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第六章 反逆の狼煙編
第69話 嘘と権力
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師匠がとうとう四三〇〇年前の出来事を語り始めた。
人間達の争いと、そしてすべての元凶であろう組織の誕生の事を。
反神組織ゲールト。
その名からも、師匠の語りからも、この組織が当時の歴史に楔を打ち込んだ元凶であると察せる。
それだけの存在感がこの話には明らかにあったのだ。
「当時は白軍と黒軍の戦いで市井の者達はみな疲弊していた。おかげでスキルに対する不平不満も吹き出し、反神組織へ同調する者も少なくはなかった」
「おまけに今の勇者みたいな絶対的存在がいなかった、か」
「ああ。その結果、人々の多くはとうとう反神組織に組し、神へと不平不満をぶつけるようになったのだ」
「そ、そうなのか? わらわはまったく気付かなかったのら……」
「ニルナナカもれすぅ~~~」
「実際、二人にも結構強い煽りがあったのだがなぁ」
「ここまで来るともう無神経とも思えるぜ」
「ええい、それが神というものなのら! ほっとけー!」
「あ、開き直った」
ったく、これだから無神経だってんだ。
人間を愛してるなら少しは寄り添えばまだ違ったろうに。
――それはそれで人間側の我儘ってモンだが。
「……とまぁそんな事もあり、規模の膨れ上がった奴らはとうとう事を起こした。知っての通りの、〝封神計画〟の実行だ」
「封神計画……」
「まず奴らは神の中で有用無用を分けた。神にもウーティリスのように人へと積極的な寄与をする者と、それほどでもない者がいたからな」
そうか、ウーティリスも一応は当時有用と思われていたんだな。
ダンジョンの資源も大事ではあるから。
「それで奴らは手始めに有用な神を一人ずつ封印し始めた。彼らの無関心さを利用しておびき寄せ、騙し、動きを止めさせた後に封印を施したのだ。ダンジョンの力を利用し、特殊な技法を用いて埋める事でな」
「そうか、それでウーティリス達はダンジョンに埋まっていたって訳か」
「そうだ。そしてそう封印されたら最後、我でも感知する事はできなくなってしまった。おまけに出ては消える神出鬼没のダンジョンだ。もはや探し当てる事さえ不可能になってしまったのだよ」
なんてこった。これがウーティリス達の埋まっていた理由か。
有用だからこそ封じて恩恵だけを残したって事かよ。
理想は立派だが、やってる事がえげつないぜゲールト……!
「そして無用と判断された神は……奴らの手にかかり、殺された」
「「「ッ!!?」」」
「多くは旅神や黄昏神など、人々に恩恵をもたらさない者達ばかり。みな容赦なく斬り捨てられ、自分達がどうして襲われたのかを知る事もなく絶命してしまった。いくら我が訴えても声など届きはせぬ」
無用だから殺すだと!?
冗談じゃないぞ!?
それじゃ本当に勇者とやっている事が変わらない!
いくらスキルを否定してるからってそこまでやるか!?
「そ、そんなバカなっ! 我ら神は絶対不滅の存在なのら! そのような神を殺すなどできる訳がなかろうっ!」
だがそんな中で一番に咆えたのは他でもないウーティリスだった。
声から動揺しているのがわかる。彼女もさすがに怖いんだ。
神が殺されるなんて普通じゃあり得ないから。
「それが有り得るのだよ。ウーティリス、お前になら特にわかるはずだ」
「えっ!?」
「星滅級ダンジョンでのみ稀に出るあの武器ならば、それが可能なのだと」
「ううっ……!?」
けれど師匠は決して臆する事なく、ただし奮えた唇で事実として語る。
師匠でさえも恐れる、その絶対を覆せる唯一の存在を。
「〝神殺しの晶剣〟。あの武器こそ神の特性を無視して肉体を切り裂けるのだよ」
きっと口に語るのも恐ろしい武器なんだろうよ。
そんな物が存在しているなんてな。
きっとウーティリスやその剣を造った奴はただのお遊びで用意しただけなのだろうが。
まさかその矛先が自分達に向けられるとは思ってもみなくて。
「反神組織の構成員達の中にその剣を手に入れた者がいたのだ。だからこそ奴らは計画を実行に移せた。おかげで無用な神は死に、有用な神は封じられて世界からスキルが消え去った。人間だけの時代の到来だ」
当時の人間にとっちゃ待ち望んだ時代が来たのだろうさ。
だが話を聞く限りじゃ随分と強引過ぎるじゃねぇか……!
