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第二章

第64話 洗礼だらけの緑空界

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 赤空界での騒動を終え、俺達は再び旅立った。
 世界にはまだまだ悪意が潜んでいそうな気がするしな。
 なんたって今までの三大陸全部に漏れなく潜んでいたんだから。

 にしても色々なしがらみが生まれ過ぎじゃないか?
 しかも三年前の事件を皮切りに。
 まるで姫の死が地獄の釜蓋を開けてしまったかの様だ。
 全く、迷惑な話だよ。

 とはいえ、そういった悪意を切り取るのが【銀麗騎志団】だからな。
 団長のノオンがやる気満々だし、なら俺達も進んで付き合うさ。

 で、そんな俺達が次に向かったのが――緑空界りょくくうかい

 相変わらず目的も無かったから適当に決めた。
 折角だしココウの親友でも探してみようってな。

 ただ、マオだけは乗り気じゃないらしい。
 そう決まった途端、船底のベッドへ潜り込んでしまって。
 なんでも故郷らしいのだが、あまりいい思い出が無い様だ。

 ただその理由はすぐわかる事となる。
 俺達が緑空界へと足を踏み入れたその瞬間から。

 それは緑空界へと降り立った直後の事。

「やっと着いたな。だが今回の運転はどうだ? 前よりもずっとマシになっただろう!?」

「点数つけーるならー、一三てーん。前のは二てーん」

「生きるのが辛ぃかも、そうだ死のぅ」

 こうやって最初は一喜一憂していたもんだ。
 テッシャの生きる気力も僅かに保たせられたし。
 間違い無く運転技術が上達しているぞ、ってな。

 だったのだけれど。

 そう賑わう俺達を迎えたのは不愛想なエルフで。
 桟橋の椅子に座ったままちっとも動かず、ただこっちを睨むばかり。
 見た目からしてとても不愉快そうだ。

 赤空界の対応とはまるで大違いだな。
 
「入国審査はいいのか?」

「したら帰ってくれるのかい? 雑種如きに故郷を踏み荒らされたくないんだが」

 おーおー出たよこの空気。
 久しぶりで忘れていたけれど。
 青空界で感じた以上の差別感がひしひしと伝わって来るな。

 そう、緑空界は虹空界で最も差別が酷い国と言われている。
 今でこそエルフ・ドワーフ融和のお陰で移民は多くなったけれども。
 それで今度は混血に対しての風当たりがより一層酷くなったという訳だ。

 だからマオが凄く不快そうな顔をしている。
 その酷さをずっと目の当たりにしてきたからだろう。

「それでも止める権利は無いだろ。審査が不要なら俺達は勝手に入るぞ」

「チッ……向こうの小屋で一括管理している。さっさと済ませて視界から消えろ」

 だが俺達は正式に入国して来た。
 そして世界が認めた手段で手続きを済ませようとしている。
 ならこんな一介の監査員如きに止められる訳が無い。

 父曰く。
進姿常凱ベフ・ベーユ。常に胸を張って進め。劣ると思うて良いのは己のみ。他者を劣ると思いし者など盲目が如し、取るに足らん。それは混血であろうが同じ事だ。しかと憶えておけよアークィン〟

 堂々と行けばいいんだよ。
 こんな理解に乏しそうな奴なんか相手しないでな。

 なので俺達はエルフ監査員の前を黙って過ぎ去る。
 もちろん、ここで鼻で笑うのも無しだ。
 余計な火種を撒くのも愚かしい事だしな。

 それで早速入国手続きへ。

 ただ受付もやはりエルフで、当然の如く白い眼で見られたよ。
 周りからも良い目を向けられず、緊張しっぱなしだったな。
 おかげで小屋から出た時には揃ってげんなりだ。
 あのノオンでさえ「やれやれ」とお手上げ状態さ。

