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第六章 反逆の狼煙編
第67話 懐かしの師
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俺を待っていたのはヒントなんかじゃあなかった。
まさかの師匠本人が何の前触れもなく現れたのだから。
ああ間違いない、彼女は本物だ。
あの荒々しくて長い灰色の髪、薄褐色でツヤツヤの肌。
ボンキュッボンでちょっと服が大胆で着こなしがズレている所。
そしてその笑う時に見えるギザギザ歯があなたのトレードマークでしたね!
しかし戦う時にはすさまじく強い。
あの強さに憧れたからこそ今の俺があるんだ。
「さぁそこで突っ立っていないで中に入れ。久しぶりの再会で感極まっているのはわかるけどな」
「あ、ああっ! はい師匠っ!」
本当に懐かしい。
お別れしたのは四年ほど前だっただろうか。
あの時は何の前触れもなく別れる事になったからとても悲しかった。
でも今、あの方が相変わらずの姿で目の前に!
い、いかん、久しぶりすぎてヨダレが出そうになってしまったぁ!
「フフッ、だが相変わらずのようで良かった。それに我が教えた志を今でも大事にしているとも聞いたよ。お前がお前らしいままで我も嬉しい」
「そ、その事なのですが師匠ッ!」
「む……?」
……だけど。
今の俺に、この方を直視する資格はもう、無い。
ゆえに俺は今、土下座をしていた。
あまりの申し訳なさと、師匠への詫びも籠めて。
「ラング、お前いったい何を……?」
「どうかお許しをッ! 俺は、せっかくあなたに修行して頂いたにもかかわらず勇者となれませんでしたッ! あなたに頂いた力を活かせず、誠に申し訳ありません……ッ!!!」
そうだ。俺は師匠の恩に報いる事ができなかった。
あれだけ鍛えたにもかかわらず勇者になれず、頂いた志を活かせなかった。
その事実がずっと心の片隅に残って、後悔の念をずっと吐き出し続けていた。
そんな今の俺に師匠と面と向かうなどおこがましくて――
「あぁ~、なんだそんな事か」
「――え?」
けど師匠はそれを「ふふんっ」と鼻で笑って返していた。
俺が失敗した時によく見せていた、いじらしい笑みと共に。
「別に勇者になどならなくてもいいだろう? むしろ採掘士であって良かったまである。現にお前は今でも志を忘れていないのだから」
「そ、それは……」
「だから今のお前でいられる事に胸を張れ。我はそれだけで満足だ」
「し、師匠……ありがとうございますッ!」
……まさかまたこうしてご教示いただけるとはッ!
この方のこういう優しい所も相変わらずだ!
だからこそその優しさに甘んじて立ち上がる。
こう言われて前向きになれなければ、それこそ恩知らずというものだ。
「それにお前のしている事はすでに聞き及んでいる。ダンジョンブレイカーという名でダンジョンを誰よりも早く攻略しているとな」
「ええまぁ……まだただのコソ泥にしか過ぎませんがね」
「それもお前の信念ゆえの行動だろう? ならば誇ればいいさぁ」
それに師匠の洞察力もすさまじい。
俺の行動理由をすでに見抜いているようだ。
本当にすごい人だよ、この方は。
『だが盲目的になるなよラング。この者は誰にも気付かれる要素のなかったそなたの正体をも見抜いているのだから』
わかっている。
だからこそ少しずつ紐解いていく必要があるんだ。
この方の真意と、こうして会ってくれた目的を尋ねる事で。
「……ところで師匠はなぜエリクスと繋がっていたのです?」
「それは卿も彼女の事を敬っているからだよ。彼女は卿にとっても師であり、恩人であり、それでいて上司でもあるんだ」
「上司……?」
「ああ、そうだ。我は何も勇者だけをしていた訳ではないからな」
えっ……?
それはいったいどういう事だ?
師匠には勇者以外の事もできる……?
