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第四章 首都遠征編

第46話 師匠より学びし勇者の心と力

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 ある時、師匠はこう言っていた。
〝戦いの真髄とは、相手を見極める事にこそある〟と。

 相手の実力を見極め、その隙を狙い、慢心なく打ち込む。
 そうすればおのずと相手は地に伏せるだろうとな。

 力で押して勝つ事もできるだろう。
 しかしそれでは格上に勝つ事など到底かなわない。
 だから見極める力こそが勇者には必須なのだと教えてもらったんだ。

 勇者とはすなわち、苦境に立たされてもなお強大な敵に立ち向かわなければならない職だからこそ。

 ……ただ、今の俺は勇者じゃない。
 本来なら戦う事もままならない採掘者だ。

 よってこの際だから道理は無視させてもらう!
 スキルという絶対の力があるなら、見極める力だけを利用しよう。

 ゆえに俺は今、両手に掴んだ魔掘具を腰横へと回して屈み込む。
 さらには目を瞑り、集中し、気配を感じ取るのだ。

 この一帯すべてに存在する、俺達への敵意を。

「な、なんじゃ!? ラング君の体が!?」
「光って……!?」

 ああわかる、わかるぞ。
 ひとつ残らず感じ取れる。
 師匠の教えのおかげか、スキルのおかげかはわからないがハッキリと。

 だが理屈なんて必要は無い。
 感じて、受け取って、吐き出そう。

 俺の中に流れる力をただ、相棒というべき魔掘具へと送り込んで。

「輝きが!」
「道具に集まって行く!?」

 行くぞ相棒。
 今、お前の力を見せつけてやろう。

 俺達の力ならば、もはや不可能はないのだと!

「くぅおおおおおおおッッッ!!!!! 〝駆走閃薙くそうせんてい〟ッッッ!!!!!」
「これはまさかっ!? 居合かあああッ!!?」



 ――そして横薙、一周。



「ふぅぅぅぅぅ~~~……〝出で立つ命に感謝を、我がつるぎの英魂とならん〟」 
「ッ!? そ、その台詞は……!」

 薙ぎ払わせた魔掘具を再び腰に当て、すっくと立ち上がる。
 それでゆるりと目を見開けば、俺が成した結果がすぐ露わとなる。

 魔物はもうすべて消えさっていた。
 俺がそのすべてを削ぎ取り、掘り尽くした事によって。

 その後、一礼。
 これが師匠に教わった勇者としての礼儀である。

「すごい、これがダンジョンブレイカーの力……」
「あ、ちょ、その名前出さないでくれる?」
「あっ!」
「ふむ、なるほど。つまりラング君があの噂のダンジョンブレイカーだった訳か」
「あちゃあ~~~……ごめんラング~!」

 ……せっかくカッコよく締めたのに台無しだ。
 ああ、ディーフさんがめっちゃくちゃこっちを睨んでいる。

 そうだよな、財宝強盗まがいな事しているから噂になってるよな。
 まぁ首都にまでその名前が伝わってるのはすごいと思うが。

 しかし、さてどうするか。
 ディーフさんよりも速く駆け抜けられれば逃げられるかもしれないが。
 あの剣を回避するのは、おそらく俺じゃ無理だろうから。

「――ま、ええか!」
「いいのかよ!?」

 軽い! そして決断あいかわらず早い!

「そりゃ孫のフィアンセじゃし? なら強い方が箔がつくというものじゃ」
「なんつうおじいちゃん理論!」
「じゃがもしチェルトを泣かせてみよ……ワシが貴様を切るゥゥゥン」

 う、うおおお!? 殺意がヤバイ!
 肌が焼けるように熱いんだが!? 睨まれているだけなのに!?

 だ、だけど許してもらえたらしい。
 俺の事を見逃してくれるという事か。

「まさか何か上納品をよこせとかいいませんよね?」
「そんな事なぞするものか。ラング君が強い、それでよいではないか。ちと常識外れな強さではあるが、それもまた一興よ」
「はぁ……」
「そもそも今の時代に差別が溢れておるのは、ワシらの祖先が『封印ダンジョンはハーベスター達の聖地である』という事実をも封じてしまった事にも一因があるのじゃろう。かつての栄光をも秘匿してな。その罪を考えればワシらにダンジョンブレイカーをとやかく言う筋合いなどない」

 そうか、じいさん達ははるか昔からの伝説を受け継いでいる。
 それと同時に罪の意識をも引き継ぎ続けているのだろうな。

 はるか昔の祖先が後悔した過ちを、資産と共にずっと。

「ゆえにワシは何も見ておらぬし、何も知らぬ」
「ありがとうございます、ディーフさん」
「うむ」

 なによりこのディーフさんは義理人情に深いお人のようだ。
 俺がチェルトと婚約(?)している立場というだけでなく、一人の人間としてよく見てくれているのだと思う。
 特に、誠実だと言い放ってくれた俺の人柄を。

「さて、それでも魔物がすべていなくなった訳ではあるまい?」
「そうっすね、大体周囲二~三百メートルくらいの範囲しか削りきれませんでしたし」
「……ま、まぁともかく、何かをするつもりで来たのならさっさと済ませよ。安心せい、そなたの背中はワシが守ろう」
「えー私もいるんだけどー」
「チェルトはラング君の股間でも守っておれ」
「あ、そっか!」
「そっか、じゃない」

 でもやっぱりこの人達なんかズレてる。
 どうしてそう結論が速いの。股間くらい自分で守れますぅーーー!

 まぁいい、とりあえず代替コアを掘り出そう。
 この壁に埋まってると思えばいいのだろうか?

「うむ、その中すぐそこにあるはずなのら」

 ウーティリスも俺の正体がバレたからって適当になったな。
 俺のすぐ近くにある壁面に指を向け、頭をポンポンと叩いて来た。

 それなのでひとまずガツガツと道具で掘ってみる。
 スキル無しで慎重に、ほんの少しずつ表皮を削り取るようにして。

 すると途端、矛先がガツンと止まった。
 どうやら何かを掘り当てたらしい。

 ――だったのだが。

「う、おおおっ!?」
「なんじゃ、眩しいぞい!?」
「きゃーーーっ!!!」

 突如として光が溢れ、視界が埋め尽くされる。

 だけどこの輝きは、この強い光はっ!
 俺はこの輝きを知っているぞ!

 だったら、まさかっ!!!!!

 その想いで目を見開き、収まりきらない光を腕で凌ぎながら壁を見る。
 するとやはりそれは確かにあったのだ。

「ケツだ……やっぱりケツがありやがったああああああ!!!!!」

 ――なんでだよ!
 だからなんでケツなんだよ!

 ピンポイントでケツが掘りあてられるってどういう事なんだよォォォ!!!!!
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