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第三章 立ち上がれダンジョンブレイカー編
第28話 意外にまともだった勇者二人
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ゼンデルの行動は俺が予想していたよりずっとまともだった。
だから俺は二人を助ける事に決めたのだ。
まだこの二人なら救う価値もあるのかなと思って。
「ところでいいのか? その女は倒れたままだが」
「あっ!?」
しかしまだ完全に助かった訳ではなさそうだ。
ラクシュはゼンデルに抱え上げられたままぐったりしている。
「実はラクシュが毒を受けてしまって! 頼むダンジョンブレイカー、毒消しがあるなら分けてくれないか!?」
毒……なるほど、それでラクシュは動けなくなってしまった訳か。
ランプをかざして顔色を見てみれば、たしかに悪いし息も荒い。
そうとうにキツイ毒をもらったのかもしれないな。
だが、簡単に薬を与えるつもりはない。
「なぜだ?」
「えっ……」
「勇者ならば対策用の薬品は持ち合わせているハズだ。それをなぜ使わない?」
「うっ、そ、それは……」
コイツから聞き出せる事は聞き出したい。
わずかでもいい、勇者でしか知らない事を何か、一つでも。
そのためには多少冷酷さを出してやった方がいいだろう。
それがダンジョンブレイカーなのだと知らしめるためにも。
「じ、実はランクを上げるために上納金を得る必要があったんだ。もうすぐ俺達はA級に上がれそうだからってよぅ。なので手持ちの薬品は全部売っちまった……後はもうわかるだろ?」
『ふふん、自業自得だのう』
なるほど、そういう事か。
ランクが上がれば周りから持ち上げられ、いい思いもできる。
おまけに話に聞くと職業補正も上がるらしいじゃないか。
だからこいつらはそのランクを金で買おうとした訳だ。
「だけどそれは、ラクシュと一緒に頂点を目指したかったからなんだ! コイツと夫婦になって、A級になって、幸せになりたかったっ! それだけなんだよっ!」
「……」
「だから頼む、ラクシュを助けてくれえっ! 身勝手なのはわかってる! でもこの通りだ、お願いだよダンジョンブレイカーッ!」
だけど今そんな事実も投げ捨て、ゼンデルは俺に頭を下げていた。
ラクシュを置くと地面に額を打ち当てて、ただひたすら懇願していたのだ。
なるほど、それがお前の愛って奴なんだな。
良かったなラクシュ、アンタのパートナーは思ったよりずっと熱い奴だったよ。
「……いいだろう。これを使え」
その意気に応え、インベントリから薬品を一つ取り出してやる。
一番クオリティは低いが、これなら治らない訳がないだろう。
「えっ、どれを――うっ、なんだ、何か降ってきて……これはエリクサー!?」
「そうだ、知っての通り高級品だぞ。ならどうする?」
「そんなの決まっている! ラクシュこれを飲め、早く!」
それを受け取ったゼンデルがすぐさまラクシュの口へと薬を注ぐ。
すると間もなくラクシュの体が緑色の輝きを放ち始めた。
「う、あうう……ゼン、デル?」
「あ、ああラクシュッ! 大丈夫かっ!?」
「ええ、アタシ、助かった、の?」
「ああそうだよラクシュ! 良かった、本当に良かった……っ!」
うんうん、良かった良かった。
どうやらしっかりと効いてくれたらしい。
しかもしっかり愛の証まで見せつけてくれちゃって。
おいおいここでするなよ、見てるこっちが恥ずかしくなるだろうが。
『なんらーラング、そなたもして欲しいのか? んん~~~?』
ウーティリスも調子に乗って煽ってくるんじゃない。
「あ、す、すまない、こっちの世界に入ってしまって」
「えっとゼンデル、これ誰?」
「あのダンジョンブレイカー殿だ。俺達を助けに来てくれたらしい」
「マジッ!? あの噂のA級っ!?」
どうやらラクシュも動けるくらいには回復したらしい。
ゼンデルの傍から離れると気だるそうに一緒に頭を下げてくれた。
「お前は回復したばかりだ。無理しなくていい……」
「で、でもぉ、A級様には逆らえねーっすゥ!」
「そういった無意味な上下関係など俺に必要は無い」
「ど、どもぉ~……」
しかしまさか普段とはまた違う様子を見せてくれるとは思わなかったよ。
やはり彼等にもある程度の上下関係があるのだろうか。
もしかしたらA級も下位等級達を虐げているのかもしれないな。
その状況を脱するためにA級になろうとしているなら、気持ちもわからなくもない。
「本当に恩に着ます、ダンジョンブレイカー。あなたが来なければどうなっていたか」
「気にするな、当然の事をしたまでだ」
「聞いていたよりずっといい人だねぇ、ね、ゼンデル?」
「ああ、人情に溢れる素晴らしい方だ!」
おいおい、そう褒めちぎるなよ。
表情崩しそうになってしまうじゃないか。
無表情を維持するの結構大変なんだぞ?
