上 下
39 / 148
第四章 首都遠征編

第39話 この広大な敷地の地下に潜むモノ

しおりを挟む
 もう脱帽だった。
 驚きを通り越して呆れるばかりだった。
 まさかチェルトが大富豪の跡取り娘だったなんて。

「さぁそこへおかけなさい。なに遠慮はいらないよ、私達もハーベスターだからね」
「そうよ、ここでは差別なんてないから気にしないでいいのよ」
「へぇ、どうも……」

 それで今は応接室まで連れて来られ、チェルトの家族達に囲まれている。
 なんだか三人とメイド達の視線が激熱です。

「しかしまさかもう子どもまでおるとはな」
「いいえ違いますゥ! この子は俺の姪ですゥ!」
「おや、そうだったか。通りで似ていないと思った」
「やだわおじいちゃん、ちゃんと可愛いし実は遺伝しているかもしれないわよ」
「そうか!」

 そうかじゃねぇ! だから違うっつってんだろ!

「しかり。わらわが可愛い事は認めようぞ」
「お前が認めてどうする」
「それと一つ訂正しよう。チェルトはまだラングと婚約しておらぬ。ラングはわらわのモノゆえな」
「「「なんだって!?」」」
「これ以上話をこじらせるのはやめろぅ!」
「やるわね、ウーティリスちゃん!」
「「ガッ!」」
 
 ガッじゃねよ! なんでここで息ピッタリなんだよ訳わかんねーよ!

 情報量が多過ぎるなこの家は。
 お金持ちである事に間違いはないのだろうが。
 なにせ部屋の奥にはおじいさんの肖像画が飾ってあるしな。

 そんでその下に本人がいるんだからなんだかすごい。

 でもこのまま押されっぱなしも性に合わん。
 なら少しずつでも疑問を解決していかにゃ、頭が追い付かない。

「それじゃすんませーん、ちょっと質問いいですか?」
「なんじゃ。孫のスリーサイズは本人から聞くがよい」
「そうじゃなくてですね、ご両親がハーベスターって聞いたんですけど、どういう事なんです?」

 とりあえず、まずこれからだ。
 ハーベスターの成功体験を聞ければなおよし。
 もしかしたら俺の将来設計に何かヒントを得られるかもしれないからな。

「その通りだとも。私は種取士なんだ」
「私は草刈士ですのよ」
「うむ。なので我が家の庭を二人に作業して整えてもらっておる。庭は広大じゃからのう、二人の力は実に便利でよい」

 ああ~……なるほど、職業が家の都合にマッチしていると。
 しかもちゃんと働いているから国の法律にも引っ掛からない。

 すばらしい……エクセレント……!
 かつてここまで底辺職が優遇されている事があっただろうか。
 これにはウーティリスもニッコリだろう?

『え? あ、ダンジョン以外の事は別にどうでもいいのら』

 あっそう。

「そういえば、たしかラング君は採掘士だったね」
「ええ。それなので仮に娘さんと結婚しても、俺の職はこの家の整備には向かないかもしれませんね。ははは……」

 そこだよな、俺の弱みは。
 チェルトの両親と違って、俺はこんな家とは無縁なんだ。
 だから本当に結婚するとしても、彼女を不幸にしてしまうかもしれない。

「そんな事はないぞ」
「……え?」

 何、どういう事だそれ?
 だってこんな街中に掘る場所なんてどこにもないだろうに。

「地下封印ダンジョンを使って掘ればよい。採掘エリアなぞいくらでもあろう」
「……はい?」
「そうねぇ! ちょっと危ないけど、チェルトがいれば問題ないわね」
「そうだね。まさにピッタリの二人じゃないか、はははは!」

 え、どういう事? 地下封印ダンジョンって何?
 普通に発生するダンジョンを攻略するって事じゃないのか?

