22 / 54
第22話 母の中へおかえり
しおりを挟む
場所こそ違うけれど、案内される部屋の内装はいつも同じ。
それが今では逆に安心感を呼び込んでくれるかのようだ。
「居場所に帰ってきた」って気がして。
なのでひとまず鞄を降ろしてスーツの上着を脱ぐ。
それで旅館の空気を楽しむためにと立ったまま深呼吸。
……うん、やっぱり旅館の空気はとても澄んでて心地いい。無理して泊まった甲斐があったってものだ。
ちなみにメーリェさんは案内してくれた後、何も聞かないまま「お夕飯をお持ちしますねぇ~」と言い残して別れた。
実はこの旅館、朝昼夜のタイミングが僕の住む地球といつも違う。
なんでも一日の時間がそれなりにズレているらしい。
なのに何も聞かず「夕食」を用意してくれるというのだから、彼女の洞察力はとても優れているのだろう。
「はぁい、お夕飯をお持ちしましたぁ~」
「はやっ!?」
おまけに言うとその対応も早かった。
持ってきたのもいつも通りの豪華な和膳だし。
出来合いなのか料理人の腕がいいのかはわからないけども。
けど今はそんな料理より彼女の胸に惹かれてならない。
なにせ部屋に入った途端そのたゆんたゆんさが露骨となったもので。
なんだか彼女の胸だけ引力の作用が半減しているかのようだ。
多分原因はすり足を止めたからなんだろうけど、変わり過ぎじゃない?
しかしそんな視線には目もくれず、料理を机の上へ。
すると何を思ったのか、今度はいきなり着物を脱ぎ始めた!?
「え、ちょっと!? 何してるんですかメーリェさん!?」
「うん? お着物を脱ぎ脱ぎしているんですよぅ~邪魔ですからぁ~」
「それはわかりますけど、邪魔ってどういう事!?」
それであっという間にほぼ裸みたいな状態に。
纏うのは体格にピッタリな際どいタンクトップとハーフパンツといった感じ。
隠している所は隠しているけど、ボディラインが強調されてより一層肢体の破壊力を増している。というかもう破壊力しかない。
あまりの絶景に、思わず生唾を飲み込んでしまうほどだ。
だが彼女の暴挙はそこで終わらなかった。
今度は座椅子を退け、料理の前に正座して艶めかしい眼で僕を見上げる。
そして自身の膝をてちてちと叩き、こう言うのだ。
「さぁどうぞぉ、こちらへお座りくださいませぇ~」
「待って!? いくらなんでも露骨過ぎじゃない!?」
とても大人しそうな人なのにやる事が大胆過ぎる。
ピーニャさんやロドンゲさんも大概だっただけど、この人のサービスはもはや次元を超えているじゃないか!?
これじゃあ本当にいかがわしいお店となんら変わらないよ!?
「大丈夫ですよぉ~。これはぁ、夢路様が必要とされている事ですからぁ~」
「僕が、必要としている事……?」
けどメーリェさんのこの一言が僕を思わずドキリとさせる。
まるで僕が女性に飢えていると言いたそうな一言で、図星でもあったから。
ただ、その言葉にやましい気配は一切無かった。
本当に慈しみだけが溢れていて、恥ずかしさを感じさせないほどに。
まるですべてを見通している――そんな雰囲気が彼女にはあったんだ。
だからまたメーリェさんが手を差し伸べ、僕が手を取る。
それで優しく誘われるがまま、僕は彼女の太ももへと腰を下ろした。
するとその途端――
「あっ、こ、これえっ……!?」
僕の体が、沈んでいく。
メーリェさんの中に、際限なく。
……そんな錯覚を覚えるくらい、彼女の太ももは柔らかかったのだ。
まるで僕の腰を包んでいるかのような感覚さえもたらして。
しかもその感覚を与えるだけではまだ終わらない。
「どうぞぉ、お体の方もわたくしにお預けくださいませぇ~」
「い、いいの?」
「はぁい~」
なんたって僕の背中にはあの巨大な双丘が控えている。
というかもう既に先が当たっているし、なんならそれだけでもう満足なくらいだ。
だけどもしその中に体を埋めたら、一体どうなってしまうのだろう……?
