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第十一章 最終決戦編

最終話 英雄は世界の片隅で幸せを叫ぶ

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 クラウース共和国辺境、ポト村。
 人口およそ一八二人。
 中規模の村であり、その多くが農業士である。

 そんな故郷で、俺は昔ながらの生活をしている。

「ラング君、あっちの麦畑の収穫が終わったから後で耕しておいてもらえるかしら」
「うーっす。デルヴォ夫人も無理せんといてくださいよぉ」
「いえいえ、今まで失礼をかけ続けたお詫びはさせてくださいな」

 今では昔の確執も忘れ、互いに協力し合う関係に戻っている。
 ギトスの母親も息子の事を忘れようと必死にがんばっているようだ。

 ギトスがやった事はすべて話していない。
 ただギルド員として悪い事をしていた、報いを受けたとだけ。

 すると夫人は最後の手紙を手にし、俺達に見せてくれた。
 そして後悔し、謝罪してくれて。

 だからうちの親も許し、それからは今のような関係に。
 歳も歳だから俺的にも無理しないで欲しいんだがね。

 仲が良ければそれだけで充分だよ。

 そう思いながら担当していた畑の麦を収穫する。
 これくらいは農業士じゃなくとも普通なりにできるからな、手馴れたものさ。
 はやく収穫して耕して、次の種を植えなきゃなんねぇし。
 少しでも世界を良くするためにもこういう所から支えていかねぇと。

「ラング~? あ、まだやってたんだ」
「お、チェルトか。まぁな、やっぱ農業士みたいに上手くはいかんぜ」

 そうして作業していたらチェルトもがやってきた。
 どうやらお弁当を持参してくれたらしい。
 もう昼か、早いもんだ。

 そこで俺達は傍の坂に腰をかけ、そこで昼食を食す。
 茶まで持ってきてくれるんだからまったくイイ女だぜ。

 とはいえ、チェルトにも無理しないで欲しいんだが。

「お前も身重なんだから少しは自分を気遣えって」
「これくらいは平気だよぉ。ラングだって適職じゃないんだから無理しちゃダメ」
「かーっ! ったく、こういう時に英雄パワーってのは役に立たねぇ!」

 これで俺も英雄の力がいつでも使えりゃいいんだが、そうもいかない。
 この職業はなにぶん強敵相手に強くなれるだけで、普段は一般人並み。

 おまけにハーベスターですらなくなったから掘りに通じる耕作さえロクにできん。
 最底辺が極まった酷い状況だからこうして実家に帰って来たのだが。

 そこでチェルトの妊娠が発覚。

 それなので俺達は婚姻を決め、今では事実上夫婦となっている。
 あとは子どもが産まれて来るのを待つばかりだ。とても楽しみである。

「ラング」
「なんだ?」
「静かだね。私、この景色好きだよ。みんなで守ったこの風景が」
「……ああ、俺もだよ」

 その事はチェルトも理解していて、それで甘えても来る。
 今でもそっと寄り添い、肩に頭を預けてくれた。

 ……ああ、そよ風がとても心地いい。

 その風が高く伸びた麦穂を揺らし、景色の彼方まで波を打っている。
 そんな穏やかな光景が俺達にはとてもありがたく見えるんだ。
 これが俺達の守った世界なのかなって思えてならなくて。

 だから俺は今度は彼女を守りたい、そう願っている。

「たわけがーーーっ! なに二人だけでイチャついとるかーっ!」
「「ギャブンッ!!!」」

 だがそうセンチメンタルに浸る間もなく頭に衝撃が走る。
 そのせいで二人して悶え、頭を抱える事に。

 それで後ろに振り向けば、なぜか木桶二刀流をキメるウーティリスの姿が。

「なぁにしやがんだウーティリースッ!!!」
「抜け駆けした報いなのら。わらわは嫉妬深い事を忘れたかぁ~~~!?」
「ちょ、まってまってウーちゃん! 無理したら危ないってぇ!」
「ニャーーーーーー!!!!!」

 するとまもなく桶がビュンビュンと飛び回る。
 その大きくなった腹をぼよよんと弾ませながら。

 そう、妊娠したのはなにもチェルトだけではない。
 なんとウーティリスも同時期に妊娠が発覚したのだ。
 なので実はウーティリスとも婚姻を結んでいる。コイツとも夫婦だ。

