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第13話 一筋縄ではいかなさそうなヤツ
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期待外れだと思っていた領主ラギュースの騎士団ヴァルグリンド・ナイツ。
その中にたった一人だけ目を見張らせる存在がいた。
その名もエルエイス。
深青の長い総髪をなびかせる長身の男だ。
長い槍を背に構える立ち姿は冷静沈着さを匂わせてくれる。
それでいて鋭い目付きは氷のように冷たい。
身体も細身で、他の兵士達と比べてまるでもやしのようだ。
でもそんな体付きなど、今の気迫の前には何の説得力も無い。
この男、間違いなく他の誰よりも強い存在だろう。
「ねぇ閣下、コイツいつまでたっても襲ってこないんだけど。壊していいの?」
「かまわん、好きにやれ」
「わかった」
ただ、このままではエルエイスの実力は測れない。
人形の本能プログラムが先手を拒んでいる以上は。
そこで私はエルエイスが動く前に人形の魔導式を書き換える。
「初手から全力でぶつかれ」と命じたのだ。
するとエルエイスが構えると同時に人形が飛び出した。
なかば奇襲にも近い形で。
だったのだが。
「すごいねコレ、動きが洗練されている」
エルエイスはいとも簡単に拳撃を防いでいたのだ。
しかも槍の柄で受け流すようにして。
強烈なはずの力を、まるで綿毛を受けるかのように防いだのである。
人形が追撃を加えても無駄だった。
重いはずの槍を軽々と回しながら連続攻撃すべてを受け流し、かわしきっている。
さらには羽毛のごとく宙へとひらりと舞い、距離をとっていて。
人形が勢いを失い着地した所へ、その槍先が――伸びた。
「でもさ、僕には見えるから、関係無いよね」
そう錯覚させるような槍さばきだったのだ。
敵を確実に狙い、貫けると確信させるほどの正確さだったからこそ。
それゆえに槍先が人形へと打ち当たり、金属の砕ける音が周囲へ響く。
しかし砕けたのは槍の方。
人形ははじき飛ばされたものの傷さえ付いていない。
「硬いな。でもなんか不自然だ。普通の硬さ、じゃない」
それでもエルエイスは一切動じていなかった。
それどころか割れた槍先を目前にして、なお戦意を高めている。
冷たい眼を、さらに鋭くさせながら。
「……なるほど、わかった。これは確かに誰も勝てない」
その眼がどうやら何かを気付かせたらしい。
技量のみならず観察眼も優れているという事か。
さて本当に気付いたのか、この人形の真の特性に……?
「ならどうするエルエイス?」
「僕なら、こうする。〝召魔冷装〟……!」
するとそんな時、エルエイスがなんと魔術を使い始めた。
それも普通の魔術ではなく、武器に魔力をまとわせる術を。
これは属性付与魔術!
武器を魔力武装へと変換する高位術だ!
