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第十章 成長へと至る人の心編

第122話 究極なまでにストイッカー(チェルト視点)

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「言っとくけどオレ、結構強いよ?」
「口だけの男ほど滑稽なものはないわね」

 こんな言葉を交わしてから実際に何度も剣を合わせてみた。
 攻撃もかわし、隙を狙って何度も斬りつけてやった。

 なのに一発も当たる気配が無い……!

 この男、間違いなく別格に強いわ!
 おじいちゃんだって勝てるかどうかもわからないくらいに!

 まだ子どもみたいな面構えなのに、なんでっ!?

「――やっぱオレってさぁ、選ばれし者みたいなんだよね」
「くっ!?」

 そんな動揺の隙を突かれ、奴の剣が私を打つ。
 かろうじて剣の腹で防げたけれど、大きく弾き飛ばされてしまった。

 それでもうまく空中で体勢を整え、軽快に地面を足蹴にし、跳ねながらに着地を果たす。
 続いて深く腰を落とし、切っ先を相手に向けて力を溜めた。

 ……大丈夫、奴の動きは見えなくもない。
 ただ、私の反応速度に対して肉体動作が追い付けていないだけ。
 奴はそんな私以上の能力で迫っているだけに過ぎない!

 自分を信じろ、動揺するな!
 ラクシュの方を心配している余裕は無いわッ!

「お前達の悪事の事は聞いたよ!」
「――ッ!?」

 しかし今度は奴の攻勢が始まった。
 たった二歩という高速移動で一気に距離を詰めてきたのだ。

 そしてすかさずの二閃斬撃。

「世界の秩序をブッ壊して迷惑かけてるってさあっ!」

 でもそれを後ろに飛び跳ね、体をひねって髪一重でかわす。
 あまりにもギリギリ過ぎて髪が一部刎ねてしまった。

 けれどその瞬間を狙い、奴の剣腹を蹴りつけ弾く。
 さらにはその勢いを利用して飛び上がり、奴の顔目掛けて剣を振り切ってやった。

 ただそれは顔を引かれた事でかわされてしまったが。
 あっちも髪一重、皮一枚切る事も叶わなかった。

 そうしてくるりと宙で回り、地上へ降り立つ。
 続けて攻勢にさせないよう剣の切っ先を奴へと向けながらに。

「やるじゃんか……!」
「……」
「主人公のオレをここまで苦戦させるなんてさ、もしかして最大のライバル出現ってやつ?」
 
 相手の言う事にもう興味はない。
 あきらかに主観でしか物事を語っていない以上、耳を貸す必要すらないわ。

 敵なら斬る。
 戦いである以上、余計な外的感情は必要ない。
 それがおじいちゃんから教わった戦闘の鉄則なのだから。

「でもさ、オレも負けられないんだよね。さっさとチート無双コースに入って負け無しの英雄になりたいからさ」
「……」
「それとももしかして、これに勝ったら君もハーレム仲間に入っちゃうとかそういうオチだったりしてな!」

 ゆえに私は今、駆け抜けていた。
 自分の力を信じ、装備の力を信じ、それが奴を倒す鍵になるのだとして。

「――ッ!?」

 まずは得意げに語る奴の目へと向けて刃で突く。
 しかしこれはフェイント。恐怖心をあおり、姿勢を崩すための先手に過ぎない。

 結果やはり怯んだ!
 読み通りコイツ経験が乏しい!

「こいつっ!? 人の話を遮ってえっ!?」 

 さらに突いた刃を寸止めし、直後に水平一閃。
 斬影で奴の視界を塞ぎ、追撃のトゥーキックを腹へとかます。

「うっげえっ!?」

 ま だ だあッ!

 ゆえにこの時、私は振り抜いていた剣を空中で軌道修正。
 瞬時にして体ごと捻らせ、振り回し、剣の慣性だけで跳ね上がる。
 
 そうして地に足も付けないまま、空高く剣を振り掲げていたのだ。

「うあああーーーーーーっ!!!??」

 そのまま振り降ろされた一撃は私が知る限りでも最高に重く鋭かった。
 奴が剣を掲げて防ごうともへし折り、肩鎧を削ぎ取り、吹き飛ばすほどに。

 そして大地へ深々と斬撃痕が刻み込まれるまでに。

「ぐっ、クソッ!? なんなんだあの力はっ!? オレの剣が折られるなんてありえない!」

 そうね、あなたの剣も質は相当だった。
 おそらくは上級というよりも超級寄りの武具なんだと思う。

 だけど使い手が未熟すぎるのよ……ッ!

