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第八章 古代神復活計画編

第94話 伊達にずっと逢いたいと願っていた訳じゃない

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 レトリーがナーシェちゃんに連れられ、場を後にした。
 しかし俺はウーティリスと共に引き留められ、まだディマーユさんの前だ。

 どうやら俺達に話したい本題があるらしい。

「さて、随分と物々しくなってしまったな」
「そうっすね。ただちとやり方がエグくないですかねぇ?」
「ラングよ、言うたであろう。信頼を得るには何事もリスクを負う必要があるのら。特にリミュネール商会という暗部を取り扱うこやつなら特にのう」
「そういう事だ。あの女がギルドのスパイである可能性も拭えんからな。ならその真偽を炙り出すには、苦痛と死を乗り越えられる覚悟があるかどうかを試すのが一番手っ取り早いのだ」

 ウーティリスやディマーユさんの言いたい事はわかるんだけどな。
 ただそれでも、あんな惨状を見せつけられたら黙ってはいられなかったんだ。

 自分自身にもそれだけの覚悟がなかった。
 そう言われたような気がして、でも認めたくなくて、な。

「それにだ、お前にあらかじめ説明しておくとうっかり本音が出そうでな」
「んなっ!?」
「だってラングってそういう嘘つくの下手だったじゃん?」
「そんな事ありません~! 俺も大人になったからちゃんと嘘くらいつけますぅ~~~!」
「えー、じゃあ何年何時何分何秒、星が何回回った時から大人になったのぉ~~~!?
「そりゃ神なら見ればわかるだろうっ! しっかり見やがれ、この筋肉をッ!」
「我から見たらラングなんてまだ着床したばかりの受精卵と一緒なんですぅ~~~!」
「~~~ッ!!!」
「なんなのらコイツラ……子どもかッ」

 チクショウ師匠め! もうガキ扱いするんじゃねぇっての!
 昔っからこうやってからかうのがホント好きな人なんだから……ったく。

 はぁ、もう付き合うのがしんどくなってきたんだが?

「……とまぁ茶番はここまでにして、本題に移ろう」

 とはいえ、どうやらディマーユさんでも表情から意図を読み取るくらいの洞察力はあるらしい。
 すぐに雰囲気が切り替わり、鋭い眼差しを俺達に向けてきた。

「実はだな、我が帰郷したのは決して区切りがついて帰りたくなったからという訳ではない」
「またまたご冗談を。あれだけの土産と旅行鞄持って浮かれながら帰還していった師匠が何をお言いで」
「ち、違うもぉん! た、たしかにもう千年も放置してたからエンシェントエルフの族長でさえ知らなくて恐れられたけどぉ!」
「ええい、御託はいいから本題だけ話すのらぁ!」

 おっといかん、ついうっかりやり返してしまった。

「オホン……それというのも、我はウーティリスやニルナナカの復活した場所が、かつて封印を施した場所となんらかの関連性があると踏んだのだ」
「というと?」
「ダンジョンというものは場所や環境に囚われずどこにでも出現する。つまり移動しているというのが本来の考え方だ。だがしかし、神達の封印地に限っては違うのではないか、とな」
「ほほう……」

 たしかにな、普通のダンジョンは転移しているというのが通説だ。
 たとえば一〇年前にダンジョンと共に消えた勇者の死体が、遠い国に現れたダンジョンで見つかった、なんて噂話もあるのだから。

「そこで我はとある情報を得るために昔の寝床へと帰った。あの地には我が四千年前に刻んだ、神の封印地を記す石碑を残していたからな」
「「ッ!!?」」
「我とて長い年月もの間を覚えていられる自信はなかった。ゆえにゲールトにいた時代に見た奴らの計画図をそのまま石碑に残したという訳だ。いつかこの情報を元にかの神達に逢いたいと願って」

