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第十章 成長へと至る人の心編
第124話 真実を知れ、ギトス
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間一髪だった。
危うく異世界転移者の臓物をぶちまけさせる所だったぜ……!
ギトスの野郎め、残虐性が極まってやがる!
だがおかげで急いだ事が無駄にならずに済んだ。
俺を転送させてくれたウーティリスには後で感謝せにゃなあ!
『そんな事はどうでもよい! 今はそなただけでこの状況を覆す事だけを考えよ!』
おっとそうだった。
俺と対峙しているのは明らかに格上なギトスちゃんなのを忘れる所だったぜ。
そんくらい力が弱いもんでよぉ……!
「うらあああッ!!!」
「ちいいッ!?」
ゆえに力の限りにマトックを振り上げ、受け止めていた奴の短剣を跳ね返す。
すると奴もその力に押され負け、跳ね上げられた剣と共にヨタヨタと下がっていった。
どうやらディマーユさんにやられた傷が完全に癒えた訳じゃないらしい。
それに勇者の力もまともに引き出せていないようだ。
なら今の俺でもどうにかなるかもしれん。
だったらいっそ、昔からの因縁をここで断つ。
それが奴を放置し過ぎていた俺による、せめてもの罪滅ぼしだッ!!!
「ギトス、てめぇはやり過ぎた。勇者として暴虐を重ねるだけならまだしも、ゲールトのような秘密組織に身をやつしたなんざなぁ……!」
「な、なにぃ!?」
「奴らの存在はギルドを通して人々を抑え付けるためだけじゃねぇ。世界文明の後退化も促してやがる! だとしたらそれに加担するてめぇはもう、この世界の敵だぜッ!」
どうせ奴は何も知らないんだろう。
けどな、だからと今までやって来た事をチャラにできる訳なんざねぇ!
その激情のままに踏み出し、駆け抜けて奴へとマトックを振り下ろす。
「くうっ!? 貴様ごとき反逆者が何を知るものかっ!?」
「知ってるよォ! 古代から今に至るまで全部なぁーーーッ!!!」
それも後ろへ跳ねられて逃げられたが、動きは鈍いまま。
だからと勢いを留めず、力の限りにマトックを振り回す。
「うぐっ!? この、雑魚の分際で僕にっ!?」
その一撃が奴の胸の皮一枚を裂き、僅かに血飛沫が舞った。
「だが隙だらけなんだよ素人があああっ!」
ただ俺の大振りでの振り上げの隙を突き、奴が懐へと飛び込んでくる。
短剣を逆手に持ち、腹を切り裂こうという魂胆らしい。
――だがそんな奴の方の腹に、逆に俺の拳がめりこんでいた。
「おっげえ……っ!?」
コイツ……まったくもって成長していない。
俺は師匠の教えのままにカウンターを繰り出しただけなのに。
これじゃあ組手の頃となんら変わりゃしねぇ……!
よって俺は打ち込んだ拳をただ力の限りに振り上げていた。
そうなれば当然、奴の体が力に押し負け「く」の字に折れ曲がる。
それどころか情け容赦なく振り切れば、奴の身体は叩きあげられていて。
「げっふぁ!?」
壁に叩きつけられ、ついには尻餅を突く。
情けない姿だ。修行の時よりもずっと無様で。
「く、くそ、ダメージが残っていなければ貴様なんぞに……!」
「言い訳苦しいな。そうやってまた勝つまで戯言ほざくつもりかお前は」
「――ッ!?」
思えば、昔からこうだった。
ギトスは何かにつけて言い訳ばかり言ってきたものだ。
その度に何度も組手を繰り返し、勝つか気絶するまで諦めようとしない。
最初はそれだけの根性と気迫があったからだと思っていた。
それだけ負けず嫌いで、強くなる気概があるのだと思っていた。
でもそれは違ったんだ。
こいつにとって過程はどうでもいい。
自分が正しければ何したっていい。
その意思が通じない邪魔者は排除する。
ただそれだけなんだってな。
仲間であるはずの異世界人を手にかけようとしていたのがその証拠だ。
「あ、あ……まさか、まさかお前……!?」
ん、なんだ?
