底辺採集職の俺、ダンジョンブレイク工業はじめました!~本ダンジョンはすでに攻略済みです。勇者様、今さら来られても遅いのでお引き取りを!~

日奈 うさぎ

文字の大きさ
上 下
136 / 148
第十一章 最終決戦編

第136話 改造死者、出現

しおりを挟む
 異世界人も俺達となんら変わらないただの人間なのだと感じていた。
 たった二日だが、ミラと接した事でそう思えたのだ。

 だから今ではこうも思う。
 いつか落ち着いたら本気で元の世界に帰る手段を探してあげたいと。
 だってそれが呼び込んだこの世界の人間の義務でもあるだろう?

 だが今、俺はその意義を見失いそうになっている。

 それは目の前に立つカナメという男があまりにも人間らしくないから。
 ミラと比べ、とてもじゃないが人の生気を感じないのである。

 一歩を踏み出してくる姿はまるで機械のよう。
 がくり、がくりと不自然に腕脚を動かし、亀よりも遅い速度で進んでくる。
 それにまたたき一つしない無表情の顔に、途切れ途切れの言葉。

 ……これはもはやゾンビだ。
 噂に聞く、蘇った死体リビングデッド。

「おのれ、面妖なッ!」
「かくなる上は四肢を断つのみッ!」
「ま、待って――」

 そんなカナメすら心配するミラを他所に、ベゼールとディオットが突撃する。
 双剣使いと斧使い、二人の剛柔のコンビネーションがカナメを切り裂いた。

 ……切り裂いた、はずだった。

「な、なにいッ!?」
「や、刃が、通らんッ!?」

 二人ともたしかに武器を振り切っていたのだ。
 それに合わせてカナメの体も歪んでいたのに。

 今はすでに何事もなかったように立っている。
 切り裂かれた場所の皮が裂け、赤い筋を見せながらに。

 しかもカナメはあろう事か、次の瞬間には二人の首を掴んでいて。

「お、おおおお――」
「ぐあああああ!!?」

 床へと、一墜。
 二人揃って白床へと打ち付けられる。

 いや、それどころじゃなかった。
 途端に床に亀裂が走り、割れ、隆起し、破片が空高くに舞い上がったのだ。
 二人をなお地面へと潰さんばかりに押し付けながら。

 恐るべきパワーだ……!
 鈍い動きからは想像もできないほどに圧倒的な!

 そのせいでもうベゼールとディオットは微動だにもしていない。
 あんな力で押し付けられてしまえば、いくらA級勇者だって耐えるのは不可能だ。

 なにせ道中、床や壁だけは彼らでは傷付ける事さえ叶わなかった。
 それほどまでに硬い床を、あのカナメは拳を押し付けただけで破砕したのだから。

「あ、あれはまさか……改造屍者エグザデッダーかあッ!?」

 そのような恐るべき存在を前にディマーユさんもが狼狽える。
 いや、この狼狽え方は何かを知っているようだが?

「なんですかい、そのエグザデッダーってのは!?」
「平たく言えば、エリクスやラクシュの先輩だ……!」
「ちょっ、待ってくださいよディマーユ様!? その説明は語弊がありますってぇ!」

 な、なんだ違うのか!?
 何となく言いたい意味はわかったんだが!?

「つまりはエリクスやラクシュを改造した技術は、あのエグザデッダーを造った技術を応用・発展させたものなのだよ……!」
「おいおい、マジかよっ!?」
「だがあれは外道だ! 死体を改造し、疑似魂魄を注入し、残留思念をコントロールして自動的に動かす。もはや人間とは言えない者へと至る改造なのだ!」

 それを知っているという事は、それはディマーユさんがゲールトにいた時代からあった技術なのだろう。
 それでもなおこうして狼狽えてしまうほどに惨忍で冷酷で非道な所業……!

「それじゃあつまり……」
「あのカナメという男はもう、死んでいるッ!!!」
「「「ッ!?」」」
「そ、そんな……カナメ……」

 そんな改造を受けてゾンビと化したカナメがゆっくり、ゆっくりと歩み寄ってくる。
 もはやまともな歩き方でさえできない、ただ殺すためだけの機械として。

「おのれゲールトめ……! あの技術は非人道的であるがゆえに、当時の我でさえ提言して辞めさせる程だったのだ! しかしその時の技術を独自に昇華させ、エリクスやラクシュのような改造人間が生まれたのも事実!」
「でも二人はちゃんと生きてるぜ!」
「そうだとも! 命ゆえに我とて尊厳は守る! だが奴らはもはや人間を人間として見てはいない! 改造されたあの様子は四千年も昔と同じままで、一切の改善も見られぬのだからッ!!!」

 クソが……ッ!
 そんなカビの生えたような技術を今さら使うのかよ……!
 これも俺達を動揺させるための罠だって事かぁ!?

