上 下
34 / 41

第34話 時には立ち止まる事も必要

しおりを挟む
 第八の街ネクスディン。
 ここは今いる大陸の中で最も大きく豊かな街である。

 街自体は海上に存在。
 白石で出来たアーチが網目状に広がり、その上に建物が立っている。
 更に中央には巨塔が立っていて、これが結界を張って街を守っているそうな。
 おかげで海の魔物にも襲われず、貿易港としても安全で優秀だという。

 そんな街だからこそ、見た目からしてとても美しい。
 まるで蒼海の上に浮かぶ装飾領域――そう思えるくらいに輝かしいんだ。
 今までの街よりずっとファンタジーっぽくて、イイ。

 綺麗な街だから大衆浴場も立派だったし、宿もとてもサービスが利いているし。
 居心地が余りにも良いので長居したい気分だよ。

「俺、もし帰れなかったらこの街に住みたい」

 ついこう零してしまうくらいにね。
 お洒落なティータイムを堪能中なのもあって、気分はセレブだ。

「物価、高いわよ?」
「潮風にも常に晒されますな」
「骨付き魚嫌いだからぁ主食になるのは困るぅでっす」
「ユーリス、なぜお前まで住む事になってるのだ」

 後は諸々な問題さえ解決出来ればなお良し。
 物価は特に、未だ儲ける方法を知らない俺としては何とかしたい所だ。

 そう悩みつつ、空いた手でユーリスの口に魚の切り身を突っ込んでやる。

 もちろん嫌がらせじゃないぞ。
 ちゃんと骨を取り除いてほぐしてやったやつだ。
 先日無駄死にさせまくってしまった事への詫びでな。

 本人は気にしていないらしいが、やっぱり俺は気になる。
 そこで「少しわがままを聞こう」と言ったら、「今日一日甘えさせて欲しいでっす」と返って来た訳だ

 なので今日は休暇日。
 冒険の事を忘れ、リフレッシュする事となったんだ。

「むぐむぐ、こういう生活なら毎日送ってみたぁいでっす」
「明日からは料金が発生するのでご利用は計画的に」
「お金が無いから体で払うのでっす」
「お前それ、本気で言ってる? 本気に受け取っちゃうよ?」

 ただ、甘えるとか言った本人がこうして挑発まがいな事まで言ってくる。
 この世界に来てからご無沙汰な俺にとっちゃ危険な一言だ。

 まったく、この世界の貞操観念はほんと一体どうなっちゃってるんですかね。

「ユーリスの場合は消費アイテムとしてでしょうな」
「そうね、ドオンの塔みたいな場所はあと二箇所あるようですし」
「あぁ~そっち……。あと、あの塔まだあるのな。そこをショートカットしたいんだが」
「安心して。一箇所だけは回避可能よ」
「ただ残る一つは難易度・修羅らしいでっす」
「ならまずユーリスを使わないように登る手段を見つけよう。じゃないとこのままじゃ俺、ユーリスの奴隷になりかねん」
「ウチはそれでも構わなぁいでっす。むぐむぐ」

 仮にアイテム扱いの方だとしても、罪悪感が湧くばかりだからノーサンキュー。
 仲間らしく、普通に接する事を望みたい。
 俺は独りよがりソロプレイより協力し合いマルチプレイの方が好きなんだ。

 例えば、ユーリスの吹き飛びに乗って一瞬で踏破とかな。

「さて、お腹一杯になった事だし、自由行動でもさせてもらうわ」
「自分も少し街を回ってきまする。実はここの武器屋に良い斧があると父から教えられていたものでしてな」

 そう思い悩み始めた矢先、ダウゼンとウィシュカが揃って席を立つ。
 まるで俺とユーリスを二人きりにするかの様なタイミングだ。
 この二人は変な所で気を利かしてくるなぁ。

 でも別に俺とユーリスはそういう関係なんかじゃない。
 だからそんな気遣いなんていらないのにな。





 ――なんて軽く思っていたんだが。

 俺はなぜか今、ユーリスと共にピンクな宿の一室にいる。
 たった一つしかないダブルベッドの上に腰かけて。
 しかもあいつは鼻歌を歌いながらシャワーを浴びているという状況だ。

 どうしてこうなった。
 何をどう間違えたらこうなる。
 その経緯を思い出したいのだが、一切記憶が無い。

 つまりあれか、これも仕様……なのか!?

