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第37話 なし崩し的に女王になりました
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「ぜひともミルカ殿には明日より、この国の国王となっていただきたい!」
「あらぁ~ミルカちゃん、今度は国王様になるの? 大変ねぇ」
「こりゃあ~もう自慢の娘だっぺなぁ!」
「ミルカちゃん、じょてーい!」
「待って!? ちょっと待って!?」
執政官である貴族トゥルディーヨが来たと思ったら妙な展開になった。
今度は私が国王!? 何言ってんの!?
あまりにも想定外のこと過ぎて、私の自慢の思考力が働かない。
なのに何なのトゥルディーヨのその爽やかな笑顔!? 腹立つんだけど!?
もう滅殺していいよね!? 不敬罪で!
「おそらくは貴女様が思われている通り、この国の者達はあまりにも力が乏しい。前王もよくおっしゃっておられたものです。『聖護防壁ができる前は誰しも生きるために必死で、武を志す者はみな強靭な肉体を有していた』と」
「確かにそうね。聖護防壁ができる前は、何かを守るにも自分の力で乗り越えなければならなかったもの」
「あらぁミルカちゃん、なんだか昔の事を知ってるみたいな言い方ねぇ」
「む、昔の新聞に書いてあったの!」
……けどまだ殺さないでおいてあげるわ。
なんだか随分と共感できる話を持ち出してきたから。
聖護防壁ができる前というのはつまりおよそ三〇年前。
まだデュランドゥが若者だった時代の話ね。
彼の記憶によれば、当時は多くの戦士が一騎当千だった。
魔術士も一人で何匹もの魔物を駆逐できたし。
だから前王の言っていた事は間違いでは無いわ。
前王もダンジョンに繰り出せるくらいに強かったという事実もあるし。
それで今の時代では彼のような者が英雄になったのでしょうね。
昔では当たり前の事でも、今ではもう珍しい存在だから。
「だがそんな者達が育つのを待っていられるほど悠長な時間はありませぬ。いずれ国外からも魔物が押し寄せてくるかもしれませんから」
「なるほど、それで前王のような強さと知識と可愛さを持つ私が選ばれたと」
「ええ。それと前王は可愛いというよりダンディでした」
「そこにツッコむ?」
「あぁでもベストオブダンディ選手権の中で言えば可愛い方かもしれませぬ」
「何その選手権!? そんなのこの国にあったの!? しかも歴戦の武王が可愛いってベストオブダンディ妙にハードル高くない!!?」
とりあえず動機はなんとなくわかった。
武あるいは智に秀でた者を王にすえるのは普通の事だ。
本来はただ貴族だ王族だというだけで継承できるものではないのだから。
そういった者が選ばれやすいのは英才教育を受けているからな訳で。
で、その継承者もおらず、おまけに私という存在がいれば自然と矛先が向く。
実に自然な道理だと思う。
「でもヤダ」
「なんですと!?」
しかし私はお断りだ。
誰が好き好んでそんな窮屈な所に収まるものか。
どうせ王様なんて書類に刻印を押すばっかりで退屈に違いないし!(想像)
それなら私は土いじりしていた方がいい。
国土を守るなら魔導人形があるし、なんなら工場を国営にしたって構わない。
この村から離れるのは、すでに私のポリシーに反している。
シルス村第一、これが私の人生目標なのは変わらないのだから。
「どうかお考え直しを! ミルカ殿でなければダメなのです! ミルカ殿でなければ、貴女様のようなカリスマ性と実力をお持ちの方でなければ、これから成すべき事も成せませぬ!」
「これから成すべき事って?」
「……我等アウスティア王国は近日中に、世界各国へと派兵するつもりなのです」
「何ですって!?」
しかも遂にはとんでもない事をトゥルディーヨが言い始めた。
つい耳を疑ってしまった。
世界に向けて派兵って、それはつまり〝戦争を起こす〟という事かと。
でもどうやらそうではないらしい。
話はもっとずっと現実的で、なにより革新的だったのだ。
「ああっ、言葉足らずで申し訳ない。我々が率先して魔物優勢の現状を打開しようという話なのです。世界各地で猛威を奮う魔物達を駆逐し、危機に瀕した国々を救いたいのです!」
「ふぅ、良かった……まぁそれもそれで随分と壮大な目的だと思うけれど」