そんな好奇心が僕の背中を降ろさせる。
双丘の間へと、後頭部からそっと挟まれるようにして。
すると腰同様、僕の頭が彼女の胸間に沈んでいく。
続いて体も、肩も。
それは全身が肉に包まれているかのような感覚だった。
言うなれば低反発クッション――そんな柔らかさの肉が、体の隅々まで隙間なく埋めていく。
しかも温かくて、触れ心地もよくて、甘い香りさえ漂ってくるんだ。
そして遂には、彼女の鼓動までが聞こえてきた。
とくん、とくん……声色と同じ、安らかで落ち着きのあるリズムの囁きが。
まるで僕がメーリェさんと一つになったかのよう。
彼女という宇宙に僕の意識だけが漂うような。
体の感覚が、彼女に飲み込まれて、自由さえ、効かない。
もうこれは駄肉なんかじゃあない、人を心まで取り込み溶かす……堕肉。
「いっぱい、いっぱい大変だったのねぇ、夢くん」
「あ、なんでその呼び名……」
「うふふふっ、お母さんはねぇ、夢くんの事、なぁんでも知っているのよぉ~」
「お母、さん……?」
その中でメーリェさんがゆったりと囁く。
耳も埋まっているはずなのに、聞こえて来るんだ。
まるで脳髄にまで届くほどに、それでいて優しく。
本当にお母さんが語り掛けている、そう思えてしまうくらいに。
「それじゃあ、おごはんを一緒に食べましょうねぇ~」
「うん……僕、たべるよ」
声は出るけど、体は不思議と動かない。
目は見えるけど、本当にされるがまま。
思考はこうして働くのに、出る声は彼女に従ってしまう。
なんだか、僕が二人いるみたいだ。
この幸せを享受するだけの今の僕と、メーリェさんが操る僕。
けど嫌な気は一切しない。
優しみが溢れすぎて、このままでいたいと思えてしまって。
「おいしい?」
「うん、おいしい……」
「ふふっ、よかったぁ。夢くんのために頑張って作った甲斐があったなぁ」
メーリェさんの手つきもとても慣れたものだった。
まるで僕の口がどこにあるのかわかっているかのように、食事を箸で的確に運んでくれる。
二人羽織のような状態で顔も見えないはずなのに。
でもなんだか、とても懐かしいんだ。
本当にお母さんが帰ってきてくれたような気がして。
メーリェさんのこの言葉だって、まるでお母さんが語ってるようにさえ思えてくる。
――僕のお母さんは中一の時、お父さんと一緒に事故で亡くなった。
それからは五つ離れた姉さんがずっと支えてくれていた。
遺産はある程度あったけど、家のローンとかもあるから無駄遣いはいけないって。
その為に夜のお仕事とかまでこなして、本当に頑張ってくれていたよ。
だから僕は高校を卒業した後、就職する事を選んだんだ。
せめて妹だけでも大学に行かせたかったし、姉さんに頼ってばかりもいられないから。
それからずっと、僕は働き続けた。
お母さんの事も忘れ、甘える事も忘れ、家族のために必死で。
そしてもうすぐ妹も大学を卒業するから、重荷ももうすぐ取れる事だろう。
そう思っていたのに、僕は――
「あ、ああ……」
「大変だったね、辛かったね、でもお母さんはいつも、夢くんの事を見ているよ?」
「お母さん……ううっ、お母さん、お母さぁん……っ!」
もしかしたら余計な重荷まで背負っていたのかもしれない。
社会のしがらみとか、欲求への戒めとか。
けどその重荷が余りに重すぎて、僕の心はもう潰されかけていた。
それできっと、僕は潜在的に旅館えるぷりやを頼っていたんだ。
ここなら僕の重荷を軽くしてくれるんじゃないかって。
そう気付かされた。
だから今、僕は思わず涙を流していたんだ。
僕の心が、衝動が、解放されたような気がしてならなかったから。
「あらぁ、ごはん落ちちゃった」
「あ、ごめんね、お母さん」
「ううん、いいのよぉ~」
そんな時、僕の口から米粒の塊がポロリとこぼれ、お母さんの膝へとくっつく。
するとそれをお母さんが左手で摘まみ、僕の口へと直接寄せてきた。
「はぁい、どうぞぉ~」
「ん、あむ……」
しかも彼女は惜しげもなく、しなやかな指を米ごと僕の口の中へと挿し込んだ。
それも直接乗せるかのように、二指を舌へと絡ませていて。
その指の動きもまた艶めかしい。
