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第一章 神との邂逅編

第9話 こうして俺の人生を変える一歩が始まった

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 二人の迷惑勇者の排除にはひとまず成功した。
 どこに行ったかは俺にも皆目見当もつかないが。

「それにしてもさっきの二人はどこへ行ったのかしら?」
「この大穴ができるとともに消えてしまったね」
「ま、まー気にしなくていいんじゃなーい? どどどうせあくどい奴らだしさー」
「また来たら怖いけどね」
「そ、そうだなーじゃあ会わないように気を付けなきゃなー」
「ラング、さっきから調子がおかしいけど平気かい?」
「お、おう!」

 うん、この際だからウーティリスのケツに手を出した事はいいとしよう。
 ここはダンジョンだからノー問題! たぶん!

 でも考えてみれば、勇者二人を安易に消し去ってしまったのはいささか不味かったのではなかろうか。
 
 なにせ勇者はいわば監視社会の頂点で、やられれば必ず報告が来るほどだ。
 いなくなれば重要人物の行方不明事件として捜索もされるだろう。
 そうなればいずれ俺達に足がついてしまう事もありうる。

 そうなったら最後、報復だ。
 奴らが総出で俺達に復讐してくる可能性も大きい。

 ならどうすればいい、どうすれば……!

『心配する必要はないのら』

 えっ? どういう事だ?

『インベントリを見てみよ。さすればわかろう』

 インベントリ? どうしてだ?
 まぁでも言われた通り見てみるとしようか。

 そこで俺は少しルルイとヤームに断り、通路に戻って二人きりになってみる。
 そうしてインベントリのリストを確かめてみたのだが。

 なんかある。
 一杯採れた「岩塊」の中に二つ、「ウン=ゾウ」と「ムン=ゾウ」って。

 なんだあいつら、名前似ているし兄弟だったの?
 あと説明欄にどっちも「勇者」とだけ書かれている。雑過ぎるんだが?

「掘れたものはすべからくアイテム化されるのら。そして掘られた瞬間から記憶と感情をある程度リセットされるゆえ、使用して復元しても問題はなかろう」
「厳密にはどこまで? どの程度?」
「ダンジョンに入った時からの記憶まるごと、かの? 感情も平常ニュートラルとなるから、自分が怒った理由さえわからなくなるであろうな」
「アイテム化やべーな、便利すぎるぞ」
「ちなみにインベントリにはいくらでも入るからの、なんなら入れっぱなしでもオーケーなのら」
「それはそれでまずいからやめておこう」

 なんにせよ何の問題もなくて助かった。
 あとはこいつらの怒りが元に戻らない事を祈ってリリースしてやろう。

 そんな訳で、俺の採掘場に戻って勇者二人を使用してみる。
 するとさっそく二人がボトボトと何も無い所から落ちてきた。

「ウピ」
「ウピウピ」
「なんか言ってるけど?」
「問題はなーい。アイテム化による初期化作用で少しの間だけ脳がつるつるになってるだけなのら」
「アイテム化やべーな、怖すぎるぞ」

 まぁウーティリスが問題ないと言っているので平気なのだろう。
 それなのでひとまず勇者二人をここに置き去りにして俺達は帰る事にした。

 オリハルコン鉱を二つ、ルルイとヤームへのお土産にして。

 二人への遅い結婚祝いという事で無理矢理受け取ってもらったよ。
 ずっと貧乏で、当時はロクに何もあげられなかったから丁度いい。
 二人にはこれからも良い生活を送ってもらいたいしな!



 ――という事で、色々あったが今回の探窟は早々に終わりを告げた。

 ウーティリスとの出会いはきっと俺の人生を大きく変えるだろう。
 それこそ俺が思っていたよりもずっと大きく、複雑に。

 けど俺はまだ満足しちゃいない。

 ダンジョンへ向かう時にルルイが語っていた夢。
 もしかしたら今の俺ならあの夢を実現できるかもしれないんじゃないかって、そう思えてならなかったから。

 とはいえ今はまだビジョンも見えないし、何から始めたらいいかもわからない。
 でもスキルという力があるならひとまず目指すだけ目指していこうとは思う。
 ウーティリスも「そうするべきなのら」と答えてくれたしな。

 だから帰る時、俺は笑みを堪える事ができなかったんだ。
 やっと俺らしい、想い願った日々がやってくるかもしれないんだってね。

 誰もが笑顔でいられる、そんな世界のために働く日々が、いつか。
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