 あの宿屋に泊まると速攻で翌日になるというやつだ。
 あれと同じ様な現象が俺の身にまた起きたのだろうか。
 なんでこの組み合わせでその間違いが起きる!?

 けど、そう頭を抱えてる間にシャワーの音が消え、ユーリスが前に現れた。

 湿気を帯びた髪と、タオルを巻いただけの肢体。
 それだけでもうゴクリと唾を飲む程に綺麗で。
 さすが、自身を美少女と言い切るだけの事はある。
 
 そんな彼女がそっと横に座る。

 その時漂ってきた香りだけで理性が飛びそうだ。
 もしかしてユーリスってこういう事だけは積極的なのか?
 小さいのに、人見知りするのに、吹き飛びやすいのに。

「今日だけはわがままを聞いて欲しいって言ったぁでっすから。思い出、作って欲しい……でっす」

 そして小さな手が俺の支える手をそっと優しく撫で上げた。



 それがきっと、最後のタガ外しだったのかもしれない。
 だから俺はそこから本能に従うまま、彼女を両腕で力強く抱いた。
 そしてただただ荒々しく、願われるままに想いの丈をぶつけたのだった。

 彼女が宿の壁を突き抜け空彼方へと吹き飛ぶその時まで。(開幕)
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

もふってちーと!!

でんちむ
ファンタジー
え!?もふもふすればする程強くなっていく能力!? 主人公の上河 舞(かみかわ まい)は男の癖にもふもふしたものや、可愛い物が大好き。そんな舞は幼馴染と帰宅している最中、異世界に!体は女の子になっちゃってるし、森の中だし、どうしよう!? 現世で培った知識を活かして異世界(色んな面で)チート生活!! *ずっともふもふしてるわけじゃありません。 *タイトル詐欺じゃありません。 *(読者の方々は異論は)ありません(脅迫)

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

男女比世界は大変らしい。(ただしイケメンに限る)

@aozora
ファンタジー
ひろし君は狂喜した。「俺ってこの世界の主役じゃね?」 このお話は、男女比が狂った世界で女性に優しくハーレムを目指して邁進する男の物語…ではなく、そんな彼を端から見ながら「頑張れ~」と気のない声援を送る男の物語である。 「第一章 男女比世界へようこそ」完結しました。 男女比世界での脇役少年の日常が描かれています。 「第二章 中二病には罹りませんー中学校編ー」完結しました。 青年になって行く佐々木君、いろんな人との交流が彼を成長させていきます。 ここから何故かあやかし現代ファンタジーに・・・。どうしてこうなった。 「カクヨム」さんが先行投稿になります。

クラフト系サンドボックスゲームで遊びつくしていた俺が異世界で、メスガキお姫様の宮を造ることになった話

鯨井イルカ
ファンタジー
 サンドボックスゲーム好きの主人公タツヤは、ある日突然、クラフト能力を持って異世界に飛ばされた。  そこで、国王から「娘のために宮を作ってくれ」と頼まれるが、その娘というのが、とんでもなくワガママなメスガキだった。  はたしてタツヤは、無事に宮を作り上げて元の世界に戻れるのか?

現代ダンジョンで成り上がり!

カメ
ファンタジー
現代ダンジョンで成り上がる! 現代の世界に大きな地震が全世界同時に起こると共に、全世界にダンジョンが現れた。 舞台はその後の世界。ダンジョンの出現とともに、ステータスが見れる様になり、多くの能力、スキルを持つ人たちが現れる。その人達は冒険者と呼ばれる様になり、ダンジョンから得られる貴重な資源のおかげで稼ぎが多い冒険者は、多くの人から憧れる職業となった。 四ノ宮翔には、いいスキルもステータスもない。ましてや呪いをその身に受ける、呪われた子の称号を持つ存在だ。そんな彼がこの世界でどう生き、成り上がるのか、その冒険が今始まる。

処理中です...