上 下
36 / 39
第四章

第三十五話 人成り修行

しおりを挟む
「おはよう坊主。さぁ早速はじめるとするかい……!」

 僕にもまだ人に戻れる希望がある。
 そう知った僕は昨日、お婆さんにとある頼みごとをした。

 それでその翌日の今、遂にその頼みごとを実践してくれる事になったんだ。

「じゃあまずは生垣付近にある石を集めな! でも後で戻すからね、配置を忘れるんじゃないよ!」
「サーイエッサー!」

 でも教えてもらうのは力仕事でもあるからね、当然僕が全てやる必要がある。
 なので言われた通り、生垣下に並べられた石を素早く運んで戻ったり。

 それでようやく火を起こせそうな小さな囲いが造れた。

「次は庭に散った枯れ木を集めるんだ! 綺麗にするつもりでやんな!」
「サーイエッサァー!」
 
 それで更には庭中を歩き回って枯れ葉や枯れ木をごっそり持ってくる。
 もうすぐ冬だからね、集めるのに申し分ないくらいあったよ。

 メルーシャルワでもこんな季節に準じた場所があるんだなぁって驚きつつ。

「即席かまどに火を付けな! そして鍋を置くんだ!」
「サーイエッサー! ……僕、鍋もってません!」
「余ったのをくれてやるから安心をし!」

 そうして集めた火種を囲いに積み、バーナーで火を付ける。
 コツは一気に燃やさず、ちょっと下の方に火を付けるだけでいいみたい。

 あとはお婆さんが持ってきていた鍋を置き、セッティング完了だ。

「いいかい、使う水は綺麗さが命だ! もし濁った水を使うなら、今この瓶に入ってくる水くらいの透明度になるまでろ過しな!」
「サ、サーイエッサー!」

 更にはお婆さんが持って来ていた水ビンをしっかりと目に焼き付ける。
 ついでに、ビンの上に備えられたろ過器の構造もね。

「こいつを注いで、煮沸だ! 飲み水にするなら一度煮立つまで焚いてから冷やして飲むんだ! 生水は絶対に飲んじゃあダメだよ!」
「イエッサァァァーーー!!」

 人は水を飲むときにも気を付けなければいけないみたい。
 お腹を壊したり、時には虫を取り込んでしまうようで。

 これを教わらなかったら後が怖かったなぁ。

「次に具材の投入だ! 本当なら買う方が安全だが、それができないなら野生の物を身繕える知識を得るんだ! 詳しい話は後で教えてやる!」
「シャーイエッシャー!!!」
「ここじゃキノコがいい! そこでこの出汁大茸を投入だ! これで味わい深くなるよ!」

 次のステップも重要だ。
 なにせ僕が最も知るべき部分がようやく出て来るんだから。

 そうか、森にはキノコが生えているんだった!
 その事を忘れていたから気付けなかったんだな。

「よく出汁が取れたら肉を投入だ! いいかい、獣を狩ったらすぐに血抜きしな! その為の道具は渡してやる!」
「サ、サー! その道具は怖いので後で実践願います!」

 今度はコンテナちゃんが目を輝かせる食材が遂に投入だ。
 最初は血生臭さそうなビジュアルだった肉も、茹った鍋の中ですぐ煮えた。

 なるほど、こうして人が食べれる様になるんだな。

「後は追って野菜、山菜やらの具材と調味料と加えていく! いいかい、調味料は濃すぎないようにするんだよ! 強い塩分は子どもの大敵だからね!」
「サァァァイエッサァァァーーーーーーッッ!!!!!」

 そして色とりどりの野菜達が投入され、鍋が一気に豪勢に。
 野菜はできるだけシャキシャキがいいので後で入れるんだって。
 あ、でも根菜は出汁と一緒に入れた方がいいみたいだ。

「そんで煮込んだのを待てば簡単煮込み鍋の完成だ。これで大体その場はしのげるはずさ。水分と栄養を一気に採れるからね」
「おお……」
「おいしそー!」

 こんなプロセスを経て、遂に料理が完成する。
 コンテナちゃんがすごく目を輝かせているのできっと美味しいはずだ。

 よし、これでひとまず料理の仕方を覚えたぞ!

 ――そう、僕はお婆さんに食事を得る方法を教えてもらったんだ。
 そこまで記憶が戻るのを待ってなんていられないからね。
 だからこうして実践してもらい、強制的に思い出す事にしたのさ。
 
 それだけじゃない。
 夜の間には用意してもらった食材辞典を完読し、食べ物の知識も得た。

 おかげで、今なら見るだけで食べれるかどうか見分けられる自信がある!
 機械的に覚えられるからね、記憶するのは得意なんだ。

「さて、まだまだ教える事はたくさんある。腹ごしらえしながら少しづつ教えて行くよ」
「はい、お願いします!」
「ただしあと半日だけだ。それ以上はお前達じゃここにはいられないからね」
「? まぁ僕としてはもうこれだけで充分なくらい満足していますよ」
「だがまだ足りない。人が生きるっていうのはそう簡単な事じゃないのさ。その不足分をこれから一気に詰め込んでやる」

 それでも一夜漬けでどうにかなる話じゃあなかった。
 見せてもらってわかる事も多いから。

 だからこうしてお婆さんが自ら動いてくれたんだ。
 本当にお年寄りなのかって思えるくらいパワフルだったけどね!



 こうして僕はこの後、生活の知恵を徹底的に叩きこまれた。
 サバイバルな生活手段から、人と出会った時の対処法も。
 コンテナちゃんも加わえて一緒に学んだりもして。

 おかげで半日、僕はたったそれだけで生活への自信を付ける事ができたんだ。

 まぁ、調子に乗って「魔法も教えて」とお願いしたらキッパリ断られたけどね。
 やっぱりヴァルフェルだと魔法習得は厳しかったかな……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

TSしちゃった!

恋愛
朝起きたら突然銀髪美少女になってしまった高校生、宇佐美一輝。 性転換に悩みながら苦しみどういう選択をしていくのか。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

処理中です...