底辺採集職の俺、ダンジョンブレイク工業はじめました!~本ダンジョンはすでに攻略済みです。勇者様、今さら来られても遅いのでお引き取りを!~

日奈 うさぎ

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第六章 反逆の狼煙編

第68話 唯一創世神ディマーユ

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 まさか師匠の正体があの唯一創世神ディマーユだったなんて。
 俺やディーフさんの懸念が現実となってしまうとは夢にも思わなかった。

 しかし嘘ではない。
 今も俺達を巨大な姿で見下ろし、畏怖を放っている。
 俺だけでなくチェルトやウーティリス達をも慄かせるほどに。

 これが、唯一創世神……!

「――あ、ちょ、待って、ここ狭くない!? 思ってたよりキツいんだけどぉ!?」
「そりゃそうですよディマーユ様。だって変身を解くなんで卿は聞いてませんし。だから普通の部屋を借りたんですが?」

 ……これが唯一創世神?

「あ、痛っ、天井の隙間に毛が挟まって痛ぁい! もぉなんとかしてエリクスゥ!」
「いや無理ですって。事前申告してくれないと卿も困るんですよ」

 ……。

「んもぉわかった! 天井突き破るから。もう我慢できないからぁ!」
「そんな事したら賠償請求でとんでもない事になりますよぉ? なにせここは非合法の建屋ですし、保証なんて効きませんからね?」
「うッ……ワ、ワカッタ……」

 そうだよね、その姿勢きついよね。
 今もこの小ホールの部屋でつま先立ちでの四つん這い状態だし。

 ああ、エリクスに論破されてとうとうガクリと頭を垂らしてしまった。
 見下ろし過ぎて絶望した顔が丸見えだよ。涙降って来そう。

 ……あー間違いないわ。この人、間違いなく神だわ。
 だってウーティリス達と同じくらい緩いし。

「だからなしてそこでわらわ達と比べるのか」

 いや、だってどう見ても間違いないだろ?

「もういいもん。エリクスのバカぁ!」
「ハァーーー……」
「――という訳でラング、ちょっとお願いがあるんだけど」
「な、なんすか?」
「我の腰辺りにある机をどかしてくんない?」
「う、うす……」
「ありがと~~~」

 巨大で魔王みたいな姿はたしかに怖いままだ。
 けど応対が素直な時の師匠のままで妙に可愛い。
 なんなのこのギャップは……!

 ま、まぁいいかそれは。
 今はとりあえず師匠の言いつけに従おう。

 なのでまず目の前に垂れ下がった巨大双丘を避けて通り、机をズリズリと引いて部屋の隅へと寄せてあげた。

「ふう、これで少し楽になった。ではさっそくだが――」
「「「ゴクリ」」」
「ちょっとベストポジションが決まるまで待ってくれ」
「「「……」」」

 それで次に始まったのは楽な姿勢探しだった。
 あいっかわらずマイペースだなこの人!

 ――という訳で狭い部屋の中、ベスポジを求めてゴロゴロと転がり始める。
 おかげで俺達は転がる度に移動を強いられる事に。

 それで気付けば三〇分くらい経っていて。

「よし、この姿勢がいいな!」

 そうして決まったのは、丸まって横に寝そべる感じの体勢。
 個人的には次点候補の「股の間からこんにちはタイプ」が良かったのだが、首が少しきついらしいので残念だが諦めるとしよう。

「さて待たせたな。では本題に入るとしよう」
「なんかもうどうでもよくなったのら」
「お願い、そう言わないでウーティリス」
「歩き疲れた~~~れすぅ~~~」
「別に悪いようにはしないから座っていいよー」

 ここまできたらもう畏怖も威厳もあったもんじゃない。
 そのせいでウーティリスもニルナナカも随分と気怠そうだ。

「……しかし相変わらずだな二人とも。本当に懐かしい」

 ただ、言った通り師匠にも何かする気はないのだろう。
 落ち着いたからか、穏やかな微笑みを二人に見せてくれている。

「んな事言われてもわらわはそなたなぞ知らんぞ」
「ニルナナカも~~~知らないれ、すぅ~~~」
「ふふっ、知らないのも当然だろう。なにせ我は神封印事件の後にこの体を得たのだから。それまでは思念体としてお前達を見ていたのだ」
「ふむ、まだ思念体であったか。なるほどのう」
「あらあらぁ~~~」
「ああ。いつか肉体を得てお前達とキャッキャウフフする事をいつも夢見ていたよ」

 神封印、か。
 となるとおよそ四〇〇〇年くらい前の話だろうか。
 という事は、師匠はその時の事情を知っている?

「すなわち我が一○九番目、最後の神という訳だ」
「ですが師匠、あなたは唯一創世神と呼ばれていたのでは?」
「その事についてもこれから話そう。かつてウーティリス達が封印される事になった理由や出来事と共にな。お前達にはそれを知る権利がある」

 ――やはりか。
 だからエリクスを派遣して当事者である俺達を呼んだのだろう。
 S級勇者の肩書を利用してでも強引に。

 それは師匠がどうしても俺達に会って、真実を語りたかったからこそ。

「あれはおよそ四三〇〇前の事だった。あの時はまだ神が自由に世界を行き交い、人も彼等を敬って恩恵を受けて文明を構築させていたものだ」
「うむ、懐かしいのぉ」
「れすぅ~~~」
「あの時代は実に発展していた。誰しもがスキルを操り、職業などにかかわらず超常の力を得て自由に事をなせていたのだ。おかげで当時は究極の星滅級ダンジョンでさえ攻略できるほどだったよ」
「すごい……私なんて超級でさえギリギリ戦えるくらいだったのに」

 本当にすごい話だ。
 ウーティリス達が封印される前はそんな事になっていたんだな。
 今じゃスキルを使える奴なんて俺くらいだろうに。

「だが、スキルによる格差があるのも事実だった」
「格差……今の職業格差みたいなものが?」
「そう。とはいえ今ほど酷くはないがな」

 発展し尽くした当時でもそんな状態だったのか。

「ただその格差のせいで人間同士が争っていたよ。白軍と黒軍という形で別れてな」
「ああ~そういえばそんな争いあった気がするのぉ」
「ずいぶんと無関心だなーおい。それこそ大事な話だろうが」
「言ってやるなラング。神とは人こそ愛しているが、彼等の行いそのものには関心がない。ゆえに彼等がやる事にはまったく関与できないのだ」

 人のやる事には無関心、か。
 神ってのも難儀なもんだな。好奇心を持てないって。

「……ただ白軍と黒軍の争いはそれはもう酷いものだったよ。スキルにかかわらず平等の権利を願う白軍と、低ランクスキル所持者を酷使して優劣を押し出した黒軍。彼等の争いは関係のない人々もが嫌気を差すほどだったのだ」

 で、神が無関心だから人間同士が争い始めたのか。
 たしかに、今ではそんな争いは特にないよな。

 勇者がすべての不満を封殺しちまってるから。

「しかしそんな時、とうとうが現れた」

 すると途端、師匠の表情に陰りが帯びる。
 な、なんだ? この人が顔をしかめるほどの……?

「その名は〝反神組織ゲールト〟。スキル至上主義を排し、人間独自の尊厳と自由を勝ち取るために立ち上がった改革団体だ」

 反神組織ゲールト……。
 およそ四〇〇〇年前にそんな奴らが誕生していたなんて。

 だがこの名前、ニュアンス……まさかな。
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