上 下
53 / 148
第二章

第48話 プロレーサー入場

しおりを挟む
 マオから競技の説明を受けつつ、早速と皆で購買所へと赴く。
 するそんな時、いきなり周囲の騒ぎが落ち着き始めていて。

「そろそろ選手入場が始まるみたいだよ」

「だからか、なんか途端に静かになったな」

「そりゃここがレースの見所の一つだからさ。ここで選手の状態を見て賭ける人もいるくらいにね」

 間も無く伝えられた話で合点が行く。
 なるほど、賭けとは高度な情報戦でもあるのだな。
 理解したいとは思わんが。

「でもいいのか? マオはもう買ってしまったみたいだが」

「あぁ問題無いよ。一流っていうのはこういう時きちんと仕上げて来るからね。意気込みとかは赤空界新聞で何度もチェック済みさ」

「マオちゃ、紫空界でも新聞読んでたーねー」

「あの忙しい中のどこにそんな余裕があった」

 で、マオはその情報戦にも自信があると。
 こう語る彼女からは一片の迷いも感じられない。

 そうこう話をしていると、空の彼方から何かが飛んでくる。
 それも一八という数が等間隔にしっかりと並んだままで。
 これだけでもう彼等が相当な腕前だってわかるぞ。

 そう、飛んできたのはやはり機空船。
 今回出場する選手達だったんだ。

 おぉ、確かにどれも俺達の船とそっくりだ。
 体が丸く、二つの丸窓があるあのデザインは。
 違うのは色や模様、それとロゴシールが貼られている所か。

 ……にしても先頭の二機がやたらと派手だな。
 なんなんだ全身が金と銀って。
 なんか無駄な装飾まで付いてるし、これだけで別格だってわかるぞ。

「ほら、先頭を見てごらん。あの二つが今期最強のスカイプリンス、双璧と呼ばれた選手達の船さ」

「双璧? 俺には只の派手好きにしか見えないんだが……」

「あのペイントは言わば強者の証なんだ。それだけの実力と成績を残したからこそあのデザインが許されるのさ」

 伊達じゃない事くらいはわかるさ。
 少なくとも俺の運転よりは遥かに上手いしな。

 けど髭とか要るのか?
 頭頂部にはなんかヒレっぽいの付いてるけど??
 ますます魚っぽくなってて笑いが込み上げて来るんだが???

 おかげでどう見ても違法改造船としか思えないよ。
 夜の街上空を集団で飛び回っていそうな勢いだよ。

 ――この謎文化だけはどうにも馴染めそうにないな。

 そう眺めていると、会場中央で演奏団による大合奏が始まる。
 それも全域にファンファーレを轟かせるくらいの大音量で。
 さすがだなドワーフ演奏団、音楽からして凄くパワフル。

『さぁ今年もやってきましたこの伝統試合。最速の【フライハイアー】を決める今日、その勝敗は一体誰の手に。それでは早速、今回の選手入場と紹介を行っていく事に致しましょう』

 それと同時に大音量の音声が場に響く。
 音響魔導具を使った場内放送だ。
 魔導具本家なだけあって設備も充実しているな。

 すると全船が会場前へ、一列となって順々とクラゲの如くゆるりと飛ぶ。
 どうやら一人づつ紹介していくつもりらしい。
 だからか、敷地内に構えた大型画面には選手の姿が映し出されていて。

『一番、トテモハヤイダー号。操縦士は前々回にも【フライハイアー】となり、幾つもの伝説を創り上げた男ショー=グレーン選手。前回は諸事情で出場出来ませんでしたが、今年は必ず勝つと強い意気込みを見せてくれました』

 金色の機体を操縦しているのは面長で整った顔付きの男だ。
 ただその服装はと言えば全身金ピカスーツで、ついでに髪まで金色ときた。
 その上、観衆に向けて金歯を覗かせた笑みまで見せつけてくるという。
 おかげで俺の裏にいるドワーフ女性達が嬌声を上げてウットリしている。

 何なの、この意味のわからないパフォーマンス。

『続いて二番、トバスゾスゴーク号。操縦士は風の様に現れ前回の【フライハイアー】をかっさらっていた神風の男エルカー=バッゾ選手。いつか必ず制して見せると公言する程にショー選手をライバル視。やはり一番を目指す者は意気込みが違います』

 その次に銀色の機体が現れた訳だが、これも似たような感じ。
 銀色のパイロットスーツに無駄な肩パーツが付いているとかもうね。
 お前はそのスーツで一体何から身を守る気なんだ。
 そして銀歯を見せつけるのはやめろ。二番煎じだぞ。

 クールそうとは思えるんだが、どうにも目立ちたがりにしか見えない。

 こんな感じで次々と選手達が紹介されていく。
 まぁ一番二番が異様なだけで他はパッとしない感じだったけど。
 むしろそのお陰で一番二番がやたら目立っていたとは思うよ。

 ただどの選手もやはり凄い操縦をみせつけてくれるんだろう。
 プロだけあって技術は一流だろうからな。

『最後は一八番、マルデダメダロン号。操縦士はココウ=ファジョッシ選手。緑空界出身で去年S1へ進出。しかし未だ成績は振るわずランク最下位と低迷中です。それでなぜ本試合に挑んだのかは定かではありませんが、善戦を期待する事に致しましょう』

 例えこの最後の者でも腕前なら最高だろうな。
 ならいっそこの中から専属操縦士を雇いたい気分だよ。
 もしそんなお金があるなら、だけどね。

『それでは各船、スタート位置へと配置へ。間も無くスタートとなります』

「さぁ始まるよ皆。凄いレースが待ってるから期待してていいよ! ついでに一週間くらいのケバブ代もねっ!」

 まぁそれでもなかなか面白いものが見れた。
 エンターテイメントとしては充分に楽しめたと思う。

 さて、それでは肝心のレースの方を楽しませてもらうとしようか。
 ついでにプロの運転技術とやらを間近でな。
 そしてマオ達の喜ぶ姿を拝むとしよう。
 もしそれが観れるなら、正直な所お金なんてどうでもいいのさ。

 その為になら今日も【陽珠】に祈ろう。
 だから運を少しでも分けてくれよな。
しおりを挟む
感想 63

あなたにおすすめの小説

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

転移術士の成り上がり

名無し
ファンタジー
 ベテランの転移術士であるシギルは、自分のパーティーをダンジョンから地上に無事帰還させる日々に至上の喜びを得ていた。ところが、あることがきっかけでメンバーから無能の烙印を押され、脱退を迫られる形になる。それがのちに陰謀だと知ったシギルは激怒し、パーティーに対する復讐計画を練って実行に移すことになるのだった。

地獄の手違いで殺されてしまったが、閻魔大王が愛猫と一緒にネット環境付きで異世界転生させてくれました。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作、面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 高橋翔は地獄の官吏のミスで寿命でもないのに殺されてしまった。だが流石に地獄の十王達だった。配下の失敗にいち早く気付き、本来なら地獄の泰広王(不動明王)だけが初七日に審理する場に、十王全員が勢揃いして善後策を協議する事になった。だが、流石の十王達でも、配下の失敗に気がつくのに六日掛かっていた、高橋翔の身体は既に焼かれて灰となっていた。高橋翔は閻魔大王たちを相手に交渉した。現世で残されていた寿命を異世界で全うさせてくれる事。どのような異世界であろうと、異世界間ネットスーパーを利用して元の生活水準を保証してくれる事。死ぬまでに得ていた貯金と家屋敷、死亡保険金を保証して異世界で使えるようにする事。更には異世界に行く前に地獄で鍛錬させてもらう事まで要求し、権利を勝ち取った。そのお陰で異世界では楽々に生きる事ができた。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生

野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。 普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。 そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。 そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。 そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。 うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。 いずれは王となるのも夢ではないかも!? ◇世界観的に命の価値は軽いです◇ カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

処理中です...