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第四章 首都遠征編

第39話 この広大な敷地の地下に潜むモノ

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 もう脱帽だった。
 驚きを通り越して呆れるばかりだった。
 まさかチェルトが大富豪の跡取り娘だったなんて。

「さぁそこへおかけなさい。なに遠慮はいらないよ、私達もハーベスターだからね」
「そうよ、ここでは差別なんてないから気にしないでいいのよ」
「へぇ、どうも……」

 それで今は応接室まで連れて来られ、チェルトの家族達に囲まれている。
 なんだか三人とメイド達の視線が激熱です。

「しかしまさかもう子どもまでおるとはな」
「いいえ違いますゥ! この子は俺の姪ですゥ!」
「おや、そうだったか。通りで似ていないと思った」
「やだわおじいちゃん、ちゃんと可愛いし実は遺伝しているかもしれないわよ」
「そうか!」

 そうかじゃねぇ! だから違うっつってんだろ!

「しかり。わらわが可愛い事は認めようぞ」
「お前が認めてどうする」
「それと一つ訂正しよう。チェルトはまだラングと婚約しておらぬ。ラングはわらわのモノゆえな」
「「「なんだって!?」」」
「これ以上話をこじらせるのはやめろぅ!」
「やるわね、ウーティリスちゃん!」
「「ガッ!」」
 
 ガッじゃねよ! なんでここで息ピッタリなんだよ訳わかんねーよ!

 情報量が多過ぎるなこの家は。
 お金持ちである事に間違いはないのだろうが。
 なにせ部屋の奥にはおじいさんの肖像画が飾ってあるしな。

 そんでその下に本人がいるんだからなんだかすごい。

 でもこのまま押されっぱなしも性に合わん。
 なら少しずつでも疑問を解決していかにゃ、頭が追い付かない。

「それじゃすんませーん、ちょっと質問いいですか?」
「なんじゃ。孫のスリーサイズは本人から聞くがよい」
「そうじゃなくてですね、ご両親がハーベスターって聞いたんですけど、どういう事なんです?」

 とりあえず、まずこれからだ。
 ハーベスターの成功体験を聞ければなおよし。
 もしかしたら俺の将来設計に何かヒントを得られるかもしれないからな。

「その通りだとも。私は種取士なんだ」
「私は草刈士ですのよ」
「うむ。なので我が家の庭を二人に作業して整えてもらっておる。庭は広大じゃからのう、二人の力は実に便利でよい」

 ああ~……なるほど、職業が家の都合にマッチしていると。
 しかもちゃんと働いているから国の法律にも引っ掛からない。

 すばらしい……エクセレント……!
 かつてここまで底辺職が優遇されている事があっただろうか。
 これにはウーティリスもニッコリだろう?

『え? あ、ダンジョン以外の事は別にどうでもいいのら』

 あっそう。

「そういえば、たしかラング君は採掘士だったね」
「ええ。それなので仮に娘さんと結婚しても、俺の職はこの家の整備には向かないかもしれませんね。ははは……」

 そこだよな、俺の弱みは。
 チェルトの両親と違って、俺はこんな家とは無縁なんだ。
 だから本当に結婚するとしても、彼女を不幸にしてしまうかもしれない。

「そんな事はないぞ」
「……え?」

 何、どういう事だそれ?
 だってこんな街中に掘る場所なんてどこにもないだろうに。

「地下封印ダンジョンを使って掘ればよい。採掘エリアなぞいくらでもあろう」
「……はい?」
「そうねぇ! ちょっと危ないけど、チェルトがいれば問題ないわね」
「そうだね。まさにピッタリの二人じゃないか、はははは!」

 え、どういう事? 地下封印ダンジョンって何?
 普通に発生するダンジョンを攻略するって事じゃないのか?

「あ、ラングに言い忘れてたっけ。うちの地下にね、ダンジョンがあるの」
「はいい!?」
「というより、首都の地下がダンジョンになっているのよ」
「なぬ!?」
「さよう。そしてそこで資源を得てこの街は大きくなり、首都となった訳じゃ」

 じょ、冗談だろ?
 え、首都の地下にダンジョンがある?
 消えないでずっと残っているってのか……?

『ふむ、言われてみればたしかに、直下に大きなダンジョンの反応を感じるのう』

 どうしてそれをすぐ感知できなかった!?

『えーだって街の中にダンジョンがあるなんてわらわも考えもしなかったしー』

 迷宮神んんん!!!
 ちょっとは想定してくれよぉぉぉ!!!

 ……ん、なんだ、おじいさんが立ち上がって窓際に?

「かつてこの街はかのダンジョンに苛まれ、壊滅の危機に瀕した」

 そしてなんかいきなり真面目な話が始まったんだけど。
 でもなんか聞いた方が良さそうだから黙っておこう。

「そこでかつての首脳達が力と知恵を結集し、かのダンジョンを地下深くへと閉じ込めたのじゃ。それはもうすさまじい戦いと作業だったという」

 ほうほう。

「時間との戦いじゃった。少しでも遅れれば魔物にバリケードを突破されて作業が台無しになってしまうからのう。一分一秒も無駄にはできなかったという話じゃ」

 なるほど、それで街の文化に繋がったと。

「そして激戦の末、ついに封印成功。しかしそれと同時に永劫に渡るダンジョンとの付き合いが始まった。なんとダンジョンコアを破壊してもダンジョンが消えなかったのじゃよ」

 おおう……そりゃすごいな。
 普通のダンジョンはコアを破壊すると五日ほどで消えちまうし。
 その話を踏まえるとかなり異様さがわかるようだ。

「おまけに魔物が無限に復活しおる。とはいえ資源も無限で取り放題となったゆえ、この街は何度もハーベスター達が通い続け、気付けばこうして発展して首都にまでなったのじゃ」
「じゃあつまりこの家や他の富豪もそのハーベスターの子孫って事?」
「まぁ皆が直系という訳ではないが、多くがハーベスターによって支えられたであろうな」
「でもそんな話、聞いた事無いけどな」
「当然じゃ。はるか昔に一般人は入れなくなっておる。我らのような封印屋敷を持つ家系にのみ入る事を許されるようになったのじゃよ。それを機にハーベスターの恩恵の話も消え失せてしもうたわ」
「封印屋敷……」
「うむ。都庁を中心に並ぶ、十二芒星を描きし名君の屋敷達。そのそれぞれが封印屋敷として地下ダンジョンを封じておるのじゃ。二度とかの絶望を噴出させぬようにとな」

 そうか、だから一般に伝える必要もなかったんだ。
 入口はおそらく、その十二の屋敷の中にしかないから。
 見ず知らずの奴を由緒正しき家に入れる訳にもいかないしな。

 それに封印していれば魔物は出てこないから、何もしなくても済む。
 どうせ攻略しようとしても魔物は無限沸きしてキリがないしな。
 
「でも、なんでその事を俺に?」
「決まっておろう、孫をよろしくお願いいたします」
「だから決断速いってぇ、おじいさん!」

 ……もしかしてこの話って、じいさんがこれを言いたいがために語ってたの?
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