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第十一章 最終決戦編

第146話 世界を守るために散った者達へ

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 神域での戦いからはや一週間が経った。

 しかし世界はそんな戦いがあったなど知る由もない。
 だから世間は今まで通りに動き続けている。
 強いて言うならダンジョンが発生しなくなって勇者達が困っている、というくらいか。

 だけどその影で、俺達は対ゲールト最終決戦における戦没者の追悼式に参列していた。

 ただし主催はギルド本部。
 名目は反乱戦にて戦死した勇者追悼のため。

 なのでもちろんダンジョンブレイク工業の一員として参加。
 ディマーユさんも商会代表として人姿で参列し、ギルドの動揺を誘ったものだ。

 とはいえ争いになる訳もない。
 なにせ俺達を誘ったのはあのワイスレットギルドマスターだったのだから。

 そう、ワイスレットギルドマスター達はちゃっかり生きていたのだ。
 当然ながらディーフさんもピンピンして参列しているし。
 まったく、心配して損したぜ。

「アンタからしれっと誘いの手紙が来た時は驚いたが、本当にこんな事をしでかすなんて思わなかったよ」
「フッ、私は最初から本気だったよ。だからこそ君達は無事にこの式へ参列できる。今の君達はギルド本部の最重要賓客だからな」

 ほぉ、根回しのいいこった。

「それよりもワイスレットギルドマスターさんよ」
「今はギルド本部長だ」
「……大出世したねぇ。で、本気なのか、リミュネール商会の被害者も追悼者に含まれているって?」
「無論だとも。すでにミュレ=ディネル殿とも秘密会合を行い、戦没者の情報のやりとりも済んでいるよ」
「ったく、そういう裏の事ばかりは嘘が得意だなあの人」
「ここまでほとんど時間がなかったのらから、情報共有できてないのも当然であろ」

 となるとギルド側にも疑問に思う奴がいるんじゃないか?
 どうして商会の人間が、だなんて。

 ……そう思っていたのだが、意外にそうでもなかったようだ。
 どうやらゲールトとの戦いは一部のギルド員も把握しているらしい。

 それというのも、例の反乱が一因となったようだ。

 話では元ギルド本部長がゲールトと交信できなくなった事を機に、降伏宣言を出したらしい。
 そこで本部を攻めていたこのおっさんがゲールトの事を打ち明け、真実が明るみとなったって訳だ。

 それでそのまま本部ギルド員はまとめて裁判へかけられる事に。
 反乱軍を率いていたおっさんがギルド本部長へと成り代わったって寸法さ。
 その成り上がり具合には驚いてたまらんね。

 そんな本部長とやらも俺達にはもう戦意を向けていない。
 おかげで俺達は安心して追悼式を迎える事ができた。

「追悼! ゲールトという暗躍組織により影から支配されていた世界を救わんとし、その血を流した英雄達へ!」
「貴殿らの血は、想いは、我らの未来に繋げる糧とならん!」
「そしていつか英霊として世界を見守り続けてくれる事を切に願う!」

 式自体はそれほど長くはなかった。
 ただ戦没者の遺影や名札、愛剣など一つ一つ運んで祀り、合同墓碑へと捧げるだけ。
 後はこうして追悼の意を示し、祈りを捧げて終了となる。

 もちろんその中にはエリクスやラクシュ、その他のみんなの形見もある。
 すべてディマーユさんが提供し、祀る事を許可したらしい。

 それで式が終わり、各自が解散していく。
 そんな中で俺達も集まり、墓碑に哀愁の視線を向けていた。

「……エリクスは掴み所がないが、いい奴だったよ。あいつがいなきゃ俺はディマーユさんとは会えなかったからな」
「そうだな。彼がお前を見つけなければ我も気付きはしなかっただろう。そういう意味ではエリクスが最大の功労者なのかもしれん」
「ラクシュもクリン殿もしっかりわらわ達を守ってくれた。みな、英雄だったのら」
「ああ、そうだな」

 本当なら生きて再会したかった。
 約束を果たしてやりたかった。
 それを誰一人としてできなかったのが辛くてたまらねぇ。

「ならいっそ、生まれ変わってたなら今度こそ幸せになっていて欲しい、そう満足できるような世界を作り上げたいって思うぜ」
「うん、そうだね。私達もがんばらなきゃ!」
「がんばるれすぅ~~~!」
「アタシも帰れる算段が付くまでは協力しますね!」
「えーめんどうくさ」
「ハァ~、これだから生臭い魚類は」
「ああん!? なんか言ったか髭ゴルァ!?」
「もぉやめんか! 死者の前ぞ!?」

