけどそれさっきの話を誤魔化してるよね」
「違いますんっ! これが本心なんですぅー!」
おかげでさっきの話がなんだかうやむやになってしまった。
しかもエルプリヤさんが言い訳を押し通してもう布団を敷き始めてしまったし。
他の皆も布団を持って来ていたみたいで、あっという間に僕の部屋が布団まみれ、女の子だらけになってしまったんだけど!?
――っていうかレネンさんとウィヤさんまで来る理由なくない!?
「それでは皆で一緒に寝ましょうか!」
「「「おやすみなさーい!」」」
「あ、本当に寝るだけなの……まぁそれならいいけどね」
とはいえ別に間違いが起きる訳でもなく。
結果的に僕らは一つ屋根ならず一つ同じ部屋で夜を明かす事になった。
まぁでもこれはこれで悪くはない。
さすがに女の子だらけの部屋で寝るのは少し恥ずかしいけれど。
でも彼女達が望んでいる事なのなら、僕は敢えてこの空気を楽しもうと思う。
これは僕に対する彼女達の精いっぱいの感謝の気持ちなんだってね。
そう素直に受け取って、僕は彼女達にも感謝しよう。
また明日から、一緒に仕事を頑張ろうって!
こうして一週間の休業が終わり、旅館もリニューアルして帰ってきた。
多くのお客様を迎える日々が新たな装いで再び始まったのである。
勝手も少し変わってやり辛さもある。
けれどまた少しづつ馴らしていくから何の問題も無い。
皆もがんばっているし、後輩の僕も負けないようにもっと努力しないとね。
「夢路さん、今日も精がでますね」
「うん、玄関もちゃんと清掃しないとまた休業しちゃったら大変でしょう?」
「ふふっ、そうですねっ!」
だから僕は以前よりもずっとがんばる事を決めたんだ。
また休業させるも嫌だし、皆の想いにも応えたいから。
負けたくないとかそんな気持ちよりも、こう努力する事を楽しみたいんだって。
その為なら僕は――
「でもまた休業になってもいいかなって、今では思います」
「えっ?」
「だってその時はまた堂々と夢路さんの家に遊びに行けますから」
「エルプリヤさん……」
……けど、たまにはサボる勇気も必要なのかもしれない、かな?
そう望まれるのなら、だけどね。
異世界旅館えるぷりやは今日もこんな感じで緩~く営業中。
なので、もしも良かったら皆さんもぜひとも願ってみてください。
もしかしたら、その想いだけでも僕達と出会えるかもしれませんから。
もちろん、その時は大手を振って歓迎させていただきまーす!
~完~
知らない世界や知らない文化――そういった新しい知識を得て楽しみたいと思える彼女達だからこそ、きっと。
そしてそんな経験を得て、彼女達はまた新しい気持ちで仕事に挑むのだろうね。
それだけ心が豊かでゆとりのある人達だし。
だから最後の最後までもてなして、存分に楽しんでいってほしいと心から願う。
それで遂に地球滞在最終日が訪れた訳だけど。
「夢君、新しい生地を溶いてきてください」
「ついでに新しいタコも切ってくるね」
「お願いします。想像を越えて消費が激しくてお姉ちゃんとてもびっくりです」
「おかしいですね、私はちゃんと控えているのですが……」
最終日の夕食は一部の希望もあって、なぜか自家製たこ焼きに。
今はリビングに一二人がみっちりと詰まった状態で焼けるのを待っている。
それというのもエルプリヤさん達がたこ焼き機に興味を示したから。
観光とショッピングを繰り返していた時、ふと目に映ってきになったらしい。
それで皆が商品前でこぞって「これは一体何に使う物なのか」と首を傾げていて。
なので答えをちょっと教えたら「実践してみたい」という意見が噴出する事に。
さらにエルプリヤさんが乗り気のまま機器を買ってしまうという暴挙にまで発展。
それでちょっと試しに作ってみようという事になったのだ。
ただ僕も姉さんも実際にたこ焼きを作った事はない。
小さい頃に母さんが作っていたのを見た事がある程度だ。
なのでスマートフォンで調べつつ、記憶を頼りに作り始めて今に至る。
「外はカリカリ」「中はトロトロ」
「「意外性のオンパレードやー」」
「これおいしぃ~」「シンプルだけど味しっかりしてるよね」
その結果は意外にも好評。
決して出来栄えが良いという訳ではないけど、楽しむネタとして丁度良かった。
おかげで誰しもが別の意味でも興味を示してくれている。
「次はピーニャがくるくるやりたいのだ!」
「これなかなか大変よぉ~大丈夫~?」
やはり子どもがやりたくなる要素も強い「クシでクルクル」が人気。
おかげで今では彼女達が率先して焼いてくれているので、僕や姉さんはそこまで苦労はしていない。
強いて言うなら消費量が半端なく速いので、生地を溶く方が大変といった感じだ。
「うじゅじゅ!」
「ロドンゲさん容赦なくタコ食べている訳ですけど、放っといていいんですかねアレ」
「虹色に輝いているのできっと問題ないのではないでしょうか」
「最近虹色になる事多過ぎてエルプリヤさんもう完全に慣れちゃってますよね」
幾つか懸念もあるけど、本人が動じないので気にしない事にした。
最初はロドンゲさんに配慮してエビをタコと偽ろうとしたのだけど、実物を前にしても狼狽えなかったし。
容赦なく本物を出した姉さんには後で別の意味で叱っておこうと思います。
「しかしこれは良いですね。お客様に提供するには改良が必要ですが、身内で楽しむ分にはとても楽しい料理だと思います」
「うん、ぜひとも空いた時間に皆でアレンジして楽しんで欲しいな」
「えぇもちろんですっ! 従業員の皆さんが楽しんでくれるならそれだけで買った甲斐があるというものですし! あとでこの機器を旅館向けに改造しておかないといけませんね」
「具体的にはどう?」
「そうですね、ズボルネやジョンニニ、ウポルチやポレッペルコッパなどが入れられるようにしたいです」
「それ未だ何なのかわからないんだけど?」
機器自体も皆に好評だし、旅館での新しい楽しみにしてもらえたら僕も嬉しい。
まぁそれでも異世界なので小麦粉とかタコとか紅ショウガなどは別物になりそうだけど。
異世界風にアレンジしたたこ焼きが生まれるなら、僕の方が試食してみたいと思えてならないよ。
ズボルネとかジョンニニみたいな鳴く謎食材だけは遠慮するとして。
……こうして彼女達の最後の日の夜はたこ焼きで、締めにはカステラとかも作って皆で盛り上がったものだ。
おかげで宴は深夜まで続き、皆満足いくまで堪能する事ができたみたい。
まぁ最後の方はエルプリヤ無双だった訳だけど。
そしてお風呂も難なく済ませ、やっと就寝へ。
我ながら今日まで一切の「事故」を防ぎきったのはよくやったと誇りに思う。
みんな羞恥心という概念がないから色々とやりたい放題なのはもう色々と眼福――大変だったものだ。
「今日で終わりか……まぁ仕事先で会えるから寂しくはないけど、なんだか物足りなくなりそうだなぁ」
とはいえ皆しっかり者だから思うほどハプニングも無かったし、この一週間は本当に楽しかった。
なのでさっきのタコパみたいな騒がしさももう味わえないと思うととても寂しい。
またあんな楽しい時間を過ごせる時が来たらいいのだけど。
そう思いながら寝返りを打つ。
今日までの思い出を思い返しつつニヤけながら。
するとそんな時、突然扉の方からノックの音が聞こえてきた。
「夢路さん、今よろしいでしょうか?」
「えっ、エルプリヤさん!? あ、はいっ!」
どうやらエルプリヤさんは何か用があるらしい。
こう返すと彼女がさっそく扉を開けて部屋へと入ってきた。
丸めて縛った布団を背負いながら。
「……なんですかね、その背中の布団」
「決まっているじゃないですかっ! 一緒に寝るためですっ!」
「かつて今までに布団ごと夜這いに来る女性がいただろうか」
やる事が相変わらずエルプリヤさんらしい。
金髪美人さんなのにスウェットを着て三角帽子をかぶって布団を背負ってくるとか、もうキャラ崩壊限界突破しているんじゃないかと思う。
まぁそんな事を素でできる彼女だからこそギャップ含めて可愛いのだけど。
「いえいえ夜這いではありません。せっかく最後の夜ですし、同じ場所で寝たいなと思いまして。望むのであればご奉仕もいたしますが」
「いやいやいや! さすがにエルプリヤさんにそんな事なんて望めませんよ!?」
「えっ」
「えっ?」
けど、なんだか妙な雰囲気になってきた。
僕は冗談で言ったつもりだったんだけど。
でもなんかエルプリヤさんは布団を背負ったままモジモジしてるし。
もしかしてこれ、本当は本気だったのでは……?
そんな考えがよぎって返す言葉が見つからない。
どう返したらいいか、どうして欲しいのかわからなくて。
いっそこのまま狸寝入りしようかとも思ったけど、それはそれで男としてどうなのか。
これ、とても気まずいぞ……!?
「あ、あのですね夢路さん」
「は、はい」
「私はその、なんていうか……殿方の気持ちがよくわからなくて」
「ま、まぁ女性だし仕方ないかと」
「あ、そ、そういう事ではなくてですね……」
エルプリヤさんも何かを伝えようとしてくれているけど言葉がしどろもどろだ。
いっそハッキリ答えてくれればフォローしようもあるのに!
どうしたらいい、この状況を僕はどう打開したらいいんだ……!?
「実は私は――」
「ゆめじーっ! 一緒に寝るのだーっ! あ、エルプリヤもいたのか!」
「ピ、ピーニャさん!?」
「ボクもいるゾ! 皆もいル!」
「お邪魔しますぅ~」
「いいっ!?」
だがそう困っていた途端、ピーニャさん達がいきなり問答無用で雪崩れ込んできたんだけど!?
どさくさに紛れて姉さんまでいるし、一体どういう事!?
「私達は明日」「旅館へ帰る身」
「ならミンナ、最後くらいは一緒に寝るのがイイ! アタシそう思う!」
「ふふっ、皆夢君の事が好きなんですよ。なので今日だけはこの部屋は解放する事にしました」
「それ姉さんが決める事じゃないと思うんだけど!?」
確かに宿泊先提案した時は僕の部屋も寝床候補に挙げた。
けど倫理的な問題で最終的には外されたんだ。間違いが起きないようにって。
それなのにどうして……。
「……そうですね。私も含め、皆夢路さんをとても信頼しています。ですから今日この時くらいは共に夜を明かしたい、そう思っているのです」
「エルプリヤさん、なんか上手くまとめたけどそれさっきの話を誤魔化してるよね」
「違いますんっ! これが本心なんですぅー!」
おかげでさっきの話がなんだかうやむやになってしまった。
しかもエルプリヤさんが言い訳を押し通してもう布団を敷き始めてしまったし。
他の皆も布団を持って来ていたみたいで、あっという間に僕の部屋が布団まみれ、女の子だらけになってしまったんだけど!?
――っていうかレネンさんとウィヤさんまで来る理由なくない!?
「それでは皆で一緒に寝ましょうか!」
「「「おやすみなさーい!」」」
「あ、本当に寝るだけなの……まぁそれならいいけどね」
とはいえ別に間違いが起きる訳でもなく。
結果的に僕らは一つ屋根ならず一つ同じ部屋で夜を明かす事になった。
まぁでもこれはこれで悪くはない。
さすがに女の子だらけの部屋で寝るのは少し恥ずかしいけれど。
でも彼女達が望んでいる事なのなら、僕は敢えてこの空気を楽しもうと思う。
これは僕に対する彼女達の精いっぱいの感謝の気持ちなんだってね。
そう素直に受け取って、僕は彼女達にも感謝しよう。
また明日から、一緒に仕事を頑張ろうって!
こうして一週間の休業が終わり、旅館もリニューアルして帰ってきた。
多くのお客様を迎える日々が新たな装いで再び始まったのである。
勝手も少し変わってやり辛さもある。
けれどまた少しづつ馴らしていくから何の問題も無い。
皆もがんばっているし、後輩の僕も負けないようにもっと努力しないとね。
「夢路さん、今日も精がでますね」
「うん、玄関もちゃんと清掃しないとまた休業しちゃったら大変でしょう?」
「ふふっ、そうですねっ!」
だから僕は以前よりもずっとがんばる事を決めたんだ。
また休業させるも嫌だし、皆の想いにも応えたいから。
負けたくないとかそんな気持ちよりも、こう努力する事を楽しみたいんだって。
その為なら僕は――
「でもまた休業になってもいいかなって、今では思います」
「えっ?」
「だってその時はまた堂々と夢路さんの家に遊びに行けますから」
「エルプリヤさん……」
……けど、たまにはサボる勇気も必要なのかもしれない、かな?
そう望まれるのなら、だけどね。
異世界旅館えるぷりやは今日もこんな感じで緩~く営業中。
なので、もしも良かったら皆さんもぜひとも願ってみてください。
もしかしたら、その想いだけでも僕達と出会えるかもしれませんから。
もちろん、その時は大手を振って歓迎させていただきまーす!
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