上 下
33 / 41
第一一話

11-2

しおりを挟む


 オホン……それではワタクシ、PPAP子から語らせて頂きます。
 これは天界暦で言う所の約一〇〇年前のお話です。

 当時、ワタクシはまだ経験の浅かった為、下級天使としてとある世界に派遣されました。
 先程述べた通り、転行業務を卒なくこなす為にです。
 訪れたのは主に転移を行う世界でした。

 でもその世界はまだ創られて日が浅く、転移経験も乏しくて。
 そこで基礎知識を学んでいたワタクシと、もう一人の天使が神代理の受付天使として従事する事になったんです。

 とても小さな世界でしたが、転移者の数は当時他よりもずっと多かった。
 それはもう二人でさばくのも大変なくらいに。

 それというのも、その世界は常々混乱が起きていまして。
 まるで世界に見立てたテーブル上で人魔全面戦争が行われているかの様でした。
 なので転移者の力が沢山必要なくらいに混沌としていたものです。
 毎日の様に転移者がやってくるくらいでしたから。

 忙しい毎日でしたね。肩凝りが取れなくなるくらいに。
 けど、それでいて充実はしていました。
 仕事は大変でしたけど、やってくる人々はみんな素直で。
 だから背中を押すのも気持ち良く行えたものです。

 相方ともとても仲良くなって、オフの日には一緒に遊びに行ったりもしましたね。
 一緒に愚痴りあったりしたのはいい思い出です。

  そんな日々を過ごしていた頃でした。
 徐々に世界情勢が混沌側に傾いて来まして。
 それも、今のままでは世界が滅んでしまうと言われる程に。

 秩序側の人間勢よりも、混沌側の魔軍勢の方がずっと強かったからです。

 そこで神は決断します。転移者の数を倍にしようと。
 それに加え、天界から更なる派遣天使を呼び込む事も。

 それで更に三人の天使が増えました。
 私達が忙しい事を知っていたから、敢えて人数を多めに増やしてくれたんですね。
 それで当時はとても感謝していましたよ。「神マジ神!」って。

 来てくれた方々も皆いい子ばかりでしたね。
 特にその中の一人は直ぐ打ち解けて。

 とても明るい子でした。
 ちょっと目立ちたがりで自己主張も強いけど。
 真面目だし、楽しそうだし、きっとすぐ順応して皆を助けてくれるんだろうなぁって。

 それで新体制を発足して、世界はどんどんと進んで行きます。
 だったのですが……。

「ねぇ聞いた? 最近、転移者の死亡比率が凄く増えているらしいの」
「前線で人全然足りない! 新しい転移者来たんじゃないの!?」
「最近、人間勢の領地が立て続けに魔軍に奪われてるみたい」

 状況は変わりませんでした。

 いえ、それどころか悪化の一途を辿っていて。
 このまま本当に人間勢が滅んでしまうんじゃ、なんて心配されたりもしていたんです。

 敵が強くなるのはわかるけど、劣勢になるのが何故かわからない。
 なんでだろう、転移者の人数を沢山増やしたのに。
 だって、転移者達は一人一人が一騎当千の実力者達なんですよ?

 本当にわからない事だらけでした。
 少なくとも、天上から見下ろしただけでは。

 そこで神がワタクシに勅命を与えたのです。
 「正体を隠し、直接世界に降りて原因を調査してきてほしい」と。

 その命に従い、ワタクシは下界へ下りました。

 人間の女剣士へと姿を変え、長い年月を掛けて世界を直に歩いて。
 その目と耳で確かめながら調査を進めていきます。

 するとある時、妙な噂を耳にする事となったんです。

「知ってるか? 向こうの山間にしょっちゅう裸人の降臨する村があるらしいぜ」

 この話を聞いてピンと来ました。
 降臨、それはすなわち異世界転移なのだと。

 なら何故裸で降り立つのでしょうか?
 喚んだ際には必ず装備やスキルを与えているはずなのに。
 疑問と不安が圧し掛かります。

 それからワタクシは即日にその村へと訪れまして。
 そして早速、私の前で転移者が姿を現したのです。もちろん全裸で。

 なので保護がてら、その転移者に話を聞く事にしました。

「何で裸なのかって? そりゃ女神様との交換条件で剥かれちまったんだ。女神様と好き放題トークしていい代わりに、装備とスキルは全部置いてけってよぉ。ありゃ詐欺だぜ、せめて触らせろってんだ!!」

 驚愕しましたね。
 女神――つまり派遣天使の一人が追い剥ぎ紛いな事をやってたんです。
 しかもこれは一件二件という話ではありません。

 驚くべき事に、ここまでで既に五〇〇人以上が被害を受けたというのです。

 これ、魔軍一個大隊を瞬時に殲滅可能なポテンシャルを秘めた人数ですよ?
 今からでも勢力図を人間勢一色に塗り替えられるレベルでしょう。
 多過ぎですよね。

 なので最初は村人達も好意で助けていたのですが、何度も続くとさすがに嫌がったそうで。
 今ではもう捨て置き状態、ほぼほぼ野垂れ死になのだそうな。
 今回はワタクシが代わりに装備提供して事無きを得ましたけど。