「世界は今、魔物の侵攻によって危機に晒されております。その状況を覆すには、まず我々こそが立ち上がるべきなのだと」
まさか彼等からこういう話が出て来るとは思わなかった。
自分達には力が無いから国を守って欲しい、とでも言うのかと。
けど違ったんだ。
今の彼等は自分達も、他の国さえも守りたいと願っている。
弱くとも、力が無くとも、自分がやれる事をやりたいのだと。
そしてその旗取りを私にやってもらいたいと訴えた。
なるほど、それなら理解できる。
政治でこの国を潤す事よりも、この隙に武力を整えるよりも、なにより今生きているであろう他国の者を多く救い、その輪で他の国をも救う。
その選択肢を選ぶなら、動くのが早い方がずっと効率的だ。
世界を救うにも、何より筋が通る。
「その為にもどうか、今一度お考え直しを!」
「トゥルディーユ卿」
「……なんですか?」
「明日就任と言ったわね? なら、今日だけは家族との時間をくれるかしら? どうせしばらくは戻って来られないし、存分に幸せを享受したいの」
「それでは……!?」
「仕方ないから引き受けてあげるわ。感謝なさい!」
「お、おお……!!」
そういう前向きに物事を考えるなら、協力するのもやぶさかじゃない。
私も魔戦王の意思を継いで効率作業にはとても意欲的だしね。
……どうやら王都での戦いが皆の意識を変えたみたいだ。
トゥルディーヨもこんな事なんて言い出すとは思えなかった人物だし。
もしかしたら皆、世界が混沌とした事で抑圧されていたのかもしれない。
でもその抑圧された感情が今、爆発しようとしている。
だったらその勢いに乗れば、もしかしたら世界は魔物の勢力を押し返せるかもしれない。
それどころか、殲滅さえも可能かも。かつてデュランドゥが願った通りに。
私はその可能性に賭けてみる事にしたのだ。
ただ魔戦王のように一人ですべてやろうとするのではなくて。
世界で協力して行えば、それは皆の選択になる。
そこにはもはや否定する余地など欠片も無いのだから。
その起爆剤となりえるのならば、数年くらいだけ力を貸してもいいかなって。
こんな決意を固め、私は国王となる事を受け入れた。
そしてその翌日には一人で王都へと足を踏み入れる事となる。
世界を救う――その志を持った者達が集まる中心地へと。
「あらぁ~ミルカちゃん、今度は国王様になるの? 大変ねぇ」
「こりゃあ~もう自慢の娘だっぺなぁ!」
「ミルカちゃん、じょてーい!」
「待って!? ちょっと待って!?」
執政官である貴族トゥルディーヨが来たと思ったら妙な展開になった。
今度は私が国王!? 何言ってんの!?
あまりにも想定外のこと過ぎて、私の自慢の思考力が働かない。
なのに何なのトゥルディーヨのその爽やかな笑顔!? 腹立つんだけど!?
もう滅殺していいよね!? 不敬罪で!
「おそらくは貴女様が思われている通り、この国の者達はあまりにも力が乏しい。前王もよくおっしゃっておられたものです。『聖護防壁ができる前は誰しも生きるために必死で、武を志す者はみな強靭な肉体を有していた』と」
「確かにそうね。聖護防壁ができる前は、何かを守るにも自分の力で乗り越えなければならなかったもの」
「あらぁミルカちゃん、なんだか昔の事を知ってるみたいな言い方ねぇ」
「む、昔の新聞に書いてあったの!」
……けどまだ殺さないでおいてあげるわ。
なんだか随分と共感できる話を持ち出してきたから。
聖護防壁ができる前というのはつまりおよそ三〇年前。
まだデュランドゥが若者だった時代の話ね。
彼の記憶によれば、当時は多くの戦士が一騎当千だった。
魔術士も一人で何匹もの魔物を駆逐できたし。
だから前王の言っていた事は間違いでは無いわ。
前王もダンジョンに繰り出せるくらいに強かったという事実もあるし。
それで今の時代では彼のような者が英雄になったのでしょうね。
昔では当たり前の事でも、今ではもう珍しい存在だから。
「だがそんな者達が育つのを待っていられるほど悠長な時間はありませぬ。いずれ国外からも魔物が押し寄せてくるかもしれませんから」
「なるほど、それで前王のような強さと知識と可愛さを持つ私が選ばれたと」
「ええ。それと前王は可愛いというよりダンディでした」
「そこにツッコむ?」
「あぁでもベストオブダンディ選手権の中で言えば可愛い方かもしれませぬ」
