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第八章 古代神復活計画編

第96話 極めろ、次元連掘

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 ディマーユさんいわく、今回のダンジョンは海中に存在するらしい。
 ゆえに俺がその入り口までの〝穴〟を掘る事となった。

 だからと意気揚々に甲板のへりへ身を乗り出してみたのだが。

「お、思ったより安定しねぇな……!」

 想像以上に姿勢が保てない。
 おかげで集中できないし、海に落ちそうで怖くてたまらん。

 仕方ない、ここはチェルトに助けを求めるか。

「チェルトすまん、捕まえててくれる?」
「仕方ないなぁもぉ! ぎゅーっ!」
「ちっがーう俺自身じゃねぇ! 俺の足をだな!」

 でも案の定オチが待っていた。
 しかも可愛く言う割に力強かったせいで、挟まれたウーティリスが色々絞り出されそうになっているし。
 
 頼むから耐えてくれウーティリス!

「ラクシュもだ。落ちないように片足ずつ支えてくれるか?」
「ハッ! わかりましたぁ!」

 頼むぜ勇者達よ。
 お前達の力なら俺の体重を支えるくらいはなんとでもなるだろう?

 ……なんか足に抱きつかれている訳だが、まぁいいか。

「よし、これならまだ何とかなるかもしれん。やってみる!」
「「「がんばれぇ~ラングゥ~!」」」
「師匠まで桃色の声援出さないでくれます? 逆に力抜けるんで!」
「オホン……上手くやってくれ」

 あいかわらず揺れも激しく不安は拭えない。
 しかしやり遂げなければどちらにせよ先には進めないんだ。

 ならやってみせろよ俺ッ!

 ――幸い、俺自身に問題はない。
 体幹も整っているおかげで揺れの中でも姿勢を維持できている。
 集中もできたおかげで、おぼろげながらダンジョンの入口も見えてきた。

 とすれば後は入口までどう掘り進めばいいか、だ。

 思ったより深い。比較的に言えば海底側だ。
 そこまで細かく掘れば確実なのだが、それだと境目の綻びが生まれかねん。
 下手すると漏水して辿り着く前に塞がれちまう。

 だがしかし一発で掘り進むにも、どうも狙いが定まらん。

 くっ、何も今日でなくて良かったんじゃないか?
 こんな海が時化しけってちゃ狙うものも狙えないぜ……!

『まったく、仕方ないのうラングは』

 面目ねぇ……こんな事ならあらかじめ練習しておくべきだった。

『いいや、そういう訳ではない。そなたにはもうこの道を掘り進む力量はある。不足しているのは自身の力への信頼であろう』

 信頼……?
 俺がまだ無限穴掘りを信用しきっていないって事か?

『さよう。本来ならばどこを掘ろうと際限ないのが無限穴掘りというもの。それを躊躇してしまっているのは、スキルを手段としか見ておらぬ証拠よ』

 力を行使するのが手段ではないと?

『スキルは生きている力なのら。使う者の意思・感情・気分を感じ取り、その癖を幾通りにも変える。なれば人と同じく、その千差万別を理解して初めて信頼していると言えよう?』

 スキルが生きている。
 それってつまり行使するのではなく、共存するのが正しいという事か。

『そう。その時こそ初めてそなたは真にすべてを望むまま掘る事ができるであろう』

 ああ、理屈はわかったさ。
 けどな、今掘れなければ意味がないんだ!
 これができなきゃ話が結局ふりだしに戻っちまう!

 これだけはなんとしてでもやり遂げなけりゃならねぇんだよ……!

 自分がまだ全然未熟だって事を存分に思い知らされた。
 だからこそ不甲斐なくて、柄を握り締める手が熱くなって仕方がねぇ。

 まったく、至らない自分が情けねぇなチクショウめ!