 ただ、それが分かった途端に俺は親父に殺されかけた。
「こんな少女まで孕ませてテメェ!」と百発ブン殴られた事はもう忘れられない。

 ……ただウーティリスいわく、これは普通の事なのだそう。
 ただ少女の時に神となり、そのまま肉体が成熟してしまった。
 だから体は子どもに見えるがしっかりとした大人なのだそう。
 そりゃまぁ酒も飲めるくらいだからわかっていた事だが。

「なのでウーティリスもギューっとするのらぁん♡」
「チェルトにもしてないんだけどそれ?」
「れすぅ~~~~~~!」

 そんでまたもう一人、騒動の種がきた。

「ニルナナカも混ぜて欲しいれすぅ~~~!」
「一ヵ月もどこか行ってたのにこのタイミングで帰ってきます?」
「このタイミングが~~~いいと思って~~~」
「ザ・ご都合主義!」

 ニルナナカは自由過ぎてもう放置だ。
 こうしてたまに帰って来る訳だが、基本は家にいない。
 彼女に関しては操の防衛能力が高いので手が出せていないのが幸いか。

「あ、ウーちゃんも~~~チェルトちゃんも~~~おっきくなったれすぅ~~~」
「うむ、もう蹴ってくるくらいには成長したのら!」
「あ~~~いいな~~~ニルナナカも~~~そろそろ赤ちゃん欲しい~~~れすぅ~~~えいっ」

 ――え? なに、えいって?

 それでふと見返したら、ニルナナカがいつの間にか赤ん坊を抱いていた。
 待って、その子さっきはいなかったよね? いつ取り出したの?

「ラングとの~~~赤ちゃんれすぅ~~~」
「待って理屈がおかしい! どうしてそうなる!?」
「あ、神は生殖行為ではなく精神結合による無からの創造で子どもを作るのら」
「はいい!?」
「ラングとなら~~~あと三人はいけますぅ~~~」
「待ってやめて! そうやって無責任に子どもを増やさないで! 俺をこれ以上無責任な親にしないでくださぁい!!!!!」

 できちゃったもんは仕方ないけど、許可もなしに簡単に増やしちゃいけません!
 それは命への冒涜ですぅ!

「お、みんないると思えばなんか面白い事になっているではないか~」
「師匠聞いてくださいよ、ニルナナカが子どもをポンってえ!」
「どうせ親になるのなら一人も二人も百人も一緒だろう。なんなら我もラングの子になりたい。なりたいでちゅー」
「言っている意味がわからない!」

 ああダメだ、師匠もあれからポンコツっぷりに拍車がかかって役に立たない。
 ゲールト討伐に情熱を燃やしていたあの頃に戻って欲しい!

 それに俺がアンタに養ってもらいたいくらいだよ! 大金持ちなんだから!

「あ、くっさ! アンタ昼間から酒飲んで何やってんすか!?」
「うぇっへっへ! 我もぉ、ラングとの子どもほちいでちゅー」
「悪ノリするんじゃねぇ! アンタは子ども作れないでしょうが!」
「神域で再調整すればできるようになるかもしれぬぞ。神式になるかもしれぬが」
「いくーっ! 我いきまーすっ!」
「行くのは自由だけどもうこれ以上勝手に増やすのはホント勘弁してぇ!」

 あーもう酔っ払いだと余計に面倒臭ぇ!
 住み込みしてる癖に仕事も手伝わんし、ほんとなんでいるのこの人!?
 つか商会、お前らなんで迎えに来ないんだよォォォ!

「ああ、頭が痛い。また親父にどやされるのは嫌だ……」
「その時はわらわが庇ってやろうぞ」
「期待しないでおく」

 ああちくしょう、これならハーベスターの頃の方がまだよかった。
 あの時はほんの少しだけど身体能力上昇があったからなぁ。

 クッソォ、救いがねぇ!
 あーもう、英雄なんてこりごりだ!

 次に世界になんかあっても絶対に助けたりしないからなぁーーーっ!!!!!





 ――こうして英雄は静かに叫ぶ。
 多くの子宝に恵まれながらも、恵まれない自分への不満に嘆いて。

 それでもきっとラングは戦うだろう。
 もしも世界に何かあった時、自分の事のように嘆いて。



 だから世界は回り続けられるのである。
 そんな英雄が影にいるからこそ嘆かずに済むから。

 英雄がいる。
 その事実があるからこそ、人の心に巣食う迷宮は密かに壊され続けるのだ。
 




 完……?
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