「何その選手権!? そんなのこの国にあったの!? しかも歴戦の武王が可愛いってベストオブダンディ妙にハードル高くない!!?」
とりあえず動機はなんとなくわかった。
武あるいは智に秀でた者を王にすえるのは普通の事だ。
本来はただ貴族だ王族だというだけで継承できるものではないのだから。
そういった者が選ばれやすいのは英才教育を受けているからな訳で。
で、その継承者もおらず、おまけに私という存在がいれば自然と矛先が向く。
実に自然な道理だと思う。
「でもヤダ」
「なんですと!?」
しかし私はお断りだ。
誰が好き好んでそんな窮屈な所に収まるものか。
どうせ王様なんて書類に刻印を押すばっかりで退屈に違いないし!(想像)
それなら私は土いじりしていた方がいい。
国土を守るなら魔導人形があるし、なんなら工場を国営にしたって構わない。
この村から離れるのは、すでに私のポリシーに反している。
シルス村第一、これが私の人生目標なのは変わらないのだから。
「どうかお考え直しを! ミルカ殿でなければダメなのです! ミルカ殿でなければ、貴女様のようなカリスマ性と実力をお持ちの方でなければ、これから成すべき事も成せませぬ!」
「これから成すべき事って?」
「……我等アウスティア王国は近日中に、世界各国へと派兵するつもりなのです」
「何ですって!?」
しかも遂にはとんでもない事をトゥルディーヨが言い始めた。
つい耳を疑ってしまった。
世界に向けて派兵って、それはつまり〝戦争を起こす〟という事かと。
でもどうやらそうではないらしい。
話はもっとずっと現実的で、なにより革新的だったのだ。
「ああっ、言葉足らずで申し訳ない。我々が率先して魔物優勢の現状を打開しようという話なのです。世界各地で猛威を奮う魔物達を駆逐し、危機に瀕した国々を救いたいのです!」
「ふぅ、良かった……まぁそれもそれで随分と壮大な目的だと思うけれど」
「世界は今、魔物の侵攻によって危機に晒されております。その状況を覆すには、まず我々こそが立ち上がるべきなのだと」
まさか彼等からこういう話が出て来るとは思わなかった。
自分達には力が無いから国を守って欲しい、とでも言うのかと。
けど違ったんだ。
今の彼等は自分達も、他の国さえも守りたいと願っている。
弱くとも、力が無くとも、自分がやれる事をやりたいのだと。
そしてその旗取りを私にやってもらいたいと訴えた。
なるほど、それなら理解できる。
政治でこの国を潤す事よりも、この隙に武力を整えるよりも、なにより今生きているであろう他国の者を多く救い、その輪で他の国をも救う。
その選択肢を選ぶなら、動くのが早い方がずっと効率的だ。
世界を救うにも、何より筋が通る。
「その為にもどうか、今一度お考え直しを!」
「トゥルディーユ卿」
「……なんですか?」
「明日就任と言ったわね? なら、今日だけは家族との時間をくれるかしら? どうせしばらくは戻って来られないし、存分に幸せを享受したいの」
「それでは……!?」
「仕方ないから引き受けてあげるわ。感謝なさい!」
「お、おお……!!」
そういう前向きに物事を考えるなら、協力するのもやぶさかじゃない。
私も魔戦王の意思を継いで効率作業にはとても意欲的だしね。
……どうやら王都での戦いが皆の意識を変えたみたいだ。
トゥルディーヨもこんな事なんて言い出すとは思えなかった人物だし。
もしかしたら皆、世界が混沌とした事で抑圧されていたのかもしれない。
でもその抑圧された感情が今、爆発しようとしている。
だったらその勢いに乗れば、もしかしたら世界は魔物の勢力を押し返せるかもしれない。
それどころか、殲滅さえも可能かも。かつてデュランドゥが願った通りに。
私はその可能性に賭けてみる事にしたのだ。
ただ魔戦王のように一人ですべてやろうとするのではなくて。
世界で協力して行えば、それは皆の選択になる。
そこにはもはや否定する余地など欠片も無いのだから。
その起爆剤となりえるのならば、数年くらいだけ力を貸してもいいかなって。
こんな決意を固め、私は国王となる事を受け入れた。
そしてその翌日には一人で王都へと足を踏み入れる事となる。
世界を救う――その志を持った者達が集まる中心地へと。
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