『……わかっておる。らから焦るな、わらわが力を貸してやろう。スキルの声を、わらわを通して聞かせてやる』

 そう悔しがっていた時、ふと後頭部に柔らかな感触が触れる。 
 それと共に両耳がつままれ、溝に沿って優しく撫でられた。

 まるで愛撫だ。
 それも意識を持っていかれるくらいに心地良いほどの。

 すると今度は頭頂部に「ふぬり」とした感触が当たる。
 それが髪・頭皮を通して「すりり」と擦れる感覚と囁きをもたらしたのだ。

(わらわに意識をゆだねよ。そして聞け、己が力の声を。かの力はすでに理解しておる。そなたが願いし矛先を)

 そんな声が囁かれ、たちまちしびれが背筋を走る。
 快感と、腕へと駆け巡る電気のような何かが。

 それが俺の脳裏で、赤い稲妻がほとばしるというイメージを構築させていた。

 ……そうかこれが、この赤いイメージがスキルの声ってやつなんだ。
 ああ、しっかりと聞こえるぜ。

 お前は〝早く掘りたい、力を使って欲しい〟――そう願っているんだな?

(そう、それこそ力の意思よ。スキルはもうそなたを信頼しておろう?)

 そうだな、その通りだ。
 俺は何もわかっちゃいなかった。
 スキルの方が信頼してるのに俺が信じなきゃ狙う事もできねぇよなぁ……!

 だったら頼む!
 ウーティリスよ、今だけは俺とスキルを繋ぎ合わせてくれ!!!

 俺にスキルの意思を思う存分に味あわせてくれえっ!!!!!
 
『よかろう、それがわらわの願いでもある。しからばその目で見るがよい。見通す先の真なるカタチを。それこそ声を聞き遂げし者が導く行き先よ!』

 おお、見える!
 ダンジョンの入口がハッキリと見えるぞ!

 当然、その力をどう奮えばいいかも!

『では奮え! 思うがままに! それこそ力とそなたの願いならば!』
「フゥゥゥ~~~……!」
「ううッ!? ラングの力の流れが、変わって……!?」

 ありがとうウーティリス。
 お前のおかげでまた大事な事に気付けたよ。

 だから今ならわかる。
 スキルの声が、その価値が。

 俺がどうすれば事を成せるか、スキルが応えてくれるのだと。

「二人とも足を離せっ!」
「「ッ!?」」

 この声に呼応し、チェルトとラクシュが即座に体を離す。
 それと同時に俺は力の限りに宙へと跳ねていた。

 こうして高く跳ね上がったその中で、俺はただ無心で見定めたのだ。
 己が振り掲げた矛で、先をどう穿つべきかを。

 そしてその矛先はすでに、見えている!

「うぅおおおおおお!!! いっけえええーーーーーー!!!!!」

 ゆえに今、俺は熱く握りしめたマトックをただ力の限りに奮った。
 体が空中でくるりと回ろうが構う事なく、思うがままに海へと向けて。

 それで着地を果たす。
 マトックの柄先を「ゴズンッ」と甲板へと打ち付けながらに。

「「「おおお!!!」」」

 そうして歓声が上がる中でゆっくりと立ち上がり、自信のままに見下ろすのだ。

 海面にぽっかりと拓いた大穴を。
 海の底へと続かんばかりの深さをまじまじと。

「こ、これがダンジョンブレイカーの力という訳ですのね」
「すごい、もうなんでもアリね……」

 チェルトとラクシュが驚嘆するのもわかる。
 正直、俺でも常識を疑う光景だからな。

 なにせ開いた穴はなお海に残り続けている。
 それに海水が流入する事もなく、跳ねた飛沫が入る事さえない。
 おそらく「穴という概念」が海に「刺さっている」というような感じなのだろう。

 だからなのか、穴の内面だけは岩壁面となっている。
 しかも海自体に穴への抵抗はなく、まるで何も無いと言わんばかりにうねり続けているのだ。 
 つまり海にとっては穴がないのと同意義の状態なのである。

 まさかこんな非常識極まりない事まで実現できるとはな。
 スキルを過小評価していたって事を存分に理解できたよ……!

 おかげさまで気分は虹色だぜ!

「よくぞここまで無限穴掘りの力を引き出したなラングよ」
「ああ、これもウーティリスのおかげだぜ。ありがとうな!」
「うむ! しかし己を誇るがよい。この能力〝次元連掘〟を身に着けたそなたにもはや不可能はなウボエレレレレ……」

 まぁ次の瞬間には俺の頭に本物の虹がかかった訳だが。



 ――こうして俺達は海中ダンジョンへの道を拓く事に成功した。
 しかし本番はこれからだ。
 中で何が待ち受けているかもわからないのだから。

 それに今回ばかりはどうやら今までと同じ攻略法とはいかないようだ。
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