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第四章 首都遠征編

第42話 いざ封印ダンジョンへ!

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 チェルトのメイドさん達が作った料理は絶品だった。
 おまけに量も大量で、久々に満腹まで食べられた気がする。
 ウーティリスも膨らんだお腹をポンッと叩いて満足げだ。

 ああ、こんな物を食べたらもう自分の料理が食べられる気しないぜ。

「さぁメシも喰ろうたし、ダンジョンに行くぞ!」
「あ、そうか……装備どうするかな」
「なーにを悩んでおるのら」
「いやな、いつも通りで行くか、で行くか悩ましいんだよ」
「何を言うておる。最適オブ最適、それ以外にあるまい」

 とはいえダンジョンブレイカー装備で行くのは憚れるんだよなぁ。
 ただいざって時は疾風の面具が必要になりそうだし。

『ならば疾風の面具だけ付けて行けばよいではないか』

 うーん、ま、それが最適かな?

 そういう事でウーティリスの言う通り、面具だけを取り出し頭に備える。
 あとは普段のボロ装備と、さっき貰った魔掘具を腰にマウントして準備完了だ。

「ほう、君は疾風の面具も持っておったのか」
「さすがコレクター、よく知ってますねぇ」
「うむ。それは良い物じゃ。防御力が低いのと、扱いが難しいのがネックじゃが」
「重宝してますよ。採掘士ですからね、逃げられる方がいい」
「何から逃げるかは知らんが、ラング君がそういうのであればそうなのじゃろう」

 おっと、少し迂闊な事を言ったかな。
 このじいさん、結構勘が鋭そうだ。
 装備に関してあまり深い事は話さない方がいいかもしれない。

「なら私は新装備を試させてもらおうかな」
「わらわはいつも通りラングの背中なのら!」
「お嬢ちゃんも行くのかい!? まぁ止めはせんが」
「いつも一緒なんでね、そこは許してやってください」
「あらあらぁ、地下ダンジョンなんて久しぶりねぇ、パパ?」
「そうだねぇ、今日は珍しい種が採れるといいんだけど」

 おや、チェルトの両親もついてくるつもりなんだな。

 となると詰まる所のこれって、一種の家族ピクニックみたいなもんか?
 しかも俺を採掘場までエスコートするための。
 だとしたら少しは気楽かもしれないな。
 
 それで俺達はじいさんの後をついていき、地下へと向かう。
 そうして地下二階くらいだろうか、割と屋敷の奥深くにそれはあった。

 赤く塗られた木製の二枚扉だ。
 しかも隙間から白い光が漏れ、とてつもなく不穏に感じる。
 ダンジョンってこんなにプレッシャーを感じるものだったか……?

『当然であろう。これは超級ダンジョンなのら』

 な、なに!? 超級だと!?
 上級よりも上のランクのダンジョンだろそれは!?

『しかり。よって瘴気もより濃くなり、精神汚染度も強くなろう』

 大丈夫なのかそれ、俺達が入っても?

『問題はない。チェルトもおそらくメンタル的にはA級に匹敵しているゆえ、入る事は叶うであろう。どれだけ深くいけるかはわからぬがな』

 そうか、ウーティリスがそう言うなら信じてみるとしよう。

『ダメそうならわらわが警告を打つ。心配せずともよい』

 わかった、その時は頼む。

「ふははは! 久しく挑むゆえ腕がなまっておるかもしれんなぁ! その時は容赦せよ!」
「いやぁお父さんなら問題ないでしょう」
「じゃがもしもの時はワシを置いて逃げるがよい! こんな老いぼれをかばった所でなんの得もありはせんからのう!」
「そうならないよう私も善処するよー」

 だがじいさんに限っては何の問題もなさそうだ。
 明らかにやる気満々だし、瘴気を前にしても気合いがまったく衰えない。

 それになんだぁあの装備?
 あんな装備なんて今までに見た事がないぜ。

 細長い片刃黒剣に、金属製とは思えないが妙に重厚な黒照り甲冑。
 でもいずれも美しいと漏れてしまいそうなほど、デザインがシンプルでかつ洗練されている。
 剣に関しては切れないものなど無いと言わんばかりに鋭く輝いているぞ……!?

「ここよりワシはおじいちゃんではなくディーフと呼べい! A級勇者〝斬神鉄〟ディーフ=シーリシス、推して参るゥゥゥ!」

 やはりかこの人、A級勇者だった!
 封印の門にも恐れず走り、ついには蹴り開けやがったぞ!?

 しかもすかさず閃光が走った!

 すると直後、入口先にいた何かがボトボトと落ち、動かなくなる。
 どうやら魔物が扉のすぐ先にいたらしい。

 それにしても斬撃が一切見えなかったぞ……?
 これがA級勇者の実力なのか!

「チェルトは後ろを守れぃ! ワシが先行するぅ!」
「了解!」
『このじいさん、ノリッノリらのう』

 だが頼もしい事この上ない。
 ここまで信頼できる人はなかなかいないと思うぞ!?

 そんなじいさん――もといディーフ氏の後に付き、ダンジョンの中を突き進む。

 しかし内部構造は今までのダンジョンとはまるで違うな。
 普通の暗い洞窟ではなく、まるで肉のように赤々しくて明るい。
 まるでダンジョンそのものが輝いているかのようだ。

 これなら照明は不要だな。
 それなので手に持っていたランプを鞄にかけ、マトックを両手に掴んで備える。
 もしもの時は俺もスキルを使って脅威を排せねばならないからな。

「手際が良い。を踏んでおるなラング君」
「まぁ採掘士としての人並みにはね」
「謙遜を。君の動き、勇者のそれと似ておるぞ」
「かもね、師匠が勇者だったからさ」
「きぃええええいッッッ!!!!! ――ほう、なるほどな、心得はあると」

 でもこの人、想像を越えて尋常じゃない。
 魔物が姿を見せる前から壁ごと斬撃波で切り伏せやがった。
 会話していようが関係無く、相手の位置を正確に感知しているんだ。

 これがA級……化け物かよ!

「シャウ=リーン。それが俺の師匠の名です。聞き覚えありませんかね?」
「知らんな、無銘の勇者かのう?」
「やっぱりか。そうかもしれませんね。なにせ俺もよく知らないんで」
「だがきっと腕は立つ。君の動きからその手腕が充分に伝わろう」

 それだけで読み取れるんだな。
 さすがこの年まで勇者しているだけあって、経験知識が半端ないぜ。

 ……だがこれほどの人でも師匠の事は知らないか。
 師匠、あなたは本当にどこへ行ってしまわれたのでしょうか。
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