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第三章 立ち上がれダンジョンブレイカー編

第31話 浅層に潜む謎の存在とは

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 このダンジョンに俺達以外がいる?
 それはいるんじゃないか? たとえば倒し残した魔物とか。
 そういえばトラップルームの魔物もまだワラワラいたよな。

 あれとは違うのだろうか?

『いや違う。これはおそらく人間であろう』

 えっ、人間……?

『しかも近いぞ。ただし動きがなく、生命力が極端に弱い』

 どういう事だ?
 トラップとは違う?
 深層ならともかく浅層で?

 それはおかしいぞ。
 浅層は基本的に早い段階で勇者達が魔物を殲滅しているはず。
 しかも中級ダンジョンだからC級勇者でも勝てるくらいの弱さだろうし。
 だったらこんな浅層なんかで弱る奴なんているもんか。

 いるとしたら俺達のような非戦闘民くらいだ。
 けどそれも助けがあって初めて来れるから、俺達以外にいる訳がない。

『だがしかし……』

 ああ、わかる。気になるよな。
 ウーティリスもなんだかんだで親身な奴だもんな。

「……あっ、すいませんポータラーさん! ちょっと俺、もよおしちゃったんで~ここで済ませてくるんで先に行っててもらえますぅー?」
「ああん!? そんなん奥に行ってからでも――」
「いやーもう限界っす! 行ってきまっす!」
「お、おいおい、迷うんじゃねぇぞ!? 死んでも恨むなよぉ!?」

 ひとまず適当な言い訳でソッコー抜け出し、現階層の通路奥へ。

 ここは遺跡構造エリアか。
 人工的な石レンガで構築された規則的な通路が続いている。

 この構造だと資源がほぼ無いから俺達も近寄らないし、マーカーも無い。
 おまけに分岐の多い迷路になっているから、迷ったら本気で危ないかもな。

「そっちなのら。随分と近づいておる」
「わかった。だけど慎重に行くぞ? 何が待っているかわからない」
『うむ、用心しよう』

 それにこっちは普段の採掘士の姿だ。
 もしスキルを使っている所やウーティリスの力を見られたらマズい。
 最悪の場合、俺がダンジョンブレイカーである事がバレてしまいかねないからな。

『そこを左、次をまっすぐなのら』

 そこで互いに無言で、足音を極力立てずに進む。
 こういう時に心の会話が実に便利だ。

 さて、今度は突きあたりのT字路に来たが、どうだ?

『待て……もう、すぐ傍なのら。正面の壁のすぐ向こうにおる』

 よし、じゃあこの付近を見回ってみよう。
 この壁の向こう側に通じる道があるかもしれない。

 ふと周囲を見渡すと、左右どちらにもすぐ曲がり角が見える。
 どうやら目標地点は部屋のように囲われているみたいだ。

 そこで俺はまず左の道へと足を運ぶ。
 この壁の先があるなら、どこかに入口があるはずだからな。

 ――あった。

 扉のような物が見える。
 ほぼ壁色と同じに塗られていて目立たないが、窓穴も開いているし間違いない。

 そんな扉へと、壁を背にしながらのそりと近づく。
 慎重に、ゆっくりと、開いた穴を覗き込もうと首を伸ばしつつ。

『見えるか? なにがおる?』

 人だ。
 ウーティリスの言った通り、人がいる。

 だけど、これは……。

 その姿は酷いありさまだった。
 手足は見ていられないほどで、おそらく歩けもしないだろう。
 血塗られていない部分の方が少なく、床まで血痕まみれだ。
 それでいて壁にもたれてぐったりとしていて、微動だにもしない。

 そして体の衣服には、綺麗にまっすぐ切られた痕がある。

 ……こんなの、魔物の所業じゃない。
 これは明らかに刃物で切られた痕だ。

 つまりこの人はおそらく、どこぞの勇者にやられたんだ。

『むごいのう、ここまでするか。これではもはや殺人現場ではないか』

 ああ。あまりにも酷い。

『過去の冒険者でもこのような事をする者はおったが、とても勇者などという立派な名の者が行う事ではないのう』

 なら、助けるか……?

『待て、その前に――ふんっ!』

 こんな声が聞こえたと思うと、扉のノブから紫色の光がバチバチと弾け飛んだ。
 それと同時に「シュ~ッ」とわずかな白煙が上がり始める。

『トラップが仕込まれておった。内側からでは開かぬようにする魔術なのら』
「ひでぇな、完全に牢獄じゃないか」

 ここまでくると人為的なのは確かだな。
 なら閉じ込められた人物は一体……?

 恐る恐るノブを引き、扉を開く。
 すると充満した血の臭いが鼻を突き、吐き気をもよおさせた。

 しかし我慢しつつ部屋の中へ。
 ゆっくりと倒れた人の傍へ近づいていく。

『どうやら他にトラップはなさそうなのら。接触しても問題はなかろう』

 わかった。なら思い切って顔を確認してみよう。

 ウーティリスの指示に従い、倒れた人のすぐ隣へ。
 すぐに屈み込み、思い切って顎をとって上げてみる。

 そうして見えた面構えには、たしかに見覚えがあった。

「ッ!?」
「なんと!?」

 チェルト氏である。
 なんとあの優しいチェルト氏がもう今にも死にそうになっていたのだ。
 息も絶え絶えで、微かに「ヒューヒュー」という呼吸音がする程度。

「なんでチェルト氏がここに!? B級なのに、こんな中級ダンジョンの浅層で!?」
「人為的なのはわかっておろう!? なればこの者は故意的にこうされたのらッ!」

 ついうっかり声を出して叫んでしまった。
 だがそれでもチェルト氏が反応する事は無い。

 あまりにも傷が深くて、もう死にかけているから。



 クソッ! 一体誰がこんな事を……!?
 許せん……!
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