上 下
29 / 39
第三章

第二十八話 突貫一択

しおりを挟む
『警告、ロック』『警告、ロックオン――』
「知った事か! 突っ込めぇーーーッッ!!!」

 グノーンに乗り、まさしく騎馬を駆る騎士がごとく突撃する。
 正面にいるレティネ機へと向けて一直線に。

 本来、狙撃兵に対して愚直に真っ直ぐ突っ込むのは自殺行為だ。
 けど僕に小賢しい策なんて弄している余裕は無いし、すぐ閃く知恵も無い。
 だったら今ある力を信じて、一気にここを突破して張り倒すしかない。

 あの人が突破力に弱いのは獣魔戦で証明済みなんだから!

 それに加え、さっきの一撃からほとんど間が経っていない。
 そのおかげで正面の機体からの追撃はまず来ない。
 長距離砲の弱点はリロード時間で、次の一発まで相当に時間がかかるから。

 だから正面の機体へこちらからファイアバレットを放って牽制。
 場に釘付けにした所で一気に突き抜けていく。 

 しかしそんな時、突如として左側の景色が瞬いた。
 別機体の重光波砲が僕へと向けて放たれたのだ。
 まともに当たれば最新鋭機であろうと一瞬で蒸滅させる一撃が。

 ――だが。

「そんなッ攻撃はァァァーーーッ!!!」

 その重光波は僕達へ当たった途端、拡散して無為となった。
 グノーンの持つ魔導防壁システムが発動したんだ。

 というのも、グノーンは元々防御力と疾走力に優れている。
 更にはこの魔導防壁を備えていて、周囲からの攻撃に滅法強い。
 ダンゼルさんが何かあった時に逃げやすいようにと積んだ機能らしい。

 おまけにゴーレムだから全体的に魔法防御力が高い。
 魔法で造られた生物なので元から耐性が付いているんだ。

 その二つの特性があるからこそ、重光波砲だろうと弾く事ができる。
 ダンゼルさんからこの事をあらかじめ教えてもらっておいて正解だった!

『こんな小細工をッ!? アールゥ! 貴方はどうしてぇいつもォォォ!!』
「貴女がそうやって人の話を聞かないからでしょうが! それだからッアールデュー隊長に嫌われているんだッてェェェーーーッ!!」
『うああッ!!?』

 どうしてレティネ隊長がこんなわからず屋なのかはわからない。
 最初からなのか、それとも何かがあって変わってしまったのか。

 でもいずれにせよ、もう狂人の話になんて付き合ってられないから!

 だから僕はグノーンの腰部を叩き、更に速度を上げさせる。
 このままいけば、正面機の第二射までには到達できるだろう。

 だけど、どうやらレティネ隊長もタダでは転ばなかったらしい。

「ううッ!?」

 なんと今度は右から光線が。
 それも僕達ではなく、その足元へと向けて。

 効かないならと目標を変えて来たんだ。
 グノーンの足を止める事を第一優先として。

 その効果は絶大だった。
 たちまち大地が吹き飛び、僕達の体が浮き上がる。
 更には魔導防壁が限界を迎え、グノーンの足が爆風で吹き飛んでしまった。

 そして僕は勢いのままに投げ出されていて。

「……けどさッ!!」
『なんですってッ!?』

 ――いいや、違うね。
 僕はもう、こうなる事を知っている。
 レティネ隊長は決して無駄な事はしないはずなのだと。

 一発目で見極め、二発目で最大効果を狙う。
 そうして積み重ねて撃ち続け、成果を出し続けたからこそのライゼス英雄なのだと。

 だったらそれさえ先読みすればいい!

 ゆえに今、僕は体勢を崩す事なく跳ね飛んでいたのさ。
 中央機へと向け、軌道を一切変える事無く。

『でも、もう遅いわッ!!』
「ううッ!?」

 ただこの時、既に中央機は再び銃口を構えていた。
 まるで僕が飛び出してくる事を予測していたかのように。

 これがナイツオブライゼス、三大英雄の先手読みかッ!!

「もういいッ!! 私のモノにならないお前はッ!! 消し飛んでしまえぇーーーッ!!」
「うああッ!?」

 その中でとうとう強い輝きが迸る。
 僕の視界を真っ白に覆い尽くすほどに大きな閃光と共に。

 ――けどね、切り札はまだあるんだッ!!

 これは一か八かの賭けだ。
 なぜなら、これはまだ実証さえされていない特殊防御手段なんだから。



右腕うわんAPGブラスティングッ!! 魔力全ッ開だぁぁぁーーーーーーッ!!!」



 それがこのエーテルパラフィンガントレッドブラスティング。
 軽装仕様の腕部装甲に施された、魔力共鳴可能な対魔防コーティングである。
 グノーンの魔導防壁と同じようなバリアを張れる代物と思っていい。

 ただその限界性能はスペック上でさえわからない。
 実装されたばかりで、対ヴァルフェル効果は未実証なんだ。

 けど、僕にとってはこれ以上無い命綱だ!

 ゆえに二人が相まみえた時、その間にて強い光が弾け飛ぶ。
 高出力エネルギーと防壁拳がぶつかり合った事によって。

「ちぃぃ!?」
「僕は……僕は貴女を超えますよッ!! アールデュー隊長の為にもッ!!」

 砲撃のエネルギーはすさまじい。
 物理的に僕を押し返そうとするほどに。
 そのせいで飛び出した勢いが今にも殺されそうだ。

 だけどね! アールデュー隊長は! この程度じゃあ諦めないッ!!

 だからこそ、今度は両脚の腿部バーニアが火を噴いた。
 緊急姿勢制御用の小型なものだが、その瞬間出力は伊達じゃない。

 そうして強引に押し込み、遂に光線を弾き飛ばす。
 僕の右腕全体を赤熱蒸解させて犠牲にしつつも。

 ただし、勢いを維持したままに。

「うああッ!!?」
「右腕パァージッ!!」

 そんな右腕を即座に切り離し、更にその射出の勢いさえも利用して。
 瞬時にしてレティネ機の背面へぐるりと回り込む。

 そしてその勢いのままに、僕は彼女の背中へと硬質ブレードを突き刺したのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

TSしちゃった!

恋愛
朝起きたら突然銀髪美少女になってしまった高校生、宇佐美一輝。 性転換に悩みながら苦しみどういう選択をしていくのか。

獣人の里の仕置き小屋

真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。 獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。 今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。 仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

忘却の艦隊

KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。 大型輸送艦は工作艦を兼ねた。 総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。 残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。 輸送任務の最先任士官は大佐。 新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。 本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。    他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。 公安に近い監査だった。 しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。 そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。 機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。 完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。 意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。 恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。 なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。 しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。 艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。 そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。 果たして彼らは帰還できるのか? 帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

保健室の秘密...

とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。 吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。 吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。 僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。 そんな吉田さんには、ある噂があった。 「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」 それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。

処理中です...