もう米粒なんて残っていないのに、なお舌や歯をなぞって心地良さを与え続けてくれる。
ねちり、ねちりと唾液をいやらしく絡ませながら。
ああ、なんて愛おしいんだ。
この指が、動きが、堪らなく僕の心を、欲求を、退化させていく……。
何度も出ては入って、時には僕の唇をつまんで引っぱって。
唾液にまみれようとも、いやらしい音を立てて求めるように滑り挿入ってくる。
それが不思議と、僕の方が求めているかのように錯覚させていた。
心が求めて求めてもう、止まりそうにない。
それはまさしくおしゃぶりを求める赤ん坊のごとく。
「ママはねぇ、ずぅ~っと傍にいるからねぇ?」
「マ、マ……?」
「うん、いいのよぉ、ママって、呼んで?」
「あ、ああ、マ、ママ……ママァァァ~~~~~~っ!」
そして気付けば、僕はママを求めていた。
その豊満な肢体に、触り心地と慈しみと、思い出の中に消えた記憶を探るかのように。
もう赤ん坊の頃なんて覚えていないはずだった。
なのに今、僕ははっきりと思い出す事ができていたんだ。
赤ん坊としてお母さんに甘えていた時の記憶を。
今のように抱かれて、ご飯を口に運んでもらう――なんて事のない思い出を。
僕の心がどんどんと退行し、若く小さくなっていくかのようだ。
そうなればこの先、僕は一体どうなってしまうのだろう?
胎児となってママの子宮へ還るのだろうか?
でもそんな事はもうどうでも良かったのかもしれない。
気付けば、そのママへの欲求さえ溶けて消えていたのだから。
姉さんや妹の事も、旅館えるぷりやでの思い出も、何もかも。
この柔らかな堕肉宇宙の中に、僕の意識と体と共に、すべて――
それが今では逆に安心感を呼び込んでくれるかのようだ。
「居場所に帰ってきた」って気がして。
なのでひとまず鞄を降ろしてスーツの上着を脱ぐ。
それで旅館の空気を楽しむためにと立ったまま深呼吸。
……うん、やっぱり旅館の空気はとても澄んでて心地いい。無理して泊まった甲斐があったってものだ。
ちなみにメーリェさんは案内してくれた後、何も聞かないまま「お夕飯をお持ちしますねぇ~」と言い残して別れた。
実はこの旅館、朝昼夜のタイミングが僕の住む地球といつも違う。
なんでも一日の時間がそれなりにズレているらしい。
なのに何も聞かず「夕食」を用意してくれるというのだから、彼女の洞察力はとても優れているのだろう。
「はぁい、お夕飯をお持ちしましたぁ~」
「はやっ!?」
おまけに言うとその対応も早かった。
持ってきたのもいつも通りの豪華な和膳だし。
出来合いなのか料理人の腕がいいのかはわからないけども。
けど今はそんな料理より彼女の胸に惹かれてならない。
なにせ部屋に入った途端そのたゆんたゆんさが露骨となったもので。
なんだか彼女の胸だけ引力の作用が半減しているかのようだ。
多分原因はすり足を止めたからなんだろうけど、変わり過ぎじゃない?
しかしそんな視線には目もくれず、料理を机の上へ。
すると何を思ったのか、今度はいきなり着物を脱ぎ始めた!?
「え、ちょっと!? 何してるんですかメーリェさん!?」
「うん? お着物を脱ぎ脱ぎしているんですよぅ~邪魔ですからぁ~」
「それはわかりますけど、邪魔ってどういう事!?」
それであっという間にほぼ裸みたいな状態に。
纏うのは体格にピッタリな際どいタンクトップとハーフパンツといった感じ。
隠している所は隠しているけど、ボディラインが強調されてより一層肢体の破壊力を増している。というかもう破壊力しかない。
あまりの絶景に、思わず生唾を飲み込んでしまうほどだ。
だが彼女の暴挙はそこで終わらなかった。
今度は座椅子を退け、料理の前に正座して艶めかしい眼で僕を見上げる。
そして自身の膝をてちてちと叩き、こう言うのだ。
「さぁどうぞぉ、こちらへお座りくださいませぇ~」
「待って!? いくらなんでも露骨過ぎじゃない!?」
とても大人しそうな人なのにやる事が大胆過ぎる。
ピーニャさんやロドンゲさんも大概だっただけど、この人のサービスはもはや次元を超えているじゃないか!?
これじゃあ本当にいかがわしいお店となんら変わらないよ!?
