底辺採集職の俺、ダンジョンブレイク工業はじめました!~本ダンジョンはすでに攻略済みです。勇者様、今さら来られても遅いのでお引き取りを!~

日奈 うさぎ

文字の大きさ
上 下
143 / 148
第十一章 最終決戦編

第143話 相棒として共に歩もう

しおりを挟む
「ふぅぅぅ……!」

 もう何が起きたのか、自分で考える事もできなかった。
 ただ勢いに任せ、示されるままに動いただけだったから。
 すべてが自分のやった事とは思えないくらいに抽象的で、空想的で。

 でも間違いなく、リアリムは俺がやった。
 奴の体を真っ二つに断ち切ってやったのだと。

 しかし直後、ハッとして気付く。
 ウーティリスの身に何が起きたのか、それをも思い出したから。

「ウーティリ――」

 だからこそ思うがままに振り返る。
 リアリムがどうなったかなんてもうどうでも良かった。
 それよりもウーティリスの事がただただ心配で――

「ええい阿呆め、わらわよりリアリムの事を確認せんか!」

 だけどウーティリスは平然と腕を組んで立っていたんだが?
 たしかに胸に傷はあるし? 血もドクドク出てて尋常じゃないのに?
 っていうか神殺しの剣で刺されたよね? やばいよね?

 えっ?

 しかしそんな心配をよそに、俺の股間に小さな拳が打ち当たる。
 ウボアーーーーーー!!!!!!!!!

「わらわの事はいい。なんて事のない傷よ」

 せっかくキメたのにこんなオチはないんじゃないのウーちゃん!?

 幸いダメージ深度は軽微だったようで悶絶する程では無かった。
 ただし痛いには痛いので涙目で股間を抑えながら振り返る。

 そんな先には、すでに歩み寄っていたウーティリスとリアリムの向き合う姿が。

「これがわらわ達の選んだ道ぞ」
「そう、か……これが、君の、答えか……」
『ああ、なんたる!?』
『我々が!』
『消えていく!』
『嫌だ!』
『まだやり残した事が!』
「黙れ下郎どもが! お前達はさっさとね!」
『『『うあ、あああ……』』』

 どうやら致命的な一撃が他の六賢者を消す事になったようだ。
 あの煩わしい不協和音みたいな声はどうにも慣れんし、助かる。

「……ならいい。あとは、君の、好きなように、生きて」
「言われんでもそうするつもりよ。ただ、お前の意思も少しは汲みたい。スキルに関してはやり過ぎぬよう多少なりに制限も加えてあげたいとも思う。できる限り多くの人が平等に扱えるようにのう」
「そう、か……なら、よかった」

 ただ一方のリアリムはまるでやりきったように健やかだ。
 だとしたらこいつはこうなる事を望んでいたのかもしれんな。

 自分を止められる者なら世界を託すことができる。
 それが英雄としての最後の役目なのだと信じて。

 ……となれば最大の害悪は他の六賢者だったのかもしれん。
 リアリムという強力な存在に成り代わり、支配欲を満たそうとする卑怯者達。

 でももうそいつらも消えた。
 リアリムも今の一言を最後に事切れてしまったようだ。

 そんなリアリムの手をウーティリスが掴み上げ、大事そうに撫で上げる。
 その様子を前にして、俺はこいつに声をかける事はできなかった。
 本来なら感動の再会だったろうに、結末がこんなにも残酷だったから。

「……では行こうラング。みなの下へ」

 それでもウーティリスの心は気高いのだろう。
 鼻を一つ啜らせると、そっと立ち上がってこう呟く。

 だがその途端、そのウーティリスががくりと膝を崩していて。

「あぶねぇ!」

 だから俺は剣をも落とし、両腕で彼女を掬い上げるようにして支えた。

「おいおい、全然大丈夫じゃねぇじゃねぇか! 無理しやがって!」
「いや、これは単に気が抜けただけよ。わらわ自身は本当に大丈夫なのら。わらわ自身はな」
「えっ……?」

 それで体を起こしてあげれば、本当にすぐ立てていて。

 ただ不思議と、以前のような雰囲気が感じられない。
 すべてを見通すかのようなあの神秘性が。

「実はダンタネルヴに一つ頼んで造り上げてもらったのよ。一度だけなら神殺しの剣の一撃に耐える身代わりのお守りをな」
「そんなのいつの間に……」
「……ただし、神の力を引き換えにする必要があるがのう」
「は……!?」

 そう、感じられる訳もなかったのだ。
 今のウーティリスにはもう、神の力が残っていないから。

 今のウーティリスは、もうウーティリスではない。
 慈母神ユーティリスの力を失ってしまった人間、ウティルなのだから。

「ゆえにわらわは生きておるという訳なのら」
「……そうか、なら言う事はねぇわ」
「ふふ、相棒が神でなくなって残念か?」
「いいや? お前はお前だろ。神じゃなくったって構やしねぇよぉ」
「そう……嬉しいよ、ラング」

 けれどそれでも相棒って言ってくれるなら俺はそれを受け入れるつもりだ。
 こうなったのはこいつの選択で、俺がとやかく言う事じゃねぇから。
 助けられたのもまた事実だしな。

「だがすまぬラング、わらわの勝手で最高のスキルを失う事になってしもうた」
「そうか、神の力が消えるって事はスキルも消えちまうんだな」
「うむ」
「ま、しゃあねぇさぁ。だったらまた地道に掘ればいい」