そこまでする事なのか!?
そうするほどまでに荒れてたってのかよ……!?
「とはいえ、始まりは実に穏やかそのものだったよ。白軍と黒軍の争いもたちどころに消え、平和が訪れたのだから」
「そ、そうなのか……」
「しかし、その時ゲールトは気付いてしまったのだ。〝あれ、これ上手くやれば俺達で天下取れるんじゃね?〟と」
妙な所で軽ぅい!
「そこでゲールト中枢は計画を次なる段階へ移した。自分達を頂点とした支配体制を構築する計画を。……当時はまさに人々の象徴と化していたからな、信奉者達を駆使して世論を操るなど造作もなかったのだ」
「それって、まさか……っ!?」
「そう。それがギルドと勇者の誕生だ」
そうか、そういう事か。
反神組織の大成とギルド・勇者支配の確立。
この二つは繋がっていたんだ。
「奴らは神殺しの晶剣の特異性を利用し、神が世界の理を構築した装置〝世界原理調整機〟を操った。それにより幾つかの理が書き換えられる事になる。冒険者という職が勇者になり、ギルドと名付けた組織員だけが才能システムを自由にいじられるようにとな」
「だから才能選定を行うためにギルドに行かなきゃならないのか」
「うむ。本来ならば機が訪れれば自然に才能が開花したのだが、その原理が変わった事で人々はおのずとギルドを頼らねばならなくなったのだ」
しかも奴ら、才能まで縛りやがった。
これじゃあたしかに逆らう事さえ困難だろうよ。
ギルドが無くなっちまえば才能は選定できない。
人生を人質にされたようなもんなんだからな……!
「だがそれでも、人々の中にはまだ奴らのやり方に異を唱える者達もいた」
「えっ……!?」
「我ら神を信奉する神教徒達だ。彼等は神が消えた事で初めてスキルの恩恵に気付き、不安をぬぐえないでいた。それでゲールトに訴えていたよ。神の封印を解いて欲しい、とな」
「ふむ、殊勝な事ではないかー」
「……だからこそ、ゲールトは彼等を黙らせるためにとある手段を講じたのだ」
なんだ、師匠が顔を俯かせてしまった?
何か思う事があるのか……?
「奴らゲールトは再び世界原理調整機を操り、神教徒達の新たなる象徴を創り出した。そうして生まれたのがこの我なのだ」
「「「ッ!!?」」」
「そして奴らは我を〝唯一創世神〟――つまりはすべての神を統制せし大神として表に立たせ、神教徒達の信奉を一挙に集めさせたのだよ」
師匠が、ゲールトによって生み出された神……!?
そ、そんなバカな……。
「その時ゲールトが企んでいた欺瞞と虚栄、その意思が形となって我は生み出されてしまった。ゆえにその結果、我の象徴は――〝嘘と権力〟となってしまったのだ」
「な、なんたる事か……」
「ひどいれすぅ……」
「その象徴のおかげで神教徒を騙す事など造作もなかった。当時はやっと誕生できた事に喜ぶあまり盲目的になっていたからな、ゲールト達にただ従うばかりだったよ……!」
こう語るたびに師匠が牙をギリリと食いしばり、怒りを露わにし始める。
思い出す事で沸き上がる感情をもう御しきれないのだろう。
こればかりはもう嘘が付けないほどに。
「だが我はあの屈辱を絶対に忘れん! 奴らの傲慢さが我を普通の神とも一線を引いた〝陰神〟へと誕生させたことをなあ!! その象徴のせいで我はこのような人とはまるで異なる姿となってしまったのだからッ!!!」
怒りたくもなるだろうよ。
人や同胞の神を愛していたのに、それらと異なる異形にさせられてしまえば。
師匠はその悔しさをずっと抱いて生きてきたんだ。
どうやってゲールトに復讐しようかと画策しながら、四千年も。
そりゃ不満を溜め込み過ぎて、嘘を象徴してようと本音くらい出ちまうよな。
人間達の争いと、そしてすべての元凶であろう組織の誕生の事を。
反神組織ゲールト。
その名からも、師匠の語りからも、この組織が当時の歴史に楔を打ち込んだ元凶であると察せる。
それだけの存在感がこの話には明らかにあったのだ。
「当時は白軍と黒軍の戦いで市井の者達はみな疲弊していた。おかげでスキルに対する不平不満も吹き出し、反神組織へ同調する者も少なくはなかった」
「おまけに今の勇者みたいな絶対的存在がいなかった、か」
「ああ。その結果、人々の多くはとうとう反神組織に組し、神へと不平不満をぶつけるようになったのだ」
「そ、そうなのか? わらわはまったく気付かなかったのら……」
「ニルナナカもれすぅ~~~」
「実際、二人にも結構強い煽りがあったのだがなぁ」
「ここまで来るともう無神経とも思えるぜ」
「ええい、それが神というものなのら! ほっとけー!」
「あ、開き直った」
ったく、これだから無神経だってんだ。
人間を愛してるなら少しは寄り添えばまだ違ったろうに。
――それはそれで人間側の我儘ってモンだが。
「……とまぁそんな事もあり、規模の膨れ上がった奴らはとうとう事を起こした。知っての通りの、〝封神計画〟の実行だ」
「封神計画……」
「まず奴らは神の中で有用無用を分けた。神にもウーティリスのように人へと積極的な寄与をする者と、それほどでもない者がいたからな」
そうか、ウーティリスも一応は当時有用と思われていたんだな。
ダンジョンの資源も大事ではあるから。
「それで奴らは手始めに有用な神を一人ずつ封印し始めた。彼らの無関心さを利用しておびき寄せ、騙し、動きを止めさせた後に封印を施したのだ。ダンジョンの力を利用し、特殊な技法を用いて埋める事でな」
「そうか、それでウーティリス達はダンジョンに埋まっていたって訳か」
「そうだ。そしてそう封印されたら最後、我でも感知する事はできなくなってしまった。おまけに出ては消える神出鬼没のダンジョンだ。もはや探し当てる事さえ不可能になってしまったのだよ」
なんてこった。これがウーティリス達の埋まっていた理由か。
有用だからこそ封じて恩恵だけを残したって事かよ。
理想は立派だが、やってる事がえげつないぜゲールト……!
「そして無用と判断された神は……奴らの手にかかり、殺された」
「「「ッ!!?」」」
「多くは旅神や黄昏神など、人々に恩恵をもたらさない者達ばかり。みな容赦なく斬り捨てられ、自分達がどうして襲われたのかを知る事もなく絶命してしまった。いくら我が訴えても声など届きはせぬ」
無用だから殺すだと!?
冗談じゃないぞ!?
それじゃ本当に勇者とやっている事が変わらない!
いくらスキルを否定してるからってそこまでやるか!?
「そ、そんなバカなっ! 我ら神は絶対不滅の存在なのら! そのような神を殺すなどできる訳がなかろうっ!」
だがそんな中で一番に咆えたのは他でもないウーティリスだった。
声から動揺しているのがわかる。彼女もさすがに怖いんだ。
神が殺されるなんて普通じゃあり得ないから。
「それが有り得るのだよ。ウーティリス、お前になら特にわかるはずだ」
「えっ!?」
「星滅級ダンジョンでのみ稀に出るあの武器ならば、それが可能なのだと」
「ううっ……!?」
けれど師匠は決して臆する事なく、ただし奮えた唇で事実として語る。
師匠でさえも恐れる、その絶対を覆せる唯一の存在を。
「〝神殺しの晶剣〟。あの武器こそ神の特性を無視して肉体を切り裂けるのだよ」
きっと口に語るのも恐ろしい武器なんだろうよ。
そんな物が存在しているなんてな。
きっとウーティリスやその剣を造った奴はただのお遊びで用意しただけなのだろうが。
まさかその矛先が自分達に向けられるとは思ってもみなくて。
「反神組織の構成員達の中にその剣を手に入れた者がいたのだ。だからこそ奴らは計画を実行に移せた。おかげで無用な神は死に、有用な神は封じられて世界からスキルが消え去った。人間だけの時代の到来だ」
当時の人間にとっちゃ待ち望んだ時代が来たのだろうさ。
だが話を聞く限りじゃ随分と強引過ぎるじゃねぇか……!