 たしかに強い。速い。
 けれど甘い。温い。
 戦いへの執念と、死線を潜る覚悟がまるで見えない。
 技術も、意識も、その有り余る力の扱い方さえもまるで素人そのもの。

 だから私ごときにへし折られたのよ。
 その程度の使い手では武器の方が泣くわ。

「おかしいだろっ!? オレが主人公のハズなのに! こんな所で苦戦するハズなんてないじゃないかあっ!」

 それに私のこの剣の相性も良いというのもある。

 私の武器、裂空剣ディオスマイザは非常に軽く扱いやすいもの。
 それに加え、意図した方向へと慣性力を乗せられる特殊能力を持つ。

 その能力を駆使すれば、通常以上の斬撃スピードを体現する事も可能!

 よって強度的に有利だった奴の剣をもへし折る事ができた。
 ちょっと剣に無理させ過ぎちゃった感も否めないけれど。

 でもこの障害を殺すくらいなら強度的にも充分でしょう。

「わかった、これは負けイベントだ! そうなんだろ!? お、おい、そんな殺意向けてくんなってぇ!?」

 また意味のわからない事を。
 あなたはもう首を刎ねられるしかないのに。
 それこそがブレイクナイトという役割を得た私の使命なれば。

 私はラングのように慈悲深くはないのだからッ!

「うわあああああ!!?」

 その心の叫びのままに私は飛び出し、奴へと切っ先を向けた。
 逃げ出そうとも関係無い、追い付いて殺すだけ。

 そんな想いのままに私は剣を振り被るのだ。
 すべては、ラングの脅威を取り払うためにと。

「どぉ~~~~~~ん!!!!!」
「ぶっげえええええ!!!??」
「えっ!?」

 けれどその瞬間、奴は地面へと叩き潰されていた。
 瞬時にして空から落ちてきたニルナナカの鉄拳で、情け容赦なく。

 それで思わず立ち止まってみたのだけど。

「滅殺! 滅殺! 滅殺れすう~~~~~~!」
「ギャッ!? ウゲッ!? ギエッ!?」
「う、うわぁ……」

 もう開幕から一方的だ。
 ニルナナカが奴に馬乗りとなって、間髪入れず連拳をぶち込んでいて。

 奴の方ももうされるがまま。
 顔ももう元の形なんて見る影もないくらいにグッチャグチャだー。うわぁ……。

 っていうか、ニルナナカどこからやってきたのーーー!?

「悪い子は滅殺れすぅ~~~! 浄化れすぅ~~~! 除菌れすぅ~~~!」
「ギッ!? グエッ! たったすけブッ!? ひいいい!?」

 よ、よくわかんないけどもう任せていいのかな?
 振り向いてみれば魔術士の方もラングが大暴れしてるみたいだし……。

 あ、ディマーユさんも歩いて戻って来た。
 ギトスらしき肉塊を引きずりながら。

「おお、ニルナナカが戻ってきていたのだな。なら危機は去ったといっても過言ではないだろう」
「滅殺れすぅ~~~!」「ぎゃあああああ」
「ふむ、楽しそうだ。我も続きをしたくてウズウズしてくるー」
「か……カハ……」
「うわぁ、神ズ半端なぁい……」

 これってもしかして、私ってただの時間稼ぎだったりします?
 この二人ならなんかあの魔術士入れても余裕で勝てそう……。

「でもなぜニルナナカがいきなり戻って来たのだ?」
「ウーティリスちゃんから~~~念が~~~来たれ、すぅ~~~!」
「ギョエ!? ゴバッ! ナプンッ!?」
「こいつは~~~異世界転移者なのれぇ~~~除菌れすぅ~~~!」
「なにっ!? まさか世界転移者をも呼び寄せたのか!? おのれゲールトめ……!」

 よくわかんないけどニルナナカにボッコボコにされてる奴はヤバイ人物なようね。
 まさかディマーユさんまでがこんな怒りをあらわにするなんて。

 とはいえ、これでもうおしまいかなー。

「となるとあの魔術士も同様の処置が必要となるな。ダンジョンブレイカーが封殺している今なら処理も容易かろう。ならば我が行こうか」
「あ、じゃあお供しまーす」
「滅殺れすぅ~~~~~~!」

 一時はどうなるかと思ったけど、意外とあっさり勝てて良かった。
 私としては大した経験にもならなさそうだったし拍子抜けだけども。

 ただラクシュは苦戦していたみたいだから、姿が見えないしちょっと心配。
 でもラングが動いているからきっと平気だよね。

 ま、あとはこのまま何事もなく排除完了できればいいんだけどなぁ。
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