「さて、おしゃべりはここまでにしろ。お前達を心配している者達がいるからな」
「もしかしてそいつに聞いてここまでやって来たんです?」
「む……いや、たまたまお前達を感じたからだ」
「そ、そうですか。なんにせよ嬉しい事ですよ」
こいつらは話し足りないようだが、俺はそろそろ表情筋が限界だ。
それにこれ以上話し続けるとボロが出そうで怖い。
だからさっさと追い出すに越した事は無いだろう。
ゆえに俺は無言で後退し、地上へと向けて斜めにマトックを振る。
そうすればさっそくと地上への穴が開き、陽光が差し込んだ。
念のために俺は光を避けておこう。全容を見せないように。
「なっ!? なんだ!? この光は!?」
「まぶしっすぅ~~~!」
「地上への光だ。この道を通って行くがいい。俺とはここでお別れだ」
「ですが!?」
「行け、もう二度と会う事は無いだろう」
「くっ……ありがとうダンジョンブレイカー殿、あなたの事は絶対に忘れない!」
「ありがとう~~~!」
光という道標ができた事で彼等もやっと重い腰を上げてくれた。
別れを言いつつ二人揃って坂道を登り始めていったよ。
やはり閉じ込められていたから光が恋しいんだろうな。
なので頃合いを見て穴を塞いでおく。
この道を悟られる訳にはいかないしな。
「――ふぃぃ~~~~~~! すっげえ緊張した! めっちゃくちゃ疲れた!」
「はっはっはー随分と様になっていたではないかー、のうダンジョンブレイカー殿?」
「うるせぇ、からかうんじゃねぇってのぉ! こっちは割と必死だったんだぜ!?」
しかしこれでひとまず万事解決だ。
暗い洞窟の中だから姿もそこまでバレてはいないだろう。
彼等も上にいるであろうモンタラーとポータラーに合流すればすぐ帰れるはず。
あとは念のため、ここに続く通路をすべて塞いでおく事にしよう。
本物のA級勇者や採掘士が掘り当ててしまわないようにな。
「さて、それじゃあ帰るとするか!」
「うむ、一仕事したから酒を用意せい!」
「嫌だ、お前に酒を与えると俺が屈辱的な目に遭うから!」
「なんらーそりゃあー!」
酒はもうダメだが肉くらいは用意してもいい。
今日は気分がいいからな!
それはほんの少し勇者の内情も見えたから。
あの二人の真意と本心が覗けた気がするから、それだけでもう満足さ。
あとは彼等が余計な事をしない事を祈るだけだな。
だから俺は二人を助ける事に決めたのだ。
まだこの二人なら救う価値もあるのかなと思って。
「ところでいいのか? その女は倒れたままだが」
「あっ!?」
しかしまだ完全に助かった訳ではなさそうだ。
ラクシュはゼンデルに抱え上げられたままぐったりしている。
「実はラクシュが毒を受けてしまって! 頼むダンジョンブレイカー、毒消しがあるなら分けてくれないか!?」
毒……なるほど、それでラクシュは動けなくなってしまった訳か。
ランプをかざして顔色を見てみれば、たしかに悪いし息も荒い。
そうとうにキツイ毒をもらったのかもしれないな。
だが、簡単に薬を与えるつもりはない。
「なぜだ?」
「えっ……」
「勇者ならば対策用の薬品は持ち合わせているハズだ。それをなぜ使わない?」
「うっ、そ、それは……」
コイツから聞き出せる事は聞き出したい。
わずかでもいい、勇者でしか知らない事を何か、一つでも。
そのためには多少冷酷さを出してやった方がいいだろう。
それがダンジョンブレイカーなのだと知らしめるためにも。
「じ、実はランクを上げるために上納金を得る必要があったんだ。もうすぐ俺達はA級に上がれそうだからってよぅ。なので手持ちの薬品は全部売っちまった……後はもうわかるだろ?」
『ふふん、自業自得だのう』
なるほど、そういう事か。
ランクが上がれば周りから持ち上げられ、いい思いもできる。
おまけに話に聞くと職業補正も上がるらしいじゃないか。
だからこいつらはそのランクを金で買おうとした訳だ。
「だけどそれは、ラクシュと一緒に頂点を目指したかったからなんだ! コイツと夫婦になって、A級になって、幸せになりたかったっ! それだけなんだよっ!」
「……」
「だから頼む、ラクシュを助けてくれえっ! 身勝手なのはわかってる! でもこの通りだ、お願いだよダンジョンブレイカーッ!」
だけど今そんな事実も投げ捨て、ゼンデルは俺に頭を下げていた。
ラクシュを置くと地面に額を打ち当てて、ただひたすら懇願していたのだ。
なるほど、それがお前の愛って奴なんだな。
良かったなラクシュ、アンタのパートナーは思ったよりずっと熱い奴だったよ。
「……いいだろう。これを使え」
その意気に応え、インベントリから薬品を一つ取り出してやる。
一番クオリティは低いが、これなら治らない訳がないだろう。
