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第四章 首都遠征編

第54話 拠点への帰還

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 まさか師匠から渡された代物が呪物だったなんて。
 そしてギトスはそれを利用していたから速攻でA級にまで駆け昇れたって事か。

 そういえば師匠もこう言っていた気がする。
〝このペンダントを付ければお前をより強くしてくれる事だろう〟と。
 それもまじないのような物かと思っていたんだが、まさかガチとはな。

 ただ、その能力もウーティリスが復活した事で失われてしまった。

『うむ、おそらくそれでランク落ちしてしまったのら。今も心でウダウダ言っとる。〝僕が力を失った訳じゃない、調子が悪いだけだ〟とな』
『往生際が~~~悪いれ、すぅ~~~』

 おそらくそれを話してもギトスは信じてくれないだろう。
 あいつは師匠を俺以上に信奉しているからな、ペンダントは絶対に手放さないだろうよ。
 だからもうそれはいい。あいつ自身が気付くしかない問題だから。

 でも問題は、なぜそれを師匠が持っていたか、だ。

 力が強くなる装備だと思って持っていたのか?
 だったらそれをどうして安易に人へ渡せる?

『あるいは、効力の意味を知っていて敢えて配っていたか』

 それは神だからか?
 ウーティリスが封印されている事を知っているからか?

 クソッ、嫌な事ばかり思い浮かんじまう!
 ディーフさんの予測が頭から離れていないから!

 そう信じたくはない。
 だけどそう思えて仕方がない。

 だとしたらなんで俺達に「勇者とは人を守るものだ」と教え回っている!?
 ウーティリスを埋めた者と関係があるなら、その力を利用して守ろうとしていたって事なのか!?

 ウーティリス達は、そのためだけに埋められたってのか……?

『……まぁ別にそれはどうでもよかろう。わらわは現に復活し、今はとても幸せなのら。そなたと出会えた事でのう』

 ウーティリス……。

『それと似た事で不幸になる者がおるなら、それは他人の不幸に頼って生きてきた愚者に過ぎぬ。改めるべきは装着者にあろう』

 だが恩恵に気付かない事だってあるだろう?

『ならばなおさらよ。それは所詮うぬぼれであり、己の力を把握しきれておらぬという事に外ならぬ。真の賢者ならばまず最初に力の根源が何かを確かめよう』

 な、なるほど。それは一理あるな。
 才能を才能で済ませる事なかれ。師匠もそう言っていた。
 だから俺には特に厳しく当たっていたな。

『そうなるとラングには真の意味で期待していたのかもしれぬ。力を渡さなくともやれるという気概があったからこそ』

 それはそうかもな。
 おかげで俺は採掘士だが、今はみんなと一緒にいられるくらいになれたから。

『れすねぇ~~~才能はぁ~~~おまけれすぅ~~~大事なのはぁ~~~気合いれ、すぅ~~~!』
『うむ。それにこのギトスという男が気付かぬ限り、永遠にこのままであろう』

 教えたいんだがね、本当は。

『それは甘えというものら。真に信じるならば手を差し伸べるべきではない』
『本当に~~~強くなりたいとぉ~~~思うならぁ~~~自分で気付きま、すぅ~~~』

 なら俺は信じよう。
 ギトスがちゃんと自分で気付く事を。
 ついでに、人を咎める事が勇者じゃないって思い出す事も。

 師匠はそんな事をしろだなんて一言も言っていたなかったからな。
 人を助け、救い、自らを呈して守り抜く事なんだって。
 みんなとの笑顔を守るのが勇者の真の使命なのだと。

 そう思い出すまで俺は我慢し続けるさ。
 それでもなお愚かしくあり続けるなら、一発ぶん殴る事も吝かじゃないがな。



 こんな話を交わしながらだったからか、到着するまでの半日が過ぎ去るのはあっという間だった。
 それにしたってさすが高速馬車、ボロ滑車なんかとはまるで違う異次元の速さだ。

 そんな訳で一ヵ月ぶりのワイスレットへと帰還。
 シーリシス家との付き合いもあって日々が目まぐるしかったから懐かしくも思うよ。

 はやくナーシェちゃんに会いたい。
 あの可愛くて素敵な笑顔で癒されたいっ!

 それと仲間達は元気にしているだろうか。
 ルルイとヤームにはそろそろ子どもができてもいいよな。

 ……一ヵ月だけだからそこまで変化はないか。

「もう遅いし、夕食はポットバーナーで食べてこよう。ついでにギルドに帰転届けを申請してこないとならん」
「そうだねー。それにしても、んんーーーっ! さすがに疲れちゃったかな」
「なら家に帰って寝ていてもいいぞ。メシならテイクアウトを買って帰るし」
「お言葉に甘えちゃおっかなー。じゃあ先にベッドの上で待ってるねっ♡」
「なら俺は床で寝よう」
「なんならわらわのベッドの上でもよいぞっ♡」
「ウーティリスはニルナナカと一緒にどうぞぉー!」
「やったぁ、ウーティリスちゃんと~~~添い寝れすぅ~~~!」

 ま、ギトスはさっさと行っちまったし、もうちょっかいは出してこないだろう。
 だから今日は俺一人ででも問題無い。

 それなので三人を家に帰し、ひとまずポットバーナーへ。
 テイクアウトの弁当を四つ注文してからすぐ近くのギルドへと向かった。

 おお、久しぶりの庁舎だ。
 あいかわらず腐った空気がプンプンしてやがるぜ。
 アラルガンも相当だったが、ここは格別に視線が痛いし臭い。

「まだギリ受付時間だよな?」
「あら帰ったのですねケダモノ」
「おう、元気そうじゃねぇか鉄面皮メガネ」

 それにあいかわらずのレトリーも健在だ。
 俺がカウンターにやってきた途端に食い付いてきやがった。
 ああもう、そのメガネクイクイはうっとおしいからやめてほしいんだけど?

「それにしても、その服……絹ですか。どうしてそんな高価な物をケダモノが?」
「あぁ、これね。ちょっと職人と懇意になって、安く譲ってもらったんだよ」
「なんてことなのケダモノ! うらやましいからワタクシにも紹介なさい」
「そういう所は正直なのな」

 だが断る! これはチェルトの父さんに貰った物だからな。
 変に疑われないようにこういう嘘の理由にしているんだ。

 それに鉄面皮メガネ、よもやお前に教える訳がなかろう。
 ええい、メガネを外しておめめをキラパチさせてもダメなんだからっ!

「帰転届けを出しにきたから手続きを頼む」
「絹……」
「手続きを頼む」
「クッ、仕方ありませんわね。やっておきますわ」
「ところでナーシェちゃんは?」
「ナーシェ=アラーシェは本日休みです。ですから悦びなさい。ワタクシに応対してもらえる事を!」
「じゃあ俺帰るから」
「ケダモノォーーーッ!!!」

 付き合ってられるか。
 家で腹減り女子達が首を長くして待っているんだ。

 ナーシェちゃんと会えなかったのはこの際仕方ない。
 だけど明日ならいるだろうから平気だしぃ! 悔しくないしぃ!

 ……ま、でも特に何も変わりなさそうで良かったよ。

 そんな訳でおまけで貰ったおかずを残業していたレトリーに渡し、俺は足早に帰ったのだった。
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