 まぁみんなも協力的だし(一部除いて)、そんな世界の実現もきっと難しくはないだろう。
 あとは目の上のタンコブであるギルドがどうにかなりゃいいんだけど。

「楽しそうだな諸君」
「お、またきたかおっさん本部長」
「ははは、歳を取る事で得られる知見もあるぞ。おっさんも悪くはない」

 そのギルドの統領が直々の再登場だ。
 なんか遠くで話したそうに見えたのには気付いていたがな。

「それで君らが話していた、満足できる世界を作る、という話題だが……そのネタにギルドも一つ噛まさせてほしいと思ってな」
「ほぉ? というと?」
「我々もギルド再編という形で事務的にやらねばならぬ事が多い。しかしダンジョンが発生しなくなった以上、勇者達が手持ち無沙汰になってしまってな。その中だるみを何とか緩和したいと考えている」
「まぁそうだよな、仕事がなくなっちまったら勇者も食いっぱぐれちまう」
「そこで我らもまた方向転換しようという訳だ。だがやり方が今まで通りでは勇者達が何も変わらない。それにこれ以上君達との軋轢を生むのはよろしくない」

 思っていた以上に考えているんだな、この人は。
 ギルドのため、ではなく勇者や市井の人達のためにと。

「だからこそ少し考えている事があるのだ。互いの意思を尊重し、それでいて競争力を維持させるとっておきの方法が」
「ふむ、ならばその詳細はこの我が後で聞くとしよう。場合によっては商会の力を貸す事も吝かではないからな」
「頼む」

 たしかに偉そうな所はまだ残っている。
 だけどこうして頭を深く下げて頼んでくる相手をどうして卑下できるだろうか。

 いいや、俺はできんね。
 この行為にはおっさんの誠意が見える。
 少なくとも信じる信じないとかいう話じゃないくらいには。

「何かあったら俺にも一言言ってくれや。力を貸すからよ」
「ああ、その時はよろしく頼む、英雄殿」
「よせって、そう呼ばれるのは俺の趣味じゃねぇ」
「なはは! そなたはやはり穴掘りラングであるのが一番なのら!」
「やーん! 我も掘られちゃう~~~♡」
「はッ!? でしたらワタクシめもお願いいたしましゅううう!!!!!」
「「「……」」」

 安心してください師匠。
 あなた相手だとそういう気になれないんで。偉大過ぎて。
 それとあれ、今さらながら師匠って生殖機能ないのでは……?

 あとレトリー、お前は論外な。

「ま、ダンジョンの件についてはわらわに思う所がある。少し任せてくれぬか」
「お?」
「ちょい神ズと共に神域に戻り、現状の世界の管理状態を探ってみる事にする。その上でダンジョン生成システムの管理を神域でできぬか試験してみたい」
「本当ならば監査神の奴を復活させたいが、そうもいかんだろうな。であればやるのは自然と吾人となろう」
「ニルナナカも~~~手伝うれすぅ~~~」
「あーキスティは神域の自宅に帰るわ。予約動画とか観てないのあるだろうしぃ」
「「「コイツ……ッ!」」」

 ダンジョンももしかしたら復活できる余地があるかもしれない。
 そうなれば資源不足とかもすぐに解消できるはず。

 そうできる事に期待してウーティリス達に任せよう。
 こいつならもう心配する事はないと思うしな。

「ダンジョンが復活するならありがたい。私が計画している事もそれがあればもっと捗るだろうからな」
「なら期待させてもらうぜ本部長さん、アンタの手腕ってやつをよ」
「任せておけ、今の私はかつてない気迫で満ち溢れている! 勇者だった頃にはなかった情熱が湧き出てたまらぬよ!」

 どうやらこの人も元々は商会寄りの人間だったのかもな。
 ただギルドに毒されていただけで、正しい事を考えられる人。

 いや、多くの勇者もそうだったのかもしれない。
 それだけゲールトの呪縛が恐ろしく強かっただけで。

 ――ギトスもその事に気付いていたらちょっとはマシになっていただろうか?

 ……いや、よそう。
 もう奴はいないんだ。

 奴を消す事、それが世界の正常化のために最も必要な選択だったのだと。



 こうして追悼式後の会合を終わらせた俺達も帰路に就く。
 そしてそれぞれの生活と仕事が再び始まる。
 そんな毎日はとても穏やかで、充実していたものだ。

 だから気付けば、一年近い月日が経っていた。
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