11 / 39
第二章
第一〇話 どんだけコンテナから出たくないの?
しおりを挟む
「立ち話もなんだ、近くに屯所があるから良かったら来ないか? 夜出歩くのは危ないし、子どもにも休憩が必要だろう?」
こんな誘いもあったので、僕はひとまず駐在さんの住む屯所に行く事にした。
ずっと歩きっぱなしで膝部アクチュエータが悲鳴を上げているし。
言われた通り、少女も休ませてあげないとね。
そうしてほんの少し歩くと、またあばら家があって。
どうやらここが屯所らしく、駐在さんに中へと案内してもらった。
すると、思いがけない物が目に入る。
「えっ、あれって……ヴァルフェル!?」
なんと建屋内の壁際にヴァルフェルが置かれていたんだ。
当然の如く転魂装置も一緒に。
ただ、型はとても古い。
確かこのタイプは初期量産型で、転魂二回しか出来ない機種だったはず。
なんだってこんな物がここに……。
やっぱり獣魔が近くに根城を張っていたから配備されたんだろうか。
にしては型が古すぎるよなぁ。
「ああ、この村を守る為に使っている物だ。賊や野良獣魔を追い払うには丁度いいんでね。村の外側にも動体センサーを設置していて、すぐに侵入者の情報が来るようになっている」
「寂れていると思ったのに随分と入念な警備システムだなぁ、すごいや」
おまけに警備システムも都会人でさえビックリの仕様ときた。
こんなに厳重な村があるなんて初めて聞いたよ。
まぁ確かに、獣魔が現れてから世界的に治安が悪くなったって聞くし、仕方ないのかな。
「さて、自己紹介が遅れたね。私の名前はフェクター。この村の警備を任されている者だ」
「あ、僕はさっき紹介した通り、レコって言います。よろしくお願いします」
「あぁ、よろしく」
その警備システムを引いたのはきっとこの人自身なんだろうな。
とても真面目そうだし眼鏡かけてるし、話し方が丁寧で眼鏡クイッてしてるし。
「で、さっきの話の続きだが……実は、私達には食料の備蓄がそれほど無いんだ」
「これだけの大きな畑を持っているのに?」
「……そうさ。なにせ今、この村にいるのは老い先短い年寄りばかりでね。みんな自分の分を確保するだけで精一杯なんだ。私も手伝ってはいるが、そう上手くはいかない」
「そうだったんだ」
ただ、こうして話している時はとても元気が無さそう。
きっと今日も農作業をして疲れているんだろうか、こう話している時に床へと腰を下ろしていて。
半分気だるそうに肩を回しつつ、僕に相槌の手を挙げてくれた。
「でも子供は余計に食べるものだからね、その分の食い扶持が増えてしまうと、私達は冬を越せずに飢え死にしてしまう。だから引き取りたくても出来ないんだ」
「それなら皇国に援助を求めたらどうなんです?」
「そうもいかない訳があるのさ」
「訳……?」
それに生活もあまり恵まれていない様で、俯いた顔に陰りが生まれていた。
建屋の中は明るいんだけどね、どうにも影が深いよこの人。
相当苦労してるんだろうか。
そこでそんな顔を眺めやすくする為に、僕も床へと腰部を降ろす。
しばらくこうしておけば脚部もクールダウンして調子が戻るだろうし。
そのついでに少女を外に出してあげようと、片腕を背中に回す。
それで扉開閉ボタンを押してみたのだけど。
「ほら、出ておいで」
「そうは言うが、開いた扉がもう閉まってるぞ?」
「えっ?」
そう言われてコンテナ制御の部分を確かめてみたら、確かにステータスが「閉」になっている。
おかしいな、今開いたはずなのに。
壊れちゃったのかな?