目を震わせてこっちを見やがって?
「お前……ラングなのかっ!?」
……どうやら俺の正体にやぁーっと気が付いたらしい。
ま、コイツには今さら隠す事なんてないかなって思っていたけどな。
「ああ、その通りだ。今さら過ぎんぜギトスよぉ……!」
「なんで、なんでお前がダンジョンブレイカーをやって――はっ、まさか!?」
「……」
「まさかお前、師匠とずっと一緒で!? あの方とずっと、ずっとグルだったのか!?」
「……ああ、そうだよ。お前だけが知らなかったんだ。お前だけがずっと横暴な事を勇者の役目だと勘違いして、愛しい師匠だと思い違いして、ずっとあの人の敵として動いていたって事なんだよ……!」
「あ、ああ……!?」
それでもずっと勘違いしたまま田舎でのうのうとしていればまだよかった。
だけどゲールトなんてもんに関わっちまった以上、もう加減なんざいらんよな。
今こいつに必要なのは、自分自身の過ちを知るって事なんだからよ。
「お前は何も師匠から学んじゃいなかった! 人を愛する事も、救う事も、守る事もなにもできちゃいない! お前は最初からずっと独りよがりで自慰ってきただけに過ぎねぇんだ! それはつまり、お前には今まで自分を愛する事しか出来てねぇって事だなんだよおッ!!!!!」
そう、こいつは究極の自己愛の権化だったんだ。
鈍い俺でもようやくそう気付かされた。
そんな奴にとって、今が最低で最悪な状況だろうよ。
その事実を、最も忌み嫌っていた俺に伝えられた訳だからな。
「ああ、あぁああぁぁあああーーーーーーーッッッ!?!?!?」
この事実にはギトスもショックを免れなかったようだ。
顔をこの世のものとは思えんくらいに歪めて、これでもかってくらいに頭を抱えてやがる。
救われんぜ、まったくよ。
少なくとも、この場にいる誰しもが奴の仲間じゃねぇんだからな。
まともに生きてりゃ、ここまで盛大に堕ちはしないだろうに。
危うく異世界転移者の臓物をぶちまけさせる所だったぜ……!
ギトスの野郎め、残虐性が極まってやがる!
だがおかげで急いだ事が無駄にならずに済んだ。
俺を転送させてくれたウーティリスには後で感謝せにゃなあ!
『そんな事はどうでもよい! 今はそなただけでこの状況を覆す事だけを考えよ!』
おっとそうだった。
俺と対峙しているのは明らかに格上なギトスちゃんなのを忘れる所だったぜ。
そんくらい力が弱いもんでよぉ……!
「うらあああッ!!!」
「ちいいッ!?」
ゆえに力の限りにマトックを振り上げ、受け止めていた奴の短剣を跳ね返す。
すると奴もその力に押され負け、跳ね上げられた剣と共にヨタヨタと下がっていった。
どうやらディマーユさんにやられた傷が完全に癒えた訳じゃないらしい。
それに勇者の力もまともに引き出せていないようだ。
なら今の俺でもどうにかなるかもしれん。
だったらいっそ、昔からの因縁をここで断つ。
それが奴を放置し過ぎていた俺による、せめてもの罪滅ぼしだッ!!!
「ギトス、てめぇはやり過ぎた。勇者として暴虐を重ねるだけならまだしも、ゲールトのような秘密組織に身をやつしたなんざなぁ……!」
「な、なにぃ!?」
「奴らの存在はギルドを通して人々を抑え付けるためだけじゃねぇ。世界文明の後退化も促してやがる! だとしたらそれに加担するてめぇはもう、この世界の敵だぜッ!」
どうせ奴は何も知らないんだろう。
けどな、だからと今までやって来た事をチャラにできる訳なんざねぇ!
