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第四章 首都遠征編

第51話 チェルトの査定の結果は?

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 地下封印ダンジョン攻略からもう一週間。
 ニルナナカの復活で心なしかウーティリスの調子がよくなったように思える。
 雰囲気こそ以前とは変わらないが。

 しかし一方のニルナナカは現代への関心がアイツほどにはないらしい。
 今はシーリシス家の屋敷と土地を歩き回る程度で、外まではついてこなかった。

 なので俺はウーティリスとチェルトだけを連れてギルドへと向かう事にした。
 シーリシス家が面倒見てくれているとはいえ、いつまでも甘んじる訳にはいかないからな。

 そう、ただ甘んじていてはいけないのだ。
 少なくとも、チェルトの好意を受け入れられない今はまだ。

「チェルト、一つだけ伝えておきたい事がある」
「えっ? もしかして結婚の受諾?」
「……いや、逆だ。その話はしばらく置いておいて欲しい」

 あのダンジョンを攻略してから少し俺なりに考えてみた。
 チェルトの熱烈な好意にどう向き合うべきかを。

 たしかにこのまま結婚も悪くない。
 誰もが憧れるシチュエーションだし、人生の安定化さえ容易だろうさ。
 以前の俺だったら迷わず受託していただろう。

 ――だけど。

「俺にはやる事ができた。ウーティリスやニルナナカのような存在を世に解き放ちたいって。それと俺の力を正しい形に使いたいって事もな」
「……そっか、そうだよね。ラングには使命があるもんね」
「ああ、師匠から受け継いだ志は勇者じゃなくとも目指せるんだってわかったから」

 人のために、誰かのために。
 そうできる力を得た今は思うがままに生きられるようになった。

 だったら俺は自分が一番望む事を成したいと思う。
 勇者以外が困窮する今の世の中の仕組みをぶち壊したいという願いを。

 それが師匠の受け売りではなく、俺自身の願いだから。

「だからチェルト、申し訳ないけど……俺が納得がいくまで付き合ってくれないか?」
「ふふっ、仕方ないなぁラングは。もうわがままなんだからぁ……」
「すまん」
「ううん、だけどわかった。私もその夢に付き合うよ。願いが成就するか、心が折れる時までね」
「わらわもトコトン付き合ってやるのら! なんたってわらわはそなたのパートナーらからのう!」
「ああ、ウーティリスもありがとうな」

 ……二人とも心が広くて助かる。
 こんな俺に付き合ってくれるって言ってくれるのも本当にありがたいよ。
 なら想いには応えられなくとも、常々礼くらいはしておきたいものだ。

 こう心境を語って二人の理解を得る。
 そうする中でとうとうギルドに到着だ。

 ただ、さすがに馬車から降りれば体裁をとらなければならない。
 なので今はチェルトの付き人という役に徹するとしよう。

「すみません受付さん、ギルドマスターはおられますか?」
「あら、あなたは……わかりました、少々お待ちを」

 しかしここはさすがのチェルト、ギルド員にも顔が知られているようだ。
 チェルトにこう言われた途端、即座に席を立って階段を駆け上っていく。

 するとさっそくギルド員が戻ってきた。

「チェルト様、三階のギルドマスターの部屋へどうぞ」

 一言でこれか。
 普通ならB級程度じゃこうもいかないはずだ。
 シーリシス家唯一の嫡子だからって事もあるんだろうな。

 一方のチェルトもチェルトで随分と慣れているらしい。
 そう言われると俺達にもついてくるよう手招きしながら歩み始めていく。
 さらにはギルド員が困惑していても関係無く、俺の手を引いて階段を登る始末だ。

 これはちと恥ずかしいぞ……!

