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第十章 成長へと至る人の心編

第118話 ゲールト強襲

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 世間に認知されていないモーリアンの里。
 そこにいたはずの俺達を、なんとギトス達が奇襲してきた。

 でも一体どうやって!?
 
『おそらく、わらわの気配を辿ったのら。奴が持つペンダントから放たれた繋がりを利用したのであろう』

 なんだと!?
 じゃあ奴はあのペンダントがある限り、俺達の下に自由に来られるって事か!?

『古代の装置を利用すればそれも可能なのかもしれぬ。とはいえそれほど頻度はこなせないだろうがな』

 クソッ! なんてこった!

 頻度は実質関係無い。
 やってくるタイミングによっては最悪の結果になっちまう。
 今でこそ周りに誰もいないタイミングだったのは幸運だったが、これからはそうも言ってられねぇ……!

 そこがリミュネール商会本部だった場合、目も当てられない事態になるぞ……!

「それにしたってここはどこなんだぁ?」
「関係ない。奴らを殺してから調べればいいだけの事だッ!」

 しかしどうやら奴らにそんな事は関係無いらしい。
 ギトスの奴が一目散俺へと目掛けて突っ込んできやがった!

「これで終わりだダンジョンブレイカアアアア!!!!!!!!!」

 殺意の剣が輝きを放ち、まっすぐ向けられ俺へと迫る。
 その眼光がまるで俺にまとわりつくように睨んで離さない。

 速い。
 避けられる気がしない。

 奴はどうしてここまで――

「甘いな狼藉者ッ!」
「――ッ!?」

 だがその瞬間、銀の輝きが走る。
 それと共にけたたましい金属音が響き、ギトスの剣を強く弾いた。

 それだけではない。
 途端に蹴りが奴の頭部と肩へ一瞬で見舞われる事に。
 さらには人影が俺の前でくるりと回り、足先を地面に軽々と滑らせて立つ。

 その最中で銀のロングソードをまるで鞭のごとく幾重にも振り切るのである。
 ギトスが彼方で弾かれ転がるその中で。

「し、師匠……!」
「安心しろ、お前は我が守る」

 そう、立ち塞がったのは他でもないディマーユさん。
 しかもシャウ=リーンと名乗っていた頃と遜色ない剣技を見せつけての。

 もちろんやってきたのは師匠だけではない。
 すかさずチェルトとラクシュもが俺の前に立ち塞がってくれたのだ。

 今やチェルトもインベントリ持ちで装備変更は余裕で可能。
 ラクシュも俺が装備を出して渡せばそれだけで充分。

 おかげで今、俺達は万全の状態で奴らと対峙する事ができていた。

「ク、クソッ、この僕を足蹴にした奴は一体誰――なあッ!?」

 そしてやっと気付いたようだな。
 今奴が対峙している人物が一体誰なのかに。

「そ、そんな……あなたはまさか、シャウ=リーン師匠ッ!!?」
「「えっ!?」」

 しかしまさかこのタイミングで出会うとは思いもしなかっただろうよ。
 自分の憧れである師匠が敵として立っている訳だからな。

 案の定、指を差したまま眼を震わせてやがる。

「あ、ああ、まさかあなたが本当にリミュネール商会関係者だったなんて! しかもあのダンジョンブレイカーと共に行動していたなどとは……!」

(なぁラング、アイツ誰? なんで我の事知ってんのー?)
(えぇ、何いまさら言ってるんすか師匠……)

 ――ちょっと待ってよ師匠~。
 あなた知ってるって言ってませんでしたっけ?
 あのギトスって言ってたじゃないですかぁ! やだなぁもう!

 なのになんで困ったような顔向けて来るんですかね?

「僕です! あなたの愛しのギトスですよ!」

 あいつもあいつで何言ってんだ……?
 どう考えたら愛しなんて言葉が出んの……?

「やはりあなたと逢えたのは運命の導きなんですね! 僕の信じた事はやはり間違いでは――」

 だがそう思ったのも束の間だけだった。
 次の瞬間にはもう、俺達は何も思考する事さえできなかったのだ。



 たったその刹那で、師匠の拳がギトスの顔にめり込んでいたのだから。



「ギィィィトォスゥ……デェルヴォオオオアアアアアア!!!!!!」
「ぶっぎょおおおおおおおおお!!?!?」

 今瞬間、あの人の背に魔獣の面影が見えた。

 ――いや、実際に腕が肥大化し、灰色の異形と化している!?
 それほどの殺意が今の一撃に込められているって事なのかよ!?