 入国だけでこれなんだ。
 実際に国へと入ったらどんな蔑みが待っている事やら。
 もう既にマオの気持ちを痛いほど理解してしまったしな。





 この緑空界はその名の通り、九割が緑の森林に包まれている大陸だ。
 ただその代わりに海が小さく、面積比は一割にも満たない。

 そんな小さな海にこの機空船発着場がある。
 ほぼ唯一の玄関口だからか街としても機能している様だ。

 しかし人が多い分だけ俺達の存在感が浮き彫りとなる。
 なんたって他に混血なんていやしないからな。
 周囲からの視線が自然と集まってしまう。

 するとどうだろう、辺り一帯からたちまち卑下の嵐だ。
 舌打ちでコーラスを始めるんじゃないよ、一体どういう歓迎方法なんだ。
 ここは舌芸演奏団の練習場なのか?

 こうもなるとまた悪意が見つけ辛い。
 なにせ全てが悪意に見えて仕方ないもので。
 まさに赤空界とは真逆の状況だな。

 そんな中でついつい立往生する事に。
 想像を超えた冷遇っぷりに、皆揃って心象を損なってしまった様だ。

「気にするな、皆きっと舌打ちコーラスの練習真っ最中なんだ。その内に国中挙げての大演奏会でも開くのだろうから期待しておいてやろう。きっと面白いと思うぞ、舌を巻くくらいにな」

「アークィンの心ー、鋼すぎーるー」

 もちろん俺だって気持ち良くは無いさ。
 けどこういうのは無視するに限るからな。
 相手すれば調子に乗られるだけなのだから。

 その証拠に、俺の一言を聞いて嫌気を差した者が何人も。
 墓穴を掘った事に気付いたらしいな。

 ま、気付かない奴はずっと恥をかき続ければいいさ。
 他人を卑下した所で自分が偉くなる訳でも無し。
 その無駄な時間を生産的な事に回した方がずっといいだろうよ。

 そうやり過ごし、先へと進む。
 ひとまず【ケストルコート】にでも向かおうとして。

 そんな時の事だった。
 突然、俺達の下にこんな声が届いたんだ。

「なぁなぁ兄ちゃん達、良かったら荷物持つよぉ? なんなら荷車に乗ってってもいいぜー?」

 それはとても馴れ馴れしくて、でもとても子供っぽい声で。
 ふと気付いて振り返ってみれば、声の主の姿がすぐ裏に。

 俺の胸元よりも小さく、だけど風貌はエルフのそれ。
 ただ体付きはそれなりとガッシリしていて鍛えている風にも見える。
 エメラルドの短髪は割と剛毛なのか所々に跳ねていて無造作だ。
 輪郭も子供っぽく丸くて、見た目からして人当たりが良さそう。
 それに「にしし」と歯を見せて笑う姿から悪意は見えない。

 更に、背後には木製の荷車まで。
 それも体格に見合わないくらい大きい。

 出稼ぎの子供だろうか。
 にしても随分とフレンドリーだな。

「悪いが俺達はそういうサービスは必要としていなくて――」
「まぁまぁそう言わないでさ。ほらほら、別に盗ったりはしないよぉ。なんならいいお店を知ってるから案内しちゃうぜー! どうせお腹空いてるだろぉ?」

 なんたって今、俺の肩を叩いてヘラヘラと笑っている。
 既に友達だと言わんばかりの雰囲気で。

 この勢いはまるで出会った時のノオン達とそっくりだ。
 まだ一ヵ月くらいしか経っていないが、もう懐かしくも思えてならない。

 ほらノオン、目をまん丸くしてクスクス笑っているんじゃあない。
 この少年はお前がやっていた事をまんまやっているんだぞ。

 ま、今の俺達には金銭的余裕がある。
 赤空界の事件解決の見返りとしてしっかり報酬を貰ったからな。
 今度は寄付しなかったぞ。半分だけしか。

 なら昼食を落ち着いて摂るくらいはなんて事ないさ。

 という訳で俺達は少年の好意を甘んじて受ける事にした。
 最初は「どうしたものか」なんて思っていたものだけど、幸先は悪くない。
 こんな人物がいるなら、今はともかく後の未来は明るそうだしな。
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