 けれど、これでようやく原因が突き留められました。

 つまりこれが死亡率増加の直接的原因だったんですね。
 そして当然、戦力が増えない原因でもあります。

 それで早速天上へ戻り、神に報告。
 そのあと直ぐに例の村へ送った担当者を調査しました。
 それで判明したのです。原因が誰だったのかが。

 なんと、あの後続の明るい子が犯人でした。

 自分が可愛いというのを良い事に、転移者を丸め込んで騙していたんです。
 盗んだ装備やスキルは天界質屋に持ち込んで売り飛ばし、私腹を肥やしていたんだそうな。

 そこで化けの皮が剥がれまして。
 途端に豹変ですよ。

「ったく、いいじゃねぇか~!! クソ転移者どもが幾らくたばったってさぁ~~~!! どうせあいつら無限に湧いて来るしさぁあぁあ!!」

 全く反省する余地もありませんでした。
 天使とは思えない悪辣顔でしたね。

 普段は「私って可愛い~!」とか「だってアイドルだもん!」とか言ってた癖に。
 その裏の顔は堕天使そのものですよ。
 醜悪そのもの、唾棄すべき存在だったのだと。
 表裏ギャップ激し過ぎですよね。

 そんな訳でその子は天界に召還されまして。
 堕天こそ免れましたけど、大天使の裁きを受けて自宅謹慎一〇〇年の刑を喰らいました。
 年功キャリアが大事な天使には大きな痛手です。

 でも自業自得でしょう。
 何せ結局、あの世界は滅んでしまったんですから。

 彼女の招いた戦力増強遅延が響いて、人間勢が全滅した事によって。
 人気ある世界だったんで罪状も相応です。

 それに、お陰でワタクシを含めた派遣天使四人は職を失い、天界へ帰還する事になりました。
 世界崩壊で終わった事が気不味くて、仲良しだった相方とはもう連絡も取れません。
 そんな大きな禍根を残す世界運営業務となってしまったのです。

 この思い出はこれからも絶対に忘れない事でしょう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

【完結】嫌われ令嬢、部屋着姿を見せてから、王子に溺愛されてます。

airria
恋愛
グロース王国王太子妃、リリアナ。勝ち気そうなライラックの瞳、濡羽色の豪奢な巻き髪、スレンダーな姿形、知性溢れる社交術。見た目も中身も次期王妃として完璧な令嬢であるが、夫である王太子のセイラムからは忌み嫌われていた。 どうやら、セイラムの美しい乳兄妹、フリージアへのリリアナの態度が気に食わないらしい。 2ヶ月前に婚姻を結びはしたが、初夜もなく冷え切った夫婦関係。結婚も仕事の一環としか思えないリリアナは、セイラムと心が通じ合わなくても仕方ないし、必要ないと思い、王妃の仕事に邁進していた。 ある日、リリアナからのいじめを訴えるフリージアに泣きつかれたセイラムは、リリアナの自室を電撃訪問。 あまりの剣幕に仕方なく、部屋着のままで対応すると、なんだかセイラムの様子がおかしくて… あの、私、自分の時間は大好きな部屋着姿でだらけて過ごしたいのですが、なぜそんな時に限って頻繁に私の部屋にいらっしゃるの?

皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚
恋愛
皇太子の子を妊娠した悪役令嬢のレイチェルは幸せいっぱいに暮らしていました。 でも、妊娠を切っ掛けに前世の記憶がよみがえり、悪役令嬢だということに気づいたレイチェルは皇太子の前から逃げ出すことにしました。 本編完結済みです。時々番外編を追加します。

ポンコツお嬢様と世話役執事

御船ノア
恋愛
膨大な総資産を持つ一家の娘、『アリス』お嬢様。 そんなアリスに新たな執事として面倒見が良い(?)『シノン』が雇われる。 シノンはアリスが清廉潔白で文武両道の完璧超人かと思いきや、実はまるっきり正反対のポンコツ娘である事を世話しながら実感していく。 そんなアリスを改正し、自立性を高めようとシノンは日常生活を共にしながら努めようとするのだが……。 今日もお嬢の部屋は、執事と共に喧騒する。

特技は有効利用しよう。

庭にハニワ
ファンタジー
血の繋がらない義妹が、ボンクラ息子どもとはしゃいでる。 …………。 どうしてくれよう……。 婚約破棄、になるのかイマイチ自信が無いという事実。 この作者に色恋沙汰の話は、どーにもムリっポい。

花の簪

ビター
ファンタジー
とにあさまより、いただいたお題。 「かんざし」 はるか東の大国から親和の証に砂漠のオアシスへと輿入れしたのは、容姿のすぐれない16歳の少女だった。 しかし、彼女は類まれなる歌声を秘めていた。 高音を保つために去勢されたウード弾きと、後宮で孤立した姫は歌を通じて心を通わせ始める。 全27話、完結作品です。毎日更新、よろしくお願いいたします。 表紙イラストは、みうみさまです。

断腸の思いで王家に差し出した孫娘が婚約破棄されて帰ってきた

兎屋亀吉
恋愛
ある日王家主催のパーティに行くといって出かけた孫娘のエリカが泣きながら帰ってきた。買ったばかりのドレスは真っ赤なワインで汚され、左頬は腫れていた。話を聞くと王子に婚約を破棄され、取り巻きたちに酷いことをされたという。許せん。戦じゃ。この命燃え尽きようとも、必ずや王家を滅ぼしてみせようぞ。

嘘つきな唇〜もう貴方のことは必要ありません〜

みおな
恋愛
 伯爵令嬢のジュエルは、王太子であるシリウスから求婚され、王太子妃になるべく日々努力していた。  そんなある日、ジュエルはシリウスが一人の女性と抱き合っているのを見てしまう。  その日以来、何度も何度も彼女との逢瀬を重ねるシリウス。  そんなに彼女が好きなのなら、彼女を王太子妃にすれば良い。  ジュエルが何度そう言っても、シリウスは「彼女は友人だよ」と繰り返すばかり。  堂々と嘘をつくシリウスにジュエルは・・・

処理中です...