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第七章 遠い異国への旅立ち編

第83話 〝越神組織〟(ギルマス視点)

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 ギトスが思考停止魔法を喰らったようだ。
 仕方あるまい、こやつはただの付き添いだからな。
 まぁ必要な時のみしゃべって貰えばそれでよい。

 さて……。

『ワイスレットギルドマスター』
『キサマには失望した』
『件の者がまだ見つかっていないとは』
「大変申し訳ありません。ダンジョンブレイカーという存在は巧妙に姿を隠し、我々では見つけられぬ所にいる模様で」
『言い訳は不要だ』
「ハッ……」

 やはり召喚理由はダンジョンブレイカーの件か。
 となると、我等が師父達も奴の存在が疎ましく感じてきたといった所かな。

『だが先日、実際に遭遇したと聞いた』
『なぜ始末しなかった?』
「我がワイスレットが誇るA級勇者四人を派遣しましたが、敵は強大でした。そのおかげで我等の力不足は否めず」
『……続けよ』
「敵は不可解な力を使った模様。一瞬で勇者の装備を剥ぎ取ったと聞き及びました」
『スキルか……』
『有り得る』
『では神が復活した?』
『そんなバカな事が』

 スキル? 神が復活?
 一体なんの事だ?
 まさかここにきて初めて聞く言葉に出会うとは。

 ……ギルドマスターとて彼等にとっては末端に過ぎないという事か。

『続けよ』
「……奴らはその後、自分達を〝キギョー〟と名乗った模様」
『おお……!?』
『なんたる事か!』
『企業の名が再び出てくるなどとは!』
『まさかまた白と黒の戦いを勃発させようというのか、神め!』

 しかし彼等の驚きよう、騒ぎようはなんだ?
 まるで禁句を聞いたかのようではないか。

 彼等は一体何を知っているのだ。

『続けよ!』
「は、はいっ! そして奴らはダンジョンブレイク工業という名で、我等ギルドに対し宣戦布告したという話です」
『ダンジョンブレイク工業……』
『なんとおぞましき名よ』
『早く消し去らねば』
『世界を再び神どもの玩具とされる前に』

 ……いやいい、考えるな。
 理解するな。事実を見るな。
 私がギルドマスターのままでいたいならば。

 もっとも、ここまでかもしれんがな。

『許すまじ、神の奴隷よ』
『しかしもっと許せぬは無能者よ』
『我等の意志にそぐわぬ愚か者には死を』
『『『賛成』』』

 やはりか。
 どうやら私はここまでのようだ。

 だがきっとギトスが後を引き継いでくれるだろう。
 コイツならきっと私の後釜にぴったりだろうからな。

 フッ、短い付き合いだったが、嫌いではなかったぞギトスよ。
 お前の在り方は私がうらやんでしまうほどに眩しかったからな。

 ああ、水晶達が輝いている。
 あれが瞬けば私はこの世から消滅するだろう。

 まったく、我ながら情けない最後だ。

「お、お、おまチくださイ、ゲールトとイう方々……!」
『『『!!?』』』

 なっ!? ギトス!?
 お前、思考停止魔法を喰らったのではないのか!?

「この方ハ、ボくの理解者! どうか! 話を聞いていタだきたイ!」
『バカな!?』
『思考停止魔法に抗う!?』
『なんという精神!』
「だが、僕は、たかがギルドマスターに、留まる、つもりは、ないッ!」
『おお!?』
『完全に抗いきった!』
『これは!』

 なんて奴だ!?
 精神力だけで彼等の呪縛を解き放った!?
 コイツ、私が思った以上の逸材だったというのか!?

「ゆえにッ! 僕はギルドマスターの処刑に反対します! この人にはやる事がある! 僕が更なる飛躍を果たすための踏み台としてッ!」

 言う事は無茶苦茶だ。
 だがそれでいて自身を貫き通している。

 眩しいな、これが若さか。
 いや、私の全盛期にもこれだけの執念があればどれだけよかったか。

「それが成せないというのなら僕を処刑しろ! だがそうすればダンジョンブレイク工業は永遠に潰せないぞ! なぜなら奴らを潰せるのは僕だけだからだッ!」
『若造めが』
『言ってくれる』
『だがその執念と野心よ』
『嫌いではない』
『なるほど把握した』
『ギルドマスターが推しただけの事はあろう』

 今だけはお前に託そう。
 私はお前を認めて良かったのだと。

 ならば喜んで踏み台になってやろうではないか!
 私がお前をできる限り押し上げてやる!

「その者こそ私めが認めし、稀なる逸材にございます! なれば必ずや期待に添えましょう」
『ふむ?』
「それでもなお、私の後釜に据えるならそれでも構いませぬ! しかしそのような逸材を地方で腐らせるだけなど、とても我等が師父の采配とは思えませぬ!」
『キサマ……』
「今一度お考えを! ダンジョンブレイカーが我がギルドの強敵となり得るのであれば、最大の力を発揮する必要がありましょう!?」
『……』

 ハァ、ハァ、これでどうだ!
 もうこれでダメなら私は諦めよう!
 どちらにしろ捨てたつもりの命だ、どうにでもせよ!

 だがもし生かされると言うのならば……!

『……よかろう』
「「ッ!?」」
『なればギトスとやら』
『キサマは我等ゲールトが管轄する』
『特殊教育を受けてもらう』
『だがいいのか?』
『戦力低下は敵に隙を与えるのみ』
『これが最良の答えである』
『よって我等の裁定は下った!』
『ギルドマスターは現状維持とする。去れ』
『ギトス=デルヴォは配下とする。残れ。以上』
「駄犬は?」
『好きにせよ』

 部屋が暗くなっていく。

 ふぅぅぅぅぅぅ~~~~~~……。
 生き、残れたか……。

 これはギトスに感謝せねばな。
 もはや私すら超えたか、彼は。
 
「ギトス、殿」
「えっ?」
「あなたはギルドを造りし領域〝越神組織ゲールト〟の構成員となった。よって我らギルドからは離れたものの、影で操る存在の一人となる。その事をゆめゆめ忘れないでいただきたい」
「僕が、ギルドを操る者達の一員……」
「そう。そして救ってくれた事を感謝いたします。ありがとうございました」
「……いや、僕を引き上げてくれたのはあなただ。だから敬語は不要ですよ」

 ありがたいな。
 こういう所だけはしっかりと義理堅い。

「ならば元上司として進言させてもらおう。これから君はもう普通に外を歩く事も叶わない。しかし暗躍組織の一員としてさらなる飛躍が約束されるだろう」
「ふむ……ならば望む所ですよ。僕はいつか世界を牛耳る男になるのだから」
「いい野心だ。眩しいな」

 だったらもう任せても良さそうだ。

 では彼に託すとしよう。
 すべてを狂わせたダンジョンブレイカーども、その殲滅の役目をな。

「では一つお願いがあります」
「なにかな?」
「この手紙を僕の代わりに両親へと届けてください」
「心得た。必ず届けよう」

 その代わりの役目が配送士役だというなら喜んで引き受けるさ。
 いや、彼の言う事ならなんでも引き受けよう。

 それが私に与えられた運命の配役だというのならば。



 こうして私は一人、秘密謁見所を離れてワイスレットへと戻った。

 半ばギトスを生贄にする形となったが、後悔はしていない。
 奴の望んだ事だし、色々とゲールトにも疑問ができたしな。

 一体なんなのだ、スキルとは?
 神とは創世神ディマーユ様の事ではないのか?

 ……どうやらこれは内々に調査しておく必要がありそうだ。
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