「大丈夫ですよぉ~。これはぁ、夢路様が必要とされている事ですからぁ~」
「僕が、必要としている事……?」
けどメーリェさんのこの一言が僕を思わずドキリとさせる。
まるで僕が女性に飢えていると言いたそうな一言で、図星でもあったから。
ただ、その言葉にやましい気配は一切無かった。
本当に慈しみだけが溢れていて、恥ずかしさを感じさせないほどに。
まるですべてを見通している――そんな雰囲気が彼女にはあったんだ。
だからまたメーリェさんが手を差し伸べ、僕が手を取る。
それで優しく誘われるがまま、僕は彼女の太ももへと腰を下ろした。
するとその途端――
「あっ、こ、これえっ……!?」
僕の体が、沈んでいく。
メーリェさんの中に、際限なく。
……そんな錯覚を覚えるくらい、彼女の太ももは柔らかかったのだ。
まるで僕の腰を包んでいるかのような感覚さえもたらして。
しかもその感覚を与えるだけではまだ終わらない。
「どうぞぉ、お体の方もわたくしにお預けくださいませぇ~」
「い、いいの?」
「はぁい~」
なんたって僕の背中にはあの巨大な双丘が控えている。
というかもう既に先が当たっているし、なんならそれだけでもう満足なくらいだ。
だけどもしその中に体を埋めたら、一体どうなってしまうのだろう……?
そんな好奇心が僕の背中を降ろさせる。
双丘の間へと、後頭部からそっと挟まれるようにして。
すると腰同様、僕の頭が彼女の胸間に沈んでいく。
続いて体も、肩も。
それは全身が肉に包まれているかのような感覚だった。
言うなれば低反発クッション――そんな柔らかさの肉が、体の隅々まで隙間なく埋めていく。
しかも温かくて、触れ心地もよくて、甘い香りさえ漂ってくるんだ。
そして遂には、彼女の鼓動までが聞こえてきた。
とくん、とくん……声色と同じ、安らかで落ち着きのあるリズムの囁きが。
まるで僕がメーリェさんと一つになったかのよう。
彼女という宇宙に僕の意識だけが漂うような。
体の感覚が、彼女に飲み込まれて、自由さえ、効かない。
もうこれは駄肉なんかじゃあない、人を心まで取り込み溶かす……堕肉。
「いっぱい、いっぱい大変だったのねぇ、夢くん」
「あ、なんでその呼び名……」
「うふふふっ、お母さんはねぇ、夢くんの事、なぁんでも知っているのよぉ~」
「お母、さん……?」
その中でメーリェさんがゆったりと囁く。
耳も埋まっているはずなのに、聞こえて来るんだ。
まるで脳髄にまで届くほどに、それでいて優しく。
本当にお母さんが語り掛けている、そう思えてしまうくらいに。
「それじゃあ、おごはんを一緒に食べましょうねぇ~」
「うん……僕、たべるよ」
声は出るけど、体は不思議と動かない。
目は見えるけど、本当にされるがまま。
思考はこうして働くのに、出る声は彼女に従ってしまう。
なんだか、僕が二人いるみたいだ。
この幸せを享受するだけの今の僕と、メーリェさんが操る僕。
けど嫌な気は一切しない。
優しみが溢れすぎて、このままでいたいと思えてしまって。
「おいしい?」
「うん、おいしい……」
「ふふっ、よかったぁ。夢くんのために頑張って作った甲斐があったなぁ」
メーリェさんの手つきもとても慣れたものだった。
まるで僕の口がどこにあるのかわかっているかのように、食事を箸で的確に運んでくれる。
二人羽織のような状態で顔も見えないはずなのに。
でもなんだか、とても懐かしいんだ。
本当にお母さんが帰ってきてくれたような気がして。
メーリェさんのこの言葉だって、まるでお母さんが語ってるようにさえ思えてくる。
――僕のお母さんは中一の時、お父さんと一緒に事故で亡くなった。
それからは五つ離れた姉さんがずっと支えてくれていた。
遺産はある程度あったけど、家のローンとかもあるから無駄遣いはいけないって。
その為に夜のお仕事とかまでこなして、本当に頑張ってくれていたよ。
だから僕は高校を卒業した後、就職する事を選んだんだ。
せめて妹だけでも大学に行かせたかったし、姉さんに頼ってばかりもいられないから。
それからずっと、僕は働き続けた。
お母さんの事も忘れ、甘える事も忘れ、家族のために必死で。
そしてもうすぐ妹も大学を卒業するから、重荷ももうすぐ取れる事だろう。
そう思っていたのに、僕は――
「あ、ああ……」
「大変だったね、辛かったね、でもお母さんはいつも、夢くんの事を見ているよ?」
「お母さん……ううっ、お母さん、お母さぁん……っ!」
もしかしたら余計な重荷まで背負っていたのかもしれない。
社会のしがらみとか、欲求への戒めとか。
けどその重荷が余りに重すぎて、僕の心はもう潰されかけていた。
それできっと、僕は潜在的に旅館えるぷりやを頼っていたんだ。
ここなら僕の重荷を軽くしてくれるんじゃないかって。
そう気付かされた。
だから今、僕は思わず涙を流していたんだ。
僕の心が、衝動が、解放されたような気がしてならなかったから。
「あらぁ、ごはん落ちちゃった」
「あ、ごめんね、お母さん」
「ううん、いいのよぉ~」
そんな時、僕の口から米粒の塊がポロリとこぼれ、お母さんの膝へとくっつく。
するとそれをお母さんが左手で摘まみ、僕の口へと直接寄せてきた。
「はぁい、どうぞぉ~」
「ん、あむ……」
しかも彼女は惜しげもなく、しなやかな指を米ごと僕の口の中へと挿し込んだ。
それも直接乗せるかのように、二指を舌へと絡ませていて。
その指の動きもまた艶めかしい。
もう米粒なんて残っていないのに、なお舌や歯をなぞって心地良さを与え続けてくれる。
ねちり、ねちりと唾液をいやらしく絡ませながら。
ああ、なんて愛おしいんだ。
この指が、動きが、堪らなく僕の心を、欲求を、退化させていく……。
