ようこそ異世界旅館『えるぷりや』へ! ~人生に迷った僕が辿り着いたのはムフフが溢れる温泉宿でした~ 

日奈 うさぎ

文字の大きさ
上 下
44 / 54

第44話 ホームステイ双子ちゃん

しおりを挟む
 気付かぬ内にユメラとユメレという僕の子ができていたのには驚かされた。
 女性経験も無しに親となったのは人類史的に見ても僕くらいなんじゃないだろうか。

 ――で、そんな事実を受け入れてからはや一週間が過ぎて。

「まさかお兄ちゃんに子どもができていたなんて驚きよね。しかもそれなのに純血エルフで地球人の特性も持ってるとかもう意味がわからないわ」
「お母さまは言いました」「それほどにお父さまを愛していたのだと」
「「異種間ラブロマンス」」
「やっぱりお兄ちゃんは異種娘好きだったのね!」
「それは誤解だからもう忘れるんだ」

 今、その双子ちゃんは秋月家に遊びに来ている。
 僕の実家にも興味があったらしいので、本当に地球環境への適応があるかどうかの調査も兼ねて連れてくる事になった。
 土日休みに向けてのちょっとしたホームステイみたいなものだ。

 ちなみに言語に関しては何の問題も無い。
 なにせ二人は僕の子とは思えないくらいに賢く、初日に渡した子ども用教材だけで日本語もすぐ覚えてしまったから。
 今では英語、ドイツ語、フランス語、さらには中国語にも挑戦しているというのだからもう驚きである。

 もしかしたらこの子達、もう僕より地球での順応性が高いかもしれない。

「おまちどうさま。これが地球の――日本の料理よ」
「とても香りが」「独特です」
「「食のヴァージンロストやー」」
「そういう言葉回しどこで覚えたの」

 ……そんな訳でこれから夕食。
 幻ちゃんが就職先の関係でしばらく家にいるという事なので、こうして料理を振舞ってくれた。
 フェロちゃんに続いてまた異世界人が来たからテンションも上がったみたいだし。

「エルフって話なのでなんとなく全体的に薄味風味に仕立ててみたの。あと動物性油を使わないようにしてみたんだけど、どうかな?」
「さすが幻ちゃん、なんだかんだで気が利いてるわ!」

 おまけにどうやら異世界についてもしっかりと勉強していたみたいで、今ではこんな気遣いまでしてくれている。
 マッドサイエンティスト的な所さえ抜けばほんと出来た妹だと思う。

「やっぱりエルフと言ったら肉は無い方がいいでしょうしね」
「え"ッ!?」「ユメラ?」
「……あれ? も、もしかして、違った?」

 ただ予想に反し、幻ちゃんの言葉になぜかユメラちゃんだけが妙な反応を見せる。
 しかもひん剥いた目を震わせてて絶望感がすっごく伝わって来るんだけど?
 どれだけ肉に思い入れがあるのユメラちゃん。

「あ、えっと……確か冷蔵庫に豚肉の切り落としあったよね?」
「ちょ、ちょっと炒めてくる……!」

 あまりにも絶望感がすごすぎた所為か、幻ちゃんが慌ててキッチンに戻っていく。
 それで手軽く焼肉を作って戻ってきたのだけど。

 そうしたらさっそくユメラちゃんがフォークを使い迷いなく肉をほおばり始めた。

「ンンーーーっ! 地球のお肉おいし!」

 ただ味付けして焼いただけなのだけど、それでもユメラちゃんはとても美味しそうに噛み締めている。
 赤らめた頬に手を充ててきゅもきゅと味わっているのだ。
 僕達の知るエルフとは違うけれど、その姿がなんだかとても可愛らしくて微笑ましい。

「ユメレも食べた方がいい。これは神レベル」
「私はいらない」
「肉を食べないとお父さまに愛されないと思うの」
「う……それはイヤ」
「別にそういう事はないからね!? あと強要は良くないよ?」

 けど、一方のユメレちゃんはというと控えめ。
 こちらはイメージ通りのエルフという感じで、出された焼肉を前になんか嫌そうな顔を浮かべている。

 ……なのだけどユメラちゃんの圧がすごいです。
 僕が止めようとも関係無く、肉を突き刺したフォークをユメレちゃんの口元へ寄せて強要し続けている。
 ユメレちゃんも顔を逸らして避けてはいるけど無駄な抵抗で、もう擦りつけられて口元がタレでネチャネチャだ。
 綺麗な顔が台無しで、なんだかもう見ていられない。