その激情のままに踏み出し、駆け抜けて奴へとマトックを振り下ろす。
「くうっ!? 貴様ごとき反逆者が何を知るものかっ!?」
「知ってるよォ! 古代から今に至るまで全部なぁーーーッ!!!」
それも後ろへ跳ねられて逃げられたが、動きは鈍いまま。
だからと勢いを留めず、力の限りにマトックを振り回す。
「うぐっ!? この、雑魚の分際で僕にっ!?」
その一撃が奴の胸の皮一枚を裂き、僅かに血飛沫が舞った。
「だが隙だらけなんだよ素人があああっ!」
ただ俺の大振りでの振り上げの隙を突き、奴が懐へと飛び込んでくる。
短剣を逆手に持ち、腹を切り裂こうという魂胆らしい。
――だがそんな奴の方の腹に、逆に俺の拳がめりこんでいた。
「おっげえ……っ!?」
コイツ……まったくもって成長していない。
俺は師匠の教えのままにカウンターを繰り出しただけなのに。
これじゃあ組手の頃となんら変わりゃしねぇ……!
よって俺は打ち込んだ拳をただ力の限りに振り上げていた。
そうなれば当然、奴の体が力に押し負け「く」の字に折れ曲がる。
それどころか情け容赦なく振り切れば、奴の身体は叩きあげられていて。
「げっふぁ!?」
壁に叩きつけられ、ついには尻餅を突く。
情けない姿だ。修行の時よりもずっと無様で。
「く、くそ、ダメージが残っていなければ貴様なんぞに……!」
「言い訳苦しいな。そうやってまた勝つまで戯言ほざくつもりかお前は」
「――ッ!?」
思えば、昔からこうだった。
ギトスは何かにつけて言い訳ばかり言ってきたものだ。
その度に何度も組手を繰り返し、勝つか気絶するまで諦めようとしない。
最初はそれだけの根性と気迫があったからだと思っていた。
それだけ負けず嫌いで、強くなる気概があるのだと思っていた。
でもそれは違ったんだ。
こいつにとって過程はどうでもいい。
自分が正しければ何したっていい。
その意思が通じない邪魔者は排除する。
ただそれだけなんだってな。
仲間であるはずの異世界人を手にかけようとしていたのがその証拠だ。
「あ、あ……まさか、まさかお前……!?」
ん、なんだ?
目を震わせてこっちを見やがって?
「お前……ラングなのかっ!?」
……どうやら俺の正体にやぁーっと気が付いたらしい。
ま、コイツには今さら隠す事なんてないかなって思っていたけどな。
「ああ、その通りだ。今さら過ぎんぜギトスよぉ……!」
「なんで、なんでお前がダンジョンブレイカーをやって――はっ、まさか!?」
「……」
「まさかお前、師匠とずっと一緒で!? あの方とずっと、ずっとグルだったのか!?」
「……ああ、そうだよ。お前だけが知らなかったんだ。お前だけがずっと横暴な事を勇者の役目だと勘違いして、愛しい師匠だと思い違いして、ずっとあの人の敵として動いていたって事なんだよ……!」
「あ、ああ……!?」
それでもずっと勘違いしたまま田舎でのうのうとしていればまだよかった。
だけどゲールトなんてもんに関わっちまった以上、もう加減なんざいらんよな。
今こいつに必要なのは、自分自身の過ちを知るって事なんだからよ。
「お前は何も師匠から学んじゃいなかった! 人を愛する事も、救う事も、守る事もなにもできちゃいない! お前は最初からずっと独りよがりで自慰ってきただけに過ぎねぇんだ! それはつまり、お前には今まで自分を愛する事しか出来てねぇって事だなんだよおッ!!!!!」
そう、こいつは究極の自己愛の権化だったんだ。
鈍い俺でもようやくそう気付かされた。
そんな奴にとって、今が最低で最悪な状況だろうよ。
その事実を、最も忌み嫌っていた俺に伝えられた訳だからな。
「ああ、あぁああぁぁあああーーーーーーーッッッ!?!?!?」
この事実にはギトスもショックを免れなかったようだ。
顔をこの世のものとは思えんくらいに歪めて、これでもかってくらいに頭を抱えてやがる。
救われんぜ、まったくよ。
少なくとも、この場にいる誰しもが奴の仲間じゃねぇんだからな。
まともに生きてりゃ、ここまで盛大に堕ちはしないだろうに。
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