「えっ、どれを――うっ、なんだ、何か降ってきて……これはエリクサー!?」
「そうだ、知っての通り高級品だぞ。ならどうする?」
「そんなの決まっている! ラクシュこれを飲め、早く!」
それを受け取ったゼンデルがすぐさまラクシュの口へと薬を注ぐ。
すると間もなくラクシュの体が緑色の輝きを放ち始めた。
「う、あうう……ゼン、デル?」
「あ、ああラクシュッ! 大丈夫かっ!?」
「ええ、アタシ、助かった、の?」
「ああそうだよラクシュ! 良かった、本当に良かった……っ!」
うんうん、良かった良かった。
どうやらしっかりと効いてくれたらしい。
しかもしっかり愛の証まで見せつけてくれちゃって。
おいおいここでするなよ、見てるこっちが恥ずかしくなるだろうが。
『なんらーラング、そなたもして欲しいのか? んん~~~?』
ウーティリスも調子に乗って煽ってくるんじゃない。
「あ、す、すまない、こっちの世界に入ってしまって」
「えっとゼンデル、これ誰?」
「あのダンジョンブレイカー殿だ。俺達を助けに来てくれたらしい」
「マジッ!? あの噂のA級っ!?」
どうやらラクシュも動けるくらいには回復したらしい。
ゼンデルの傍から離れると気だるそうに一緒に頭を下げてくれた。
「お前は回復したばかりだ。無理しなくていい……」
「で、でもぉ、A級様には逆らえねーっすゥ!」
「そういった無意味な上下関係など俺に必要は無い」
「ど、どもぉ~……」
しかしまさか普段とはまた違う様子を見せてくれるとは思わなかったよ。
やはり彼等にもある程度の上下関係があるのだろうか。
もしかしたらA級も下位等級達を虐げているのかもしれないな。
その状況を脱するためにA級になろうとしているなら、気持ちもわからなくもない。
「本当に恩に着ます、ダンジョンブレイカー。あなたが来なければどうなっていたか」
「気にするな、当然の事をしたまでだ」
「聞いていたよりずっといい人だねぇ、ね、ゼンデル?」
「ああ、人情に溢れる素晴らしい方だ!」
おいおい、そう褒めちぎるなよ。
表情崩しそうになってしまうじゃないか。
無表情を維持するの結構大変なんだぞ?
「さて、おしゃべりはここまでにしろ。お前達を心配している者達がいるからな」
「もしかしてそいつに聞いてここまでやって来たんです?」
「む……いや、たまたまお前達を感じたからだ」
「そ、そうですか。なんにせよ嬉しい事ですよ」
こいつらは話し足りないようだが、俺はそろそろ表情筋が限界だ。
それにこれ以上話し続けるとボロが出そうで怖い。
だからさっさと追い出すに越した事は無いだろう。
ゆえに俺は無言で後退し、地上へと向けて斜めにマトックを振る。
そうすればさっそくと地上への穴が開き、陽光が差し込んだ。
念のために俺は光を避けておこう。全容を見せないように。
「なっ!? なんだ!? この光は!?」
「まぶしっすぅ~~~!」
「地上への光だ。この道を通って行くがいい。俺とはここでお別れだ」
「ですが!?」
「行け、もう二度と会う事は無いだろう」
「くっ……ありがとうダンジョンブレイカー殿、あなたの事は絶対に忘れない!」
「ありがとう~~~!」
光という道標ができた事で彼等もやっと重い腰を上げてくれた。
別れを言いつつ二人揃って坂道を登り始めていったよ。
やはり閉じ込められていたから光が恋しいんだろうな。
なので頃合いを見て穴を塞いでおく。
この道を悟られる訳にはいかないしな。
「――ふぃぃ~~~~~~! すっげえ緊張した! めっちゃくちゃ疲れた!」
「はっはっはー随分と様になっていたではないかー、のうダンジョンブレイカー殿?」
「うるせぇ、からかうんじゃねぇってのぉ! こっちは割と必死だったんだぜ!?」
しかしこれでひとまず万事解決だ。
暗い洞窟の中だから姿もそこまでバレてはいないだろう。
彼等も上にいるであろうモンタラーとポータラーに合流すればすぐ帰れるはず。
あとは念のため、ここに続く通路をすべて塞いでおく事にしよう。
本物のA級勇者や採掘士が掘り当ててしまわないようにな。
「さて、それじゃあ帰るとするか!」
「うむ、一仕事したから酒を用意せい!」
「嫌だ、お前に酒を与えると俺が屈辱的な目に遭うから!」
「なんらーそりゃあー!」
酒はもうダメだが肉くらいは用意してもいい。
今日は気分がいいからな!
それはほんの少し勇者の内情も見えたから。
あの二人の真意と本心が覗けた気がするから、それだけでもう満足さ。
あとは彼等が余計な事をしない事を祈るだけだな。
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