「ユメラちゃん、ユメレちゃんが嫌がってるからそれ以上は――」
「お父さまは黙っていてください。これは試練。この星に適応するために必要な儀式なの。ユメレはこれを乗り越えて真の地球エルフになるのです」
「ただ焼肉食べるってだけなのに!? あと地球エルフってなに!?」
「そう、これはとても! 大切なっ! 事なのですっ!」
「ムゴォォォーーーッ!」

 だが僕の制止の甲斐もなく、遂に焼肉がユメレちゃんの口へと突っ込まれる。
 姉妹だからか遠慮さえなく、更にはおかわりまでねじ込まれる始末だ。

 ――いやいや姉妹だって普通ここまでしないでしょ!?

「ユメラちゃんダメだってぇ!」

 これはさすがにやり過ぎだと思ったので、ユメラちゃんを羽交い絞めにして強引に止める。

 どうやらユメラちゃんは思う以上に強情な性格だったらしい。
 顔も動きもそっくりだから性格も同じかなとか思っていたけど、予想に反してずっと個性的だったようだ。
 羽交い絞めする事でやっと諦めてくれたのが幸いか。

「ああっ! ユメレちゃんが白目剥いて痙攣してるぅーーー!?」
「まさかこれはアレルギーによる拒否反応!? ううん、もしかしたら生態が異なる事による拒絶反応的な!?」
「いや、ただの窒息だと思うけど!?」

 ただユメレちゃんの方はちょっと尋常ならざる状態だ。
 もしかしたらこれ、とてつもなくヤバイ状況なんじゃ……!?

「ユメレなら大丈夫。この程度は問題無い」
「こんな状態なのに!?」
「この子は少し強引に教えた方がずっと速く覚えるの。日本語の時もそう」
「オ、オゴゴ……ンゴクッ!」
「ほら見て、遂に適応したわ」
「「「な、なんだってーっ!?」」」

 だがそれは所詮、僕達の思い過ごしに過ぎなかった。
 この二人は僕達の想像以上に深く理解しあった真の双子姉妹なのだから。

 満を持して息を吹き返すユメレを前に、僕達はそう実感せざるを得なかったのだ。

「はふぅ~~~……故郷の世界の肉とは違う、臭みの無い純粋な肉の味わい」
「それでいて食する事に特化した調味料とのハーモニー」
「甘く濃厚な脂が」「体の隅々に染み渡る」
「まるで脂の川のせせらぎに」「身を委ねたかのような感覚」
「「こってりギトギトの天国やー」」
「それ褒めてるのかけなしてるのかわからないんだけど?」

 そしてやっぱり双子ちゃんはいつも通りだった。
 
 どうやらユメレちゃんも肉の旨味を理解したらしく、論評を語ってすぐユメラちゃんと共に焼肉をほおばり始めた。
 色々誤解はあったものの、好き嫌いせず食べてくれるようになってくれてホッと一安心だ。

 ちょっとエルフの神秘性が台無しな気もするけど。

「ユメレは故郷の肉が苦手」
「だって……臭いし堅いしで食べれたものじゃないもん」
「でもこの世界の肉は?」
「美味!」
「は、はは……それにしても良かった。僕ちょっと焦っちゃったよ」

 ユメラちゃんの粗暴さには驚かされたけど、それもすべてはユメレちゃんの事を想ってなのだろう。
 そうも考えると、僕達には彼女達に対する理解がまだまだ足りていないって痛感させられる。
 異世界エルフに対しても、この姉妹の在り方に対しても。

 なら下手に干渉するより、自由にさせてあげた方がいいのかもしれないな。
 思う通りに、考えるままにね。
 その姿を見て、僕達も二人の事を学ぶ必要があると思うから。

「この世界には」「こんなに美味しい物が存在するのですね」
「とても強く」「興味が湧きました」
「だったら明日、せっかくだからお出かけでもしてみたらどうかしら?」
「いいんじゃない? それなら幻花も付き合ってあげる」
「ちょ……姉さん幻ちゃん何言ってるの!?」

 どうやらその考えは姉さんも幻ちゃんも同じだったらしい。
 ただしこの提案以外は、だけど。

 姉さんも幻ちゃんもすでにその気満々だ。
 おまけに双子ちゃんも嬉しそうだし、これはもう止められそうにないんだけど!?

 これは明日、一体どうなっちゃうんだ……!?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界で穴掘ってます!

KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

処理中です...