そこでもう一度ボタンを押してみる。
そうしたらステータスが「開」になったのに、まーたすぐ「閉」になってしまった。
なのでムキになって何度ポチポチ押してもダメ。
毎回同じ事が繰り返されてしまって。
「なんなんだこれ……あ、あれ!? 『ロック』になった!?」
しまいには施錠されてエラー音だけが響くハメに。
状況的にたぶん、コンテナの中から操作してたんだろうね。
一体どうやってやったのかまではわからないけど。
「すいません、なんか出たくないみたいで……」
「はは、なら仕方ないな」
なんにせよ締め出されてしまった事に変わりはない。
拾った少女が引き籠りだったなんて聞いてないよ僕。
「とはいえ、少しくらいなら分けてあげられる余裕はある。といってもパン二個くらいだがね」
「貰えるだけでもありがたいですよ。渡せるようなお礼が無いのは心苦しいですが」
「気にしなくていい。困った時はお互い様さ。ちょっと取って来るよ」
「ありがとうございます、フェクターさん」
でもそんな彼女の為にと、フェクターさんが早速パン二個を用意してくれた。
疲れているだろうに、動かさせてしまって申し訳ないと心に思う。
で、今度は受け取ったパンとお水をカゴごとコンテナ前に寄せてみる。
すると今度は自分から扉を開いて、腕だけ伸ばしてパッと取ってすぐ閉めた。
君、どれだけそこから出たくないの……。
「よほどお腹が空いていたんだろう。少しでも足しになれば幸いだ」
「お礼くらい言えばいいのになぁ」
「構わんさ。それとここでエネルギーも充填していくといい。皇都に行くにはまだ一日以上も歩く必要があるだろうからね。人間なら、だけど」
「何から何まで申し訳ない……では、お言葉に甘えさせていただきます」
それでも嫌な顔をしないフェクターさんは本当にいい人だ。
食料どころか、こうしてエネルギーまで補給させてくれて。
魔力増幅器だってタダで動かせる訳じゃないだろうに。
「僕が何か手伝えることがあればいいんですが……」
「なら少し思い出話に付き合ってくれないかい? なかなか人に言えない悩みがあるものでね」
「それくらいなら喜んで! 本体の僕は聞き上手で有名だったくらいですから!」
そのお礼が話し相手ってだけなら、むしろ望む所だ。
僕も人と話するのは大好きな方だからね。
確か本体がお嫁さんを口説いたのも、悩みを聞いた末の事だったはずだし。
……口説くって意味が何なのかまでは憶えてないけども。
さて、フェクターさんの悩みって何なんだろうか。
やっぱりこの村の自給率に関してなのかな。
「……実はね、私はこんな服を着ているが、軍人でも兵士でもないんだ」
「えっ……?」
「脱走兵、なんだよ」
「なっ!?」
最初はそう軽く思っていたのだけど。
いざ語られた時、僕は絶句するしかなかった。
まさか、この優しいフェクターさんが脱走兵!?
そんな馬鹿な話、ありえる訳がない!!
――なんて反論する事さえとてもできなくて。
だって、こう語るフェクターさんは何か物悲しそうな眼で虚空を眺めていたから。
そんな悲壮感の溢れた様子を前に、耳を傾けずにはいられなかったんだ。
こんな誘いもあったので、僕はひとまず駐在さんの住む屯所に行く事にした。
ずっと歩きっぱなしで膝部アクチュエータが悲鳴を上げているし。
言われた通り、少女も休ませてあげないとね。
そうしてほんの少し歩くと、またあばら家があって。
どうやらここが屯所らしく、駐在さんに中へと案内してもらった。
すると、思いがけない物が目に入る。
「えっ、あれって……ヴァルフェル!?」
なんと建屋内の壁際にヴァルフェルが置かれていたんだ。
当然の如く転魂装置も一緒に。
ただ、型はとても古い。
確かこのタイプは初期量産型で、転魂二回しか出来ない機種だったはず。
なんだってこんな物がここに……。
やっぱり獣魔が近くに根城を張っていたから配備されたんだろうか。
にしては型が古すぎるよなぁ。
「ああ、この村を守る為に使っている物だ。賊や野良獣魔を追い払うには丁度いいんでね。村の外側にも動体センサーを設置していて、すぐに侵入者の情報が来るようになっている」
「寂れていると思ったのに随分と入念な警備システムだなぁ、すごいや」
おまけに警備システムも都会人でさえビックリの仕様ときた。
こんなに厳重な村があるなんて初めて聞いたよ。
まぁ確かに、獣魔が現れてから世界的に治安が悪くなったって聞くし、仕方ないのかな。
「さて、自己紹介が遅れたね。私の名前はフェクター。この村の警備を任されている者だ」
「あ、僕はさっき紹介した通り、レコって言います。よろしくお願いします」
「あぁ、よろしく」
その警備システムを引いたのはきっとこの人自身なんだろうな。
とても真面目そうだし眼鏡かけてるし、話し方が丁寧で眼鏡クイッてしてるし。
「で、さっきの話の続きだが……実は、私達には食料の備蓄がそれほど無いんだ」
「これだけの大きな畑を持っているのに?」
「……そうさ。なにせ今、この村にいるのは老い先短い年寄りばかりでね。みんな自分の分を確保するだけで精一杯なんだ。私も手伝ってはいるが、そう上手くはいかない」
「そうだったんだ」
ただ、こうして話している時はとても元気が無さそう。
きっと今日も農作業をして疲れているんだろうか、こう話している時に床へと腰を下ろしていて。
半分気だるそうに肩を回しつつ、僕に相槌の手を挙げてくれた。
「でも子供は余計に食べるものだからね、その分の食い扶持が増えてしまうと、私達は冬を越せずに飢え死にしてしまう。だから引き取りたくても出来ないんだ」
「それなら皇国に援助を求めたらどうなんです?」
「そうもいかない訳があるのさ」
「訳……?」
それに生活もあまり恵まれていない様で、俯いた顔に陰りが生まれていた。
建屋の中は明るいんだけどね、どうにも影が深いよこの人。
相当苦労してるんだろうか。
そこでそんな顔を眺めやすくする為に、僕も床へと腰部を降ろす。
しばらくこうしておけば脚部もクールダウンして調子が戻るだろうし。
そのついでに少女を外に出してあげようと、片腕を背中に回す。
それで扉開閉ボタンを押してみたのだけど。
「ほら、出ておいで」
「そうは言うが、開いた扉がもう閉まってるぞ?」
「えっ?」
そう言われてコンテナ制御の部分を確かめてみたら、確かにステータスが「閉」になっている。
おかしいな、今開いたはずなのに。
壊れちゃったのかな?
