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第三章 立ち上がれダンジョンブレイカー編
第29話 ……そう思っていた時期が俺にもありました。
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人の気持ちというものは表面からじゃわからないものだ。
真にさらけ出してもらって初めて見えるもので。
だから普段の姿がそいつの本心によるものという事もわからない。
もしかしたらそれさえ偽りの姿なのかもしれないな。
俺が今まで見てきた者達の姿も、あるいは。
二人の勇者の救助を済ませ、俺達は早々に家へと戻った。
しかし時刻はまだ夕方にも達していない。
きっと市場はまだ昼間同様の活気に溢れている事だろう。
それなので新鮮な肉を二切れ仕入れるために、ゆるりと足を運ぶ事にした。
案の定、市場はしっかりと営業中だ。
肉屋も残り少ない在庫をさばいて提供してくれた。
「ラング、最近ずいぶんと羽振りがいいじゃないか」
「実はそれなりに高価な鉱石を当ててね、ちょっと余裕があるんだ」
「姪っ子さんの面倒も見ないといけないしねぇ。あ、ちょっと大きめにしといたよ」
「お、ありがとうな!」
市場の人達とは最近少し仲が良くなった。
といっても、ウーティリスがやたら騒ぐから有名になって、それでかまってくれているだけなのだけども。
商売士の社会的地位もそこまで高くはなく、意地を張ろうという人間は少ない。
もちろんいない訳ではないが、そういう店主がやってる店は利用しないだけでいいから面倒がなくて済む。
そう店を選り好んでいたら自然と仲が良くなっていたって訳だ。
おまけにサービスもしてくれるからウーティリス様様だな。
「にーく! にーくぅ! 早く帰って焼こう~!」
「おう! だが香辛料が足りん。ちょっと〝ポットバーナー〟に寄って買っていくぞ」
「酒も!」
「それはダメだ」
「おのれラングー!」
ええい、騒ぐんじゃない。
お前はまだ子どもという設定を忘れたのか。
酒なんて本来は飲める歳じゃないんだぞ世間的にぃ!
そんな事を思いつつ、ウーティリスの両頬をぐにっとつまんで引っ張ってやる。
「いだだだだだ!」
「俺も痛ぇ! だが反省しろ反省!」
まるで分厚いゴムみたいな硬さだが、なんとか折檻っぽくやれたのでよしとしよう。
ちゃんと反省しているようだからこれで許す事にした。
それで俺達は酒場兼食堂である『ポットバーナー』へと辿り着く。
ここは食事や酒類だけでなく、食材や調味料も売ってくれる便利な店である。
どうやら店主には独自の仕入れルートがあるらしく、市場で手に入らない調味料も幅広く用意してもらえる。
テイクアウトもあるし、近場に住む者にとって便利な優良店といえるだろう。
「さぁて、今日は酒蒸しだからぁっと――おや?」
しかし店に入った途端、妙な集団が目に入る。
どうやら勇者達がこぞって集まって騒いでいるようだ。
ただ、その中心にはよく知った顔もが見えて。
「どうしたラング?」
「あれ見ろ、さっきの二人だ」
「むっ……」
それはなんとあのゼンデルとラクシュ。
あの二人は助けられたばかりだというのにもう食堂にいたのだ。
それも楽しそうに騒いでバクバクと豪華な料理を飲み食いしている。
随分とまぁ羽振りがいいじゃないか、俺なんかよりずっとさ。
なら「上納金のために薬も無い」とか言っていたのはなんだったんだ?
「……ちょっと様子を見ていくか」
「そうらな」
そこで俺達は普通の客のフリをして聞き耳を立てる事にした。
なんだか様子がさっきとまったく違ったので気になったから。
「いやーゼンデルさんにラクシュさん、助かって良かったっすねぇ~」
「ああ、ガチで危機一髪だったが……ま、運良く助かったよ」
「そうねぇ~ホントツイてたぁ~!」
やっぱり話題はさっきの救助劇の話か。
周りの奴らも随分と気になるようで、いちいち相槌で騒いでいるな。
「色々あってな、俺達は不可抗力でポータルトラップにかかっちまったんだ」
「ええ、まさかあんなことになるなんて」
「そして気付けば例のごとく、トラップルームだ。虫型の魔物がわらわらと襲いかかってきやがった」
「もうダメかと思ったわぁ~! アタシも毒貰っちゃってェ~」
「姉御が!?」「なんてこった……」
まぁ内容は普通だな。実際の通りだし。
しかし変だな、チェルト氏が見当たらないが。一緒じゃないのだろうか?
