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第九章 同志達よ集え編

第109話 ゲールトが秘密である理由(ギトス視点)

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 クッ、なんて事だ! 仕留め損ねるとは。
 しかもなんだ、ダンジョンブレイカー2号に3号って!
 まさか奴らめ、どんどんとその数を増やしているっていうのか……!?

 だとすればまずいな。
 このまま放置すれば奴らはどんどんと力を増しかねん。

 すべてはゲールトが中途半端な情報をよこしたからだ!
 本物のダンジョンブレイカーなどどこにもいなかったではないか!

 ……しかし愚痴を言っても始まらんな。
 ともかく今はほとぼりが冷めるまで、このゲールト秘密施設で養生するとしよう。
 まさかザトロイにまでこんな施設があるとは思わなかったが。

「ギトスさん、ここどこなんです?」
「ここもゲールトの施設だ。安心していい」
「あ、いや、そうでなくて」
「?」
「なんでこんなトコに隠れる必要があるのかなって」

 そうだったな、この二人はまったく事情を知らないんだった。
 ……いや、知る必要もないか。戦うためだけに呼ばれた存在なのだし。

「それは僕達が秘密治安維持組織だからだ。この組織があるからこそ世界は安定し、平和を享受する事ができるのだよ」
「それって秘密である必要あるんです?」
「む……」

 たしかに言われて見ればそうだ。
 なぜゲールトは存在を秘密にする必要がある?
 まだそこまでは僕も学ばせてもらってはいない。

 ええい、答えるのが面倒な質問を!

「それはお前達の立場で知るには早い」
「またそういう……」
「知りたければゲールトに認められる事だ。少なくとも今日の戦いで失敗したお前達にそれ以上知る権利はない」
「くっ……わかりました」

 ミラめ、いちいち反抗の目を向けてきやがる。
 キスティを預けたのは失敗だったか?
 もし反乱を起こすようなら異世界人だろうが関係無い、僕が斬り捨ててやるよ。

 さて、ここが教えられた二人の部屋か。

 そこで僕は二人にこの部屋で待機するすよう命じる。
 すでにキスティも搬入済みだし、それだけで満足だろうよ。

 そして僕はゲールトの幹部どもに呼ばれているからな、向かうは謁見の間だ。

『来たかギトスよ』
『奴は倒したか』
「倒したも何も偽情報でしたからね。いたのはダンジョンブレイカー2号や3号といった偽物ばかりだ。あなた方は一体何を探していたのだ?」
『小僧め』
『言ってくれる』
『だが間違いも事実』
『なれば次こそは』

 来て早々これか。労いの一つもないなんてな。
 それに結果を伝える密偵すらいないとは。
 ゲールトとは人手不足なのか?

『しかし奴らは必ず動く』
『ゆえに機を待て』
「それもいいですが、そろそろ僕にも教えてくれませんかね? この組織がなんで存在するのか、なぜ秘密組織なのかを」
『……いいだろう』

 おや、意外と素直じゃあないか。
 自分で言うのもなんだが、僕もそれほど戦果を上げた訳ではないのだが。
 せいぜいリミュネール商会の間者スパイと上位構成員を三人ほど始末してやっただけで。

『我らは表歴史に出てはならぬ』
『そうでなければいつか淘汰の対象となろう』
『かつて我らがそうしたように』

 なに? それはどういうことだ?

『神は我らが殺し、封じた』
『しかし人は排除し続けることをやめない』
『その根源さえ淘汰しようとするだろう』
『だがそれは滅亡の序曲となりうる』
『ゆえにギルドと勇者を創った』
『排除する事を定例化するために』
『人の存在意義を保たせるために』
『すべては人が愚かであり続けるようにと』
「なん、だと……!?」

 じゃあつまり勇者達とギルドによる管理とは、人類存続のための息抜き!?
 あの主従関係はただのエンターテイメントに過ぎないとでも言いたいのかっ!?

『我らは知られてはならない』
『認められてはならない』
『それこそが人類のため』
『この星のため』
『そのバランスが崩れれば世界は滅ぶ』
『ゆえに我らは絶対秘密』
『その事を肝に命じよ』
『忘れるなギトス=デルヴォ』

 ……こいつらが四千年以上も前の出来事を引きずっているのはわかる。
 だがまさか当事者でもあるまいし、時代錯誤もはなはだしい。

 たしかにお前達にとってはエンターテイメントでしかないのだろう。
 しかしな、僕らにとってのそれは人生なのだよ。
 すでに人類は勇者とギルドなしでは生きられない所まで来ている!

 だったら僕が証明してやろう。
 この世界の在り方を創ったのはたしかにお前達だが、今の時代は僕達こそが築いたのだと。

 その前にもまずはダンジョンブレイカー、キサマを殺してからだ!
 待っていろよ、必ずお前達を追い詰めて仕留めてやるぞ……ッ!!!

 そのためにもと、僕は再び力を蓄えるために修練場へと向かった。
 ついでにゲールトどもに今以上の知識を用意するよう要求して。
 あとで食事の際にでも奴らの事を頭につめこまねばな。

 そう思って修練場へやってきたら、すでにカナメの奴がいた。
 どうしてここまで来られたのかはわからんが。

「あ、ギトスさん」
「ここで何をしている? どうして来られた?」
「行きたいと思っていたらなんか声が聞こえて、連れてきて貰えたんですよ」
「チッ、奴らめ、余計な事を」

 ……まぁいい、カナメはまだ害がなくていいからな。
 むしろこいつはまだ見込みがある方だ。

「それでなんですがギトスさん、オレに剣術を教えてくれませんか?」
「僕が……?」
「はい、オレ別に元の世界じゃ剣なんて持った事なくて、早く強く動けても技術はさっぱりなもんで」
「そういえばそうだな。……わかった、いいだろう」
「やった! よろしくお願いします!」

 こう頼まれるとどうにも断れんな。
 まるで僕の弟子入りを潔く了承してくれた師匠のように。

 ふふ、あの時の師匠の顔は忘れられない。
 面倒そうにして見せながらも僕に対して優しい笑顔を向けてくれたから。
 あの顔はきっと僕に将来性を感じたからに違いないな、と。

 ならば今度は僕がカナメに対してその役目を担おう。
 コイツを育て、いつか必ずダンジョンブレイカーどもを倒すコマとするためにな。
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