 しかしそうなるとダンジョン自体もなくなっちまうな。
 これからの資源問題がどうなるかもちょいと心配ではある。

 だけどもう大崩壊の時代はとっくに終わっている。
 大地は自力で芽吹き、命を育む事ができているんだ。

 だったらきっと食料問題が出ても一時的なものだろうよ。
 他の資源だって今あるものでまかなえばいいんだからな。

「そん時は相棒、お前も手伝ってくれるか?」
「うむっ、任せよ! わらわはそなたと常に一緒なのら!」
「おう、よろしく頼むぜ……えっと、ウティル?」
「ウーティリスでよい。もうその名の方がずっと馴染み深くてわらわが慣れぬよ」
「そうかっ! よぉし!」

 それにここで四の五の言ったって何も始まらん。
 これでゲールトは終わり、古代からの支配は終焉を迎えるんだ。

 後は俺達次第。
 それこそギルドと協力してでも未来を構築していかにゃならんだろう。
 その事をディマーユさん達とも相談し合う必要がある。

 そのためにも俺達は戻るのだ。
 ウーティリスを担ぎ上げ、肩車をして。

「よっしゃ、師匠達の所に戻るぜっ!」 
「うむっ! 今頃はわらわ達の事を首を長くして待っているであろう!」

 この時のために俺は戦い続けた。
 そしてその戦いもついに終焉を迎えた。

 だからきっと、俺の戦いはここで終わるのだろう。

 それでこれからはまた平穏な日々が始まる。
 故郷で過ごした時と同じような、未来を夢見る明日が。
 なんならあのルルイとヤームも呼び寄せて、みんなで事業をやるのもいい。

 そう考えられる余地があるっていうのはいいな。
 これが俺達の築いた未来なんだって実感が湧きそうで。

 俺はそのために戦えて、本当に嬉しい。



「遅かったなぁラングゥ、待ちくたびれてしまったよぉ……!」



 だが俺達を待っていたのは決して希望ではなかった。
 むしろこれ以上ない絶望が待ち構えていたのだ。

 壁に打ち込まれて力尽きたチェルトやニルナナカ。
 床へと無造作に転がるミラやキスティ。

 そしてまるで椅子のように圧し掛かられているディマーユさん。

 そんな彼女の上で、あのギトスがニヤリと嘲笑っていた。
 あたかも退屈していたかのように膝を組んで。

「あは、あはあははは! 後はお前だけだよラングゥ! お前を絶望に落として、いたぶって、ブチ殺したら僕の世界が始まるんだぁ!」
「て、てめぇ……ッ!」
「楽しみだなぁ! 嬉しいなぁ! こんな時をどれだけ待ち望んでいたかっ!」

 もう頭が真白だった。
 怒りよりも憎しみよりも、ただ理解が滞っていて。

「さぁ最後のショーを始めるとしようかァ。題目は、〝憐れラング、最底辺の死亡遊戯〟だァ……!!!」

 しかしそんな中で奴が唸る。
 これ以上ない殺意と邪気を俺へと向けて。



 この地獄は、まだ終わらない……!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大地魔法使いの産業革命~S級クラス魔法使いの俺だが、彼女が強すぎる上にカリスマすぎる!

倉紙たかみ
ファンタジー
突然変異クラスのS級大地魔法使いとして生を受けた伯爵子息リーク。 彼の家では、十六歳になると他家へと奉公(修行)する決まりがあった。 奉公先のシルバリオル家の領主は、最近代替わりしたテスラという女性なのだが、彼女はドラゴンを素手で屠るほど強い上に、凄まじいカリスマを持ち合わせていた。 リークの才能を見抜いたテスラ。戦闘面でも内政面でも無理難題を押しつけてくるのでそれらを次々にこなしてみせるリーク。 テスラの町は、瞬く間に繁栄を遂げる。だが、それに嫉妬する近隣諸侯の貴族たちが彼女の躍進を妨害をするのであった。 果たして、S級大地魔法使いのリークは彼女を守ることができるのか? そもそも、守る必要があるのか? カリスマ女領主と一緒に町を反映させる物語。 バトルあり内政あり。女の子たちと一緒に領主道を突き進む! ―――――――――――――――――――――――――― 作品が面白かったらブックマークや感想、レビューをいただけると嬉しいです。 たかみが小躍りして喜びます。感想などは、お気軽にどうぞ。一言でもめっちゃ嬉しいです。 楽しい時間を過ごしていただけたら幸いです。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

魔法省魔道具研究員クロエ

大森蜜柑
ファンタジー
8歳のクロエは魔物討伐で利き腕を無くした父のために、独学で「自分の意思で動かせる義手」製作に挑む。 その功績から、平民ながら貴族の通う魔法学園に入学し、卒業後は魔法省の魔道具研究所へ。 エリート街道を進むクロエにその邪魔をする人物の登場。 人生を変える大事故の後、クロエは奇跡の生還をとげる。 大好きな人のためにした事は、全て自分の幸せとして返ってくる。健気に頑張るクロエの恋と奇跡の物語りです。 本編終了ですが、おまけ話を気まぐれに追加します。 小説家になろうにも掲載してます。

劣等冒険者の成り上がり無双~現代アイテムで世界を極める~

絢乃
ファンタジー
 F級冒険者のルシアスは無能なのでPTを追放されてしまう。  彼は冒険者を引退しようか悩む。  そんな時、ルシアスは道端に落ちていた謎のアイテム拾った。  これがとんでもない能力を秘めたチートアイテムだったため、彼の人生は一変することになる。  これは、別の世界に存在するアイテム(アサルトライフル、洗濯乾燥機、DVDなど)に感動し、駆使しながら成り上がる青年の物語。  努力だけでは届かぬ絶対的な才能の差を、チートアイテムで覆す!

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...