 ――逆効果だぜッ!!!
 こんな事をする奴らは、絶対に生かして置いちゃいけねぇーーーッ!!!!!

「こうなったらアタシがカナメを止めて――」
「いいや待て、ここはワシらに任せよ」
「オプライエン!?」

 だがそういきり立つ俺達をあのオプライエンさんが制する。
 一歩前に立ち、腕を広げて遮ったのだ。

「オプライエンさぁん、ワシらってそれさぁ、卿も入ってるでしょ?」
「きっとオラもなんですねーっ!」
「無論だ。それに貴公にとっても奴は因縁深い相手ではないかな?」
「……そうですね。ではそれはわたくしめにも言える事でしょう」

 そしてさらに三人が一歩を踏み出し、オプライエンさんに並ぶ。
 エリクス、クリン、そしてラクシュもが。

「ディマーユ様、ラング殿! あなた方は先に行かれい! 我らがこやつの足止めをしてみせようぞ!」
「だがそれでは!?」
「みなまで言うてくれるな主よ。これこそ我が天命としたり!」
「まったく、卿まで天命とやらに巻き込んでよくそこまで咆えられるねぇ!」

 ……オプライエンさん達は俺達の盾になろうとしているのだ。
 ミラの実力も知り、己の非力さも理解したからこそ。

 ゲールトとの戦いでそのミラを外す訳にはいかないのだと考えて。

「ミラ殿」
「え?」
「ああなった以上、もはや奴は人間とは呼べませぬ」
「そ、それは……」
「しかし貴女が気に病む事はありませぬよ。あの者は、こうなる運命だったのです」

 その時、空気が揺れ動く。
 しかもその拍子にオプライエンさんの姿がフッと消えていて。

 そんな彼はすでにカナメの背後へと立っていた。

「その惰弱な運命に貴女が付き合う必要はございませぬッ!!! 然らば、胸を張って先に進まれよ! それこそがこの者にできうる最上の報いとなりましょうぞおッ!!!!!」
「ッ!!?」

 オプライエンが叫び、剣を瞬時に幾重も奮う。
 するとたちまちカナメの肌が裂け、皮が散り、赤く筋張った本体が露わに。

 それはまるで筋肉のようで、でも何かが違う。
 
 まるでミミズの集合体のようだった。
 それだけ筋が個々でグロテスクに脈動していたのだ。
 その筋一本一本も普通の人間と比べてずっと太い。

 あれはそもそもが人間の構造じゃない!
 エグザデッダー、これが根本から改造されて成れ果てた化け物の正体か!

「ま、そういう事だから」
「エリクス、お前は……!?」
「ディマーユ様、ラング君、そして他の皆さん、生きていたらまた会いましょう。その時はぜひとも卿を褒め称えてくれたまえよ」

 でもエリクスもクリンもラクシュも、そんな化け物相手にひるまず突っ込んでいく。
 動きが鈍いからこそ攻撃して離れ、隙を突いていて。

「……ラング、みんな、先へ行くぞ。彼等の意志を無駄にしないためにも」
「インベントリ送りにはさすがにできませんかね」
「無理だろうな。元の肉体はカナメのものだからこそ」
「ああそうかい……ったく、不甲斐ねぇよなあっ!」

 でももう俺にできる事はない。
 スキルキャンセラーがある以上、俺なんざ何の役にも立ちはしねぇんだ!

 ゆえに俺は走るしかなかったのだ。
 カナメの向こうにあった次の部屋へと向けて。
 もちろん続いてディマーユさん達の足音も聴こえてくるから、きっとこれでいいんだろうよ。

 だけど俺は、どうにもこのまま突っ切りたいとは思えなかった。
 せめて俺がやれる事を何か、なんでもいい、あいつらに残したくて。

「……お前らあッッッ!!!!!」
「「「――ッ!!?」」」

 だから俺は夢中で叫んでいた。

「生きて帰ったらッ! 俺が家族と一緒に手料理を振舞ってやるからあッ……」
「ラング君……」
「一緒に帰るぞおッ!!!!! 約束しやがれえええッッッ!!!!!」

 そうして叫び終えてすぐ、振り返るのだ。
 彼等との返事を、約束を結ぶために。

 四人が腕を高く伸ばして示すサムズアップを見届ける事によって。



 その姿を視界に収めたのを契機に、俺達はすぐに次の部屋への通路へ。
 直後には戦う音が聴こえたが、それもすぐに聴こえなくなってしまった。 

 でもあいつらなら大丈夫だろう。
 なんたって約束を反故にしない、頼れる、できた仲間達なのだから。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