「時にはお前に武術を教えた時のように勇者となり、時には商人として走る事もある。今はまさに後者だ」
「商人……師匠が!?」
「そうさ。この方は裏流通組織『リミュネール商会』の会長でもあるんだよ」
「裏、流通組織……」
「ああ、ギルドを介さずに信用のおける専属ハーベスター達から高値で商品を仕入れ、独自の流通網を駆使して早く安く世界中に商品を卸す仕事をしている」
「ギルドを介さず!?」
「だからギルドとも時には争ったりするぞ、フフッ。だが必要以上に抵抗はせず、組織の機能を損なわないよう我自らが転々としているのだ。おかげで今でもしっかりと独自の流通ルートが生きている。この街でもな」
「この街も……ハッ!? それってまさかポットバーナー!?」
そうだ、たしかこの街でも不思議と思う仕入れを行う店がある。
俺達がよく利用するポットバーナーもその一つだ。
「ご名答。あの店の店主とも懇意にやらせて頂いている。おかげでこの街の舌事情も随分と肥えているだろう?」
そうか、だからあのお店は羽振りがいいんだ。
師匠の商会がギルドの中抜きなしに商品を提供してくれるから。
安く、おいしく、食材の種類も豊富だから料理も多彩。最高じゃないか!
「こうして我は独自にギルドと相反して奴らの力を地味に削いでいる。それこそ微々たるものではあるが、それでも市井が少しでも潤うならそれで充分だ」
「そうか、師匠もそうやって志に従って戦ってきたのですね……」
「ああ。今の我にできるのはこれくらいだからな」
やはりこの人は俺が信じた通りの方だ。
誰よりも人の事を考えて行動してくれる……憧れたままの人だった。
あなたがあなたのままでいてくれて、俺はもう感無量です……っ!
「だが、そこでお前の話を耳にした時は驚いたよ。まさかウーティリスとニルナナカをすでに復活させていたとは恐れ入った」
「「「――ッ!!?」」」
「神の二人が表に出ていてくれたおかげでお前の正体にもすぐ気付けたからな。ダンジョンブレイカーとは『スキル』を行使する存在なのだと」
な、なにっ!?
なぜ師匠が二人の事を神だと知っている!?
「下がれラングッ!! こやつ、やはり思考が読めん! 油断するでないぞっ!!!」
なッ!? どういう事だそれは!?
ウーティリスが思考を読めないだと!?
そんな存在がいるのか!?
「思考? ああそれも当然だろう。我は普通とは違う存在だからな」
「なんらと!? そなた、一体何者なのら!」
「そう慌てるなウーティリス。お前達が来たからには最初から正体を明かす気ではあった。ゆえに今こそ晒そう、我の真の姿をなぁ……!」
「「「!!?」」」
な、なんだ、師匠が深く息を吐き出し始めた!?
すると途端、空気が震えた。
それと同時にビリビリとした感覚が肌を突き、悪寒が背筋に走ったのだ。
そんな中、師匠の体が徐々に大きくなっていく……!
衣服さえ引き千切ってしまうほどにメキメキと!
ううっ、褐色の肌が灰色に!?
いや、あれは体毛だ! 灰色の体毛が勢いよく伸びている!
それだけじゃない!
巨大化していく頭にも二本の鋭い角が生え、耳も伸びていく!
牙や爪まで鋭く伸び、まるで異形のごとき姿に変わっていくぞ!?
そうして気付けば、それは俺達を見下ろしていた。
それも体全体で覆い尽くさんばかりに巨大化させて。
「フゥゥゥゥゥゥ~~~……!」
「あ、ああ……これが、師匠の本当の姿!?」
「嘘、でしょ……!?」
「なんたることか!」
「あらあらぁ~~~……」
その巨大かつ畏怖を放つその姿を前に、俺達は恐れ慄くしかなかったのだ。
もはやその姿はとても人などとは言えない存在だったからこそ。
「我が名はディマーユ。かつて唯一創世神と謳われし神の一人である……!」
ま、まさかそんなっ!?
