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第二章

第43話 銀麗騎志団に足りないモノとは

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 空で大暴れしつつも、俺達は無事に海へと着水を果たしていた。
 見事に全員もれなく体調不良状態でな。
 状況は察してくれ。

 で、辿り着いたのは赤空界せきくうかい
 果てに炎を吹き上げた火山が見える灼熱の大地だ。

 とはいえ大陸全てが熱い訳ではなく、特に熱いのは中央部のみ。
 全体的には常夏で、海岸沿いとなればバカンスにも最適。
 かくいうマオも前はここに住んでいたらしい。
 樹人系にとってはとてもリーズナブルな、光合成に適した場所なのだとか。

 なにせ陽射しが強い。
 虹空界で最も【陽珠】に近いので。
 おまけに無駄な木々も無いから緑空界よりずっと過ごしやすいんだとさ。
 まぁ俺達には何の関係も無い事なんだけどな。

「ようやく、着いた……死ぬかと思った」

「もうアークィンの運転はこりごりだよ……」

「じゃあ次はマオの番な。何があっても俺は助けんからな!」

「えー私は無理だってばぁ」

 ちなみにここに来た理由は特に無い。
 紫空界の機空船発着所から最も近かったから、というだけだ。

 ただ、こうもなると自然と目的が浮かんで来る。
 俺達に不足した力を得る、という目的がな。

「……となるとやはり必要だな。新しい仲間が」

「どうしてだい?」

「そりゃそうだろう。俺達には魔導具や魔動機の知識が無い。ならその分野に詳しい仲間を増やした方が手っ取り早いじゃないか。機空船を軽く操れる様な仲間をな」

「まぁ確かにねぇ」

 それというのも、魔導技工術っていうのは完全に特殊なんだ。
 専門分野として成り立っているくらいだしな。
 武術はおろか、魔法・精霊術などとも全く違う。
 工具なんて俺もほとんど持った事が無いし。

 確かに技術を学ぶのも手だろう。
 今なら学習書も買えるし、実際に触れる機体もあるのだし。
 それに赤空界は最もこのジャンルに強い場所だから学ぶに適しているだろう。

 だけどそんな事をしている暇が本当にあるのだろうか?
 いや、本懐を忘れてしまえば旅の意味がなくなってしまいかねない。
 俺達は機空船を乗り回す為にここまで来た訳ではないのだから。

「にゃー」

「〝アークィンの言う事も一理ある。けどボクはあまり乗り気じゃないかな。そう易々と仲間を増やすつもりは無いんだ。信頼出来る人じゃないとね〟ってー」

 けど肝心のリーダーの返事がこれではな。
 言いたい事はわかるけれど。
 全員混血だから、入れるなら蟠りを持たない人物がいいって。

 でもそうなると逆におかしいな。
 俺の時は初対面で勧誘されたんだが?
 明らかに怪しさ満載でこっちが警戒するくらいだったんだぞ。

「そう言う割に、俺の時はかなり強引だったじゃないか」

「あーあれはテッシャが太鼓判押したからねぇ」

 ――と、そう言えばそうか。
 ノオン達より先にテッシャに会っていたんだったな。
 とはいえほとんど会話なんてしなかったけど。

 せいぜい頬をつねったくらいで。

「ほら、初対面でいきなり土竜人モーリル特有の求愛頬つねりをしたって言うじゃあないか」

「なっぬゥ!? あれそういう意味になるのか!? いやいや違うぞ、あれは決してそういう意図でやった訳じゃなぁい!」

「クシシっ! 相変わらずアークィンは面白い事する奴だねぇ」

 ……どうやらそれがいけなかったらしい。
 いや、それが求愛行動なんてわかる訳も無い!

 え、だからって普通はつねらないって?

 あれは仕方ないだろう。
 だって余りにも怪し過ぎたんだもん。
 土から顔が出てたなら、つねったっていいじゃないか。
 想定外過ぎてどうしようもなかったんだ、許して欲しい。

 そうこう話している内に港が近づいて来た。
 波も穏やかだし、海上航行ならもう暴れる事は無いだろう。
 早く陸地に立ちたいものだ。
 そのテッシャじゃないが地面が恋しいよ。

 にしても――本当に操縦手段をどうにかしなければ。

 さては皇帝め、この操縦し辛さを知ってて渡したな。
 個人所有品を寄越してくれたから最初は太っ腹と思ったんだが。
 となると得意げだったあの時の顔が途端にいやらしく思えて来たぞ。

 もしもう一度逢う様な事があったら俺も文句言ってやろう。
 立場? 知るか、言わなければ気が済まん。

 なにせお陰で危うく墜落死する所だったんだからな。
 トラウマになりそうな恐怖体験だったよ、全く。

 そう心で愚痴る中、機空船発着所に辿り着く。
 案内標識が幾つもあったから向かうのは簡単だったよ。
 運転自体は人生で最も困難を極めていたけどな。

 それで待っていたのはドワーフの監視員で。
 桟橋に降りた所で腕を差し出して迎えてくれた。

「ようこそ赤空界へ。早速で悪いが入国手続きさせてもらうよ」

 とはいえ相手が混血とあって少し心象は悪そうだが。
 まぁドワーフ自体が気難しいと言うし、これが普通なのかもしれないけどな。

 この大陸には人間族や体毛系獣人はあまり住んでいない。
 大概が彼の様なドワーフや鱗種系の獣人。
 あとは樹人などの定住を求めた移民者達くらいだ。
 やはり暑過ぎるのもあって、毛深い種族にとっては苦手な場所らしい。

 だからなのか、フィーは少し居心地がよくなさそう。
 でも悪いがしばらくは我慢してもらおう。

「にしてもお客さん、珍しいモンに乗ってるな。競技用の機空船で旅行する奴なんざ滅多にいねぇんだが。しかも最新モデルたぁよほど羽振りがいいのかい」

「色々あってな、譲ってもらったんだよ。書類はこれでいいか?」

「おう。出るときゃちゃんと鍵かけてな。始動キー落とすんじゃねぇぞ。何かあっても責任は取らねぇからな」

 ともあれ、こうして書類を渡せば入国手続きは終わりだ。
 たった一枚の書類に入国者名と機体管理番号を書くだけでいい。
 公共機空船を使うのと同じで、大した面倒が無くて助かるよ。

 にしても監査員さんとても親切だ。
 ここまでちゃんと説明してくれるのはなんか嬉しい。

 なんたって、初見の他人にここまで優しくされたのは初めてだからな。
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