千技の魔剣士 器用貧乏と蔑まれた少年はスキルを千個覚えて無双する

大豆茶
ファンタジー
とある男爵家にて、神童と呼ばれる少年がいた。 少年の名はユーリ・グランマード。 剣の強さを信条とするグランマード家において、ユーリは常人なら十年はかかる【剣術】のスキルレベルを、わずか三ヶ月、しかも若干六歳という若さで『レベル3』まで上げてみせた。 先に修練を始めていた兄をあっという間に超え、父ミゲルから大きな期待を寄せられるが、ある日に転機が訪れる。 生まれ持つ【加護】を明らかにする儀式を受けたユーリが持っていたのは、【器用貧乏】という、極めて珍しい加護だった。 その効果は、スキルの習得・成長に大幅なプラス補正がかかるというもの。 しかし、その代わりにスキルレベルの最大値が『レベル3』になってしまうというデメリットがあった。 ユーリの加護の正体を知ったミゲルは、大きな期待から一転、失望する。何故ならば、ユーリの剣は既に成長限界を向かえていたことが判明したからだ。 有力な騎士を排出することで地位を保ってきたグランマード家において、ユーリの加護は無価値だった。 【剣術】スキルレベル3というのは、剣を生業とする者にとっては、せいぜい平均値がいいところ。王都の騎士団に入るための最低条件すら満たしていない。 そんなユーリを疎んだミゲルは、ユーリが妾の子だったこともあり、軟禁生活の後に家から追放する。 ふらふらの状態で追放されたユーリは、食料を求めて森の中へ入る。 そこで出会ったのは、自らを魔女と名乗る妙齢の女性だった。 魔女に命を救われたユーリは、彼女の『実験』の手伝いをすることを決断する。 その内容が、想像を絶するものだとは知らずに――

治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐
ファンタジー
小さな村にある小さな丘の上に住む治癒術師 そんな彼が出会った一人の女性 日々を平穏に暮らしていたい彼の生活に起こる変化の物語。 小説家になろう様、カクヨム様、ノベルピア様へも投稿しています。 表紙画像はAIで作成した主人公です。 キャラクターイラストも、執筆用のイメージを作る為にAIで作成しています。 更新頻度:月、水、金更新予定、投稿までの間に『箱庭幻想譚』と『氷翼の天使』及び、【魔王様のやり直し】を読んで頂けると嬉しいです。

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

神による異世界転生〜転生した私の異世界ライフ〜

シュガーコクーン
ファンタジー
 女神のうっかりで死んでしまったOLが一人。そのOLは、女神によって幼女に戻って異世界転生させてもらうことに。  その幼女の新たな名前はリティア。リティアの繰り広げる異世界ファンタジーが今始まる!  「こんな話をいれて欲しい!」そんな要望も是非下さい!出来る限り書きたいと思います。  素人のつたない作品ですが、よければリティアの異世界ライフをお楽しみ下さい╰(*´︶`*)╯ 旧題「神による異世界転生〜転生幼女の異世界ライフ〜」  現在、小説家になろうでこの作品のリメイクを連載しています!そちらも是非覗いてみてください。

劣等冒険者の成り上がり無双~現代アイテムで世界を極める~

絢乃
ファンタジー
 F級冒険者のルシアスは無能なのでPTを追放されてしまう。  彼は冒険者を引退しようか悩む。  そんな時、ルシアスは道端に落ちていた謎のアイテム拾った。  これがとんでもない能力を秘めたチートアイテムだったため、彼の人生は一変することになる。  これは、別の世界に存在するアイテム(アサルトライフル、洗濯乾燥機、DVDなど)に感動し、駆使しながら成り上がる青年の物語。  努力だけでは届かぬ絶対的な才能の差を、チートアイテムで覆す!

ボッチになった僕がうっかり寄り道してダンジョンに入った結果

安佐ゆう
ファンタジー
第一の人生で心残りがあった者は、異世界に転生して未練を解消する。 そこは「第二の人生」と呼ばれる世界。 煩わしい人間関係から遠ざかり、のんびり過ごしたいと願う少年コイル。 学校を卒業したのち、とりあえず幼馴染たちとパーティーを組んで冒険者になる。だが、コイルのもつギフトが原因で、幼馴染たちのパーティーから追い出されてしまう。 ボッチになったコイルだったが、これ幸いと本来の目的「のんびり自給自足」を果たすため、町を出るのだった。 ロバのポックルとのんびり二人旅。ゴールと決めた森の傍まで来て、何気なくフラっとダンジョンに立ち寄った。そこでコイルを待つ運命は…… 基本的には、ほのぼのです。 設定を間違えなければ、毎日12時、18時、22時に更新の予定です。

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

処理中です...