師匠があのディマーユだとぉ!?
謎の多かったあの伝説の創世神が、まさかこうして目の前に現れるなんて……!
まさかの師匠本人が何の前触れもなく現れたのだから。
ああ間違いない、彼女は本物だ。
あの荒々しくて長い灰色の髪、薄褐色でツヤツヤの肌。
ボンキュッボンでちょっと服が大胆で着こなしがズレている所。
そしてその笑う時に見えるギザギザ歯があなたのトレードマークでしたね!
しかし戦う時にはすさまじく強い。
あの強さに憧れたからこそ今の俺があるんだ。
「さぁそこで突っ立っていないで中に入れ。久しぶりの再会で感極まっているのはわかるけどな」
「あ、ああっ! はい師匠っ!」
本当に懐かしい。
お別れしたのは四年ほど前だっただろうか。
あの時は何の前触れもなく別れる事になったからとても悲しかった。
でも今、あの方が相変わらずの姿で目の前に!
い、いかん、久しぶりすぎてヨダレが出そうになってしまったぁ!
「フフッ、だが相変わらずのようで良かった。それに我が教えた志を今でも大事にしているとも聞いたよ。お前がお前らしいままで我も嬉しい」
「そ、その事なのですが師匠ッ!」
「む……?」
……だけど。
今の俺に、この方を直視する資格はもう、無い。
ゆえに俺は今、土下座をしていた。
あまりの申し訳なさと、師匠への詫びも籠めて。
「ラング、お前いったい何を……?」
「どうかお許しをッ! 俺は、せっかくあなたに修行して頂いたにもかかわらず勇者となれませんでしたッ! あなたに頂いた力を活かせず、誠に申し訳ありません……ッ!!!」
そうだ。俺は師匠の恩に報いる事ができなかった。
あれだけ鍛えたにもかかわらず勇者になれず、頂いた志を活かせなかった。
その事実がずっと心の片隅に残って、後悔の念をずっと吐き出し続けていた。
そんな今の俺に師匠と面と向かうなどおこがましくて――
「あぁ~、なんだそんな事か」
「――え?」
けど師匠はそれを「ふふんっ」と鼻で笑って返していた。
俺が失敗した時によく見せていた、いじらしい笑みと共に。
「別に勇者になどならなくてもいいだろう? むしろ採掘士であって良かったまである。現にお前は今でも志を忘れていないのだから」
「そ、それは……」
「だから今のお前でいられる事に胸を張れ。我はそれだけで満足だ」
「し、師匠……ありがとうございますッ!」
……まさかまたこうしてご教示いただけるとはッ!
この方のこういう優しい所も相変わらずだ!
だからこそその優しさに甘んじて立ち上がる。
こう言われて前向きになれなければ、それこそ恩知らずというものだ。
「それにお前のしている事はすでに聞き及んでいる。ダンジョンブレイカーという名でダンジョンを誰よりも早く攻略しているとな」
「ええまぁ……まだただのコソ泥にしか過ぎませんがね」
「それもお前の信念ゆえの行動だろう? ならば誇ればいいさぁ」
それに師匠の洞察力もすさまじい。
俺の行動理由をすでに見抜いているようだ。
本当にすごい人だよ、この方は。
『だが盲目的になるなよラング。この者は誰にも気付かれる要素のなかったそなたの正体をも見抜いているのだから』
わかっている。
だからこそ少しずつ紐解いていく必要があるんだ。
この方の真意と、こうして会ってくれた目的を尋ねる事で。
「……ところで師匠はなぜエリクスと繋がっていたのです?」
「それは卿も彼女の事を敬っているからだよ。彼女は卿にとっても師であり、恩人であり、それでいて上司でもあるんだ」
「上司……?」
「ああ、そうだ。我は何も勇者だけをしていた訳ではないからな」
えっ……?
それはいったいどういう事だ?
師匠には勇者以外の事もできる……?
