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第七章 遠い異国への旅立ち編

第88話 呪詛反転(ギトス視点)

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 ゲールトに認められてはや一週間。
 僕は未だアラルガン地下の秘密謁見所にある小部屋に軟禁されている。
 与えられた書物をただ読むだけの日々が続き、少々飽き気味だ。

 それにしても、なんなのだこの書物は。
 熟読するよう言われたが、どれも現代に存在しない情報ばかりじゃないか。
 どうしてこんな古代文明の遺産を読ませる必要がある?

 特にこの一〇八人の古代神に関する書物は必読だと言われた。
 彼等ゲールトはこの神とやらにやたら執着的だったからな。

 書物によれば、この神どもはかつて人間達にスキルと呼ばれる超常の力を与えて争わせていたらしい。
 しかもただ楽しむためだけに。
 私利私欲のために必要以上の力を与えていたというなら理解もできよう。

 だからその神を排するためにゲールトという組織が生まれた訳か。
 まったくもって迷惑な存在がいたものだ。

「……おや? この名前はどこか既視感があるな」

 しかしふと見返していると、なんとなく気になる名前が見えた。
 迷宮神ユーティリス、このニュアンスどこかで――

「そうだ思い出した。たしかラングの姪の名だ」

 でも微妙に違うな。
 あのガキの名はウーティリスだったはず。
 となるとただの空似でしかないか。

 だが妙に引っ掛かる。
 気付いた事への報告義務もあるし、これも彼らに伝えておくか?

 ――いや、まだその段階ではない。
 下手な事を伝えて彼らに咎められるのは勘弁だしな。

『ギトス=デルヴォ』
『召喚に応じよ』
「了解した」

 まぁいい、必要な情報はもう得た。
 あとは彼らゲールトに従い、己の役目を果たすだけだ。

 駄犬も仕置きした後だから放っておいても問題ないだろう。

「そこでおとなしくしていろよ駄犬」
「あ……う……」

 それで僕は呼び出されるまま部屋を後にし、再び謁見の間へと訪れる。
 するとあいかわらず七つの水晶が輝き、部屋を照らしていた。

『知識は得たか』
「ええ、充分なほどに」
『ならばダンジョンブレイカーの存在に心当たりは』
「ありません」
『……よかろう』
『ならばギトス』
『お前に力を与える』

 なんだ力とは?
 ううっ……!?

 急に体に力がみなぎってきた!?
 しかもこれは、A級勇者以上の……ッ!?

『我らゲールトの加護を与えた』
『これでお前は勇者さえ越える力を得た』
『さらにA級勇者の職の補正も加わるであろう』
「おお……!」

 すばらしい、なんていう力だ!
 ただでさえその加護とやらの力はすさまじいのに、勇者としての力も加わるとは。

 職二つ分の力を得られるのは実に不可解だ。
 しかしそうできるのが彼らの特別性なのだろう。

 ならばその特別性を存分に生かしてやるまでだ。

『しかしおかしい』
『これだけの力がありながら未だ非力だ』

 なんだ? まだ不満なのか?
 そもそもなぜ彼らは僕の力がわかる?
 彼らだけにしか見えない何かがあるのだろうか。

『わかったぞ』
『胸にある道具のせいだ』
『最上の呪いの力を感じる』

 胸にある道具?
 まさか師匠からもらったペンダントか?

 そう気付き、鎖を引いてペンダントを取り出してみる。
 すると途端に場が騒然とし始めた。

『『『おお!?』』』
『それは反願の呪鎖飾り!』
『しかも我等が独自に造り上げたもの!』
『なぜ貴様がそれを!』
「昔、我が師からいただきました」
『その者の名は!?』
「シャウ=リーンです」
『知らぬ名だ』
『だがこれは彼奴へと放った刺客の物』
『つまり彼奴の偽名の一つか』
『おのれリミュネール商会!』
『まだ我々の邪魔をするか!』

 リミュネール商会……あの噂の犯罪者集団か。
 もしかして師匠はあの集団の関係者だったのか……?

『しかし呪いが反転している!』
『それはつまり!』
『神はやはり復活している!?』
『『『おお!?』』』
『しかも呪いの矛先はあの迷宮神ユーティリス!』
『なんという事でしょう!』
『もっとも厄介な奴が蘇りおった!』
『彼奴の知略はあなどれぬぞ!』

 しかしなんともタイムリーな話だ。
 だが彼らの話が本当なら、最近のダンジョン事情にも合点がいく。

 立て続けに発生した上級ダンジョン。
 あれがその迷宮神のせいなのだとすればもっともな話だ。

『ギトスよ、その道具はお前を縛るもの』
『早急に捨てよ』
『さもなくばお前は永遠に――』
「いいえ、これは外しませんよ」
『『『――ッ!!?』』』

 だけど僕には何の関係も無い。
 神だろうがダンジョンブレイカーだろうが叩き潰してやるよ。

 その力の使い方も、ようやくわかってきたからな。

「たしかに考えてみればこのペンダントが僕に力を与えてくれて、今では奪っているのかもしれない。けれどね、今はその扱い方にコツがあると気付いているんですよ」
『な、なんと!?』
「ゆえに、ねッ!」

 だからと咄嗟に壁を拳で打ち、軽々と砕いてやった。
 とても堅い材質でできているようだが、それでも今の僕ならこれが叶う。
 衰弱する呪いの反転方法、それは思ったよりも簡単だったからな。

 ただ僕が望まない事をするだけでいいんだってねぇ……!

『我々はお前を見誤っていたようだ』
『まさか衰弱の呪いをさらに反転させ、力へと替えているとは』
『想像以上の逸材ね』
『ならば我等も応えよう』
「ほう?」

 どうやらこんな僕にご褒美までくれるらしい。
 随分と太っ腹なのだな、ゲールトとは。

『まずは越界の間へと行け』
『そこで貴様に新たな部下を託す』
「部下? 生半可な奴ならお断りですよ?」
『案ずるな』
『その者達は少なくともA級勇者より強い』
『しかしそのポテンシャルを活かせるかどうかはお前次第だ』
「へぇ、ならいいでしょう。会ってやりますよ」

 部下、か。
 たしかに、僕一人でダンジョンブレイク工業どもに立ち向かうのは困難を極める。
 なら弾避けの一人や二人が多くいてくれた方が助かるだろう。

 キスティだけでは物足りないと思っていたのだ。
 だったら見極めてやろう。

 その部下になる者達が僕の眼鏡に適うかどうかをな……!
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