 それでギルドマスターの部屋へと辿り着いたのだが。

「久しいなチェルト――おや、その男と娘は何者かな?」
「私の連れです。ですのでおかまいなく」
「ああ、例の件で関係を深めたというハーベスターか。随分と親身になっているようじゃないか」
「ええ、おかげさまで」

 ワイスレットのギルドマスターと違い、こっちのは容姿共に落ち着きを感じる。
 あっちは粗暴さもあるから近寄りがたいんだよなぁ……そういう意味では救いか。

「ところで例の件の話は聞き及んでいますか?」
「もちろんさ。地下封印ダンジョンの消滅はしっかりと確認させてもらったとも」
「そうですか。良かった」

 どうやらギルドマスターも事情を知る一人らしい。
 となると対面を希望した理由はさしずめその一件のためかな?

「そこでなのですが――」
「わかっている。封印ダンジョンにおける戦績の反映だろう? すでにディーフ殿からも言付かっているよ」

 そうか、地下封印ダンジョンでも勇者の戦績を残せるんだな。
 それでディーフさんも「ここでA級に」と息巻いていた訳か、なるほど。

 ……だったら相当な戦績になるんじゃないか?
 なにせ超級で、コアを守る奴らの相手をしていたくらいなのだから。

「ならさっそく査定に入るとしよう」

 ギルドマスターが何やら水晶球を取り出し、チェルトの傍へ。
 左手に球を、右掌をチェルトにかざして上半身から下半身へなぞっていく。
 随分といやらしい手つきに見えるが、触れてはいないからノットギルティだ。

「ふむ、ずいぶんと格上の相手とやりあったみたいじゃないか。さすが新進気鋭と言われるだけの事はあるな」
「お褒めに預かり光栄です」
「フッ、君の小さい頃から知った仲なのだ、そう頑なになる事もあるまいに。……査定は以上だ」
「それで結果は?」
「急くなよチェルト。まぁいい、文句なしだ。君はこれからA級勇者を名乗りたまえ」
「ありがとうございます」
「正式な手続きと称号に関しては後ほど届け出を出そう。これからも世のため人のためによろしく頼むよ」
「はい、心得てあります。では失礼しました」

 しかしチェルトに珍しく、終始頑なだ。
 特にそれ以上の事を語らず、さっさとギルドマスターの部屋から出てしまった。

 ……これ、俺達がいた意味はあったのか?

「ごめんねラング、変な所にまで付き合わせちゃって」
「いえいえ滅相もございません。そんな事より、A級昇進おめでとうございます」
「それは後のプライベートでまたたっぷり聞かせてね」
「……承知いたしました」

 ああ、あとで存分に祝ってあげるとしよう。
 この目でA級に上がる所をとくと目の当たりにできたしな!

 とはいえ、飾りっ気もなく随分とあっさりで拍子抜けだったけれども。

「昇進っていうのは大概こういうものよ。基本的には昇進の場よりも、周りの盛り上げばかりが目立ってしまうだけで」
「……顔に出てしまいましたかね?」
「ええもう! ラングって結構わかりやすい所があるんだからっ!」
「ううっ……以後気を付けやす」

 なんてこった、俺ってそんな表情に出やすかったのか!?
 ギルドマスターに妙に疑われてなきゃいいんだが……。

 これは早めに矯正しないとまずいな。
 今後ダンジョンブレイカーとして誰かと遭遇しても、誤魔化せなければ変装の意味がない。

 これは一つ課題ができたようだな。
 あの頑なな無表情をできるだけ維持するという目標が。

 ならばまず表情筋を徹底的に鍛え上げていくとしよう。



 ――なお、チェルトがギルドマスターの下に連れて行った理由はなんでも、「これからの相手を把握させるため」だったそうだ。

 ダンジョンブレイカーの敵は勇者だけではなくギルドも。
 この組織もまた不遇の元凶だからこそ、俺に知って欲しかったのだという。
 きっとチェルトも今までに思う所が多々あったんだろうな。

 だったらその想いには存分に応えないとならねぇ!

 俺はそう心に誓いつつチェルトと共に行く。
 ついでにダンジョンの情報も得たからな、景気づけに一発ブチかましてくるとしようか!
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