「時にはお前に武術を教えた時のように勇者となり、時には商人として走る事もある。今はまさに後者だ」
「商人……師匠が!?」
「そうさ。この方は裏流通組織『リミュネール商会』の会長でもあるんだよ」
「裏、流通組織……」
「ああ、ギルドを介さずに信用のおける専属ハーベスター達から高値で商品を仕入れ、独自の流通網を駆使して早く安く世界中に商品を卸す仕事をしている」
「ギルドを介さず!?」
「だからギルドとも時には争ったりするぞ、フフッ。だが必要以上に抵抗はせず、組織の機能を損なわないよう我自らが転々としているのだ。おかげで今でもしっかりと独自の流通ルートが生きている。この街でもな」
「この街も……ハッ!? それってまさかポットバーナー!?」
そうだ、たしかこの街でも不思議と思う仕入れを行う店がある。
俺達がよく利用するポットバーナーもその一つだ。
「ご名答。あの店の店主とも懇意にやらせて頂いている。おかげでこの街の舌事情も随分と肥えているだろう?」
そうか、だからあのお店は羽振りがいいんだ。
師匠の商会がギルドの中抜きなしに商品を提供してくれるから。
安く、おいしく、食材の種類も豊富だから料理も多彩。最高じゃないか!
「こうして我は独自にギルドと相反して奴らの力を地味に削いでいる。それこそ微々たるものではあるが、それでも市井が少しでも潤うならそれで充分だ」
「そうか、師匠もそうやって志に従って戦ってきたのですね……」
「ああ。今の我にできるのはこれくらいだからな」
やはりこの人は俺が信じた通りの方だ。
誰よりも人の事を考えて行動してくれる……憧れたままの人だった。
あなたがあなたのままでいてくれて、俺はもう感無量です……っ!
「だが、そこでお前の話を耳にした時は驚いたよ。まさかウーティリスとニルナナカをすでに復活させていたとは恐れ入った」
「「「――ッ!!?」」」
「神の二人が表に出ていてくれたおかげでお前の正体にもすぐ気付けたからな。ダンジョンブレイカーとは『スキル』を行使する存在なのだと」
な、なにっ!?
なぜ師匠が二人の事を神だと知っている!?
「下がれラングッ!! こやつ、やはり思考が読めん! 油断するでないぞっ!!!」
なッ!? どういう事だそれは!?
ウーティリスが思考を読めないだと!?
そんな存在がいるのか!?
「思考? ああそれも当然だろう。我は普通とは違う存在だからな」
「なんらと!? そなた、一体何者なのら!」
「そう慌てるなウーティリス。お前達が来たからには最初から正体を明かす気ではあった。ゆえに今こそ晒そう、我の真の姿をなぁ……!」
「「「!!?」」」
な、なんだ、師匠が深く息を吐き出し始めた!?
すると途端、空気が震えた。
それと同時にビリビリとした感覚が肌を突き、悪寒が背筋に走ったのだ。
そんな中、師匠の体が徐々に大きくなっていく……!
衣服さえ引き千切ってしまうほどにメキメキと!
ううっ、褐色の肌が灰色に!?
いや、あれは体毛だ! 灰色の体毛が勢いよく伸びている!
それだけじゃない!
巨大化していく頭にも二本の鋭い角が生え、耳も伸びていく!
牙や爪まで鋭く伸び、まるで異形のごとき姿に変わっていくぞ!?
そうして気付けば、それは俺達を見下ろしていた。
それも体全体で覆い尽くさんばかりに巨大化させて。
「フゥゥゥゥゥゥ~~~……!」
「あ、ああ……これが、師匠の本当の姿!?」
「嘘、でしょ……!?」
「なんたることか!」
「あらあらぁ~~~……」
その巨大かつ畏怖を放つその姿を前に、俺達は恐れ慄くしかなかったのだ。
もはやその姿はとても人などとは言えない存在だったからこそ。
「我が名はディマーユ。かつて唯一創世神と謳われし神の一人である……!」
ま、まさかそんなっ!?
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