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第二章

第81話 煌光一閃

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 まさかあの巨大人型魔動機クアリオンが召喚魔法を使うなんてな。
 即席で造り上げたとはとても信じがたい事実だ。

 なにせ召喚術というものは他の術法よりずっと難しいとされている。
 想像上の生物などを喚ぶとなれば尚更に。

 召喚術は本来、他者・他物を呼び寄せる術法。
 昔は転送魔法と別とされていたが、研究の末に同等という事がわかった。
 その対象に際限は無く、身近なモノであればあるほど呼び易いという。

 しかし想像上の生物となると話は別で。
 例え仮に現存しない生物を呼び出そうとしても大概が失敗する。

 何故なら生体機能が維持出来ないから。
 想像だけでは体内構造を構築しきれず、生物として成り立たないのさ。
 そんな事もあって幻獣召喚は術法のみならず生物知識も必須となるそうな。

 で、成功率も低い事から揶揄も籠めて「幻の獣」なんて呼ばれている訳だ。

 なお、この仕組みは現存するモノの召喚にも同様に言える事で。
 もし知らないモノを呼び出そうとすれば最悪〝歪む〟。
 例えば人だったら同じ姿をした別人が出てきたりして。
 転送先に誰かいようものなら、うっかり混ざってしまう事だってあったり。

 なので召喚魔法、とりわけ転送系は基本禁忌とされている。
 娯楽小説で転送魔法をバンバン使う主人公もいるが、あれ実はヤバいんだよ。

 だけどそんな召喚魔法をクアリオンは一発で成し遂げた。
 しかも鋼鉄の鳥などという常軌を逸したモノをな。
 己も鋼鉄だからこそそういう発想が出来るんだろう。

 そして今、その巨大な鳥がクアリオンの真上へと到達する。

『行くぞゴッドフェニシオンッ!! 合体だッ!!』
『クォォォーンッ!!』
 
 おまけに何か意味不明な事を言い出した。
 合体だと!? 一体どうするつもりなんだ!?

『クアリオン、フォームアーーーップ!!』

 この時、クアリオンが部屋高く空へと飛び上がる。
 俺が、クアリオが、賢者達もが驚き慄く中で。

 するとその途端、なんと鋼鉄鳥がバラバラに!
 更にはそのパーツ一つ一つが飛び上がったクアリオンの周囲を舞い始めた。

 これもまるで魔法のよう。
 そう、魔力フィールドが各パーツを維持して磁石の様に引き付けているんだ!

 そんなパーツ達が引き寄せられ、クアリオンの全身へ。
 胴体、肩、腕、腰、脚、足と、激音と共に一つになっていく!
 そして遂には巨大な翼が背中に。
 加えて空から落ちて来た冠が頭部に被さり、なお強大な雄姿へと変貌した。

 でかい、なんて巨大な姿なんだ!!
 この神々しいまでのフォルムはもはやゴーレムなんて生易しい物じゃないぞ!?

 まさかこれがクアリオンの真の姿だっていうのか!?

 黄金の翼は輝きを瞬き放ち。
 巨大な脚は巨体を力強く支え。
 太ましい腕はあらゆる敵を薙ぎ払おう。
 雄大に反りあがった胸部より自信をも見せつけて。

 その頭に煌めく金の二角は勇気の証。
 悪を逃さぬ翡翠の眼が今こそ光を迸らせん。

 然らば見よ、その雄姿を。
 俺達の希望は今、目の前にある!



『魔導合体! ゴォォォッドクアリオォォォンッ!!』



 もう全く意味がわからない。
 恐らくクアリオも同様に。

 けど無駄に雄々しい叫び過ぎて惚れ惚れしてしまいそうだ。
 なんなんだよ、この胸躍る雄姿と展開は!
 
「お、おのれぇ! テーブルゴーレム、奴をさっさと破壊しろぉ!」
『グモォォォーンッ!!』

 かくいう賢者側も賢者側だ。
 なんだか悪人面に拍車がかかっているじゃないか!
 それとゴーレム、キサマそんな声が出せたのか!?

