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第十一章 最終決戦編

第129話 ディマーユの存在がバレた!?

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 リブレー改めキスティ=リブレットの復活と異世界人ミラの保護に成功した。
 あとはこのやたら黒い空間からの脱出を果たせばいい。

 ただ、それほど難しい話ではなさそうだ。
 ウーティリスが少し頭を悩ませると、すぐにニヤリとした笑みを見せてくれたから。

「ここはおそらく、ダンジョンなのら」
「これがか!? まるで黒曜石の迷路に見えるが……」
「うむ。これはおそらくゲールトがダンジョンの仕組みを利用して造った疑似ダンジョンなのであろう。しかも外の空間と完全に切り離されておる」
「じゃあ脱出できないのか?」
「いいや、脱出地点はある。そしてダンジョンであればわらわが出口へと導く事も容易なのら」
「おお! じゃあさっそくよろしく頼むぜ!」
「任せよっ!」

 するとウーティリスが元気いっぱいに両手を上げて伸ばす。
 なので俺はその腰をがしりと掴み、持ち上げて肩車してやった。

 そうして案内されるままに自在屈掘によって穴を開き、出口の道を構築。
 辿り着いた先でさっそくとミラが声を上げた。

「あっ、ここ知ってる!」
「おおっ?」
「ここの壁を抜ければ街に出られたの! ついてきて!」

 どうやらここにいただけに、出口の事はよくわかっていたらしい。
 率先してミラが黒壁へと乗り込み、ズブズブと沈んでいく。

 そこで俺達も続いて壁へと潜り込んでみたのだが。

「こ、ここは……ザトロイだとおっ!?」

 なんと出た場所はザトロイと思しき街の裏路地。
 見た事のある建築模様と構造から俺はすぐに気付く事ができた。

「むむっ、まさか灯台下暗しとはよくいったものよ……しかしここはどこなのら?」
「ここはおそらく上流階級が好んで住む一等地だろうよ。下町と比べて人の往来がほぼなくて静かだからな」

 まさかゲールトの施設がこのザトロイにあるとはな。
 しかも一等地になんて随分とお行儀のいいこった!

 それで通りに出て見れば予想通り。
 政庁の存在する上等区中央広場に出やがった。

「なら本部まで歩いて二〇分くらいだな」
「それなりに近くて助かったのよさ。歩いて帰るなんてキスティほんとは嫌だけど」
「そんくらい我慢しろい。それとウーティリス、ニルナナカ辺りに念を送れるか? 本部で一旦合流するよう伝えて欲しい」
「うむ、そう思ってすでに送ってある。それにディマーユの事ら、もう帰還の手はずを取っていてもおかしくはない」
「だったら急いで帰るぞ。このままのんびりしてる余裕はないかもしれねぇからな」
「ちょっとちょっとぉ! キスティ様に走れってゆーのぉ!?」
「アタシが手を繋いであげるから、ね? いそごっ!」
「もぉ~~~! 神が走るとかありえなぁーい!」

 キスティがうるさいがこのさい無視だ無視!
 服装がグッチャグチャで周りからの視線も気になるが、これも気にしてられん。

 我儘神をミラに任せ、ともかくできるだけ急いで本部へ向かう。
 そのミラも途中で息切れしてしまっていたが、おかげですぐに着く事ができた。

「誰かいるかーっ!?」
「おお、ラングか。随分と早かったじゃないか」
「おっ、さすがだな、もう戻っていたか!」

 そうしたら案の定、すでにディマーユさん達が帰還を果たしていた。
 おそらくは緊急事態に備えてポータル転送したのだろう。

 しかも驚くべき事になんとダンタネルヴまでいる。
 それにナーシェちゃんも含め、しっかり集まってくれているから丁度いい。
 人間嫌いの鍛冶神にも事情を聞き留めてもらうとしようか。

「なら疲れている所で悪いが、みんな聞いてくれ!」
「見ない顔と異世界人も一緒だし、どうやら転移先でただならぬ事が起きたようだな」
「お前の小汚い顔なんぞキスティは見飽きるくらい見てやったのよさ」
「……事情は少し察したよ」

 ディマーユさんの溜息が大きく吐かれる中でもかまわず、俺は事情を話し始めた。
 追跡転移先がゲールトの秘密施設だった事。
 ミラという異世界人を危機一髪、救出に成功した事。
 ギトスは死んだが、死体がもう一人の異世界人カナメごと消えてなくなった事。
 ギトスに飼われていた元A級勇者のキスティにリブレーが神偲転生した事。
 そしてゲールト秘密施設がこの街の一等区に存在していた事。

 俺にとっちゃあっという間の出来事に感じていたが、いざ実際に語ってみると意外に長くなったものだ。
 おかげでウーティリス達の証言も含めて語り続けたら、気付けば一時間ほどが過ぎていた。

「……なるほどな。結果的にリブレー復活は幸いだったが、状況としては最悪だな」
「なぜそう思うディマーユよ?」
「おそらくだが、ゲールト施設は奴らが監視できるよう細工されているはず。つまりその施設内で起きた事はゲールトの奴らに筒抜けだろう」
「むむ……という事はわらわの事もすでにバレたと思ってよいだろうな」
「それはおそらくすでに目星がついていたはず。例のペンダントを利用して転移を行ってきた時点である程度は予想していたのだろう。しかし問題はそこではない」

 話し終えた時からディマーユさんの表情が険しい。
 色々と思考を巡らせているからだとは思うが、視線が常に泳ぐくらいだ。

 それほどまでの問題とは……?

「問題は、ギトスの死体が奪われた事だ」
「えっ、奴の死体が何かあるのか?」
「実はな、ゲールト工作員には当人の知らぬ間に脳へと記憶保存デバイスが埋め込まれてしまっているのだ」
「記憶保存でばいす……?」
「ほほぉ、聞くになかなかの非道っぷりではないか、そのゲールトとやらは」
「ダンタネルヴにはそれが何かわかるのか?」
「ああ。つまり見た記憶、聞いた記憶、想像や妄想をすべて記録し、明確に保存されるようにするアレだな。しかも本人の意思に関係無く」
「ってことは……!?」
「そうだ。だとすれば我の正体が奴らにバレた可能性が多いに有り得る」
「ううっ!?」
「そしてエルモニアン砂漠で活動していた時点で、このザトロイを拠点にしている事も必然的に繋がってくるのだ」

 そうか! そういう事か……!

 エルモニアン砂漠は実は山や海に囲まれた干ばつ地帯。
 そこに容易にアクセスできるのはこのザトロイだけで、他は山を越えなければ来れないほどに道が険しい。
 だからさらに環境の厳しい砂漠で活動するならばザトロイとの繋がりは必須となるのだ。

 しかもディマーユさんがいたとわかれば、リミュネール商会の存在感も芋づる式に引っ張り上げられる。
 となれば、ゲールトは間違い無くこの街にリミュネール商会の施設があると疑うだろう。

 それも、会長自らが隠れ家とする本部だと確信して。

 参ったぜコイツは。
 このまま悠長にしてもいられないかもしれん……!
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