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第四章 首都遠征編

第37話 どうして僕の力が衰えているんだ!?(ギトス視点)

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「おかしい……これでは僕の力がまるで弱まっているようじゃないか」

 すべてはあの上級ダンジョンでの異変からだ。
 あの時から妙に体が何かおかしい。

 最初は新造魔剣のせいかと思っていた。
 だから剣を仕立てた鍛冶師を訴追し、処刑し、憂さは晴らした。
 さらにその剣を売り飛ばして、新しい素材で今度はじっくり造らせた。

 なのに今僕は、中級ダンジョンの魔物にすら苦戦させられている。

「ギトス様、今日は調子が悪いのでは?」
「うるさい黙れ! もういい、お前は先に行ってろ!」
「へ、へい!」

 くっ、せっかく首都あがりまで来たってのにこのザマだ!
 たとえ武器が変わっても、なぜか僕の力が通用しないなんて!

 ……勇者になったばかりの時はこうでもなかった。
 勇者となり、ダンジョンへと赴いた途端に僕の才能は突如として輝いたんだ。

 一瞬で多くの敵を殲滅し、一撃で強敵を屠る。
 宝の位置も即座に見抜き、進行ルートさえ瞬時に見切る事ができた。
 それゆえに僕は〝閃滅候〟という称号を与えられたんだぞ!

 なのに今はどうだ!
 殲滅どころか一匹倒すのにも一苦労!
 宝の位置も、進行ルートも見えやしない!
 一体どうして!? なんでなんだ!

 そのせいで下っ端どもにも懐疑的に見られるようになった。
 今の僕の力はまるでC級並みだからな……まったく情けない!

「……少し休むか」

 体力も急激に落ちたな。本当に何があったのか。
 師匠、あなたなら何かわかりますか?

 あの人の思い出をふと脳裏に過らせる。
 そうして想いを馳せながら、首にかけたペンダントをそっと取り出した。

 師匠から直々に頂いたこのお守りのペンダント。
 これがあるから僕はずっと戦えたんだ。
 目の上のタンコブだったラングも消え、頂点を目指す事に躊躇いがなくなった。

 だから僕はこのペンダントに誓ったんだ!
 師匠と再び出会うまでに、できる限り強くなって近づくのだと!

 ……そうだ、初めて戦った時もそんな想いを巡らせていたよな。
 ただひたすらそう考えて握り締めて、敵が来たら無我夢中で戦って。

 そうして気付けば、A級になっていた。

 でも今はその力なんてまったく感じない。
 願っても、想っても、あの時のような力は一切発揮できない。
 じゃあつまりあれは僕の持っていた力じゃなかったっていうのかよ……?

 ちくしょう、ちくしょうっ!
 ならこのままじゃ落ちていくだけじゃないか!
 あの力の秘密を解き明かさないとまたC級に逆戻りだ!

 そんなのは嫌だ! 絶対にッ!
 僕は頂点だ! 最強なんだ!

 咄嗟に地面へ剣を突き、力の限りに立ち上がる。
 そうして再び奥へと歩き行くのだ。力を上げるために獲物を求めて。

 絶対に取り戻してやるぞ……!
 この地位を、名誉を失ってなるものか……!

 僕はギトス=デルヴォ!
 誇り高きA級勇者にして、閃滅候の名を世界に知らしめし者だァァァーーーッ!!!!!



 ――しかしその後、僕は三体の魔物を倒して限界を迎える。
 それに対しB級である部下達は一人十体以上も倒しており、その力の差を見せつけられてしまう事になった。



 そして今は帰りの馬車。
 先の戦績のせいで、A級であるにもかかわらず肩身が狭い。

 おかげで部下達ももう無言だ。
 彼等の視線が刺さって痛い。

「……笑うなら笑えよ。僕の力なんぞ大した事はないんだってな」
「……」

 なのにこうして言葉も返ってこない。
 彼等は正直な奴らだ。実力がない者には従わないからな。
 とはいえ以前はあれだけ見せつけたんだが、もう信用ならないらしい。

 しょせんB級止まりなんてこの程度かよ。

「最近のギトスさんはやっぱ調子が悪いんでさぁ。もしかしたら何かの呪いにでもかかっちまったのかもしれねぇ」
「呪い、だと? 僕がか?」
「何か心当たりありませんかねぇ?」
「知るか、そんなもの」
「そ、そうっすか」

 もっともよく付き従ってきたザウコもこんな事ばかり言う。
 不調だと? 呪いだと? 適当な事ばかり宣いやがって。
 お前に僕の何がわかるっていうんだ、B級風情が偉そうに。

 きっと何か別の原因があるはずだ。
 スランプのような何かで力の引き出し方を忘れているだけなんだ。

「他に何かケチつけたい事がある奴はいるか?」
「……」
「今の僕はお前達より弱いらしいぞ? 言いたいなら今がチャンスじゃないか?」
「……」
「案外、その呪いをかけたのは実はお前達だったりなんかしてな、はははっ!」
「ギ、ギトスさん……」

 大丈夫さ、問題ない。
 すぐに良くなってまた魔物どもを瞬殺してやるから見ていやがれ!

 そして師匠待っていてくださいね。
 僕は必ずあなたの傍に行きますから!
 それまで絶対にあきらめるものか……!

 そうしてまた想いを馳せ、ペンダントを再び握り締める。
 僕の心の拠り所がこうして存在する限り、決してあきらめる事はないだろう。

 そうさ、僕はあのゴミクズラングなんかとは違うのだ。
 最強を目指せる才能を抱いた選ばれし勇者、創世神ディマーユの子なのだから。
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