 だがどうやらテーブルゴーレムとやらは動きが鈍過ぎた様だ。
 その間にももう、ゴッドクアリオンは一手を打っていたのだから。

『おおおッ! ゴッドクアリオンブレェェェドッ!!』

 そんな巨体が両手を振り上げた時、またしても恐るべき事が起きる。
 なんと突如として巨大な剣が掴まれる様にして現れたのだ。

 魔動機であり、思考がある。
 つまりその思考能力は機械の如く正確。
 故に召喚魔法も完璧に実行する事が出来るのだろう。

 ならばこうして剣さえも喚ぶ事さえ可能という訳か。
 なんて規格外の能力なんだよ!

 しかもそんな剣が光を放つ。
 天井を貫く程に強く眩しく神々しく。
 亀裂さえ誘発する程に激しい波動をもたらして。

 これだけの力が振り下ろされたらどうなるかわかったもんじゃない。
 だからこの時、俺は咄嗟にクアリオを掴み、三賢者の下へ。
 一つだけ組んでおいた【輝操術】で障壁を張る。

 これでも気休めだ!
 この力はもはや、塔そのものを破壊しかねないぞッ!!

 ――けど、それでも見てみたい。
 いや是が非でも見せてくれ、その力を。

 ゴッドクアリオン、お前の可能性の輝きをッ!!



『ゴッドクアリオンッ!! ファイナルヴェクタァァァ、スラァァァッシュッ!!!!!』



 その輝きが今、俺達の目の前で振り下ろされた。
 光の柱とも言える強大な力そのものが。
 塔を切り裂きながらテーブルゴーレムへと向けて。

 余りにも速い斬撃だった。
 まるで空間そのものを真っ二つと切り裂いたかの様に。

 テーブルゴーレムがそれ程の速さで光剣によって両断されていたんだ。

 それだけじゃあないぞ。
 塔そのものが真っ二つに切り裂かれていたんだからな。

 お陰で今、凄まじい振動が床を走っている。
 壁にも亀裂が走っていく。
 不穏だらけの破砕音と共にな。

 それで頭上からとうとう青白い景色までが見え始めた。
 この会議室フロアから塔が割れ始めた所為で。

 そうだ、割れている。
 塔が真っ二つになって割れているんだ。
 最上階全てを切り裂いたから!
 雲までをも吹き飛ばして!!

 そしてここで自重に耐えられなくなったのだろう
 なんと崩壊加速し、二つに分かれた塔上階がとうとう崩落する事に。
 左右に分かれて崩れ落ち、湖へと真っ逆さまさ。
 ノオン大丈夫かよ!?

 ただ部屋自体にそこまで被害は無かった。
 元々ここから力が放たれていたからな。
 余りにも出力が大き過ぎて外側に威力が働いた結果なのだろう。

 そのお陰でどうやら、ブブルク達もまだ無事らしい。
 全員腰を抜かして地べたに尻餅をついているけどな。

 それも当然か。
 これだけの威力を見せつけられれば俺だって怖い。
 パワーだけならマオのジャンボフォームよりずっと強いだろうから。

『これで脅威は取り除いた。後はボスと同胞に任せよう』

「お、おお、あんがとな、クアリオン」

 何はともあれ、これでもうブブルクどもは何も出来ないだろう。
 ここまでの力を見せつけられてまだ抵抗するとは思えないしな。
 ま、奴等の事だから何かまだ隠し持っているかもしれないけれど。

 けどその時はこのクアリオンがいる。
 コイツならどんな悪意でも跳ね退けられる、そんな気がするよ。
 なんか全ての役割を持っていかれた気がするけども。

 なんたって今、笑顔で爽やかにサムズアップをかましてくれているもんだから。
 どこまで人臭いんだコイツは。

 ――フフッ、まぁいいか。

 さてと、これでようやくお待ちかねの尋問タイムだ。
 とはいえ、ここまで暴れた以上は何も訊く必要なんて無いかもしれないけどな。
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