何度も出ては入って、時には僕の唇をつまんで引っぱって。
唾液にまみれようとも、いやらしい音を立てて求めるように滑り挿入ってくる。
それが不思議と、僕の方が求めているかのように錯覚させていた。
心が求めて求めてもう、止まりそうにない。
それはまさしくおしゃぶりを求める赤ん坊のごとく。
「ママはねぇ、ずぅ~っと傍にいるからねぇ?」
「マ、マ……?」
「うん、いいのよぉ、ママって、呼んで?」
「あ、ああ、マ、ママ……ママァァァ~~~~~~っ!」
そして気付けば、僕はママを求めていた。
その豊満な肢体に、触り心地と慈しみと、思い出の中に消えた記憶を探るかのように。
もう赤ん坊の頃なんて覚えていないはずだった。
なのに今、僕ははっきりと思い出す事ができていたんだ。
赤ん坊としてお母さんに甘えていた時の記憶を。
今のように抱かれて、ご飯を口に運んでもらう――なんて事のない思い出を。
僕の心がどんどんと退行し、若く小さくなっていくかのようだ。
そうなればこの先、僕は一体どうなってしまうのだろう?
胎児となってママの子宮へ還るのだろうか?
でもそんな事はもうどうでも良かったのかもしれない。
気付けば、そのママへの欲求さえ溶けて消えていたのだから。
姉さんや妹の事も、旅館えるぷりやでの思い出も、何もかも。
この柔らかな堕肉宇宙の中に、僕の意識と体と共に、すべて――
0
お気に入りに追加
100
あなたにおすすめの小説
異世界で穴掘ってます!
KeyBow
ファンタジー
修学旅行中のバスにいた筈が、異世界召喚にバスの全員が突如されてしまう。主人公の聡太が得たスキルは穴掘り。外れスキルとされ、屑の外れ者として抹殺されそうになるもしぶとく生き残り、救ってくれた少女と成り上がって行く。不遇といわれるギフトを駆使して日の目を見ようとする物語

日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】
一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。
追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。
無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。
そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード!
異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。
【諸注意】
以前投稿した同名の短編の連載版になります。
連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。
なんでも大丈夫な方向けです。
小説の形をしていないので、読む人を選びます。
以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。
disりに見えてしまう表現があります。
以上の点から気分を害されても責任は負えません。
閲覧は自己責任でお願いします。
小説家になろう、pixivでも投稿しています。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!
仁徳
ファンタジー
あらすじ
リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。
彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。
ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。
途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。
ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。
彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。
リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。
一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。
そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。
これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!
アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~
明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!!
『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。
無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。
破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。
「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」
【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる