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第六章 反逆の狼煙編

第66話 娼店街を抜けて待つ者とは

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 エリクスが向かったのは街の端に存在する歓楽街だった。
 いわゆる大人向けの店街である。

 ここはいわば、職才を失った者達の最後の行き場。
 犯罪や失敗を犯して才能をはく奪された者が体を売る場所である。

 それなので路上に立つ者は男女種族さまざま。
 誰しもが買ってもらうために道行く人を誘い、連れ込み、そして事をする。
 ここにやってくる者のその大半がそんなを望んでいるのだ。

 かくいう俺も以前は、もう少しお金に余裕ができたら来たいと思っていた。
 今では考える事もなくなった泡沫うたかたの夢の場所となったが。

 他にもここは奴隷市という役割も担っている。
 同じく才能を失った者が身寄りを求め、真の意味で身売りに来るのだ。

〝新しいご主人様を求め、買われ、飼われてこき使われたい〟
 人の中にはその方がいいと思う人種もいるそうだからな。
 かくいうルルイとヤームもそういう境遇で出会ったらしい。
 二人の場合は最終的に愛で困難を潜り抜けたようだが。

「こっちだ。道が入り組んでいるから迷わないようにね」

 そんな場所をエリクスが手馴れたように進む。
 道もそうだが、客を求めた売り子の手が伸びてきて、通るのが割と大変だ。
 少しでも油断するとウーティリスが連れ去られてしまいそうだぜ。

「あらぁお兄さん、一発ヤってかなーい?」 
「そこのお嬢さん体すごいねぇ、安くしておくよ~?」

 どうやらここの人達は思っていた以上に客引きに熱心らしい。
 隙を突かれて頬にキスされてしまったし。

 ただ、その割に客らしい姿がまばらにも見える。
 おそらくはギルドによる報酬減額が効いているんだろうな。
 ここにもしわ寄せがきているって事かよ。

 そんな世情の垣間見える界隈を越え、ようやく建物の間へ。
 すると心なしか歩速も少し緩くなった気がする。

「ここ私苦手なんだよねぇ~、どさくさに紛れて胸揉まれちゃったんだけどー」
「ニルナナカは~~~体中触られましたぁ~~~祟ろうと思いますぅ~~~」
「お前が言うと本当に祟りが起きそうだからやめてやれ。彼等も必死なんだよ」

 そう、生きるために必死なのさ。俺達と同じでな。
 
「ここから非合法地帯の建物に入るから、この先で見た事聞いた事はすべて口外無用でお願いしたい」
「わかった」

 なるほど、非合法のお店があるのね。
 それならたしかにギルドの手も及ばないし、勇者でさえも近づかないだろうよ。
 奴らも曲がりなりにもプライドがあるからな、そういう所は絶対に利用しない。

 それでついていくまま建屋へと入れば、意外に綺麗な内装が出迎えてくれた。
 赤じゅうたんに黒塗りの木壁……どこぞの高級屋敷だよ、ここは。

 ここでやっとフードを外す事も許され、息苦しさからも解放。
 怪しくも丁寧そうなタキシード大男達の傍を通り、通路の奥へと歩き進む。
 途中で裸に近い格好の男や女が通る辺り、ここも一応は娼館なのだろう。

 ほら、耳をすませばさっそく聞こえてきたぞ。

「……オウッ! オォウッ! イイッ! もっと叩いてェ! もっと強くブッ叩いてェ!!」

 なるほど、ここはそういう店か。

「アオウッ! ンンッ! しゅごぉい! もっと、もっと激しくしてラングゥゥゥ!!!!!」

 な、何ィ!? そこでなんで俺の名が出てくんだ!?
 ……いや待てよ? この声、どこかで聞き覚えがあるんだが?

 そんな事を考えているうちに、漏れてきた声がどんどんと大きくなっていく。
 そうしたら開かれた一室の前にさしかかり、中で悶えていた女とつい目が合ってしまった。

「あ」「あっ」

 おかしい、あの顔を俺は知っている。
 メガネがよく似合うあの女にそっくりだ。

 そんな女が今、全裸の亀甲縛り状態で真っ赤に染めたケツを向けたままこっちを見ているんだが?

「ラララ、ラング=バートナアアアァァアアァァア!!!??」
「お、おい……じょ、冗談だろ……?」

 ま、間違いない、本物だ。
 あの本物の鉄面皮メガネが顔をも真っ赤に染めて俺を見ている!

「あ、ああ、あああ……」
「あ、その……まぁ、うん」
「ケケケダモノォ! ケダモノオオオン! ケダケダモモ%$&#@*!!!!!」

 しかもなんかよくわからん奇声を叫びながらゴロゴロと転がり始めたんだが?
 おかげでもう色々とグチャグチャだし、男優もビビってるじゃねぇか!

 そして遂には動きを止めてしまった。

 あ、でも顔を覗いてみると、光悦した表情のまま目をキメながら痙攣している。
 どうやら昇天・失神してしまったらしい。

 ……ま、いっか。

「何を立ち止まってるんです?」
「おお、すまん、衝撃的なモノを見てしまったモンでつい」
「ホント口外は無しでお願いしますよぉ?」

 したくてもできるワケがない!
 レトリーと俺がここにいた事がもう大問題になるわっ!

 だから安心してくれレトリー、この事は誰にも話すつもりはねぇから。
 好きなだけ俺の名を使って愉しんでストレスを発散してくれよな!

 ――とりあえず先に進もう。

 それからどれだけ長く踏み込んだろうか。
 もう地下にも入った気もするし、登った気もする。
 想像以上に長い道なりが待っていて、すでに位置間隔すら失われてしまった。
 よほど何かに警戒しているんだろうな、この施設を造った奴は。

 だが、どうやらそれもここまでらしいが。

「着いたよ。さぁ、入ってくれたまえ」
 
 エリクスが足を止め、目の前に現れた扉へと手をかける。
 そうして俺達を誘いながら、ついにその扉が「キィッ」と開かれた。

 しかしその瞬間、俺はつい目を疑ってしまったのだ。

「おっ、やっと来たかラング! おやぁ、随分と老けたんじゃないかぁ~!?」
「えっ……えええええーーーっ!?」

 う、嘘じゃないよな!?
 本当なのか!? 本物なのか!?

 まさかのあのシャウ=リーン師匠本人が部屋の奥にいるだなんて!

 堂々とデスクの向こうで座って待っていたんだ。
 俺の憧れで、目標で、逢いたいと思っていたあの人が……今すぐそこに!
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