魔術の才能とは基本、1か0。
大小以前に、才能によって魔術を使えない者も多い。
そういった者達が武器を持って兵士となるのだが、コイツは違う。
エルエイスは魔術を使えながら武技をも操っている。
それどころか、どちらの類稀なき才能を持っているのだ。
「楽しかったよ、人形遊び。〝惺流・漸突牙〟……!」
その才能を最大限に発揮し、エルエイスが真っ直ぐと飛び出す。
迎え撃とうと跳ねた人形へ、冷気を纏った槍柄の先を向けながら。
ただ人形はその槍の軌道から外れ跳んでいく。
危機を感じ取り、回避行動を行っていたのだ。
なら今の速さであれば回避もたやすいだろう。
――そう思っていた時だった。
槍が、湾曲がる。
まるで人形へ吸い寄せられるかのように。
逃げる人形を追いかけるかのように槍先が伸びていたのである。
そして槍が人形の中心を穿った。
すると途端、人形の胴体が弾けて破片を撒き散らす事に。
あたかも焼き菓子を割ったがごとく、ほぼ無音で。
そんな破片を受けるのは、槍を真っ直ぐ掲げたエルエイス。
腕ごと突き出させたその姿は一切の無駄が無い美しい姿だった。
「……もうわかった。人形の倒し方は」
更には槍を振り回し、一瞬にして三閃。
周囲で待機していた人形を片っ端から一瞬で破壊してみせた。
本能的に逃げる間も与える事なく。
この逆転劇にはラギュースも驚きを隠せなかったようだ。
初撃が効かなかった相手になぜこうもたやすく勝てたのかわからなくて。
「一体どうしたというのだ!?」
「こいつらは、耐物理防御力を極限にまで、高めてる。普通の武器じゃ、絶対に勝てないよ」
「なんだと……」
「だから魔術の力で叩いてみた。耐魔防御は薄そうだったから」
ただどうやら、エルエイスはしっかりと答えを導いていたらしい。
そう、正解だ。
あの魔導人形は物理耐性に特化させていた。
騎士団の連中は魔術を使えないと聞いていたからな。
突破するには魔術を使うしか方法は無い。
だからと言ってあの小さなボディに細い槍先を当てるのは至難の技。
にもかかわらず真芯へと当てるなど、もはや常人の域を超えている。
今の技だってそうだ。
〝惺流漸突牙〟などというが、実際はそんな生易しいものではない。
今のは「相手側が見た時スローに感じてしまう回避不能技」の類なのだ。
そんな技を使えるエルエイスという男、只者ではない。
その才能も、この強さへ至った事も何もかも。
「でももう、人形遊びはいい。僕は君と、戦いたい。いい、でしょ?」
「「「ッ!?」」」
そして今、その男の槍先が私へと向けられる。
自信に溢れた眼を向けながら、笑窪をほんのわずかに吊り上げて。
この時、私は不意に鼓動を高鳴らせてしまった。
エルエイスという男が私を求め、戦いたい――そう願う意思を受けた事で。
転生前に願ってやまなかった渇望をふと思い出してしまったからこそ。
その中にたった一人だけ目を見張らせる存在がいた。
その名もエルエイス。
深青の長い総髪をなびかせる長身の男だ。
長い槍を背に構える立ち姿は冷静沈着さを匂わせてくれる。
それでいて鋭い目付きは氷のように冷たい。
身体も細身で、他の兵士達と比べてまるでもやしのようだ。
でもそんな体付きなど、今の気迫の前には何の説得力も無い。
この男、間違いなく他の誰よりも強い存在だろう。
「ねぇ閣下、コイツいつまでたっても襲ってこないんだけど。壊していいの?」
「かまわん、好きにやれ」
「わかった」
ただ、このままではエルエイスの実力は測れない。
人形の本能プログラムが先手を拒んでいる以上は。
そこで私はエルエイスが動く前に人形の魔導式を書き換える。
「初手から全力でぶつかれ」と命じたのだ。
するとエルエイスが構えると同時に人形が飛び出した。
なかば奇襲にも近い形で。
だったのだが。
「すごいねコレ、動きが洗練されている」
エルエイスはいとも簡単に拳撃を防いでいたのだ。
しかも槍の柄で受け流すようにして。
強烈なはずの力を、まるで綿毛を受けるかのように防いだのである。
人形が追撃を加えても無駄だった。
重いはずの槍を軽々と回しながら連続攻撃すべてを受け流し、かわしきっている。
さらには羽毛のごとく宙へとひらりと舞い、距離をとっていて。
人形が勢いを失い着地した所へ、その槍先が――伸びた。
「でもさ、僕には見えるから、関係無いよね」
そう錯覚させるような槍さばきだったのだ。
敵を確実に狙い、貫けると確信させるほどの正確さだったからこそ。
それゆえに槍先が人形へと打ち当たり、金属の砕ける音が周囲へ響く。
しかし砕けたのは槍の方。
人形ははじき飛ばされたものの傷さえ付いていない。
「硬いな。でもなんか不自然だ。普通の硬さ、じゃない」
それでもエルエイスは一切動じていなかった。
それどころか割れた槍先を目前にして、なお戦意を高めている。
冷たい眼を、さらに鋭くさせながら。
「……なるほど、わかった。これは確かに誰も勝てない」
その眼がどうやら何かを気付かせたらしい。
技量のみならず観察眼も優れているという事か。
さて本当に気付いたのか、この人形の真の特性に……?