そこでもう一度ボタンを押してみる。
そうしたらステータスが「開」になったのに、まーたすぐ「閉」になってしまった。
なのでムキになって何度ポチポチ押してもダメ。
毎回同じ事が繰り返されてしまって。
「なんなんだこれ……あ、あれ!? 『ロック』になった!?」
しまいには施錠されてエラー音だけが響くハメに。
状況的にたぶん、コンテナの中から操作してたんだろうね。
一体どうやってやったのかまではわからないけど。
「すいません、なんか出たくないみたいで……」
「はは、なら仕方ないな」
なんにせよ締め出されてしまった事に変わりはない。
拾った少女が引き籠りだったなんて聞いてないよ僕。
「とはいえ、少しくらいなら分けてあげられる余裕はある。といってもパン二個くらいだがね」
「貰えるだけでもありがたいですよ。渡せるようなお礼が無いのは心苦しいですが」
「気にしなくていい。困った時はお互い様さ。ちょっと取って来るよ」
「ありがとうございます、フェクターさん」
でもそんな彼女の為にと、フェクターさんが早速パン二個を用意してくれた。
疲れているだろうに、動かさせてしまって申し訳ないと心に思う。
で、今度は受け取ったパンとお水をカゴごとコンテナ前に寄せてみる。
すると今度は自分から扉を開いて、腕だけ伸ばしてパッと取ってすぐ閉めた。
君、どれだけそこから出たくないの……。
「よほどお腹が空いていたんだろう。少しでも足しになれば幸いだ」
「お礼くらい言えばいいのになぁ」
「構わんさ。それとここでエネルギーも充填していくといい。皇都に行くにはまだ一日以上も歩く必要があるだろうからね。人間なら、だけど」
「何から何まで申し訳ない……では、お言葉に甘えさせていただきます」
それでも嫌な顔をしないフェクターさんは本当にいい人だ。
食料どころか、こうしてエネルギーまで補給させてくれて。
魔力増幅器だってタダで動かせる訳じゃないだろうに。
「僕が何か手伝えることがあればいいんですが……」
「なら少し思い出話に付き合ってくれないかい? なかなか人に言えない悩みがあるものでね」
「それくらいなら喜んで! 本体の僕は聞き上手で有名だったくらいですから!」
そのお礼が話し相手ってだけなら、むしろ望む所だ。
僕も人と話するのは大好きな方だからね。
確か本体がお嫁さんを口説いたのも、悩みを聞いた末の事だったはずだし。
……口説くって意味が何なのかまでは憶えてないけども。
さて、フェクターさんの悩みって何なんだろうか。
やっぱりこの村の自給率に関してなのかな。
「……実はね、私はこんな服を着ているが、軍人でも兵士でもないんだ」
「えっ……?」
「脱走兵、なんだよ」
「なっ!?」
最初はそう軽く思っていたのだけど。
いざ語られた時、僕は絶句するしかなかった。
まさか、この優しいフェクターさんが脱走兵!?
そんな馬鹿な話、ありえる訳がない!!
――なんて反論する事さえとてもできなくて。
だって、こう語るフェクターさんは何か物悲しそうな眼で虚空を眺めていたから。
そんな悲壮感の溢れた様子を前に、耳を傾けずにはいられなかったんだ。
0
お気に入りに追加
16
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
王女、騎士と結婚させられイかされまくる
ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。
性描写激しめですが、甘々の溺愛です。
※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。
獣人の里の仕置き小屋
真木
恋愛
ある狼獣人の里には、仕置き小屋というところがある。
獣人は愛情深く、その執着ゆえに伴侶が逃げ出すとき、獣人の夫が伴侶に仕置きをするところだ。
今夜もまた一人、里から出ようとして仕置き小屋に連れられてきた少女がいた。
仕置き小屋にあるものを見て、彼女は……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる