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第二章

第61話 平和と言う名の不自由

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 【ランドドラーケン】チッキーは俺の一撃によって葬った。
 となれば残るはバウカン大統領ただ一人だ。

 にしても虎の子チッキーを失ったショックはさすがに大きかったらしい。
 先程まで余裕だったバウカンの顔が今や焦りに塗れている。
 椅子からも立ち上がり、近づく俺から離れようと必死だな。

 それにどうやら逃げ場も無い様だ。
 脱出通路なども無さそうで、当人はモニター群前にて立往生。
 俺を前にして歯を食いしばる事しか出来ないでいて。

「こ、この私をどうすると言うのだ! まさか殺すのか!?」

「どうかな。お前のこれから次第ではそうするかもしれないな」

 それでいざ爪先で床を叩けば「ビクッ」と怯えを見せる。
 そうだよな、これが普通の反応だよ。

 やはりバウカン大統領も人の子だったって事だ。
 さっきの強気もドラーケンがいたからってだけで、本人自体が強い訳じゃない。
 一般市民ともなんら変わらない力しかないのだろう。

 そんな相手をただ殺した所で何の益も無い。

 つまり、今の一言はハッタリさ。
 恐怖を利用し、自戒を促す為のな。
 その結果次第ではこのまま踵を返す事だって吝かじゃないさ。
 コイツが考えを心から改めてくれるなら、だけど。

 でも、どうやら一筋縄ではいかなさそうだ。

「フッ、フフフ……そんなに殺したければ殺せばいい。この私がその程度で屈すると思ったら大間違いだぞ」

「何……?」

「私を殺した所で何も変わらん! すぐに後釜が生まれ、私の事業を受け継ぐだけだ! 何せこの役割は何よりも美味い汁が啜れるからなぁ!」

 反省どころかこうして牙を剥く始末ときた。
 老人は頭が固いと俗に言うが、ここまで頑なだと調子が狂うな。

 だけど一理もある。
 俺もその事を懸念していたからな。

 権力っていうのは大概の者が求めるもので。
 その上で得があるのなら飛びつかない訳が無い。
 だから仮にバウカンを殺した所で、次の大統領が同じ事を繰り返すだけだ。

 なにせバウカンがもう前歴を作ったからな。
 同様に政策を進めるだけで今と変わらない体制が続けられる。
 その為のマニュアルも既にあるのだろう。

 だからトップを消すだけじゃあダメなんだ。
 根本的な改革を促さなければ。

 例えば民衆が一斉に事実を知る、とかな。

「そして君は私を殺した罪を負う! そうなればたちどころにして虹空界の敵となるだろうよ! 一国のトップを暗殺したとなればなぁ!」

「……確かにな。そう迂闊に手出しは出来ないだろうさ」

「フ、フフ、わかっているじゃないか。そう、すなわち君に私は殺せない! それどころか指先一つでも触れればすぐに訴えてやるぞ!?」

 ただそんな事が現実的に不可能であるなど誰でもわかる。
 それでこうやってまた強気になっているんだ。
 大統領という立場が守ってくれると信じているから。

 おかげで今や胸板を突き出して挑発までしてきている。
 さっきまでの威厳は一体どこに行ったのやら。

「フン、所詮は低俗者の浅知恵だな。例えこれだけの力があろうとも賢くなければ無能と変わらん! そしてそれは愚かな民衆どもも同じだ。結局奴等は浅知恵でしか物事を考えられんのだからなぁ!」

「言うに事欠いてまた民衆批判か! お前の一体何がそう彼等を卑下させているんだ!?」

「全てだよォ! 奴等の存在そのものが気に食わないからだ! 自分達で何も考えられず、与えられた事だけしか出来ず、こうして今もなお取り繕われた喜びだけに食い付き満足する! 【スカイフライヤー】だぁ!? あんなチンケな玩具が空を飛ぶ所を見て何が面白いと言うのだッ!!」

「アンタだって空を駆け巡っていた時があったんだろうがッ!!」

「あぁあったさ! けど飽きたね! あんな旧時代の遺産なんざ本当はブチ壊してやりたい所だ! しかし民衆どもはそれさえ〝やれ伝統だ〟などと言って一切離したがらん。だから利用させてもらったんだ! なら本望だろうよ、形だけでもしっかり残しているんだからなぁ!」

 こうなればもはやそこらのチンピラと変わらない。
 立場があるのを良い事に何でもかんでも言い放題だ。
 まるで今までの鬱憤を吐き出すかの様に咆え散らかしている。

 それだけ怨念が深いに違いない。
 大統領となる前からこの国に従事して来たのだろうから。

「それにあのエルナーシェとかいう小娘がくたばった事も大きい!」

「ッ!?」

 しかもその怨念はまたあの女性の名を絡み取っていた。
 それだけ彼女の世界中に与えた影響が大きかったから。

「あの小娘の所為で三年前までは実に苦労した。やれ平和だの共生だのと謳い、民衆どもの心を掴み取っていたからな。もしかしたら裏政策が覆されるかもと思ってヒヤヒヤしたものよ。しかしあの小娘は突然消えやがったぁ!」

「アンタも彼女の行動に同意したんじゃなかったのか!?」

「したさぁ! 表向きはなぁ! だけど裏じゃうっとおしくて仕方なかった! だから消えた時は歓喜したね。これは神の思し召しなんだと! つまり世界は私のやり方を認めたのだ! 愚民どもから金を搾取し続けるこの政策こそが最も正しい在り方なんだってよぉ!!」

 きっとエルナーシェ姫は信じていたに違いない。
 このバウカンという男もが世界を安定に導いてくれるのだと。

 その結果がこれか?
 これが本当の安定か!?

 いいや違うね。
 これは秩序でも平和でも何でも無い。

 その形を繕っただけの、只の管理支配だ!
 一挙一動にさえ自由の無い、完全不自由社会なんだよ!

 それも一つ間違えただけで生存権を剥奪される程のな!
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