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最終話 勇者達の真の冒険RTAはここから始まる

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 シスメさんの突然の覚醒により、ジャガンコロッサスの脅威は去り。
 そして攻撃の余波で城上部をも吹き飛ばし、遂に戦いは終結した。

「なんとかやれてよかったよ。にしても、ここまでやっといて兵士の一人も来ないのは不思議なもんだ」
『恐らく先程の者が皆を支配していたのでしょう。それで洗脳が解け、皆気絶しているのだと考えられます』

 しかしその被害は甚大だ。
 仲間達はみな討ち死にし、装備もボロボロに。
 おまけに城もこの状態だから、次の勇者召喚は一体どうなるやら。

 まぁ、むしろ今まで何ともなかったのが不思議なくらいだが。

「にしてもアイツ、まるで邪神が勇者の来訪を待っているみたいな言い草だったな。俺って邪神の天敵なんじゃないのか?」 

 俺はあの国王に召喚された時からあの男を信用していた。
 敬る姿は本物だったし、来訪の時は本当に嬉しそうだったから。
 黒幕は意外な人物、だなんてよく言うけど、奴だけはそうも思えなかったんだ。

『確かに天敵ではありますが、同時に勇者がいなければ完全復活は叶いません。ゆえに勇者の訪れは邪神にとっての願いでもあるのです』
「そうだったのか。一体何なんだ、邪神って……」

 ただその理由も、こうして真実を打ち明けられた事ですぐ納得に至れた。
 確かにな、それなら俺を敬うのももっともだ。
 スパッと邪神の所に行って完全復活させてくれれば本望だろうからな。

 けどわかったのはそれくらいで、邪神の本質までは教えてもらえず。
 シスメさんは口を噤み、答えようとしてくれなくて。
 やはり核心は自分で探せって事なんだろう。

 それはきっとシスメさんの事に関しても。

「ならシスメさん、君は一体なんなんだい? もしかして神の遣いとか」
『それも秘密です』
「だよな」
『……ですが、唯一言えるのは間違い無く勇者の味方であるという事です。少なくとも、貴方に対してはとても感謝していますよ』
「えっ?」
 
 シスメさん自身の正体はもちろん教えてなど貰えるはずも無く。
 けどその時振り向いた彼女は優しい笑顔を向けてくれていて。
 とても人らしく柔らかい笑みだったから、つい見惚れて呆けてしまった。

『貴方達の推測通り、私は勇者育成を目的として現れる存在です。本来は勇者の証を手に入れた時点で消滅するのが基本でした。しかし対象の勇者の成長が未熟である場合のみ、延長して付き添う事となっているのです』
「はは、となると俺は勇者としてはまだまだ未熟って事かぁ~!」
『ふふっ、ええそうですね』
「おっとぉ、手厳しいな」

 それにいつもみたいな嫌味がない。
 テンプレ台詞じゃないだけでこれだけ印象が変わるもんなんだな。

『けれど、それと同時に新たなる可能性を秘めている存在でもあります』
「新たなる可能性?」
『えぇ。ただ邪神を封印する為の旅ではなく、それ以上の事を成してくれる――そんな気がしてならないのです。その可能性があったからこそ、私は仕様離反システムを起動させる事が出来たのですから』

 だとすると、今のシスメさんは【お母さんモード】って言った所かな。
 俺が不甲斐ないから、保護者として立ち上がってくれたのだと。

 その方が仕様離反システムなんて物よりはずっとわかりやすい。

「うん、ありがとう、お陰で助かったよ」
『しかしこのシステムは制限時間が存在します。ゆえに発動できる場面は限られていると言えるでしょう。ですからまたシナリオブレイクで予想外の危機が訪れた時にだけ、再び私を頼ってくださいね』
「わかった。使い所を考える様にするよ」
『えぇ、ですから安心して冒険を続けてください。私はいつも、貴方達を見守っていますからね』

 でもそのモードも遂に時間切れとなってしまった様だ。
 彼女から溢れていた光が急激に弱まり、とうとう消え失せて。
 それでいつものぼんやりとしたシスメさんが戻って来た。

『こうして勇者・翔助達の旅は始まった!』
「……そうだな。ここからが俺達の本当の旅なんだ。それじゃあ行こうか、シスメさん!」

 だから俺は彼女と共に城を出る。
 今教えてもらえた事を胸に秘めて。
 冒険を成し遂げたいって想いを叶える為に。

 そしていつか、この世界の真実を確かめてやろうと心に誓って。





 それから翌日。
 俺は第三の街へと辿り着いて早々、仲間を呼び戻した。

 そうしたら仲間達は揃って謝罪し始める始末で。
 やはりあれだけの集団でありながら瞬殺されたのがよほど堪えた様だ。

 けど俺はそんな彼等にむしろ感謝したよ。
 無限残機とはいえ死ぬ事が辛くない訳が無いからな。
 にも拘わらず体を張って俺を守ろうとしてくれた事には敬意を表したい。

 それで落ち着いた所で、事の顛末を全て話した。

 仲間達も最初は疑ったものさ。
 シスメさんがカンストオーバーの性能を発揮したなんてね。

 ま、その数分後には「でもシスメさんだからあり」なんて楽観的な結論になった。
 相変わらず、深く考えない奴等だなぁなんて鼻で笑ってやったもんさ。
 なんだか懐かしいやりとりで、たくさん笑う事が出来たよ。

 ――で、更にその翌日。

「さて、準備も整ったし……そろそろ行くか!」

 俺達は改めて冒険の旅に出ようとしていた。

 勇者の証が戻ってきた事で、ある程度の装備は整えられる。
 けど元々スッカラカンだったからな、完璧とは到底言えない。
 なので先に進むのは少しだけ待つ事に。

 今はちょっとでも強くなって、不測の事態に備えないといけないから。

「ではまず再びの不思議な迷宮ですな! 腕が鳴りますぞォ!」
「ダウゼンの武器も壊れちゃったから取らないとだし、二・三周は覚悟しないとね」
「その前にウチ、転職したいでっす」
「ふははは! ならばユーリスも邪神王子に転職するのだ!」
「そんな職あるの!?」

 だから待望の不思議な迷宮にまたトライする事に。
 今度は本気で最下層を目指すつもりだ。
 強烈な武器って奴を手に入れれば、ある程度のペナルティモンスターは自分で処理できるだろうさ。

 全てをシスメさんに任せる訳にはいかないから。
 少しでも強くなって、自分達で何とかしてみせる。

 きっと真実ってのは、そう苦労した先にこそ待っているんだって思うんだ。
 
「じゃあスパッと転職を済ませて迷宮行くぞぉ!」
「わかりまっした!」

 だから俺達は未熟のまま強くなるよ。
 シスメさんともいつまでも旅を続けて行きたいからな。

 それで皆で揃ってこの世界をクリアしよう。
 邪神を封印して、真実を解き明かして。
 仲間達と笑い合える穏やかな平和を手に入れるんだ。

 それが、この世界に呼ばれた俺の本当の役割だって信じているから。



 その為になら俺は、いつまでだって進み続けられるさ。

 


おいでませ、バグ世界! 完
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