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第16話 ダンジョン最大の謎~バグ世界編~

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 ウィシュカ・レッドドラゴン事件から翌日。
 俺達は胸を張って第三の街アルタスを後にしていた。

 というのも、出る際に街の人達から熱い声援を受けたから。
 邪神封印に旅立った勇者を応援しようと、街中の市民達が一挙に集まったのだ。
 先日の事件が逆に、俺達の存在を悟らせる事となってしまったらしい。

 それだけの声援を受けたら堂々とせざるを得ないだろう。
 武具屋倒壊の件でも恨まれるどころか励まされたくらいだし。
 それで今やっと市民達の視線を振り切ったという訳だ。

 なおあの一件はすぐに無罪放免、追及も無しとなった。
 詳細を警備組織へと伝えた所、「やむなし」と判断された様でね。
 ウィシュカ一族の不具合被害はどうやら全国的に免罪されるらしい。
 
 確かに勇者一行だから特別なのはわかるけど。
 その被害すべてをさらっと受け流し、讃えるまでした市民のガバ器量だけは理解出来そうにないわ。

「いやぁ総市民達の見送りはなかなかに豪勢なものでしたなぁ」
「受ける身としては凄く恥ずかしかったけどな。まさかあんなパレードになるとは思っても見なかったよ」

 まぁ存外悪い気分じゃなかったけどね。
 罪悪感こそあったけど、それを払拭してくれる様な応援っぷりだったよ。
 今まであまり実感なかったけど、勇者ってそれくらい期待を受けていたんだな。

「さて、次の本来の目的地は第四の町カナウだけど、ここはスルーするわよ」
「例のバラウル山の経由地でしかないですからな」
「そもそも利用されなくなってぇほぼ廃村と化してるって噂ぁでっす」
「ショートカットが遂に町まで滅ぼしたか」
「しょうがないわ。弱き者は淘汰される、それは自然の摂理なのだから」
「その切り捨て方、ある意味邪神より酷くない?」

 だけどその勇者御一行がかつて、村一つを滅ぼす要因をもたらした。
 なかなかに罪だよな、この邪神封印の旅って。

 しかし今は深い事を気にしないで先へと進む。
 世界自体が受け入れている以上、来客のような俺が悩んだって仕方ないしな。

「となると次はどこに行けばいいんだ?」
「この先を進み、途中の分かれ道で西に向かうのです。その先に山を抜ける街道洞窟がありまして、そこを抜けると【第五の街シャルダン】に到達ですな」
「次はちょっと時間かかるわよ。歩いて三日くらいかな」
「……馬車とかそういう移動手段無いのか?」
「無ぁいでっす。速いと地面に落ちちゃうので」
「街によっては亀車とかはあるらしいですぞ」
「それはそれで乗ってみたい気がする」
『ジャイアントードがあらわれた。バトル開始! ――バトル勝利。翔助達は1,848,013の経験値を手に入れた』

 その道程は実に穏やかなものだった。
 こうして大事な話をしつつも歓談を挟んだり。
 唐突なシスメさんの報告に笑ったり。

 これだけ見れば邪神封じの過酷な旅とはとても思えない。
 最初の頃の戸惑い具合がまるで嘘の様だ。

「そういえば翔助殿、武器を新調しなかった様ですが、良かったのですかな?」

 するとそんな中、ダウゼンが武器の話題を振ってくる。

 確かに武具屋はウィシュカが倒壊させた。
 けれど街に武具屋は一つとは限らない訳で。
 念のためにと、あの後ユーリスの杖だけは新しい物に換えたんだ。

「ああ。攻撃力的にはそれほど上がらないし、無駄にお金を使う必要は無いかなってね。耐久値的にも最初の剣のままで問題無さそうだし」

 なにせ武器の使用頻度や耐久度がぜんぜん違うから。

 剣は殴ること前提だからか耐久度が高め。
 最初の街を出た所でそれなりに振ったが、まだ半分以上残っている。

 でも魔法の杖は耐久が低く設定されているようでね。
 おまけにユーリスがなぜか高位魔法を率先して使うからものすごく減る。
 必ず敵を滅却するから安心だけど、こうやって管理しないと怖くもあるんだ。

 それにRPGだと大概、主人公の装備は買わなくてもどうにかなるからな。

「あと俺は今、〝洞窟〟と聞いてピーンときたね。探索したら絶対宝箱があって、有用な武器防具が仕舞われているんだってな」
「ほう、さすがは翔助殿、なかなか鋭いですな。次の洞窟では【氷冷の銀剣】が手に入りまする」
「さりげなくネタバレするのやめてくんない?」

 相変わらずダウゼンが空気読んでくれないから楽しみは半減だけどな。

 ただ、いつも思うのが〝どうして洞窟には財宝の入った宝箱が置かれているのか〟という事だ。
 長く置かれているなら他の誰かが取っていそうなものなのだが。
 この世界にだってトレジャーハンターや盗賊みたいな奴等はいるだろうに。

「今、翔助殿は『どうして洞窟に宝が残っているのか』とお考えになりましたでしょう?」
「お前はエスパーか!?」
「いいえ、戦士です。この話題を出すと七二%の勇者がそう連想する、と日記に書いてあったのですぞ。きっと先祖たちが皆試したのでしょうな」
「さすが知性力の高さに定評のある戦士一族、分析力が違う」

 どうやら宝箱の件に関しては、この世界特有の事情があるらしい。
 ダウゼンの得意げな表情がそれを物語っているかの様だ。

 その知恵があって後衛専門なら、どうして魔術士の道を選ばなかったんだ?

「この世界には『財宝戻し屋』という職業があるのです。いつかきたる勇者の為にと宝を元通りにする専門職ですな」
「宝を戻す業者があんの!? それに一体何の意味が!? もう宝を直接くれよ!」
「それと洞窟類に設置された宝はその業者と勇者一行以外おさわり厳禁となっていまする。もし触れた場合、即座に箱の中へ飲み込まれて消えるそうな」
「それ、下手にバグ多いから俺達にも矛先向けられそうで怖いんだが?」

 まぁ教えてくれた内容は相変わらずブッ飛んでいた訳だが。

 とはいえこれは不具合というよりも、この世界独特の正式仕様だな。
 俺達に良いように作用しているみたいだから問題は無いだろう。

 ここまで聞くと、他のファンタジー世界ではどうなってるのかが気になるけども。

 そうこう話をしていると早速、例の分かれ道が見えてくる。
 傍の立札を見てみると、「北:第四の町、西:第五の街」と比較的新しく書かれていた。
 そこはせめて地名を書くべきなのではなかろうか。

 なのでまたしても「デバッグ班仕事しろォォォ」と唸りつつ、進路を西の道へ。
 景色先の山々を前に溜息を洩らし、仲間達と先に進むのだった。



 しかしこの時、俺達は気付いていなかったんだ。
 そんな和気あいあいとしていた一行の背後を見つめる視線に。

 その殺意敵意に塗れた――邪悪なる意志に。
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