「しかぁーしその時、突如として大穴が! そしてなんと魔物が一挙に消滅!」
「「「なんだってーっ!?」」」
「すると突然、俺達の前に妙な人影が現れたぁ!」
「「「おおー!?」」」
「そう、あのダンジョンブレイカーが現れたのさあ!」
あいつ、盛り上げるのが随分うまいなー。
こういう役目の方が才能あるんじゃないか? 宴会士みたいな。
でも悪い気はしない。
俺の事を自慢するように語ってくれているからな、うんうん。
「そして奴はこう言ったのだ……『邪魔だ、消えろ』と」
「そうそう、それでアタシ達に敵意を向けてきたのよねぇ~」
……え?
「しかも奴は一方的に武器を振り下ろし、殺意を剥き出しにしてきた。だから俺は咄嗟に奴の武器を受け止め、ガツンッと弾き返してやったのさぁ!」
「そこでアタシが魔法で追い立ててぇ、逆に追い返してやったの!」
「「「うおおお! すげぇー!」」」
おいおい、そこは違うだろう!?
事実と違う事をなに自慢げに語っているんだあいつらは!?
「それで奴が作った穴を通り、俺達はどうにかして逃げ延びられた」
「ま、結果的には奴に助けられたみたいなもんだけどぉ、機転を利かせられたのはアタシ達の実力ってワケぇ」
「フゥー! 最高ーっ!」「こりゃもう揃ってA級確定だぜぇー!」
……最悪だ。最低だ。
あの二人、もしかしてあの時はただ芝居を打っていただけなのか?
あれほど俺達に感謝していたのも、全部二枚舌の戯言だったってのか!?
そうか、これが勇者の本質って訳かよ……!
クッ、これじゃ助けた俺がまるでバカみたいじゃねぇかよぉ……!!!
真にさらけ出してもらって初めて見えるもので。
だから普段の姿がそいつの本心によるものという事もわからない。
もしかしたらそれさえ偽りの姿なのかもしれないな。
俺が今まで見てきた者達の姿も、あるいは。
二人の勇者の救助を済ませ、俺達は早々に家へと戻った。
しかし時刻はまだ夕方にも達していない。
きっと市場はまだ昼間同様の活気に溢れている事だろう。
それなので新鮮な肉を二切れ仕入れるために、ゆるりと足を運ぶ事にした。
案の定、市場はしっかりと営業中だ。
肉屋も残り少ない在庫をさばいて提供してくれた。
「ラング、最近ずいぶんと羽振りがいいじゃないか」
「実はそれなりに高価な鉱石を当ててね、ちょっと余裕があるんだ」
「姪っ子さんの面倒も見ないといけないしねぇ。あ、ちょっと大きめにしといたよ」
「お、ありがとうな!」
市場の人達とは最近少し仲が良くなった。
といっても、ウーティリスがやたら騒ぐから有名になって、それでかまってくれているだけなのだけども。
商売士の社会的地位もそこまで高くはなく、意地を張ろうという人間は少ない。
もちろんいない訳ではないが、そういう店主がやってる店は利用しないだけでいいから面倒がなくて済む。
そう店を選り好んでいたら自然と仲が良くなっていたって訳だ。
おまけにサービスもしてくれるからウーティリス様様だな。
「にーく! にーくぅ! 早く帰って焼こう~!」
「おう! だが香辛料が足りん。ちょっと〝ポットバーナー〟に寄って買っていくぞ」
「酒も!」
「それはダメだ」
「おのれラングー!」
ええい、騒ぐんじゃない。
お前はまだ子どもという設定を忘れたのか。
酒なんて本来は飲める歳じゃないんだぞ世間的にぃ!