 そうか、ディマーユさんは他の神と逢うのが夢だったと言っていたからな。
 それなのにいざ顕現したら神達が消えた後だったなんて、笑えない冗談だ。

「そしてその石碑と二人が復活した地を照合し、我は確信を得た!」
「おおっ!?」
「ウーティリスが復活した地はワイスレット南のゴコンタ平原。あそこはかつてお前が拠点にしていたディブルト王国が存在していた場所なのだ」
「ほほう!?」
「さらにはニルナナカが復活した地はアラルガン。あそこはディブルト外縁都市ウルガーンがあったという訳だ」
「ニルナナカがわらわと遊ぶために常駐を決めた街らな!」
「そう。それすなわち、神の封印地はほぼ動いていないという事に他ならない!」

 なんてこった、そういう事か!
 じゃあつまり……!

「後はもう言わなくてもわかるだろう。かの封印地に出現したダンジョンにこそ彼ら神達が潜んでいるのだと」
「なるほどのう。察するにわらわ達神の力がダンジョンに影響を及ぼし、力場を形成する事で場所を固着させてしまったのであろう。ニルナナカのいたあのダンジョンが最たる例らな」
「たしかに、あのダンジョンは特に異常だった。ニルナナカがコアの代わりになってたのは普通じゃねぇよな」
「うむ。それはおそらく封印が不完全だったのら。だからコアを破壊された際、構築システムが強い力を持つニルナナカへと移譲されたのであろう」

 おお、事実が繋がっていく!?
 すごいぞ、この真実は!?

「たとえ強力な封印とはいえ、所詮は人が作った物。当初より完全ではなかったのだな。ゆえに神の力の影響が多く出ていたと思われる」
「って事はウーティリスの力も?」
「ああおそらくは。実はクラウース共和国は世界的に見てダンジョンの出現数がもっとも多い国でな。そのために多くの勇者が集まり、活気に溢れ、自治区が生まれ、そして統合されて共和国となったという経緯がある。ウーティリスの力らしい話であろう?」
「国の成り立ちにまで影響があったのかよ……」
「確証はないが、そう考えるのが妥当だな。まぁ多いと言っても、出やすいのは下級や中級ばかりなのだが」
「そ、それってわらわの力が弱いって言いたいの……?」

 落ち着くんだウーティリス。
 プルっちゃうのはわかるけど、力の強さが影響力に直結するとは限らないから!

「そしてその封印地は我がこの地図に書き写してあるっ!」
「「おおっ!」」

 するとさっそくディマーユさんが机から一枚の紙を取り出して広げた。

 これがその地図か!
 たしかに、世界地図にいくつもバッテンが描かれている。
 所々、海とか山とかにもある訳だが。

「らが、これだけ多いとまずどれを狙うべきか」
「そうだなぁ、じゃあウーティリスと仲のいい神を探すとか?」
「え」

 な、なんだよウーティリス、つぶらな瞳でこっちを見て。
 おいおい、しかも眼を震わせるんじゃないよ! 察しちゃうだろぉ!

「その点に関しては案ずるな。すでに我が目星をつけてある」
「おお? ならどの神を狙うんで?」
「ふふふ、その答えは……この国にこそ存在するのだ!」
「なっ!?」

 だがどうやらディマーユさんの計画はすでに準備万端だったらしい。
 しかも俺達が思っていたよりもずっと早く。

「実は復活させるならば先にと思っていた神がこの地にいる。その象徴にあやかるつもりでここに拠点を置いていたのだが、まさかこうも都合よく行くとは思わんかったぞ?」
「ではその神とはなんなのら?」
「ふふ、もう忘れたのか? この地には精霊がいるという話をしたであろう」
「――あっ!?」

 そう、それはディマーユさんにとってもまるで運命のような話だったのだ。
 それは決して偶発的でも無く、信じていたがゆえに起きた必然的な。



「その片割れである水の精霊こそ〝海神リブレー〟。いざないと潮流を象徴する神なのだ」



 そして俺はこの象徴を聞く事で直感的に理解したのである。

 海神リブレー。
 その神の復活こそ、俺達の理想を実現するためにもっとも必要な要素なのだと。
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