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第三章

第109話 王位継承者

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 街での一騒動の後、テッシャゆかりの老人と出会った。
 彼女の正体が亡国の姫君という真実を土産にして。
 それも第一王位継承者ときたもんだ。

 こんな出来過ぎた偶然があっても良いのだろうか?

「テッシャ様はテッサ家二二番目の跡取り子として生まれましての。そりゃあもう手の掛かる御方でしたが、来たる未来の為の誠心誠意で尽くして参りました。時には手を取り、時には細い太ももを取り、たまーに裸を拝見させてもろたりグヘヘ」
「よし始末しよう。その下卑た笑いが堪らなく気に食わん」
「お待ちくだされェェェ!! まだ語り尽くしておりませぬゥゥゥ!!」

 だが今はその老人を前に拳を鳴らす。
 だって気に食わないんだもん。
 そう琴線に触れたならもう正義執行しか無いだろう。

 しかし老人の方も必死だ。
 今度は眼を輝かせて訴えて来た。
 ええい、何なんだこの面倒臭い奴。

「落ち着くんだアークィン。気持ちは拳が軋むくらい凄くわかるけど、この話は最後まで聞いた方がいいと思う」

 お前もかノオンよ。
 うん、膝に置かれた手元を覗いたら本当にビキビキいってるね。

 ……とはいえだ、彼女の言う事にも一理ある。
 この話には俺達にも少なからず益をもたらす可能性があるからこそ。

 だからこそ今は耐え忍んで聞くべきなのだ。
 この老人が何を目的としてテッシャを呼び止めたのかを。

「二二番目って事はつまり他の兄妹がいるってワケだよねぇ?」
「左様。母方こそ違えど、皆しっかりと我が王の血を継いでおられもうす。子孫を残す為にと、もはや種族さえ気にせずやたらめったらパッカンパッカンと子作りした結果ですじゃ」
「少しは隠したらどうなんだい?」

 しかし話を聞く度、仲間達が一人一人態度を硬化させていく。
 なんだろうなこの爺さん、本当は只のエロジジィなんじゃないか?
 マオを見る目もなんか怪しいし。

 お陰で今度はそのマオがお手上げ状態だ。
 でもって隣のクアリオにバトンタッチと言わんばかりに視線を送っている。
 クアリオ自身も頬杖を突いていて興味無さそうだけどな。

「……二二番目で第一位っておかしくねーか? 他の兄妹に王位継がせたりしねーの?」
「それがですのぅ、他の兄姉達は皆継承権を放棄してしまいまして。長男~六女までは反乱に挑むも途中で諦めて出奔。七女~一三男は各地で興行を始めるも現地に居付いて出家。一四男~一八女は界外出張後に帰国拒否。一九男~二一男は『彫金王に、俺はなる!』と言い張って一方的に放棄されもうした」
「皆やる気ねーじゃん……」
「全くもってその通り。テッシャ様とは違い、使命を忘れるなど以ての外ですじゃ」
「テッシャもわすれたーい」
「テッシャ様ァァァ!!?」

 まぁクアリオの気持ちもわからんでもないがな。
 俺もそろそろ聞くのが辛くなってきたし。
 例え目的の近道と言えど、事情がこうでは気乗りしない。

 なにせテッシャ自身が全くやる気無さそうだから。

 確かにチャンスではあるのだろう。
 でもその為に彼女を犠牲にするつもりなど毛頭無い。
 それが例え生まれた理由・使命なのだとしても。

 俺が輝操術の謎を追い求めるのは、それが自身の意志だから。
 けどテッシャは違う。

 彼女は決して王位を継ぎたくて旅していた訳ではないのだろう。
 その現実からただ逃げたくて穴を掘り続けていたのだと。
 あの明るい雰囲気の裏にはそんな想いが隠されていたんだ。

 その当人の意志を、俺は尊重したいと思う。

 例え結果的にこの老人の首をへし折る事となろうともな。
 あ、むしろそれは望む所なんだが。

「……だけど、皆がそうして欲しいって言うなら、継いでもいいよ」
「テッシャ、お前気付いて……」

 でもテッシャは俺達が思う以上に勘の良い娘だったらしい。
 どうやら俺達の考えに勘付いていた様だ。

 彼女の王位継承が俺達にどんな益をもたらすのか、と。

 もちろん財産目当てだとかそんな浅はかな事じゃない。
 王位継承という行為そのものに価値があるんだ。
 特に、今の俺達にとっては喉から手が出る程のな。

 なにせこれは目的達成への近道に大いと成り得るのだから。

 王位を継ぐという事はすなわち陽珠への謁見が必要となる。
 そこで俺達もその謁見に同行させてもらんだ。
 そうすれば無事、陽珠の君と出会うミッションは達成させられるだろう。

 ただし、テッシャと引き換えにしてな。

 王を継ぐというのはそういう事なのだ。
 代表として民を守る事に尽力せねばならないからこそ。
 一度その任に就けば「もう嫌だ」などと我儘を言う事さえ許されない。
 それが王たる責任というものだから。

 だからだろうな、こう言うもテッシャの顔は浮かない。
 ほんの少し微笑みは見えるが、まるで諦めた様な雰囲気で。
 そんな彼女を前に、俺達はもう何を返す事は出来なかったんだ。

 この調子の良いジジィは別として。

「おお、さすがはテッシャ様に御座います! やはり地の精霊様と契約を結べただけの事はありますなぁ! しかしてこの話、決して皆様にも損はさせませぬぞ。少なくとも皆様の意向には沿うと思いますじゃ」
「どういう意味だ?」
「テッシャ様が王位継承を行うという事はつまり、現大陸を支配する【ヴァウラール帝国】を打倒しなければなりませぬ。そしてかの国の帝はそれはそれは悪逆非道で悪事をたんと働いておりましての。そこで是非とも【国堕とし】の皆さまに一つお力添えを頂かねばと」
「「「ッ!?」」」

 コイツ……ッ!!
 どうやら最初から俺達の事も知っていたらしいな。
 恐らくは戦う理由も、その行動原理さえも。
 そしてその仲間にテッシャもいると気付いたんだろう。

 となれば引き留めたのはテッシャではなく俺達全員だったという訳か。
 それで事情を聞かせつつ、俺達を自然と仲間に引き込むつもりだったと。

 このジジィめ、思った以上に策士だぞ。

「何故この大陸にいらっしゃったのかまでは存じ上げませぬが、これはきっと地神の導きにございましょう。なればこの奇跡たる巡り合いに殉じ、なにとぞご助力を頂けませぬか?」
「……その決定権は俺達には無い。あるのは只一人、テッシャだけだ」
「えッ!?」
「お前が決めるんだ。俺達はその決定に従うさ。決して従者だとか家来とかなんかじゃなく、【銀麗騎志団】の仲間としてな」
「皆……」

 けどその策略に只はまるつもりなんて無いさ。
 主導権は未だ俺達にあるんだからな。

 だったらこちらの意思も尊重させてもらうとしよう。
 テッシャが決めた事なら誰も異論は無いだろうから。

 そんな彼女の為になら、俺達は全力を尽くす事も厭わない。



「わかった……じゃあテッシャ、王位を継ぐよ」



 それが例え、別れへの道を辿る事になるのだとしても。
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