「あ、ラングに言い忘れてたっけ。うちの地下にね、ダンジョンがあるの」
「はいい!?」
「というより、首都の地下がダンジョンになっているのよ」
「なぬ!?」
「さよう。そしてそこで資源を得てこの街は大きくなり、首都となった訳じゃ」

 じょ、冗談だろ?
 え、首都の地下にダンジョンがある?
 消えないでずっと残っているってのか……?

『ふむ、言われてみればたしかに、直下に大きなダンジョンの反応を感じるのう』

 どうしてそれをすぐ感知できなかった!?

『えーだって街の中にダンジョンがあるなんてわらわも考えもしなかったしー』

 迷宮神んんん!!!
 ちょっとは想定してくれよぉぉぉ!!!

 ……ん、なんだ、おじいさんが立ち上がって窓際に?

「かつてこの街はかのダンジョンに苛まれ、壊滅の危機に瀕した」

 そしてなんかいきなり真面目な話が始まったんだけど。
 でもなんか聞いた方が良さそうだから黙っておこう。

「そこでかつての首脳達が力と知恵を結集し、かのダンジョンを地下深くへと閉じ込めたのじゃ。それはもうすさまじい戦いと作業だったという」

 ほうほう。

「時間との戦いじゃった。少しでも遅れれば魔物にバリケードを突破されて作業が台無しになってしまうからのう。一分一秒も無駄にはできなかったという話じゃ」

 なるほど、それで街の文化に繋がったと。

「そして激戦の末、ついに封印成功。しかしそれと同時に永劫に渡るダンジョンとの付き合いが始まった。なんとダンジョンコアを破壊してもダンジョンが消えなかったのじゃよ」

 おおう……そりゃすごいな。
 普通のダンジョンはコアを破壊すると五日ほどで消えちまうし。
 その話を踏まえるとかなり異様さがわかるようだ。

「おまけに魔物が無限に復活しおる。とはいえ資源も無限で取り放題となったゆえ、この街は何度もハーベスター達が通い続け、気付けばこうして発展して首都にまでなったのじゃ」
「じゃあつまりこの家や他の富豪もそのハーベスターの子孫って事?」
「まぁ皆が直系という訳ではないが、多くがハーベスターによって支えられたであろうな」
「でもそんな話、聞いた事無いけどな」
「当然じゃ。はるか昔に一般人は入れなくなっておる。我らのような封印屋敷を持つ家系にのみ入る事を許されるようになったのじゃよ。それを機にハーベスターの恩恵の話も消え失せてしもうたわ」
「封印屋敷……」
「うむ。都庁を中心に並ぶ、十二芒星を描きし名君の屋敷達。そのそれぞれが封印屋敷として地下ダンジョンを封じておるのじゃ。二度とかの絶望を噴出させぬようにとな」

 そうか、だから一般に伝える必要もなかったんだ。
 入口はおそらく、その十二の屋敷の中にしかないから。
 見ず知らずの奴を由緒正しき家に入れる訳にもいかないしな。

 それに封印していれば魔物は出てこないから、何もしなくても済む。
 どうせ攻略しようとしても魔物は無限沸きしてキリがないしな。
 
「でも、なんでその事を俺に?」
「決まっておろう、孫をよろしくお願いいたします」
「だから決断速いってぇ、おじいさん!」

 ……もしかしてこの話って、じいさんがこれを言いたいがために語ってたの?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

異世界複利! 【1000万PV突破感謝致します】 ~日利1%で始める追放生活~

蒼き流星ボトムズ
ファンタジー
クラス転移で異世界に飛ばされた遠市厘(といち りん)が入手したスキルは【複利(日利1%)】だった。 中世レベルの文明度しかない異世界ナーロッパ人からはこのスキルの価値が理解されず、また県内屈指の低偏差値校からの転移であることも幸いして級友にもスキルの正体がバレずに済んでしまう。 役立たずとして追放された厘は、この最強スキルを駆使して異世界無双を開始する。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。

欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します

ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!! カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

処理中です...