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第十一章 最終決戦編

第144話 残虐性を超越した者(第三者視点)

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 やっとゲールトの黒幕を倒した。
 やっと世界に自由がもたらされた。
 そのはずなのに。

 しかし現実はまだ、ラングに戦いを強いる。

 あのギトスがまだ生きていた。
 信じていた仲間達が倒されてしまった。
 思ってもみなかった絶望がラングやウーティリスの前に現れたのだ。

「ククク、まぁ安心しろよ。こいつらはまだ死んではいない。お前が苦しみもがくその中で一人一人頭を潰してやろうと思ってさあああ!!! プチッ、プチッってよおおお!!!!!」

 なんたる狂気。
 なんたる醜悪。
 悪魔じみた笑みが二人の瞳を震わせる。

 しかもそんな二人を前に、ギトスはさらなる狂気を晒すのだ。

「そしてお前を最後に殺す! その儀式をもって僕は真の唯一神となり、世界に降臨する! この世界の絶対的神として人間を支配し、蹂躙してやるのさあ!」

 興奮し、立ち上がって両腕を広げて高笑う。
 そうして二人を見下し、舌なめずりをする。
 もはやこのギトスに人の心など欠片も残されてはいない。

 そう、その残虐性はいずれの人をもはるかに超越していたからこそ。

「お、おのれギトスゥ、貴様だけは、我が……!」
「あぁそうでしたねぇ、師匠は僕と同じで体の治りが速いんでしたか。旧型だけどそれなりには速いみたいですねぇ!」

 ディマーユがギトスの足首を掴み、抵抗の意思を示す。
 しかしギトスはケラケラと笑って濁すだけだ。

 なぜならば。

「うっ!? あ、あぐ!? うおあああ!!?」
「なっ!? ディマーユさんっ!?」

 突如ディマーユが腹を抱えて苦しみだす。
 その身体に起きた異変に反応し、掴んでいた手をも放して。
 その末にラングもウーティリスも、そしてディマーユもが目を疑う。

 腹があっという間に膨れていく。
 まるで妊婦のように、いやそれ以上に急激かつ大きく。
 
 その苦しみは想像を絶し、ディマーユを悶絶させるほどだった。

「がっ、ぎゃあああああ!!! 我の腹が! あっがああああああ!!!」
「あははははは!!! おめでとうございます師匠! 無事ご懐妊ンン!!!!!」

 よく見れば腕や脚が不自然に膨らみ、蠢いている。
 しかもそれが腹部めがけて動き続けている事もすぐにわかった。

 彼女の中に、何かがいる。
 そう察するには十分過ぎたのだ。

「ディマーユさんッ!!? ギトスてめぇ! 一体この人に何をしやがったあ!!!!!」
「あははははっ! 面白いだろお!? せっかくだから僕の子どもを産んでもらおうかなって思ってさあ!!!」
「な、なんらとおおおッ!!?」

 理解できない。できる訳がない。
 ギトスの残虐性など、普通の人間の感性を持つ二人では。

「まぁでもぉ、僕は改造された事でどうやら生殖能力を失ったらしい。だからさぁ、戦闘中にこっそり、僕の遺伝子を持った肉片を何度も何度も撃ち込んでやったのさ」
「「ッ!!?」」
「初めは小さい肉片でしかない。けどねぇ、それが彼女の肉を喰い、育ち、掘り進むゥ! そうして一定まで育った今、宿るべき場所へと向かっているって訳さぁ!」
「な、なんと……それが元人間のできる事かぁ!?」
「できるともぉ!!!!! 今の僕は! 誰にも否定されない! 最高の神なのだからっ!!!」
「狂っておる……こんなの狂っておるぞギトスゥゥゥ!!!!!」