そんな事を思いつつ、ウーティリスの両頬をぐにっとつまんで引っ張ってやる。
「いだだだだだ!」
「俺も痛ぇ! だが反省しろ反省!」
まるで分厚いゴムみたいな硬さだが、なんとか折檻っぽくやれたのでよしとしよう。
ちゃんと反省しているようだからこれで許す事にした。
それで俺達は酒場兼食堂である『ポットバーナー』へと辿り着く。
ここは食事や酒類だけでなく、食材や調味料も売ってくれる便利な店である。
どうやら店主には独自の仕入れルートがあるらしく、市場で手に入らない調味料も幅広く用意してもらえる。
テイクアウトもあるし、近場に住む者にとって便利な優良店といえるだろう。
「さぁて、今日は酒蒸しだからぁっと――おや?」
しかし店に入った途端、妙な集団が目に入る。
どうやら勇者達がこぞって集まって騒いでいるようだ。
ただ、その中心にはよく知った顔もが見えて。
「どうしたラング?」
「あれ見ろ、さっきの二人だ」
「むっ……」
それはなんとあのゼンデルとラクシュ。
あの二人は助けられたばかりだというのにもう食堂にいたのだ。
それも楽しそうに騒いでバクバクと豪華な料理を飲み食いしている。
随分とまぁ羽振りがいいじゃないか、俺なんかよりずっとさ。
なら「上納金のために薬も無い」とか言っていたのはなんだったんだ?
「……ちょっと様子を見ていくか」
「そうらな」
そこで俺達は普通の客のフリをして聞き耳を立てる事にした。
なんだか様子がさっきとまったく違ったので気になったから。
「いやーゼンデルさんにラクシュさん、助かって良かったっすねぇ~」
「ああ、ガチで危機一髪だったが……ま、運良く助かったよ」
「そうねぇ~ホントツイてたぁ~!」
やっぱり話題はさっきの救助劇の話か。
周りの奴らも随分と気になるようで、いちいち相槌で騒いでいるな。
「色々あってな、俺達は不可抗力でポータルトラップにかかっちまったんだ」
「ええ、まさかあんなことになるなんて」
「そして気付けば例のごとく、トラップルームだ。虫型の魔物がわらわらと襲いかかってきやがった」
「もうダメかと思ったわぁ~! アタシも毒貰っちゃってェ~」
「姉御が!?」「なんてこった……」
まぁ内容は普通だな。実際の通りだし。
しかし変だな、チェルト氏が見当たらないが。一緒じゃないのだろうか?
「しかぁーしその時、突如として大穴が! そしてなんと魔物が一挙に消滅!」
「「「なんだってーっ!?」」」
「すると突然、俺達の前に妙な人影が現れたぁ!」
「「「おおー!?」」」
「そう、あのダンジョンブレイカーが現れたのさあ!」
あいつ、盛り上げるのが随分うまいなー。
こういう役目の方が才能あるんじゃないか? 宴会士みたいな。
でも悪い気はしない。
俺の事を自慢するように語ってくれているからな、うんうん。
「そして奴はこう言ったのだ……『邪魔だ、消えろ』と」
「そうそう、それでアタシ達に敵意を向けてきたのよねぇ~」
……え?
「しかも奴は一方的に武器を振り下ろし、殺意を剥き出しにしてきた。だから俺は咄嗟に奴の武器を受け止め、ガツンッと弾き返してやったのさぁ!」
「そこでアタシが魔法で追い立ててぇ、逆に追い返してやったの!」
「「「うおおお! すげぇー!」」」
おいおい、そこは違うだろう!?
事実と違う事をなに自慢げに語っているんだあいつらは!?
「それで奴が作った穴を通り、俺達はどうにかして逃げ延びられた」
「ま、結果的には奴に助けられたみたいなもんだけどぉ、機転を利かせられたのはアタシ達の実力ってワケぇ」
「フゥー! 最高ーっ!」「こりゃもう揃ってA級確定だぜぇー!」
……最悪だ。最低だ。
あの二人、もしかしてあの時はただ芝居を打っていただけなのか?
あれほど俺達に感謝していたのも、全部二枚舌の戯言だったってのか!?
そうか、これが勇者の本質って訳かよ……!
クッ、これじゃ助けた俺がまるでバカみたいじゃねぇかよぉ……!!!
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