「ならどうするエルエイス?」
「僕なら、こうする。〝召魔冷装〟……!」
するとそんな時、エルエイスがなんと魔術を使い始めた。
それも普通の魔術ではなく、武器に魔力をまとわせる術を。
これは属性付与魔術!
武器を魔力武装へと変換する高位術だ!
魔術の才能とは基本、1か0。
大小以前に、才能によって魔術を使えない者も多い。
そういった者達が武器を持って兵士となるのだが、コイツは違う。
エルエイスは魔術を使えながら武技をも操っている。
それどころか、どちらの類稀なき才能を持っているのだ。
「楽しかったよ、人形遊び。〝惺流・漸突牙〟……!」
その才能を最大限に発揮し、エルエイスが真っ直ぐと飛び出す。
迎え撃とうと跳ねた人形へ、冷気を纏った槍柄の先を向けながら。
ただ人形はその槍の軌道から外れ跳んでいく。
危機を感じ取り、回避行動を行っていたのだ。
なら今の速さであれば回避もたやすいだろう。
――そう思っていた時だった。
槍が、湾曲がる。
まるで人形へ吸い寄せられるかのように。
逃げる人形を追いかけるかのように槍先が伸びていたのである。
そして槍が人形の中心を穿った。
すると途端、人形の胴体が弾けて破片を撒き散らす事に。
あたかも焼き菓子を割ったがごとく、ほぼ無音で。
そんな破片を受けるのは、槍を真っ直ぐ掲げたエルエイス。
腕ごと突き出させたその姿は一切の無駄が無い美しい姿だった。
「……もうわかった。人形の倒し方は」
更には槍を振り回し、一瞬にして三閃。
周囲で待機していた人形を片っ端から一瞬で破壊してみせた。
本能的に逃げる間も与える事なく。
この逆転劇にはラギュースも驚きを隠せなかったようだ。
初撃が効かなかった相手になぜこうもたやすく勝てたのかわからなくて。
「一体どうしたというのだ!?」
「こいつらは、耐物理防御力を極限にまで、高めてる。普通の武器じゃ、絶対に勝てないよ」
「なんだと……」
「だから魔術の力で叩いてみた。耐魔防御は薄そうだったから」
ただどうやら、エルエイスはしっかりと答えを導いていたらしい。
そう、正解だ。
あの魔導人形は物理耐性に特化させていた。
騎士団の連中は魔術を使えないと聞いていたからな。
突破するには魔術を使うしか方法は無い。
だからと言ってあの小さなボディに細い槍先を当てるのは至難の技。
にもかかわらず真芯へと当てるなど、もはや常人の域を超えている。
今の技だってそうだ。
〝惺流漸突牙〟などというが、実際はそんな生易しいものではない。
今のは「相手側が見た時スローに感じてしまう回避不能技」の類なのだ。
そんな技を使えるエルエイスという男、只者ではない。
その才能も、この強さへ至った事も何もかも。
「でももう、人形遊びはいい。僕は君と、戦いたい。いい、でしょ?」
「「「ッ!?」」」
そして今、その男の槍先が私へと向けられる。
自信に溢れた眼を向けながら、笑窪をほんのわずかに吊り上げて。
この時、私は不意に鼓動を高鳴らせてしまった。
エルエイスという男が私を求め、戦いたい――そう願う意思を受けた事で。
転生前に願ってやまなかった渇望をふと思い出してしまったからこそ。
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