底辺採集職の俺、ダンジョンブレイク工業はじめました!~本ダンジョンはすでに攻略済みです。勇者様、今さら来られても遅いのでお引き取りを!~

日奈 うさぎ

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第五章 ギルド圧政強化編

第60話 意外な訪問者

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「ダンジョンの気配を感じたぞ! あっちなのら!」
「よし、うおおおーーーっ!」

 出現したばかりという上級ダンジョンへ向け、全力で掘り進む。
 魔掘具のおかげで一回の掘削可能距離も増えたから、進行速度が段違いに上がっている。
 これなら勇者どもが街を出る前にも攻略開始できそうだ。

 目的地のビルツ盆地はワイスレットから馬車でおよそ二時間の距離。
 その間に宝を掘り尽くしておかなければならん。なかなかにタイトだ。

 しかし俺のスタンスを崩すつもりはない。
 まずは魔王の財宝から始め、深部から順々に回収していく予定だ。
 浅層の宝はこの際だから諦める事も視野に入れておこう。

「魔王の部屋はあっちなのら」
「よし、前回通り慎重に行くぞ」
「わかっておる。よし、そこで止まるのら。そしてこの指示方向を掘れ!」
「わかった、行くぞ! はあああっ!」

 もうやり方はわかっているからな、何の疑いも無い。

 おかげで掘削一発。
 穴が開くと同時に、肉塊のズドンと崩れる姿が見えた。
 あいかわらずえげつない威力だぜ、無限穴掘りは。

 それで中に入ってみれば四本腕の巨大猿人みたいな奴が倒れていた。
 インベントリの説明いわく、『愚の魔王グラッゾル』という事らしいが。

 そんな事よりお宝だ。
 しっかり宝箱が待ってくれているし、サクッと頂いてしまおう。

 そう思うままにマトックを振り上げた――その時だった。

「まさか本当にこんな早く訪れてくれるとはね」
「――ッ!?」
「おかげで退屈せずに済んで良かったよ、あははっ」

 突然の声に驚きつつも、咄嗟に宝箱を背にして身構える。
 拍手と笑い声が木霊するその中で。

 すると声の主が暗闇の中からコツリコツリと歩んできた。
 まるで暗闇と同化していたかのごとく、僅かずつ気配を晒しながら。

「ううっ!?」

 そうして現れたのは、なんとあのエリクスだ。
 あの優男があろう事か、誰もいないはずだった最深部にいた!

 まさか先回りしていたのか!?
 俺が来る事を見越して!?

 でもなぜだ!? どうしてこんな早く来れる!?
 ダンジョンの事を知ったとしても、直通で来た俺より早く来れるなんて――

「やはり噂通り、君はあなどりがたいね。ダンジョンを出現直後に直行したっていうのに、こうも先回りされそうになったんだからさ」

 出現させた、だと……!? ダンジョンをか!?
 コイツ、何を言って……

「しかしこうして君に出会えた。まったくもって喜ばしい事さ。余計な手間を踏まなくて済んだからね……!」
 
 いや、考えている暇はないぞ!?
 あいつ、すでに臨戦態勢だ!

 奴の武器は矛槍。
 それも先刃のすぐ根本にも取手が付いている奇妙な形の。

 それを広げた両手で携え、腰を低く据えながら俺に殺気を放っている……ッ!!!

「コンバット・イミティション! シークエンス、ランスオブカインズッ!」
「くううッ!!?」

 そして突如、散光!
 例のごとく藍色の光を放ち、俺へと一直線に飛び込んで来た! 速い!

 だがそれを、俺は間一髪マトックで受け止めた。
 刃先を柄で滑らせ、取手にあるフィンガーガードへと打ち付けるようにして。

「おおおッ!!!」
「ッ!?」

 その直後、俺はすかさずマトックを強引に振り上げる。

 力比べになったら勝ち目がないからな、一気に決めさせてもらう!
 このスキル有りの一振りで、貴様をアイテム化してやるぞッ!!!

「これはまずいねえッ!?」

 しかし奴はこの時、華麗に跳ね飛んで離れていた。
 それも俺が刻んだ掘削軌道をも避け、ひらりと舞うようにして。

 俺の一撃がかわされた、だと!?
 あんな至近距離で、ほぼ当たっていたようなもんだったのに!?

 コ、コイツ……ッ!?

「お、おやおや、これはすさまじいねぇ。一撃でも貰ったら実にまずいヤツじゃあないか……!」

 ただ奴も、俺が刻んだ一撃の威力を目の当たりにして驚きを隠せなかったらしい。
 なにせ一瞬で、軌道上の床と奥の壁を削ぎ取ってやったからな。

 ついでに、奴の槍先もろとも。

「この槍も結構よい代物だったのだけどね。まさかこうもたやすく破壊されるとは思ってもみなかった」
「……!」
「おっとぉ、『次は槍だけじゃ済まされないぞ』って言いたげだね、はは……」

 奴の攻撃力はこれで奪った。
 しかし奴にはあの脅威の体術がある。
 もしまた攻勢に出られたら次をしのげる確証は無いぞ!?

 だから俺はあえて力強く一歩を踏み出し、奴に威嚇を仕掛けてやった。
 師匠に教えられたとおり闘志をみなぎらせながらに。

 さらにはマトックを両腕で力一杯に腰へ回し、力を溜める。
 いつでも奴に最大の一撃をぶちかませるようにな……!

「へぇ、命波まで放てるのかい……! 君はやはり噂以上の存在だねぇ」
『警戒せよラング! この男、なお底が見えん!』

 わかっている! 命波の事まで知っているならなおさらな!

 魔力でもなく、闘気でもない。
 命そのものを震わせて放てる力の発光――それが命波。

 真の武人だけが扱える、瞬間的に自身の能力を跳ね上げる超高等技術!
 それを使えるというだけで危険人物だという事に他ならない!

 そいつが、また来るかっ!?

「……けどもう辞めておこう。君の力を確かめるのはこれで充分さ」
「ッ!?」
「それではまた逢おうっ。それじゃあね、
「……」

 でも奴は途端に戦意を消し、左手を青白く輝かせた。
 あれはポータルの光か。

 すると途端、奴の体に光がほとばしって弾けて消える。
 ポータルで転送魔法を発動させたのだろう。おかげで助かった。

 ……しかし、奴は俺の正体を知ってて待っていやがった。
 それにダンジョンを出現させたっていうのも気になるし。

 ああちくしょう、訳のわからない事だらけだ!

『らが、正体を知っていてなぜギルドに隠す? 奴はわらわ達を倒すために来たわけではない?』

 知るかよ、俺がそんな事。
 謎の多いS級勇者だけあって何を企んでいるのかさえ読めん。

「……まぁ悩んでいても仕方あるまい。とっととやるべき事を済ませるのら」
「しゃべってもいいのかよ? まだ近くに奴がいるかもしれんぜ?」
「それはない。今、奴の気配はこのダンジョンにはないからの。おそらく外へ飛んだのであろうな」

 なるほど、ウーティリスがそう言うなら間違いはないか。

 だが、何を考えているのかわからない以上、奴は危険すぎる。
 最悪の場合、ワイスレットを離れた方がいいかもしれんな。
 居心地は悪いが、住みやすくはあったから気に入っていたんだけども。

 ああクソッ、この先一体どうなっちまうんだ俺は……!
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