 あまりにも衝撃的すぎる事実だった。
 この場で最もの冷静さを誇るウーティリスさえもが激昂してしまうほどに。

 しかもギトスが、そんなウーティリスの感情をさらに逆撫で上げる。

 なんとあろう事かディマーユを踏みつけていたのだ。
 苦しみもがいた末に白目を剥いて泡を吹く彼女を、何度も、何度も。

「あは、あはあはははっ!!! そうしてえ、僕の子どもを産む! こんなに素晴らしい役目はないでしょう!? ねえ師匠ぉお~~~!!?」

 もはや正気の沙汰ではない。
 いや、そもそもがギトスの人としてのタガはすでに焼き切れ壊れている。
 それは改造のせいでもなく、準神になったからでもない。

 元々から壊れていたのだ。
 このギトスは最初からもう、壊れていたのである。

 だからこそ子を産ませようとしている者でさえ足蹴にできる。
 それに対して一切の罪悪感も抱きはしない。
 それが己の特権であると信じている限り。

 ギトスはいずれゲールトさえも滅ぼして世界に君臨するつもりだっただろう。



 ――今この瞬間までは。



 その時、閃光筋が走った。
 それもギトスの左視線スレスレに軌跡を刻むように。

 するとその瞬間、ギトスの視界左から赤い飛沫が舞う事に。

「え?」

 それでふとギトスが右手で左側部を探るのだが。

 何も無い。
 手も、腕も、肩さえも。
 体の一部からごっそり削ぎ取られ、切り取られていたのである。

「ギトス……てめぇだけは絶対に許さねぇ。てめぇがやった事はもはや、人の目にすらついちゃいけねぇ外道の極みだぜ……ッ!」

 そんなギトスの背後から声がした。
 ギトスもがゾクリと恐怖を感じてしまうほどの威圧感と共に。

 その中で痛みも忘れて振り返ったのだが。

 そこにいたのはあのラングだった。
 最弱で、最底辺だったはずのあの男が、壁に足を預けて睨んでいたのだ。

 その右手に白水晶の剣――神殺しの剣を携え、壁へと突き刺したままに。

「あ、ああ!? な、何をしたラング!? 何をしたんだああああああ!!!??」

 ゆえにギトスが怯え戸惑い、後ずさる。
 さらにはディマーユにつまずき、ついには尻餅をついていて。

 その上で、またしても驚愕に襲われ怯えを見せていた。

「あ、あ、腕が再生しない!? なんで、なんでえええええ!!?」

 当然である。
 神殺しの剣は、神の力をも殺す。

 今の一撃はギトスの再生能力さえ無効化させたのだ。

「俺は、もうお前を許すなんて事は微塵も思わねぇ」
「ひっ……!?」
「ただ殺すって事さえ生ぬるいと思っている」
「あ、ああ……」
「その腐った魂が二度とこの世に現れないように……俺がお前を――断つ! 」

 そうしてしまうほどにラングもまた激昂していた。
 ただ静かに、それでいてすべての怒りを力へと換えて。

 己の使命のままに殴り、蹴り、そしてギトスを吹き飛ばす。

 殴打、殴打、殴打!!!!!
 まるで空を飛ぶかのように宙を跳ね、ラングの拳が幾度となくギトスを打った。
 その圧倒的な戦闘能力を前に、もはやギトスはなす術もない。

「なんっ!? ギャブッ!? でえッ!? ブガッ!? お前はッ!?? ハーベスブゲエッ!!?」

 言葉にならないほどの一方的さ。
 ついには誰もいない壁面へと打ち付け、白壁をも歪ませて沈める。
 その圧倒的パワーはギトスの想像をはるかに超えたものだった。

 そんな中で、ラングがウーティリスの前で着地を果たして手で制する。
 まるでウーティリスに「下がっていてくれ」と言わんばかりの微笑みを向けて。

「……そうか、そうなのらな。そなたには元々その素養があった。ただ単に選ばれなかっただけに過ぎなかったのら。たった一つの特殊な条件だけが邪魔をしていただけで」
「ああ、俺も今理解したよ。リアリムがどうして生きる事にこだわっていたのか、その理由を」
「うむ。それは単に、そなたのような存在を待っていたからかもしれぬな」

 ウーティリスもまた事実を知る。
 そして優しく微笑みを返すのだ。



 新たな英雄・ラング=バートナー、その誕生を褒め讃えるかのように。
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