 そのせいか、今の一撃の威力はあまりにも強く激しかった。
 なにせギトスは師匠ごと、一瞬にして景色の彼方の地下壁面へと突っ込んでいたのだから。
 しかもすぐさまこっちに振動が伝わって来るほどの爆発を起こして。

「マ、マジかよ今の奴!? エリート戦闘民族なんじゃねぇの!?」
「で、でもギトスさんがやるならきっと大丈夫よ! た、たぶん」

 いやーあれ、絶対無理だろ。
 どう見ても人知を越えてるよ、うん。
 あれ、あきらかに神の力を開放してるよね。

「よそ見をするなんて余裕じゃない」
「カナメッ!」「うああっ!?」

 チェルトとラクシュも抜け目がない。
 ギトスが離脱した動揺を利用して一気に距離を詰めていた。
 さすが場数を踏んでいるだけあって油断も隙もないぜ!

「あなた達はこの私達が止めてみせる!」
「フフッ、ブレイクナイトとブレイクソーサラーを舐めないでほしいですねッ!」

 おかげであの二人が動揺するまま分断された。
 上手く一対一に持ち込みやがったぜ、さすがだ!

『ラングは一旦離れるのら。巻き込まれればただでは済まされぬ!』

 お、おう、その通りだな。
 特にあの魔術士の魔法はヤバイ。

 だからと俺も即座に駆け離れ、遠くにあった石垣の裏で戦う様子を眺めてみる。
 ドネドネの姿はないな、地面に潜って逃げたか。まぁそれが正解だ。

「ふぅ~~~、危ない所だったぜ」
「そなたはあくまで非戦闘員なのら。力があると思って下手に手を出す事だけは避けよ」
「わかっているさ……歯がゆいがな」

 戦いの方はといえば、状況は五分五分と言った所。
 互いの手の内を見せ切っていないからこそどっちも慎重に戦っているのだろう。

 だがそれは相手にもそうできる冷静さがあるって事だ。
 今までの相手とは違い、こっちを舐めてないって証拠だぜ。

 となると場合によっては、まずいかもしれん。

「マトックを掲げてどうするつもりなのら!?」
「最悪を見越して援護できるようにする。無限穴掘りでキメちまえば万事解決だ」

 そうさ、俺の一撃ならどんな状況でもひっくり返せる。
 インベントリ送りにしちまえばどんなに強かろうが関係ないんだ。

 だったら隙を見て、一気に片付ける事も辞さない!

「今はあの二人に任せるのら! 信じてやるのも夫の務めぞ!?」
「そう言っている場合じゃねぇだろうが! ここは奴らにバレちゃいけねぇモーリアンの里なんだぞッ!!!」
「ううっ!?」

 そうだ。ここは本来、人間の入る事の許されない地。
 しかしもしその禁を破られれば、近い内にギルドの奴らがこぞって攻めてくる。

 それこそモーリアン達を虐殺する事もいとわないだろう。
 もし奴らの目的が文明の衰退なら、この里の高度発達した文明を許しはしないだろうからな……!

「そうさせる訳にはいかねぇんだ! ここの奴らにまで悲劇を広める訳にはなぁ!」

 ゆえに俺は力の限りにマトックを腰元へと捻り込むのだ。
 命波を溜め、集中し、スキルとの対話で能力を定める。

 そうして狙いを付け、ただ思うがままに振り切ろう。

「影からと卑怯で悪いが、これで終わりにさせてもらう!」

 狙いは完璧!
 外しはしない!

 お前達二人まとめて、インベントリ送りだああああああ!!!!!

「くぅおおおおおおおッッッ!!!!! 駆 走 閃 薙ッッッ!!!!!」

 俺の両手が溜めた力を解き放つ。
 それと同時にスキルの輝きがほとばしり、地下空間を穿った。
 
 そして力が奴らに届く。
 これですべては終わる。

 ――そう思っていた。
 そうなると信じていた。

 だがそうはならなかったのだ。



 なんとあろう事か、スキルの方が砕かれていたのである。
 奴らに打ち当たった途端、まるで割れて弾けるようにして。
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