そこまでする事なのか!?
そうするほどまでに荒れてたってのかよ……!?
「とはいえ、始まりは実に穏やかそのものだったよ。白軍と黒軍の争いもたちどころに消え、平和が訪れたのだから」
「そ、そうなのか……」
「しかし、その時ゲールトは気付いてしまったのだ。〝あれ、これ上手くやれば俺達で天下取れるんじゃね?〟と」
妙な所で軽ぅい!
「そこでゲールト中枢は計画を次なる段階へ移した。自分達を頂点とした支配体制を構築する計画を。……当時はまさに人々の象徴と化していたからな、信奉者達を駆使して世論を操るなど造作もなかったのだ」
「それって、まさか……っ!?」
「そう。それがギルドと勇者の誕生だ」
そうか、そういう事か。
反神組織の大成とギルド・勇者支配の確立。
この二つは繋がっていたんだ。
「奴らは神殺しの晶剣の特異性を利用し、神が世界の理を構築した装置〝世界原理調整機〟を操った。それにより幾つかの理が書き換えられる事になる。冒険者という職が勇者になり、ギルドと名付けた組織員だけが才能システムを自由にいじられるようにとな」
「だから才能選定を行うためにギルドに行かなきゃならないのか」
「うむ。本来ならば機が訪れれば自然に才能が開花したのだが、その原理が変わった事で人々はおのずとギルドを頼らねばならなくなったのだ」
しかも奴ら、才能まで縛りやがった。
これじゃあたしかに逆らう事さえ困難だろうよ。
ギルドが無くなっちまえば才能は選定できない。
人生を人質にされたようなもんなんだからな……!
「だがそれでも、人々の中にはまだ奴らのやり方に異を唱える者達もいた」
「えっ……!?」
「我ら神を信奉する神教徒達だ。彼等は神が消えた事で初めてスキルの恩恵に気付き、不安をぬぐえないでいた。それでゲールトに訴えていたよ。神の封印を解いて欲しい、とな」
「ふむ、殊勝な事ではないかー」
「……だからこそ、ゲールトは彼等を黙らせるためにとある手段を講じたのだ」
なんだ、師匠が顔を俯かせてしまった?
何か思う事があるのか……?
「奴らゲールトは再び世界原理調整機を操り、神教徒達の新たなる象徴を創り出した。そうして生まれたのがこの我なのだ」
「「「ッ!!?」」」
「そして奴らは我を〝唯一創世神〟――つまりはすべての神を統制せし大神として表に立たせ、神教徒達の信奉を一挙に集めさせたのだよ」
師匠が、ゲールトによって生み出された神……!?
そ、そんなバカな……。
「その時ゲールトが企んでいた欺瞞と虚栄、その意思が形となって我は生み出されてしまった。ゆえにその結果、我の象徴は――〝嘘と権力〟となってしまったのだ」
「な、なんたる事か……」
「ひどいれすぅ……」
「その象徴のおかげで神教徒を騙す事など造作もなかった。当時はやっと誕生できた事に喜ぶあまり盲目的になっていたからな、ゲールト達にただ従うばかりだったよ……!」
こう語るたびに師匠が牙をギリリと食いしばり、怒りを露わにし始める。
思い出す事で沸き上がる感情をもう御しきれないのだろう。
こればかりはもう嘘が付けないほどに。
「だが我はあの屈辱を絶対に忘れん! 奴らの傲慢さが我を普通の神とも一線を引いた〝陰神〟へと誕生させたことをなあ!! その象徴のせいで我はこのような人とはまるで異なる姿となってしまったのだからッ!!!」
怒りたくもなるだろうよ。
人や同胞の神を愛していたのに、それらと異なる異形にさせられてしまえば。
師匠はその悔しさをずっと抱いて生きてきたんだ。
どうやってゲールトに復讐しようかと画策しながら、四千年も。
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